< 若くたって転ぶときは転ぶですねえ もうヒールなんて履かないって言ってました >
チカチューって呼ばれている女性がいるんです。
居酒屋さんで時々顔を合わせる、いわゆる顔見知りってやつですね。
いつも同年齢ぐらいの仲間の女性たちとキャーキャー明るく呑んでいます。
そんなに話をしたことがあるわけじゃないんですけど、ふっくら体形のチカチューは黄色い服が大好きなんで、チカちゃん、ピカチューみたいってことらしいんです。
で、本人もチカチューって呼ばれてまんざらでもないようなんですよね。
まだ30代だと思いますけど、そういう世代なんでしょう。
ピカチューを見て育った世代。
もっと上の世代にだって黄色い服の大好きな、ふっくら体形の女の人なんていくらでもいると思いますけど、あだ名の候補にピカチュー、入って来ないですよね。たぶん。
しばらく顔を見なかったんですけど、珍しく1人でカウンターに座って女将さんと話し込んでいましたです。
「チカちゃんね、入院してたんだって。2ヵ月」
さすがに女将さんはチカチューとは呼びませんね。チカちゃんです。
「骨折しちゃって、ずっと病院で寝てたんですよ。退院してからも1ヶ月はアルコール禁止でした」
へええ。入院とかしたことがないんでピンとこないんですけど、骨折って、退院してからもアルコール制限とかされるものなんですねえ。
酒呑みとしては、なかなかに辛い3ヵ月だったでしょう。チカチュー、快気、おめでと~!
ってことでイイのかなん!?
脛の骨を複雑骨折しちゃったらしいんです。痛そおッ!
会社からの帰り、駅のホームから階段を降り始めたら、なぜだかストンって前のめりになっちゃって、アッって思ったら階段の段のところに正座する格好でペタンって座っちゃった。
で、そのままズズーッって膝をソリにして下まで一気に滑り降りた、って言いますか滑り落ちた。
階段が終わったところで、バタッって前向きに顔から床に激突。
痛いよりなにより、恥ずかしさが先だって、すっくと立ちあがり、「何かありましたか?」って表情で家まで歩いて帰ったんだそうです。
玄関に入ってドアを閉めて、泣きながら足を確認。
ストッキングはズタボロ。脛全体に血が滲んで、鼻も擦り傷になっていたんだそうです。
途中ですれ違った人は、みんなビックリしてドンビキだったろうな、っていうのが最初に思い浮かんだことだったって言ってました。
痛いながらもそっとお風呂に入って、すぐに寝て、翌朝、右の脛が腫れていて、もの凄く痛い。
パンツスーツで出勤しようと思って、ベッドから起き上がったら、あら? うまく立てない。
しかも、痛みが限界を超えて、脛だけじゃなくってアタマまで痛くなってきた。
で、救急車を呼んで、即入院ってことになった顛末。
「複雑骨折って診断されて、よく歩いて帰れましたねって、お医者さんが驚いてました」
そりゃそでしょねえ。複雑骨折ねえ。
「階段を膝で滑り降りてる間、肩からさげたショルダーバッグの紐を右手でちゃんとつかんで、左手でスカートを抑えながら、背筋を正して澄ました顔してズズーッて。バッカみたい。きゃははあ~」
ってね、本人は笑いながら言ってましたですけど、恥ずかしさは複雑骨折より強し! ってことなんでしょうか。聞くだに痛そうな滑り方ですよ。
複雑骨折はしたものの、すこぶる、丈夫なオンナ! チカチュー!
