< 昔から居たんでしょうけど 名前を聞くようになったのってつい最近なような >
アニサキスって聞いて、キャーッ! っていうのは、知っているからですよね。
知らない人は、なにそれ? 新しいスイーツ? とかトボケタ反応をしたりしています。
日本の報道で盛んに取り上げられるようになったのって2012年ごろからですもんね。
そんなにニュースを見聞きしない習慣の人は知らなくたって不思議じゃないかもです、アニサキス。
でも、アニサキスっていう寄生虫は、別に新種ってわけじゃないでしょうし、昔から居たはずなのに、なんで急に、最近になって話題にのぼったんでしょうね。
最近っていっても10年経ってますけどね。
日本の食品衛生法で、アニサキスが食中毒の原因に指定されたのって1999年のことだそうです。
厚生労働省の実態把握が進んでからアニサキスの被害件数が増えたっていう説もありますが、そういうもんなんでしょうか。
厚生労働省は「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」っていうページで、消費者、そして事業者への注意喚起を呼びかけています。
日本人は昔から生魚を食べて来たわけで、アニサキスとかいうカタカナ名じゃなくって、和名っていうか、日本語表記の名前が付けられていてもよさそうに思いますけど、そんな名前、無いみたいですね。
胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキス症っていうのがアニサキス食中毒の症状で、ほとんど場合が胃アニサキス症なんだそうです。
食中毒っていうものの、内臓全体に菌が回るとか、そういうんじゃなくって、アニサキスの幼虫が胃液から逃れようと、胃の壁に突き刺さって逃げようとしている症状なんだそうで、めっちゃ痛い。吐き気もあって嘔吐しても胃液が出るだけっていうのが特徴。
ヤですねえ。
内視鏡手術で取り除けば、すぐに全快ってことらしいんですけど、人間の身体はアニサキスの幼虫にとって宿主には成り得ないので、いつまでも、ずっと痛いってことじゃなくって、やがて死んじゃう、ってことではあるんですよ。
でも、なにせ物理的に刺さっているわけで、何日も耐えられません! ってことで手術するんですね。
ただ、そういうふうに刺さっちゃうっていうこと自体も稀らしいんですよね。
普通は胃の中ですぐ死んじゃう。
ってことはですよ、アニサキスを知らずに食べているっていうことが、ごく日常的にあるのかもしれないわけです。
ま、被害症状が無ければイイじゃん、ってことではあるのかもですけどね。
たまたま生命力の強いアニサキスの幼虫にあたらなければ、なんの症状も現れない。ってことなんでしょう。
アニサキスの幼虫は、サバ、イワシ、カツオ、サンマ、アジ、サケ、イカだとかの魚介類に寄生していることが多いって言われていますけれど、この名前からするとほぼ普通に食べているサカナたちに寄生している感じです。
サバですかあ。
たぶんですけど「サバの生き腐れ」って、昔からよく言いますよね。
あれって、サバに寄生しているアニサキスが原因だったんじゃないでしょうか。
獲れたて、活きがイイように見えるサバでも食べると食中毒症状が出ることが、よくあるんで、サバは危ない、腐りやすい、ってことで「サバの生き腐れ」って言われて来たのかもですよ。
まさか寄生虫のせいだとは誰も考えてもみなかった、ってこと。
アニサキスっていう寄生虫の最終宿主はクジラ、イルカだとかの大型海洋哺乳類だそうで、クジラやイルカの内臓に住み着いてから成虫になるんだそうです。
クジラの内臓で卵を産むと、卵はクジラから排泄されて海中を漂いながら孵化します。
孵化したアニサキスはオキアミだとかの甲殻類に寄生して幼虫になっていきます。
アニサキスが寄生した甲殻類をサバだとか、イカが食べれば、幼虫はサバやイカを中間宿主として認識して、甲殻類からその内臓へ移動します。
これ、凄いですよね。
寄生虫に感心するっていうこともないのかもしれませんけれども、自分が寄生している宿主が、食べられちゃったなって判るってことですよ。
で、また、そのサバやイカっていうアニサキスにとっての中間宿主が、クジラやイルカに食べられたなって判断したら、その最終宿主の内臓に移動して成虫になる。
どういうアンテナ?
