< そです アトランティスを沈めたのは洪水でも津波でもなくってトドの大群です >
え、毎度バカバカしい噺でございますが、よろしくお付き合いを願っておきますです。
噺ってのは他でもありませんで、ほら、あのプラトンくんが「ティマイオス」と「クリティアス」って本の中で言ってたアトランティスね。
あれっていろいろ批判されて、実在が否定されたりなんかしていますんですが、あったんです。
ちゃんとね、あったそうですよ紀元前にはね。
プラトンくんは「リビアとアジアを合わせたよりも大っきい」なんてなことを言ってくれちゃってるんですが、そこまではね、大きくないんです。ちょうど日本の佐渡島ぐらいだったそうですね。
どこにあったかってえますと、あそこです、ジブラルタル海峡の大西洋側。
ちょっと沖合に離れたあたりにね、ありましたね。
なんとしてもですね、あったんでございますよ。
ジブラルタル海峡の南北の陸地にはですね、両方とも切り立った岩山がそびえておりまして、昔っから「ヘラクレスの柱」なんて呼ばれていたところなんですね。
ヘラクレスの時代にはですね、地中海を塞ぐような位置にあったらしんですね、アトランティス。
そんで、海の流れが弱くって、新鮮な海の幸が獲れないってんで、みんな困ってた。
ヘラクレス、お前、何とかしろよ!
なんてね、図体ばっかりデカくってね、力を持て余しているようなことばっかり、言ったりやったりしていたもんですからね、ヘラクレスもそう言われると断れなくなっちゃいましてね、ああ、なんとかしようじゃないの。
とかなんとかね、言いまして、ギリシャからどしどしと歩いて行って、ちょうど支えになるような岩山二つを両手で掴みますとね、アトランティスに両足をかけて、仰向けに寝そべるような格好になりましてね、ウ~ンと、こう背筋と両足をふんばって、アトランティスを大西洋側に押しやったんです。
なもんで、アトランティスは、ちょうどヘラクレスの背丈分だけ沖の方に動かされちゃったんですね。
ま、こんなもんかなってんでね、ヘラクレスは満足気に自慢気に家に帰って行ったそうです。
そんな次第でしてね、地中海も豊かな海になりましてメデタシメデタシなんですね。
そんでその、沖に無理矢理押しやられたアトランティスなんですが、いつのまにか消えちゃったんですね。
ま、よくは知りませんが、西暦ゼロ年ぐらいにはもう無くなってたらしいんですよ。
なんでか? なんでアトランティスはなくなっちゃったのか、ですよね。
洪水って説明をけっこう見かけますがね、洪水ってのはですね、川がないと発生しません。
大雨が降って、それまで川が無いところに川が出来ちゃうってことはあるでしょうけれどね、その場合でも雨水が流れ下ってくる山があるはずですよね。
低い地面が洪水で流されたとしてもですね、その流れを作った山は残っていないとおっかしいでしょ。
洪水で島が消えちゃうなんてことがあるんでしょうかね。
じゃあ、ってんで津波だっていう説がありますね。
ドドーンってとんでもないレベルの大地震があって、大津波。
一晩で島が消えちゃった。これはあり得そうですね。
東日本大震災の時の津波被害は記憶に新しいところです。
三陸海岸の地域には、一日も早い、本格的な復興を祈念させていただきますです。
ですが、違うんですよ、アトランティス。
アトランティスは一日で沈んじゃったんじゃないんです。
実はですね、タイトルにあげちゃってますからお分かりのことかと思いますが、トドなんです。
トドの大群。
沖に押しやられたアトランティスは、どういうわけだかトドの好みの休憩所になっちゃいましてね、日に日に上陸してくるトドの数が増えていきました。
アトランティス上陸がトドの世界のブームを引き起こしちゃってですね、集団でやって来ては寝そべる。
紀元前のトドは今のトドの数倍の大きさ重さって言いますからね、陸地に隙間ないぐらいトドが集まって来ちゃったもんですから、アトランティスはもう堪りませんよ。
徐々に沈んできましたね。
それでまたトドってのはですね、おとなしく寝そべっているだけじゃないんです。
特にバカでかいオス同士の間で相撲がブームになっちゃいましてね、あっちでドシーン、こっちでバシーンってな具合で暴れまわります。
シコ、テッポウは禁止ですよ、なんてね、アトランティスも懸命に訴えたんですけれどもね、トドね、ヤツらは聞く耳なんて持っちゃいませんよ。
ますます数を集めて相撲の世界大会なんかをやっちゃいます。
もうこうなっちゃうとダメです。
アトランティスも観念しましてね、ブクブクと沈んでしまいます。
アトランティス沈没! っていうニュースはですね、テレビもインターネットもないトドの社会には全然伝わりません。
もうすっかり沈んでしまったアトランティス目指してツアーが組まれたりなんかしましてね、ますますどんどん、トドの大群が押し寄せます。
で、ジブラルタル海峡辺りへやってきたトドたちが、なんだよ、どこにあんだよアトランティスってのは。
ってことになりましてね、海の中で暴動状態になったんです。
右往左往しているトドの群れに、さらに別の大群が押し寄せちゃいましてね、押すな押すなの大渋滞。
ついに、ヘラクレスの柱の間、幅14㎞のところにトドの群れが挟まっちゃいました。
これが世にいう「とどのつまり」です。
ジブラルタル海峡を塞ぐ格好で、押し合いへし合いしてますんですが、その様子が面白いってんで、新たなトドの大群がとどのつまりの上に、どんどん乗っかっちゃったりしましてね、もうトドのマリトッツォ状態です。
もうその時代にはヘラクレスも居ませんからね、地中海沿岸の人たちは、もうどうしようもなく困った時代が続いたんだそうです。
どうも長らくのお付き合いありがとうございました。
って、ここで終わっちゃう噺じゃないんです。はい。
「とどのつまり」の話です。
とどのつまりのとどってのは、もうみなさんご存じでしょうけれどね、あの「哺乳綱食肉目アシカ科トド属」のことじゃないんですってね。
さっき知りました。
とどのつまりのとどは「ぼら」のことなんだそうです。
ぼらって、出世魚だそうでして、その最終形の名前なんだそうです。
ええ~、とどってぼらなの? っていうのもありますけどね、そもそもぼらが出世魚だったとは驚きですよ。
まあね、魚ってのは土地によって名前が全然違いますんで、そんな呼び方しないよ、って向きもございましょうが、ま、代表的な名前として、
はく ⇒ おぼこ ⇒ いなっこ ⇒ すばしり ⇒ ぼら ⇒ とど
ってことらしいです。
「ぼら」のでっかいのを「とど」って言うみたいですね。
そんでもって、いくらなんでもそれ以上でっかくはならないのが「とど」で、もう限界、行き止まりってんで「とどのつまり」っていうんだそうでありますよ。
ぼらはさあ、あんまり旨くないよって言ってるのを聞きましたが、これまたビックリです。
ぼらって食べるの?
東京の汽水域、コンクリート護岸の運河、どうみても水質のよろしくなさそうなとこで、元気に飛び跳ねたりなんかしてる、あの魚を、食べるの?
って思ったんですが、沖へ出て釣ったぼら、とどは刺身にしたり、揚げ物にしたりして食べるんだそうです。
でもなあ、釣った場所が沖だったとしても、かなりの水質の運河にも遊びに来てますよね、きっと。
なんかねえ、ネコマタギの代表みたいなイメージなんですが、どうなんでしょう。
ぼら、とどが好物っていう人も居るかもですので、あれなんですが、とどのつまり、食べません。
おあとがよろしいようで。
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