< へええ こんなん あんねんなあ っていう旨い焼酎だったんでございます >
宮崎県出身のヨッさんとの約束で、いつもの焼酎バーに、合わせて4人の酒呑みが集まりました。
その焼酎バーでよく顔を合わせる4人なんですが、やんごとない用事で一週間ほど宮崎の実家に帰ることになったヨッさんが「幻の焼酎」をお土産に持ち帰ることになっていたんであります。
なあにがマボロシやねん! ぐらいにしか考えていなかったんですけど、ヨッさんがその日、得意顔で呑ませてくれたのは「爆弾ハナタレ」っていう焼酎でした。
ハナタレ? 知らんですね。聞いたことのない銘柄です。
だから幻? いや、地元でしか出回らない酒っていっぱいあるでしょ。
「そうでなくてね、ハナタレは劇薬にして媚薬、ってね、そういう特別な焼酎なんですよ」
布袋さんみたいな雰囲気の、ゆったりした50がらみのハゲオヤジのヨッさんです。
いつもは、あんまり自慢タラタラ話をするような人柄じゃないんですけどね。
この晩は、なんとパンフレットまで用意していて、ニコニコしながらしゃべりまくりです。
「宮崎はいろんな種類の焼酎をね、造ってるでしょ。ね、知ってるよね。霧島、松露、高千穂、雲海。芋、麦、米、なんでもあんのが宮崎県なんですよお」
はあ、そですか。
「それでね、今じゃなかなか手に入らない、っていうか、口に入らないのが百年の孤独。知ってるでしょ。麦焼酎のトップですよ。吞んだことある?」
むかしね。
「あの百年の孤独を造ってる蔵元が高鍋町の黒木なんですよ」
高鍋町、ふううん、知らんですよ。
「で、僕の実家がどこにあるかっていいますとね」
知らんがな。
「なんと、その高鍋町なんです」
そですか、それはそれは。
「その黒木が出しているハナタレがこれです。爆弾ハナタレ、何回でも繰り返しますけど、劇薬にして媚薬って言いましてね……」
長広舌がまだまだ続きそうな気配に、店のマスターが、
「あのさ、酒は耳で味わうもんじゃなくってさ、口だから、早く味見しようよ」
大賛成!
ってことで、ストレートグラスにちょろっとずつ、やっといただける段取りになりました。
ボトルがですね、小さいんですよ。360ミリリットル。2合瓶ですね。
金額のことは聞きませんでしたが、かなり貴重な焼酎ってことでコーキューなんだろうなって思います。
ま、もっとも、金額を気にしたところで、東京辺りで一般の酒呑みが買えるほどの出荷量はないんだそうですけどね。
マスター含めて5人に2合を惜しげもなく、じゃなくって、ケチケチと注いでいただいたわけですけど、無理もありませんよね。全部で2合しかないんですから。
なにせ、劇薬にして媚薬、だそうですからね。貴重品なんです。
最初は1合ぐらい家に持ち帰ってゆっくりと、って考えていたような雰囲気のヨッさんでしたが、チョビチョビと5つのストレートグラスに注ぎ終わったら、もうそんなに残って無いわけです。
諦めて、ボトル全部、って言っても2合ですけど。またチョビチョビと注いでくれました。
ヨッ! 宮崎男児! おっとこまえ~!
ってことで、キでじっくりといただきます。
44度だそうです。
とろみのある冷たい液体。嗅いでみますと、わりとしっかりした芋焼酎の香りがします。
口に含んだ瞬間に、芋じゃない感じの甘い香りが口中に広がりますね。
香りは喉から食道に落ちて行かず、フルーティーな甘い空気が鼻の奥で回っていますよ。
「ちゃんと冷やして来たからね、どうよ、旨いでしょ、絶品でしょ」
舌に残る味が、ああ、芋焼酎だなあって満足感です。度数の高さが気持ちイイです。
また少し口に入れますと、今度は香りよりも焼酎の旨さがダイレクトにやってきます。
これはもう、間違いなくトップクラスの焼酎じゃないと味わえない贅沢な満足感。
グラスの中には、たかだか4勺しかないとか、そんな不満は言えませんね。一口ごとのこの味わいに時間が止まります。
アテはなにがイイとか、そういう焼酎じゃないです。アテがどんなものだったとしても邪魔になるでしょう。
なるべく身体全体にこのふくよかな満足感が行き渡りますようにって、ゆっくり舌の上を転がしながら呑みます。
劇薬にして媚薬、まあ、そういう宣伝文句にケチは付けませんです。
酒呑み仲間に、ヨッさんに、感謝、感謝だったのでありました。
そのあとはいつもの黒糖ロック、泡盛ロックって感じでワイワイ焼酎談義をして終わったんですが、「ハナタレ」っていうのは「ハナタレ小僧」のハナタレじゃなくって、どうやら日本酒の「あらばしり」のような存在の焼酎みたいなんですね。
全然聞いたこともありませんでした。
焼酎は芋であれ麦であれ、それを材料にしたモロミを蒸留して造っているのが一般の焼酎ですよね。