そのあたりのヒミツはよくわかりませんが、こうしたアニサキスのライフサイクルの中に、人間は入っていないんです。
人間は海洋生物じゃないですからね。
なので、さっきも言いましたけど、人間の内蔵の中でアニサキスは生きていけないんで、痛くなったとしても数日、1週間もしないうちに死んで排出されていくわけです。
あくまでも内臓に生息しているアニサキスが、たいていはサカナの内臓を食べない人間の身体の中に入ってくるのはなんでかっていう問題があります。
アニサキス症状が出る原因は、刺身が主ですよね。内蔵じゃないです。
サバとかサケの内蔵なんて、普通、食べませんよね。
サバ味噌だとか、サケのちゃんちゃん焼きとかでも、内臓はすでに取ってあります。
でも、サカナの身しか食べていないのに、内臓にいるはずのアニサキスが人間の胃の中、腸の中に入って来る。
なんでかっていいますと、アニサキスの本能なんですね。
幼虫が中間宿主としているサカナが死んでしまうと、そのことをアニサキスは察するんでしたね。
そして、内臓から出て、身の方へ移動します。
この行動が、クジラに食べられたときに、サカナの内蔵からクジラの内蔵に移動することと同じなのか、漁で獲られたサカナが死んでしまってときに、移動するべき最終宿主の内臓が存在しないための緊急退避行動なのかは分かりませんが、とにかく、今自分のいる環境の変化に敏感に反応しているってことに変わりはないですね。
漁で獲られたサカナが、あ、死んじゃったなって感じると、内臓から身の方へ移動しちゃうんです。
なので、サバであれ、サケであれ、新鮮なうちに、アニサキスが内蔵の死を感じる前に捌いてしまえば、アニサキスが人間の身体の中に入ってくることは無いわけです。
人間の胃の中に入ったときに、胃の壁に突き刺さっていくのも、身の方へ移動しようっていうことの延長なのかもしれませんね。
このアニサキスの移動の根拠になっているのが、どうやら匂いなんじゃないかっていう研究が進められているんですよね。
犬の嗅覚よりかなり細かく匂いをかぎ分けられるらしいアニサキス。
「♪は~じめま~して、線虫です」
「♪くんくん、僕らは鼻が利く、がんのリスクを嗅ぎ分けます」
っていうコマーシャル、見たこと、聞いたことありますよね。
「N-NOSE」っていう、がんの一次スクリーニング検査なんだそうですが、あれは「シー・エレガンス」っていう線虫が、好きな匂いに集まっていって、嫌いな匂いから遠ざかるっていう性質を利用したもので、尿の匂いからがんの発生を嗅ぎ分ける。
「カエノラブディティス・エレガンス」っていうのがシー・エレガンスの正式名称だそうですが、どの辺がエレガンスなんでしょうかね。
シー・エレガンスはがん細胞の匂いが好きなんですね。
死んだサカナの内蔵から出ていく。死んだ内蔵の匂いは嫌いっていう趣向と、がん細胞の匂いが好きっていう因果関係には想像も及びませんが、シー・エレガンスとアニサキスって、仲間なんです。線虫ですからね。
アニサキスもがんの匂いに敏感に反応するっていうことが判明しているそうです。
シー・エレガンスは体調1ミリの線虫。
対してアニサキスは体長2センチから3センチ。
その大きさが扱いやすい。
いろいろと医学的な操作を施す相手として、エレガンスじゃないかもしれないアニサキスに寄せられる期待は小さくないようです。
アニサキスにがん細胞を死滅させる効果を持った「機能性スーツ」をコーティングして、体内に入れるっていうがんの治療方法が研究されているんだそうです。
大阪大学では既に、アニサキスの表面を0.1ミリぐらいの厚さの膜でコーティングすることに成功しているんだそうです。
がん細胞を死滅させる酵素も発見されていて、今後は、この酵素をアニサキスのスーツに応用すること。
さらには、必要ではなくなったアニサキスを体内から排除する方法、アニサキスアレルギーへの対処方法だとか、まだ難しい課題は残っているそうなんですけど、がんに対する治療法としてアニサキスが役立つ日って、すぐそこまで来ているのかもしれません。
線虫アニサキス。
がん細胞に寄っていく。
日本人の死亡原因の第1位は、相変わらず「がん」ですね。
2021年のデータでは、死亡者のうち26.5%が「がん」4人に1人以上の割合です。
以下、第2位が「心疾患」で14.9%。第3位が「老衰」で10.6%。
コロナはランクインしていませんね。
アニサキスって、あんまりお友達になりたい相手じゃないような気もしますけど、人類を救ってくれるヤツ、になるのかもですよ。