< 尻餅って 何の疑問もなく使っている言葉ですけど けっこう意味不明じゃんね >
は~い。いつもの居酒屋さんのカウンターであります。
マッチーとミコちゃんと並んで座っております。カウンターにはその3人だけ。
「だってさあ、すごいでしょ黄色い葉っぱ、積もってるもんね」
もふもふのタートルネックですっかり冬支度になっているマッチーが力強くおっしゃいますよ。
「イチョウね。イチョウって東京都の樹なんだよ、シンボル。知ってた? だから街路樹に多いのかもね。そんで東京都の花がソメイヨシノなもんだから、街路樹はイチョウとサクラが交互に植えてあんのかもよ」
もの知りミコちゃんが早口にまくしたてて、
「でしょ?」
って振られましたけど、たぶんね、そうかもねっとしか言えませんです。街路樹の選定について、なんも知りゃしませんよ。
で、なんだってイチョウの話、してんですか。
「湿布の匂いする?」
なんのこと? とくに感じませんけど。
「マッチーね、きのうの夜、転んじゃったんだって」
「そこのバス通りって、歩道がなんだかガタガタしてるでしょ。敷いてある煉瓦ブロックがあっち向いたり、こっち傾いたり」
「イチョウとかソメイヨシノの根っこがブロックを持ち上げちゃってんのよね」
「気を付けながら歩いてたんだけど、滑っちゃって、イチョウの葉っぱで。尻餅、ドーンって」
「イチョウの葉っぱってね、枯葉のくせに油分が多いんだって。積もって重なってると滑りやすいわけよ」
「尻餅ドーンで、腰とお尻が痛くってさあ、湿布ベタベタ貼ってるんだけど、ずっと匂いが気になっちゃって」
「湿布の匂いは大丈夫なんだけど、尻餅、ドーンっておかしいでしょ」
「だって、滑っちゃったんだからしょうがないじゃん」
「そうじゃなくって、尻餅はペッタンでしょ、ドーンじゃなくって」
「あ、そっか。尻餅はペッタンか」
はい、一件落着!
って、なんでそういう素直なリアクションなんでしょうかねえ、って思ったんですけど。泡盛やりながら、ふと思ったのが「尻餅」ってなんなん? ってことだったんでありました。
「尻餅をつく」って言いますよね。尻で餅を搗くってことなんでしょか?
餅のような尻を地面に着ける、ってこと?
たしかに「餅つきペッタン」っていうのも聞きますけど、杵で搗いているとき、餅ってペッタンペッタンっていう音がする? 実際に目の前で餅つきしているのを経験したことがありませんので、すぐ近くで聞いたら杵のドシンっていう音以外にもペッタンっていう音が聞こえるんでしょうか。
それともあれですかね、餅搗きの時って、杵を持っている人の他にもう1人いて、その人が手に水を付けながら搗いている餅をひっくり返していますよね。その餅をひっくり返すときにペッタンって音がしているんでしょうか。
とか、ボーッと考えておりますと、
「あのさ、おヒップって言うでしょ。あれはなんでヒップに、お、を付けちゃうの?」
はああ、おヒップねえ。って、知らんがな!
ん? 今、なに考えてたんだっけ?
っていうことで、はい、いつものごとくで後付けで調べてみました。
で、尻餅の前に「おヒップ」問題。
尻に、お、を付けて、お尻と言うがごとしってことで、ヒップに、お、を付けたってだけなんじゃないでしょうかね。
でも、おヒップなんて言葉、どういうシチュエーションで使うんでしょかねえ。
さらに言いますとですね、ヒップ(hip)って、ヒップアップだとか、日本では普通に尻って思って使っていますけど、いわゆる臀部っていいますか、桃尻っていう部分を英語でヒップとは言わないんですってさ。
知ってました?
