<旨い酒に合う、旨いアテをじっくり作っる だってじっくり呑むんだから 焼きベーコン>
レミー・マルタンがやってきた。呑み仲間のところにやってきた。
これはもう大変です。
しかもVSOP。さらにそれがマチャー・カスク・フィニッシュなんです。
驚天動地です。詳しくはないけれどチョー有名なブランデー。名前だけ聞いたことがある。
ヨーロッパでしか販売されていないらしいです。とにかく凄いらしいです。
正直言いましてマチャー・カスク・フィニッシュとか言われても、はあ? ってなもんです。縁がないです。口にしたことがない。
どうして呑み仲間のところにそのレミー様がやって来ることになったのか。
それはですね、彼の叔父さんがフランスの会社と取引のある会社を経営しているらしく、何か大きな取引に成功したということで、その御祝い品が彼の家にも回ってきた、という運びだそう。
そんでまた、どうしてそのレミー様が私との家呑みに供されることになったのか。
それはですね、彼がとても縁起を担ぐ男だからなんです。
彼曰く、
「お前には分からないだろうけど、これ凄いんだよ。ほらフルボトルだし、っていっても俺もよく分からないけどさ」
まあたいていの人は分からないと思いますね。レミー様の凄さ。
「ウチで呑むのって俺だけだからさ」
一人だけ、ね。
「申し訳ないっていうかさ、なんかバチ当たりな感じするじゃん」
それもおそらく一人だけ、ね。別に酒呑むのに申し訳なく思う必要、ないと思いますけど。
「だからバチ除けにさ、お前と呑もうと思ってさ」
なんだよ! バチ除けとか、そんなんアリか?
でもまあ、そのレミー様を持ってきてくれるというんですから、茶化すことなく、ただウンウン頷くばかりです。ありがたいことです。
で、その凄くありがたいものであるらしいレミー様を家でいただくにあたりまして、そのありがたさに負けないほどのアテを用意する必要があるのではないだろうか、という次第になったのでありました。
二人とも充分に舞い上がっていますね。
いつもは、乾き物。料理するにしても安く素早く簡単に、というのがテーゼです。
でも来るんです、レミー様が。
どうする? なにか特別のアテ、作ってみる?
「失敗しないヤツな」
そんな保証は出来ません。
プロではないのだし、手間をかけた料理なんか実績ありません。
「だからさあ、考えようよ」
はい、考えました。焼きベーコンでいきましょう。
「豚からってこと?」
バカなのか。そんなわけないだろ。
「だってベーコン焼くだけって、すぐ出来るじゃん」
ベーコン自体を焼くのはね。でも、しっかり煙をくぐらせた、イイやつを用意しましょう。
そしてなにより今回は、そのソースにこだわってみましょう。
という、そういうことにしました。失敗の危険の少ない方法です。
結果を先に言ってしまいますと、大成功でしたので、チャレンジすることをお勧めします。はい、信じる者は救われる、であります。
調理は家呑みの二日前から始めます。すんごく長い時間かけます。なにせレミー様のアテを作るわけですから、最低でも二日前に作ります。
レシピを考えるとそうなってしまうんですね。
とは言いながら、実は作るといっても仕込みですね。一仕事終えれば、家呑みの当日まで何もしないのです。イイでしょ!