モロミを熱して蒸発してきた成分を急激に冷やして液体に戻すことによって焼酎が蒸留されるんですが、モロミの成分は蔵元によって工夫された、とっても芳醇なもの。
最初に蒸発してくる成分は沸点の低いものになります。
その沸点の低い成分は、香りが芳醇でアルコール度の高い焼酎になるってことなんですね。
度数はだいたい60度以上になるんだそうですよ。
それがハナタレ。
「初垂れ」って書くみたいです。
でも、全体の1%から3%ほどの量しか蒸留できなくって、ハナタレの工程が終わって香りもアルコール度も落ち着いてきた蒸留液が「本垂れ(ほんだれ)」
この本垂れこそが、普通に呑んでいる焼酎なんですね。
本垂れの範疇を超えて、アルコール度数が低くなってきたのが「末垂れ(すえだれ)」
末垂れの利用の仕方は蔵元それぞれらしいです。
こうした蒸留工程の中で、どこからどこまでがハナタレで、こうなったら末垂れだっていう判断に、特に決まりはないんだそうで、杜氏さん個人の判断みたいです。
職人さんの感性ってところなんでしょう。カッコイイじゃんないですか。
その場の香りとか、温度とか、そういうので判っちゃうんでしょうね。
ハナタレはとれる量が圧倒的に少ないですから、そんなに出回らないってことなんですね。
しかも度数が60度以上ですから酒税法上、焼酎じゃなくってスピリットです。
なので、蔵元で加水して45度以下にして、焼酎ハナタレ、として商品にしているってことみたいです。
スピリットとして、焼酎っていう名前じゃなくって販売しているものも、ひょっとするとあるのかもしれませんよね。
そういう探し物をしてみるのも楽しい感じです。
我々が普通に呑んでいる焼酎、本垂れだっていうのも蒸留された時点ではアルコールは40度以上あって、その本垂れに加水して、30度、25度、20度にしているんですね。
加水していない本垂れは「原酒」っていうことになります。
これは少ないながらも販売されていて、原酒ばっかり置いている焼酎バーっていうのもありますね。
焼酎を水割りで呑んでいる人もけっこういますけど、それって水割り焼酎の水割り、ってことになるんですね。
ま、イイんです。自分に旨い割合に作るっていうのは大事ですよね。
呑み方なんて自分の好きなようにやればイイってなもんではありますが、実はこうした方が旨いんだよっていう、先人たちのノウハウがあります。
店で焼酎の水割りを呑むときなんかでは、たいてい、トールグラスと氷と水っていうセットですよね。
まずグラスに氷を入れます。氷が最初。テキトーにね。
そこへしずしずと焼酎を注ぐ。テキトーにね。
そして最後に水、っていう順番がイイんだそうです。
氷を入れない場合でも、まず焼酎、それから水。
水の方が比重が高いんでしっかり混じり合うからっていうのがその理由。
ところがお湯割りの場合は、お湯が先。
好みの温度のお湯をグラスに注いでから、焼酎をしずしずと。
水割りもお湯割りも焼酎が6、っていう割合が旨いって言いますよね。
でもまあ、割り合いは自己流でイイんだと思います。いちいち計ってやるようなもんじゃないですしね。
炭酸水やらお茶やら、いろいろなもので割って楽しむのも焼酎の特徴かもしれませんね。
これまでの酒呑み人生の中でいろいろな焼酎の呑み方をして来ましたが、まだやったことのない呑み方があります。
「前割り焼酎」ってやつですね。
好みの焼酎を、好みの割りあいで、水で割っておいて、一晩以上寝かせておいてから呑む、っていう単純な方法なんですけど、店呑みが基本なもんですから、やったことがないんですね。
その場で作った水割りよりも柔らかく、まろやかになるんだそうです。
ペットボトルだとか、なにで前割りを作っておいてもいいわけですが、世の中にはラジウムボトルだとかイオンボトルなんてのがあるそうでしてね、陶器のボトルです。
遠赤外線効果、マイナスイオン効果っていうのが前割り焼酎に出るんだそうですよ。
なんか、健康気分な酒になりそうですよね。
こうなりますと、水そのものにもコダワリたくなってくるかもしれません。
で、芋焼酎で前割りを作っておいて、燗焼酎っていうのをやってみたいです。
これは宅呑み専門の人なんかは、とっくにやってることなのかもですけどねえ。
ハナタレとか、特殊なものじゃなくっても、世の中にはどんどん新しい焼酎が出てきていますからね。
呑んだことのない銘柄の方が圧倒的に多いわけで、なんとなく、そういうのって残念な気が。。。
でも、爆弾ハナタレ、呑んだどおおお!
宮崎県、行きたいぞおおお!
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