チカチューの、膝で階段ソリ滑りの話を聞いて、む~ん、って思ってたらですね、今度は女将さんが、
「うちの実家のお隣りさんなんだけどね……」
その家のお父さんが、もうご高齢なんだそうですけど。新聞紙を広げて爪切りをしていたら、チャイムが鳴ったんで玄関へ出ようとして、その薄く広げた新聞紙につまずいてドタッて転んじゃった。
新聞紙を広げて爪切りなんてところが、なんとも昭和なテイストですが、転んでそのまま起き上がれなくって、入院。
すぐに退院は出来たらしいんですけど、そのまま寝たり起きたりの生活になっちゃった。
ん~。女将さんの話の方は、チカチューの話のようには笑いで終われませんねえ。
けっこう聞く話ですよ。新聞紙につまずくって。
にしても、畳の部屋で転んで、介護が必要な生活になっちゃう。
健康寿命ってやつにとって、転倒ってかなり大きなマイナスになるんですねえ。
ま、自分は今のところ、なんとか転ばずに歩けていますし、正座で階段ソリ滑りの経験もありませんが、明日は我が身ってやつなんでしょうねえ。
心しておいた方がイイんでしょう。
で、ちょろっと調べてみましたらですね、「一般社団法人日本転倒予防学会」っていうのがあるんでした。
日本が高齢化社会になって来ていることは周知の事実ですが、内閣府の「高齢社会白書」によりますと、2022年の日本の65歳以上の人口は3621万人。高齢者の割合は28.9%なんだそうです。
65歳以上が高齢者っていうのは、国連が言い始めたことなんだそうで、当たり前の話ですが、なにか決まりごとがあるわけじゃないんですね。
個人によって違うんでしょうからね、いろいろと。
高齢者が運転する車の事故が急に増えて、免許返納の動きが出てきていますけれども、日本の道路交通法では70歳以上が高齢者ってされています。
肉体的にも精神的にも健康寿命っていうのが、様々、取り沙汰されています。
認知機能だとかもそうですけど、いろいろ衰えてくるんだなあっていうのは、なにも65歳や70歳にならなくたって、誰でも感じていることだと思います。
体力の臨界点っていうのがあって、それをある瞬間、突然超えちゃって、たとえば、なんでもないところで転んでしまって、如実な健康生活転換点がやって来る、みたいなことなんでしょうね。
草野球をやっていて、30代半ばぐらいでしたが、久しぶりにサードの守備について、何でもないイージーゴロ。
オッケーって、余裕で取りに行ったら、グローブにかすりもしないで後ろへトンネル。
まじめにやれえッ! って怒られましたけど、自分自身が一番ショックだったことを思い出します。
アタマの中の自分のイメージと、実際の身体の動きが全然シンクロしなくなっちゃうんですよね。
ま、草野球のトンネルと新聞紙で転んじゃうっていうことは、一緒じゃないでしょうけれど、転倒っていうのが「予防学会」っていうのが出来るぐらいに、社会的大問題だってことですもんねえ。
なんだかしんみり感じちゃいますけど、誰だって年をとっていきますからね。ホント、明日は我が身ってやつです。
転んで、骨折して、寝たきりになるっていう人が、少なくないんだそうですよ。
転ばぬ先の杖って言いますけど、一般社団法人日本転倒予防学会には「転倒予防いろはかるた」っていうのがあるみたいです。
「に 日光はビタミンDの製造器 骨は丈夫に 筋肉しっかり」
日光を浴びるっていうことは、日焼けするってことで、最近は日傘をさして歩いている男性も見かけることがありますけれど、お日様を浴びるって大事なんだそうですね。
ビタミンDっていうのはあんまり聞かない気もしますけど、太陽光の紫外線を浴びることによって生成されるんだそうです。
ビタミンDは、身内の中の機能性たんぱく質の働きを活性化させて、骨にイイ影響があって、神経伝達や筋肉の収縮なんかを正常にする働きもあるんだそうです。
お肌が、って言って、日光を全く拒絶するんじゃなくって、朝のうちは陽を浴びるようにするっていうのも転倒防止に役立つってことですね。
「ち 近くても つっかけはかず 靴はいて」
つっかけ、っていう言葉も久しぶりに聞きましたけれど、すぐそこだから、っていう時でも足元をしっかり整えなさいよってことなんでしょねえ。
この辺りがあれですね。
アタマの中でイメージしている自分の体力、身体の器用さっていうのと、現実の動きのギャップっていうのを自覚しましょうってことなんでしょうね。
ちゃんと自分に合った、普段使いの靴を、スニーカーとかね、用意しておくことって、大事だと思います。
散歩の途中ですれ違う、革靴で散歩しているジサマを見かけることが時々あるんですけど、あれって、定年退職したばっかりなのかなあって思っちゃうんですけど、コンクリートやアスファルトの道ばっかりを歩くんだとしても、革靴ってさあ、っていう意識改革から始めるとイイのかもです。
ウォーキングシューズって、いろいろ工夫されて、いろいろありますよ。
体力っていうか運動神経っていうか、衰えていくのは悲しいことなんですけど、そこを意識する、自覚するっていうのがキーポイントでしょねえ。
難しいですけどね。運転免許を返納することに抵抗を覚えるっていうのも、根っこは同じでしょねえ。
バッタリ、ポッキリ、転んでからじゃ遅いんです。
転ばぬ先の杖。後悔先に立たず。
なんだか今回は、真面目なことを言って終わってしまいますです。
みなさまっ、ご健康に。
人は、転んじゃう動物ではありますが、正座で階段ソリ滑りは、しないようにしませう!