まず材料です。
粉末のマスタード、粒ホワイトマスタード、粒ブラウンマスタード、白ワインビネガー(酢でもイイです)、オリーブオイル、ごま油、サラダ油、砂糖、塩、生卵、こんなところです。ベーコンブロックは当日に。
マスタードの種類を扱っているお店が近くにあればベスト。ボリュームは要らないんですが、手に取って選ぶのが大事な気がします。普段から使っている人って少ないと思いますし、手に取ったって分からんよ。
というのも分かりますが、なにせ食材とのファーストコンタクトで手に取って選ぶという行為をした方が、ネットで注文するより、なんといいますか、責任感、勘どころが付くように思うわけです。
食材を選ぶって行為。もうここから調理が始まっている感じがします。初めましての食材であったとしても、自分で選ぶ。覚悟を決めるような、大げさに言えばそんな感じ。
そのメニューにとっての、インプットのためのインプットです。大事です。
ワインビネガーには恐ろしく高価なものもありますが、普通のでイイと思います。米酢とかでイケます。
マスタード類はそんなに種類を置いていないと思いますね。たいていの店には。
たぶん差もないんだと思います。って、差とか分かっているわけではないですけれどね。
とにかく買い揃えます。キッチンに並べます。
まず、2種類の粒マスタードを水につけておきます。
ホワイトとブラウン、割合はお好みで、なんですが、ブラウンの方が辛いです。
なのでブラウンは多くとも半分までにしておいた方が無難だと思います。
なるべく平たい容器でヒタヒタにします。一時間ぐらい漬けておきます。放置。
その間にマスタードを作ります。
粉マスタード、白ワインビネガーを同量ぐらい混ぜます。そんなに量は要らないです。各々大さじ2杯ってところでしょうか。
混ぜながら塩、砂糖を適量入れながら味を調え、白ワインビネガーでねっとり度を調整します。
味見の段階の舌はクリアにしておくようにしましょう。一回ごとに水で舌をニュートラルにすることをお勧めします。
なんか、根拠なくプロっぽい雰囲気を楽しめます。ね、それっぽい方が面白いじゃないですか。イイんです。誰も見てないし。
しっかり混ぜたら出来上がりです。ひとまず脇に置いておきます。これもしばらく放置。
次にマヨネーズ。
ボールに入れた卵黄をサッとかき混ぜてつぶしながら、サラダ油をタラーッ、タラーッ、しながら静かにかき混ぜます。
あまり泡立たないようにかき混ぜながら、卵黄と油が一体化してきたら、ビネガーをチロチロっと加えながらかき混ぜます。
そうしますとね、フッと、カスタードっぽい艶になる瞬間がやってきます。こういう化学反応みたいなの、面白い~。
この辺からは静かじゃなくって、普通にかき混ぜます。
お、充分カスタード、になったら、まだかき混ぜながらオリーブオイル、ごま油を隠し味としてチロっと加えて、塩、コショウ、そしてさっき作ったばかりのマスタードで味を調えてマヨネーズの出来上がりです。
はい。充分、プロの仕事なんです。知らんけど。イイのイイの、プロ気分で。
続いて粒マスタードの続き作業です。
漬けてあった粒の固さを確認してください。すり鉢かボールに入れてすりこ木、スプーンなどでつぶすんですが、固いと思い通りの塩梅につぶせません。固かったら、少し休憩して、ラクにつぶせそうな固さになるまで漬けたまま置いておきましょう。
つぶす前に充分に水気をとります。
粒マスタードは色目も旨さの一つです。好みの感じにつぶしましょう。
これもお好みですが、粒が少なくなるまでつぶせば粘り気が出ます。粒を多く残せばサラサラした食感になります。
今回はまあ、ザっと、といったトコロ。
そです、適当でイイです。と思います。
つぶしたら白ワインビネガー、塩、砂糖を入れて混ぜれば出来上がりです。
味や色合いを整えるのに、白ワインビネガーや、さっき作ったマスタードを入れてみるのもお好みです。
ただ、難しいのは、この粒マスタードは味わいが落ち着くまで時間がかかるということです。混ぜ終えた時点での味わいは、わりに尖がっています。その点を考慮して、チャレンジですね。
プロのふりをしていればプロの味になる、かどうかは、どうかなあ。。。
でも大事ですよ。これでオッケーというプロの思い切り。
冷蔵庫で1日以上寝かせます。
そうです、寝かせるのです。
この工程があるので二日前からの作業だったわけです。
1日ぐらいしたら、再度風味を確かめて白ワインビネガー、塩、砂糖、コショウ、作っておいたマスタードで味を調整します。
もうそのままいくか、もう少し寝かせるか、ヒラメキがものをいうところです。
失敗はほぼないと思います。チューブのカラシなんかより、そりゃもう、バツグンです。風味が違います。当たり前ですよね、プロが作ったんだから。
準備オッケーとなったら、ベーコンブロックを用意しましょう。
せっかくの手作り調味料がスタンバってます。まずますのクオリティのブロックにしましょう。
