< フランス人のレヴィ=ストロースは ハウスの北海道クリームシチューを知っていたでしょうか >
2009年に100歳で亡くなったフランスの文化人類学者、レヴィ=ストロースは「料理の三角形」という概念を表しました。
料理の三角形は、人間はものを食べるにあたっていろいろと料理するわけですが、人間の料理には3種類があって、その3種類の料理方法を頂点とした三角形の中にほぼすべての料理がおさまるだろう、というものです。
人間が食べているものを3つの頂点を持った三角形の中に捉えようとするレヴィ=ストロースの構造主義的分析によれば、3つの頂点とは、
「ナマのまま」「火を加えたもの」「腐らせたもの」
となっています。
ナマの食材に火を加えて、焼いたり、燻製にしたりという「空気の力」で食材が変化することを、「文化的変形」とレヴィ=ストロースは定義しています。
もう一方の腐らせたものっていうのは、どうもね、食べものとしていただけない方向のように感じますけれど、こちらは空気の中で自然に腐敗していくことを指すのではなく、水を利用して、食材を煮る、というのが第一義なようです。
「文化的変形」に対して「自然の変形」としています。
煮るという行為は、水だけじゃなくって火を使うわけですから、純粋な「自然の変形」というわけじゃないですけれど、現代人にとってなじみ深い料理であることは間違いないですね。
頂点要素のまま、つまり「ナマ」で食べるものってなんでしょう。
果物が代表的でしょうか。日本人にとっては馴染の「刺身」もナマといえるでしょう。
「火を加えたもの」といっても、直火にあてて料理するのは、一部の獣肉だけで、たいていはフライパンだったり間接的な火の利用方法ですね。
「腐らせたもの」という表現のままだと、チガワイ! って猛反発を受けそうですが、発酵食品、納豆なんかがそうでしょうね。
三角形の頂点のまま食べている料理っていうのは少数派で、大抵の食べものは3つの要素をそれぞれのバランスで取り入れて三角形の中に納まっている、といえそうです。
もっと言えば、レヴィ=ストロースは文化人類学者なんであって、料理人じゃありませんから、あくまでも学者としての料理の構造分析です。旨い不味いをどうこう言っているわけじゃないんです。
構造主義者レヴィ=ストロースにとって大事だったのは三角形の頂点に何を据えるかだったかもしれませんが、実際にその料理を食べる側にとってみれば、頂点が意味するものよりも、その中間過程で、何がどのように変化して、どんな感じに旨くなるのかってことですよね。
たいていの人は料理に関して「快楽主義者」だと思います。旨いものが食べたいです。
「水と安全はタダだと思っていやがる」なんてね、揶揄されることもある我々日本人ですが、確かに水に対するコスト意識は薄いのかもしれません。とは言いながら、旨い水っていうのに対するこだわりは昔から世界に冠たるものがあるかもしれないですよね。
お茶の文化が最たるものかもです。葉の状態に合わせてどこそこの水っていうふうに指定したりしていたらしいです。
でも、ぜ~んぜん、水道の水でオッケーだし、なんとなれば、水、入れなくたってイイもんねっていう料理があります。
煮込みですね。
野菜をたっぷり入れた鍋で火にかけて、野菜から出てくる水だけの方が旨いでしょ、っていうスープ。
重要なのは「鍋のフタ」だったりするヘルシーメニュー。
レヴィ=ストロースにかかれば、腐る方向の料理です。
でも、みんな大好きですよね、世界的に。スープ。煮込み料理。
丸いバスタブみたいな陶製鍋で、何をかき回しているのかぐーるぐるやっている魔女のスープ。
♪煮込んでしまえば形もなくなる、もうすぐ出来上がり。のユーミンのチャイニーズスープ。
デンマークの作家アイザック・ディネーセンの「バベットの晩餐会」に出てくる魔女のスープは映画にも取り上げられました。
「魔女のスープ 残るは食欲」は阿川佐和子さんのエッセイ集のタイトル。
自分で作って、自分で食べる。簡単、自由、旨い、健康的。
もしかすると、そういうスタイルに一番合っているのが、スープ。煮込みなのかもしれません。
特にウルサイ決まりごとはない、感じですしね。
酒呑みを10人集めて、煮込みといえば何か? と問えば、10人が10人「もつ煮込み」と答えるでしょう。
居酒屋さんで出てくる煮込みの味付けは、しょう油、味噌、でしょうかね。
おそらく海外にはない煮込み料理。
素材の正体が不明になるまでグズグズに煮込むのが、正しい居酒屋の「ザ・煮込み」です。
世界的に最も浸透しているスープ、煮込み料理っていうと、何になるでしょうか。