英語で言う「hip」っていうのは「腰のくびれから足の付け根にかけての横の部分」しかも片方だけを言うんだそうですよ。
じゃあ英語で尻はなんというか。「buttocks」とか「bottom」
はあ、ボトムねえ。底とか下の方っていう意味でしか使ったことないですけど、尻なんですねえ。
カワイク言えば「bum」
お下品に言えば「butt」とか「ass」ってことらしいですよ。
ふううん、です。
さてさて、尻餅です。
コトバンクによりますと、
1:後ろに倒れて尻を地面に打ちつけること。
ふむふむ。これがマッチーの尻餅ペッタンってやつですね。
尻を地面に打ち付けるところを餅搗きになぞらえているってこと? ちょっと苦しくないですかね。
他にも尻餅の意味解釈があってですね、
2:子供の初めての誕生日を祝ってつく餅。初めての誕生日より前に立って歩いた子供は早く家を出て行くといって、この餅を背負わせてわざと倒したりする。
誕生日の祝い餅。むむっ。ちっとも尻餅ペッタンと結びつきませんよ。
まだあります。
3 喜んで小躍りすること。
はあ? 小躍りすること? 尻餅? 全然分かりませんね。古語的な使い方なんでしょうか。
さらに、語源についてあちこち調べてみましたが、こっちはもっとちんぷんかんぷんです。
曰く、
「歩き出した子供に1升の米、または餅を背負わせ、後にその餅をお尻に投げつけ子供の成長を祝う。投げつけられた餅が尻餅である。「尻餅を突く」と言う言葉は、この餅から来ている」
「尻餅をつく」の「つく」は「搗く」じゃなくって「突く」
なんで? 投げつけるから? 餅で尻を突く?
昔から続いている行事の由来って、なんだかよく分からないっていうのもけっこうありそうですけど、尻餅の言葉の意味っていうのも、さっぱり分かりませんね。
現在の使われ方とちっとも結びつきません。
子どもに餅を背負わせて、わざとひっくりかえすっていうのは、早く家を出ていってしまうのを防ごうっていう親の気持ちからなのかもですけど、そのとき、子どもがペタって「尻餅」をつくっていうことで、それを「尻餅」って言うようになったんでしょうか。
「後ろに倒れて尻を地面に打ちつけること」に対して、なんで「尻」に「餅」がくっ付いたんでしょうか。
転ぶことに食べものの要素ってないですけどね。
ところがですね、食べられる「尻餅」っていうのがあるんでした。
北海道日高地方の様似町(さまにちょう)、北海道の南側ですね。ここにある老舗菓子屋「梅屋」っていうお店が販売しているのが銘菓ならぬ、迷菓「尻餅」と「おしり愛」
1980年代の地域振興運動に呼応して、地元の名産品創出考案会っていう呑み会の中で閃いた! ってことみたいです。
1つひとつ手作りの「すあま」
でも、あれ? です。
初めて知った「尻餅」情報ですので、確認のしようもないんですけど、「梅屋閉店」っていう情報もありますね。
ん~。ぜひ食べてみたかった「尻餅」だったんでありますが、様似町名物は、今はなき、ってことなんでしょうかね。
どなたか、様似町近辺の方、御存じでしたらご教示いただきたいところです。
「おしり愛」っていうのは「尻餅」が2つ、ってことみたいなんですけど、これもまた確認できませんでしたです。
食べられる「尻餅」なんてね、まあ、他にはないんでしょうね、って思ったら、ちょっと違いますけど、埼玉県飯能市の銘菓に「四里餅(しりもち)」っていうのがありますね。
小判型の大福。こっちは銘菓。
こしあん、つぶあんの2種類だそうで、縦書きの「四里」焼き印が縦長に沿って押されているのがつぶあん。
横にした大福に縦書きの「四里」がこしあんってことみたいです。
飯能市の山から切り出した材木を江戸へ、筏に組んで名栗川の四里の急流を下って行くにあたって、筏師たちがこの餅を食べて「尻餅をつかずに難所を乗り切った」っていうのが名前の由来だそうですから、「四里餅」の方は北海道の「尻餅」と違ってかなりの長い歴史ですね。
焼き印が押してあったりして、なんだか大福っぽくない見た目ですけど、飯能は行く気になればいつでも行けるところですからね、ムーミンバレーへ行くときにぜひ食べてみようと思います。
でもね、なんかね、ムーミンバレーって、イマイチ、人気ない感じなのはなんでなんでしょ。
ムーミンって尻餅つくのが上手そうな気がします。はい、根拠は何もありません。
尻餅つくのに、うまいもへたもないでしょ。とはいうものの、マッチーは湿布貼りまくり状態になってしまったらしいですからね、うまいへたって、あるのかもです。
みなさまも、お気をつけ、あさあせ!