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アメリカ版【猫の皿】ならぬ 「ブルドッグとティラノの骨」

< トコロ変わればシナ変わるって申しますが どれほどのもんでございましょうか >

毎度ばかばかしい噺でご機嫌を伺っておりますが、今回もひとつ、よろしくお願い申し上げておきます。


え~、今回はですね、いつもと少し趣向を変えましてですね「ブルドッグとティラノの骨」って噺でございます。
なんでティラノザウルスなんかが出てくんだ! ってえお叱りを受けそうなんでありますがね、これがね、出て来ちゃうんだからしょうがないんです。出て来ちゃうんだから。骨なんですけど。


まあね、タイトルからご案内の方も多いかと思いますがね、猫の皿ってのがあんじゃないですか、古典ね。


あの噺のね、アメリカ版なんで、はい、海の向こうの噺でございます。無理矢理です。
猫の噺の方は、道具屋と茶店のオヤジのやりとりだったんでございますが、こっちのブルドッグの方はってえますと、グレーブスって名前の学生さんと、鍛冶屋のオヤジが出て参ります。
その他に出てまいりますのがティラノの骨なんで、はい。


あれですよ、肉食恐竜最強って言われているティラノザウルスね、あいつらね、このところ色気づきやがってね、なんだか色のついた毛なんか生やしちゃってね、前は、なんだか頭でっかちなワニがニ本足で立ち上がったみたいな奴だったんですが、今はあれですよ、いくぶんフワっとしちゃいましてね、オスとメスで毛づくろいなんかしちゃったりしそうでして、どうも照れちゃいますね。


いやあどうもね、あたしが照れたって面白くもなんともないんですけどね、とにかくだいぶ昔の奴ですからね、噺に出てくるのは骨です。ま、ニセモノなんですけどね。

 


え~、まずはこっちのね、日本の猫の皿ってのをさらっておきますが、ま、ご存じの方が多いとは思いますがね。


欲のかき方にも、上には上があるって噺でございましてね。
江戸の道具屋がさる田舎の方へ足を延ばしまして、掘り出しもんを探そうってんですが、こりゃあうまくいきません。お目当ての骨董がロクなもんじゃなかったってことですね。
しょうがねえなあ、ま、こういうこともあるさってんで、すごすご帰りかけます。


で、不貞腐れた足取りでの一休み。とある茶店に腰を下ろしますと、床几の脇で猫が暢気そうに寝ております。
と、その猫の前に、無造作に置いてあるエサの皿に目が留まりますね。


骨董に詳しい道具屋にはすぐ分かります。その皿は南蛮渡来の最高級品。猫のエサ用になんざ使っちゃいけない代物です。
今の値段で言うなら300万円は下らない皿なんですねえ。


おいおい、なんてことしてやがんでい。ははあん、さてはここのオヤジ、この皿の値打ちを知らねえな。
よおし、ってんで道具屋は悪だくみを仕掛けますよ。


「なあオヤジ」


「へ~い、なんでやしょ」


「こないだウチの猫が死んじまってな、カカアが泣き暮らしてんで弱ってんだよ」


「そりゃご災難で」


「そこでひとつ相談なんだが」


「へい、お役に立てればなんなりと」


「そこの暢気そうな猫を譲っちゃくれねえか。3万円出すぜ」


「はいはい、ようがすよ、どうぞお持ち帰りになって」


「お、ありがとよ。で、ついでにそこの皿ももらっとこう。この猫も慣れた皿で食う方がイイだろうからな」


「いえいえお客さん、その皿だけはダメなんで」


「なんでだい。どこにでもありそうな汚ねえ皿じゃねえか」


「なにね、この皿を置いてますと、時々猫が3万円で売れますもんで」


裏をかこうなんて思ってますと、上には上が、っていう噺なんですがね、これがアメリカさんへいきますと、全然違います。向こうさんは欲をかいたりしませんね。真っ正直です。
ミーイズムのお国柄ですからね、信じた道をまっしぐらってやつです。