答えは簡単で「シチュー」でしょう。
シチューって、何か特定のもの、じゃなくってスープ、煮込み料理の総称みたいなもんですよね。
英語で煮込むってことを表す言葉が「シチューイング」らしいです。
シチューの現在進行形。
でも、レヴィ=ストロースは、こう言いそうです。「それ、ラグーだよ」
シチューのフランス語がラグー、なのではなくって、ラグーの英語がシチュー、ってことを言いそうな気もします。ラグーが本家。
でもなんか、英語とフランス語っていう違いだけじゃなくって、もともと違う料理なんじゃないかっていうぐらい、言語的には関連性無さそうに感じますねえ。
発祥っていっても、いろんなものを入れて鍋で煮込むっていうだけなんで、17世紀ごろにフランスで始まったっていっても、鍋料理ブームがフランスで顕著に起きましたってだけのことで、シチューのイギリスに限らず、世界中で同時発生的に食べられるようになったのかもしれませんよね。
特に肉が入っていなくたって、シチュー、スープ、煮込みって名前でオッケーなんだと思います。
日本人が肉を普通に食べるようになったのは明治以降ですし、肉入りのシチュー、ビーフシチューが入って来たのは明治初期とされています。
洋食として高級感あふれる一品だったみたいです。そもそもビーフなんて一般的に食べるもんじゃなかったんでしょうしね。
ビーフシチューが一般的に食べられるようになったのは、戦後、食糧事情が良くなっていくのと同期しているみたいです。
歴史的に最初といわれているフランスのラグーっていうのが、どういうものなのか、個人的によく分かっていません。調べても納得できる感じにはなりませんでした。
ラグーっていう名前の煮込み料理を食べたことはありますが、その店のは、よくあるビーフシチューです。
メニューの名前は、ビーフとか付かない、ただラグーでしたけれどね。デミグラスのビーフシチュー。
赤ワインだとか、トマトだとか、で味付けされますが、小麦粉をバターで炒めて、焦がし加減で作るブラウンソースっていうのもビーフシチューのスタンダードですよね。
スープのように、飲むのがメインじゃなくって、煮込んだ肉、野菜を、たっぷりのソースで食べる、っていうのがビーフシチュー。
チョコレート色が旨さを醸し出している、肉入り煮込み料理です。
ビーフシチューっていう名前で、ポークやチキンを使っている場合もありますね。そういうのでもポークシチューとかチキンシチューとかはいいませんね、不思議ですね。
ポークを使ったチョコレート色のビーフシチューです。
対して、「クリームシチュー」という、白いシチューがありますね。
ビーフよりもチキンの方が多いですかね。
ホワイトシチューとも言います。肉よりも、じゃがいも、人参、たまねぎが目立っているとホクホク嬉しいアツアツの一品。
実はこれ、日本発祥らしいです。
レヴィ=ストロースさんもビックリ、クリームシチューは日本発祥。
フランスに生クリームを使った「ブランケット」という白いシチューがあるんだそうですが、牛乳を使ったクリームシチューとは風味が違うということらしくって、フランスでも日本のクリームシチューはベツモノとして認知されているそうです。
にしても、ブランケット。英語だったら「毛布」でしょ? 温まるからってこと?
英語とフランス語の関係、いろいろ難しそうですけれどね。
そもそもクリームとシチューっていう言葉をくっ付けるのはおかしいらしくって、和製英語。
なので、日本発のシチュー、クリームシチューってことなんでしょうね。英語圏の人にとって分かりやすい。
しかしですね、日本には北大路魯山人という有名なウルサガタがいらっしゃったわけですが、フランスにも当然ね、いらっしゃることでしょう。
どんな方がいらっしゃるのか存じあげませんが、ま、レヴィ=ストロースさんじゃないでしょうね。
一般的に、ラグーでもなく、ビーフシチューでもなく、白いクリームシチュー。
しかもインスタントのルーがありまっせ。とかいうのをどう受け止めているんでしょうかね。
日本だと、牛乳、放牧された牛、牧場、北海道って連想で、じゃがいもも北海道のイメージで浮かんできて、そんでもって白い恋人で、寒~い北海道の、温かくって、旨~いクリームシチューですよね。
フランス人っていうか、外国の人に北海道の白いイメージってあるんでしょうか。
まいっか。
フランスのウルサガタにどう言われても、ハウスさんにはどんどん旨い新商品を期待しますです。
クリームシチューは煮込み料理の中で、既に世界的に確固たるポジションを占めているのでありますよ。知らんけど。
肉じゃがっていうのもありますね。