豚肉の風味だけで乾燥させたものや、燻製のものもあります。売り場で香りをかぐことは出来ないでしょうけれど、色合いとか、硬さとかで選んでみましょう。
大丈夫です。失敗なんて無いです。
油が濃そうなブロックであれば3mmぐらい、油がそうでもなさそうなブロックであれば7mmぐらいに切ります。
とっても贅沢な気分で切りましょう。
オーブントースターにアルミホイルを敷いて切ったベーコンを積み木倒しに並べます。
自家製粒マスタード、自家製マヨネーズを混ぜ合わせてソースを仕上げます。
並べたベーコンにソースを塗り乗せて焼きます。
ソースの表面がカリカリと焦げてくれば出来上がりです。
今回は三回に分けて焼きました。
食べ終わったら焼く、ということの繰り返し。
なにせ今回はレミー・マルタンVSOPです。
マチャー・カスク・フィニッシュです。
ストレートでいきます。ゆっくりじっくりいきます。
なんといいますか、このレミー様。その気になればグイグイいけそうな口当たりです。経験したことのない味わいです。
シロップ。昔あった咳止めシロップみたい。
などとちっともリッチじゃないたとえしか出来ないんではありますが。
ブランデーの甘さって恐ろしいです。ホントにンまいです。
イイ酒はストレートが、やっぱりンまいですね。
ガッついてはいけませんです。
たぶんね。グイグイいっちゃったら倒れます。度数は普通に40度ですが、一気に呑めちゃいそうなところがヤバイです。
口の中になるべく長い間とどめておいて、温めてから喉を通す。ビンボ臭く呑みます。
で、焼きベーコンも厳かにじっくりと味わうわけです。
箸とか爪楊枝とかじゃなく、ふだん使うことがないにしてもナイフとフォークを用意しました。
なにせ作ったことない一品です。
果たしてこのレミー様に釣り合うアテになっているのか、大いに不安でした。
そっと一口。二人で思わず顔を見合わせてしまいました。
「なんだこれ、むちゃくちゃンまい! ダハハハ、ンまいな、これ」
思わず笑ってしまうほどのンまさでした。
ンまい酒、ンまいアテ。しあわせな時間です。なぜそれがンまいのか。
笑ってしまうほどンまいとはどういうことなのか。
訳が分からなくていいんだと思います。
腹の底から、心の奥からンまいと感動できるというのはたまらなくイイもんなのでありました。
高級ブランデー。大枚はたいたベーコンブロック。風味ばつぐんのマスタードソース。
あのですね、たくさん呑むとか、たらふく食べるとか、そんな欲求が出てこないですね。不思議です。
とっぷりとした味わいのレミー・マルタンが舌全面をレミー・マルタンにします。ぶどう由来の穏やかな酸味を感じます。
濃厚マスタードソースの焼きベーコンが噛むたびに口の中をスモーキーな香りで満たします。マスタードの酸味がレミー・マルタンの酸味と軽やかに入れ替わります。
そしてまたレミー・マルタンのストレートが口の中をブランデー風味に染め変えて広がります。
ウキウキ、ニコニコ。しあわせです。
こういう経験、しておいて損はないと思います。
<焼きベーコンの身体に旨い満足度>
ベーコンブロックをはじめ、とくに科学調味料が幅を利かせている食材を使っていませんので、そのンまさは、身体が喜ぶンまさです。
マスタード、マヨネーズは、何回かやってみれば、メーカー品に絶対負けないイイ風味、イイ味が出せるようになります。
ま、手間、ではありますけれど。
たまにはね。
<焼きベーコンの心に旨い満足度>
レミー・マルタンがなくたって、サイコーにんまいです。たぶん。
最近は昔高級だったスコッチが、え? という値段で売られていますしね。名前で呑むのもイイのではないかと。
特性焼きベーコン。これねえ、一人で普通の酒を呑みながら普通に食べたら、ホントはこういう物だけ食べていけたらいいだろうな、と、しんみりすると思います。肉好きならなおさらです。
ゆっくり噛んで、じっくり味わう姿勢に自然になります。
絶景を見渡せるような場所だったりすると、自然に泣けてきたりするかもしれません。
涙を流すということはストレス解消に効果が大きいらしいですね。
いやいや、別に泣かなくたっていいんですけどね。
焼きベーコンの話です。
<焼きベーコンの酒のアテ満足度>
ごはんのおかずにだってバッチリですし、パスタに乗っけてもイイでしょうね。
でもやっぱり、ビールでも、ウィスキーでも、焼酎でも、清酒でも、酒のアテとして満足感が大きい一品です。
面倒くさがらず、こまめに焼くのがポイントになるかと思います。
<焼きベーコンの酒の〆満足度>
酒の後に取っておくのはモッタイナイです。
腹が膨れた状態で食べるのはバチあたりです。
<ベーコンブロックの食べ方>
大きいですからね、一回で使い切れないこともあると思います。
ブロック肉を使った方がンまいぞ、というメニュー、お勧めを教えてくだされ~。