で、あれ? 違ったかなって思ったらすぐに意見を変えて、またそっちの方へまっしぐら。

 


そういう国の「ブルドッグとティラノの骨」って噺でございます。
アメリ東海岸、ニューヨークシティから北東方向へ行きますとコネチカット州に入りますな。
湾をはさんで向かい側がロングアイランド島って次第になっております。


ハートフォードって市が州都なんですが、19世紀以前は州都が2つあったそうなんで、そのもう1つってのがニューヘイブン。
このニューヘイブンって街にあるのがイェール大学。


何の関係もありませんが名前だけは聞いたことがありますね。世界的に有名な大学です。


作家の山崎正和、国会議員の川口順子、翻訳家の柴田元幸が卒業していて、文芸評論家の柄谷行人加藤周一、音楽家高嶋ちさ子がここで学位を取得してるんだそうでございますよ。敬称略ね。


ま、日本ともあながち関連のない大学でもないってことなんですが、19世紀の後半に、このイェール大学のフットボールクラブに入っていたのが、イギリス人のアンドリュー・グレーヴス。


農業地帯として知られているコネチカット州ですが、グレーブスが道を歩いておりますと、とある鍛冶屋の前に1匹の、すんごい御面相のブルドッグが寝そべっております。


茶店じゃなくって鍛冶屋、猫じゃなくってブルドッグです。


ブルドッグの前には巨大な骨? みたいなのが転がっておりまして、グレーブスは鍛冶屋のオヤジに声をかけます。


「なあオヤジさん」


「ん? お前さんイェールのフットボールクラブの?」


「ああ、そうだよ。知ってんのかい?」


「いや、そうじゃねえんだけどさ、そのごつい身体見りゃ見当がつくってもんよ」


「ああ、なるほどね。ものは相談なんだが」


「ああ、分かってるよ、そのブルドッグがお入り用ってんだろ。ついでにその骨もくれと」


「話しが速いねオヤジさん。でも骨は要らないよ」


「そりゃダメだよ。それじゃあ噺にならなくなっちまうよ。その骨はティラノザウルスの骨なんだから。お前さんはまずその骨の値打ちに気付いてブルドッグの交渉に入らないといけない決まりだろ」


「あ、あの、いや、なんのことだかわっぱり分からないけど、とにかく骨は要らない。そのブルドッグを幾らで譲ってくれる?」


「いや、そうじゃなくって、あんたはあのティラノの骨が欲しくって、それをもっていくためにブルドッグの値段を決めなくちゃいけないんだよ」


「さっきからオヤジさんの言ってることは何が何だか理解できないんだけど、50ドルでどう? ブルドッグだけね」


「噺の通じないお兄ちゃんだねえ。じゃあ75ドル」


「じゃあって、なんだか分かんないけど高いよ、55ドル」


「ホントにティラノの骨は要らないのかい、ウソっこの骨なんだけど貴重品だよ」


とかなんとか、訳の分かったような分からないような交渉の結果、65ドルでそのブルドッグはグレーブスに引き取られたんですね。


これはですね、もはや猫と皿って噺から外れましてね、ホントにイェール大学に伝わっている伝説なんでありますよ。


グレーブスに引き取られたブルドッグは「ダン」って名付けられまして、その御面相から「ハンサム・ダン」って呼ばれて、たちまちフットボールクラブばかりじゃなくって、イェール大学中の人気者になっちまったんですね。


このときまでイェール大学のフットボールクラブは、「イェール・Tレックス」って名前で呼ばれていたんですが(ウソです)、ハンサム・ダンの登場以来「イェール・ブルドッグス」って言うようになったっていう由来の話なんですよ。


「ワニとツノガエルが交わって生まれたとしか思えない」って言われたらしいハンサム・ダンですが、イェール大学の学生たちや近所の子供達には優しい態度だったそうですが、フットボールのライバル校、ハーバード大学のシンボルカラー、深紅色と、プリンストン大学のトラを見ると猛り狂ったっていう言い伝えがあるんですね。

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アメリカン・フットボールアメリカの国技みたいなもんですからね、カレッジフットボールアイビーリーグ」も人気が高いです。


ちなみにアイビーリーグの歴代最多優勝は「イェール・ブルドッグス」
プリンストン・タイガース」が2位タイ、「ハーバード・クリムゾン」が7位タイにつけています。


ハンサム・ダンは1898年に死んじゃって、なんと剥製がイエール大学に保存されているんだそうです。
今現在に至るまでの誇るべき「イェール・ブルドッグス」の成績はハンサム・ダンがいたればこそ、ってことですね。アメリカってのも伝統を大事にする文化なんです。


ハンサム・ダンが天国へ旅立ってから35年。イェール大学新入生の寄与によって1933年、ハンサム・ダン2世の登場と相成ります。


面白いのは、このハンサム・ダン2世。なんと就任した翌年、ライバルのハーバード・クリムゾンによって「誘拐」されてしまいます。
ハーバード大学構内で食事をしているハンサム・ダン2世の写真がイェール・ブルドッグスに送られて来たそうです。
お前たちの守り神はここにいるぞ! イェール・ブルドッグスはもう勝てないぞ、ってわけです。


キッツイシャレですね。こういうのが許されていたような、そんな時代ってことですな。


ま、すぐに戻されてきたんでしょうけれど、ハンサム・ダン2世は1937年に死亡。


ハンサム・ダン3世、1937年から1938年。


ハンサム・ダン4世、1938年から1940年。


ハンサム・ダン5世、1940年から1947年。この5世は初代以来の高い人気を誇ったようです。


ハンサム・ダン6世、1947年から1949年。6世は2歳で死んでしまったんですが、その原因はイェール・ブルドッグスが、ハーバード・クリムゾン、プリンストン・タイガースに続けて負けてしまったためって言われているそうです。


ハンサム・ダン7世、1949年から1952年。


ハンサム・ダン8世、1952年。2試合のみに登場。


ハンサム・ダン9世、1953年から1959年。


ハンサム・ダン10世、1959年から1969年。体重約34キロ。


ハンサム・ダン11世、1969年から1974年。


ハンサム・ダン12世、1975年から1984年。唯一のメス。この12世、今度はプリンストン大学の学生たちに誘拐されています。イェール・ブルドッグスはよっぽど強かったんでしょうね。
12世の返還時にプリンストン大学の学生たちは記者会見を開いたそうです。なにヤットンネン!


ハンサム・ダン13世、1984年から19996年。実は1995年に引退したんだそうですが、1996年に14世が死んでしまったため再任したっていう経緯があるそうです。


ハンサム・ダン14世、1995年から1996年。短い任期でしたが、死因は興奮し過ぎの心臓発作。なんともはや。


ハンサム・ダン15世、1996年から2005年。15世の死因も心臓発作。ブルドッグって、そうなんでしょか。


ハンサム・ダン16世、2005年から2006年。ハーバード大学の学生に拉致されたことがあるそうです。アメリカの学生さんもなかなかお盛んでございますな。21世紀なんですけどね。


ハンサム・ダン17世、2006年から。これ以降のデータは確認できませんでしたが、ブランド品として様々なグッズがございますですよ。ハンサム・ダンのね。

 


アイビーリーグばかりじゃございませんでね、やっぱりプロリーグのNFLナショナルフットボールリーグ)がアメリカスポーツ界の人気ダントツNo.1です。スーパーボールの盛り上がりはオリンピック以上なんて声があるぐらいでございますからね。


鍛冶屋から買い取られた一匹のブルドッグが、伝統として息づいているってのは、なかなかね、見事なもんでありますよ。
ティラノザウルス? へ? なんのことでしょか???


それよりね、茶店から買い取られた猫、あの後、どうなったんでしょうかね。江戸へ着く前に逃げ出したんでしょうね。だってね、猫ですから。


おあとがよろしいようで。