< 原初の医薬品開発って 案外 植物摂取の幻覚作用あたりから始まったのかも >
当然のことながら不安視する指摘が出てはいるものの、オーストラリア政府は、2023年7月から特定した心の病の医療に「毒キノコの成分 シロシビン」と「合成麻薬 MDMA」の処方を承認することを発表したって報道されていますよね。
けっこう思い切った判断のように思えます。
「シロシビン」は、通常の抗うつ剤が効かない、現段階で有効な薬がない治療抵抗性うつ病に処方。
「MDMA」は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に処方。
っていうことなんですが、処方ですから、医学的判断を経て、必要と判断された患者さんに投与されるわけで、街のどこでも買えるっていうこととは違うんでしょうね。
MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)っていうのは、アメリカ、スイスをはじめとして、数多くの国で臨床試験が行われている人工合成物で、一部、合法的に処方されている実績はあるようなんです。
問題なのは、その人工合成物の存在がオープンに知れ渡っていて、「街角販売」されるようになってしまっているからなんでしょうね。
まだ効果を明確に確認できていない合成薬品が「合成麻薬」として売られている。しかも街角で。
で、各国で摘発された「街角販売」のMDMAの中には、MDMA成分がゼロのものもあるらしくって、ただお金儲けの手段になっているのが現実で、名前も「エクスタシー」「モリ―」だとか、いくつもあるみたいですね。
需要を掘り起こしている側面もあるんでしょうけど、求める人がいるから成り立ってしまう「街角販売」
たしかにPTSDの人っていうのも、どこの国でも少なからず居るんでしょうけれど、街角でMDMAを買う、普通の人、病気じゃない人の目的ってなんなんでしょう。
それは幻覚を求めているに決まっているでしょ。
っていう見方が順当なんだろうなあとは思いますけど、なんのために幻覚が必要なのか。そこが大きな疑問です。
単に現実逃避なんでしょうかね。
一時的な多幸感、高揚感はあるものの、視力に障害が出たり、抑うつ状態になったりする症状が知られています。
いつも不安な気持ちになって、眠れなくなるんで、さらに大量のMDMAにすがるようになってしまうっていう悪循環。
まあね、麻薬っていうのはそういうもんなんでしょうね。
健常体の人が求めるべきもんじゃないです。
治療効果っていう面で目的を達成できてはいないんでしょうけれども、望まれているのはクスリとしての効果なんですけどね。
そもそもMDMAは1912年、ドイツのメルク社が、血液が固まってしまうのを防ぐクスリ、抗凝固薬を特定する目的で合成したものだそうです。
でも、製品化にまでは至らなかったっていう歴史から始まるみたいなんです。大正元年のことですね。
その後、一部の化学者によって研究は進められていて、1978年に、アメリカの化学者、アレクサンダー・シュルギンがMDMAは心理療法に有効だとする「幻覚剤の精神薬理学」っていう報告をすると、MDMAが世間の注目を集めて、半世紀ぶりに期待が復活。
そこからの経緯は不明ですが、1980年ごろから「娯楽薬物」として使われ始めたみたいです。
幻覚を求める心理。あるんですねえ。
1985年にはアメリカの規制物質に分類されているそうなんですが、日本でMDMAが社会問題として認識され始めたのは1990年ごろからでしょうか。
「娯楽薬物」とか言っている時点で、なんだか「トンデモドクター」の存在を感じちゃいますね。
作れちゃう人がいるってことですもんね。
オーストラリア政府がMDMAに期待する効果は「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の治療ですけれど、製剤としてのMDMAがちゃんと管理されることを願いたいですね。
もう1つの承認成分「シロシビン」なんですが、これは、幻覚作用のある毒キノコってされている「マジックマッシュルーム」からの抽出成分らしいです。
自然界にある「毒」の利用ですね。
「シロシビン」まあ、普通に生活している中で、聞く言葉じゃないと思います。
「マジックマッシュルーム」っていうのも、こちらは聞いたことがあっても、そういうキノコがあるんだなっていうぐらいの認識ですよね。
「マジックマッシュルーム」って言われるキノコって、なんと、200種類以上あるんだそうです。
「シロシビン」あなどれませんよ。
植物の幻覚症状をもたらす成分は「シロシビン」だけじゃないみたいですけど、人類と自然界にある幻覚作用成分とのお付き合いは、古代からあるみたいなんですよね。
サハラ砂漠、アルジェリアのタッシリ・ナジェール山脈に残っている7000年以上前の岩絵。
宇宙人なの? っていう「白い巨人」「火星人」って呼ばれている岩絵も見つかっていて有名なタッシリ・ナジェール。
いくつもある岩絵。その中に踊っているように見える人物が描かれているものがあります。
そのおそらくシャーマンであろう人物が持っているのは、どう見てもキノコ。
そのキノコを持つ手から人物のアタマに向かって点線が伸びているんですね。
キノコがなんらかの影響をシャーマンに与えているように見えます。
古代人はキノコの幻覚成分を知っていたように思えますよね。
さらに、よく知られているのは南米、中米のインディオたちに伝わっている儀式に見られる、シャーマンのトランス状態。
あのトランス状態をもたらしているのが、キノコ、サボテン、から独自の方法で抽出した幻覚成分なんだそうです。
そういう効果があるっていうことに気が付いたのって、なぜなんでしょう。
まあ、食べてみたら、っていうことなんでしょうけど。
誰にでも現れるってわけじゃなさそうですけど、幻覚作用が非日常世界を垣間見せてくれるってことで、宇宙の神秘を感じたり、神の世界を覗き見るっていう解釈があったってことなんでしょうね。
宗教儀式や、部族のイニシエーションとして連綿と受け継がれてきている幻覚作用の利用。
現代でも化学者だけじゃなくって、いくつかの著作が発表されてもいます。
1954年、イギリスの作家「オルダス・ハクスレー(1894~1963)」が著した「知覚の扉」
ペヨーテって呼ばれているサボテンの「メスカリン」っていう幻覚成分を自ら体験して、その幻覚体験を著したものですね。
まだあります。
1968年、ペルー生まれの人類学者「カルロス・カスタネダ(1925~1998)」の「ドン・ファンの教え」
この著作は、ネイティブアメリカンのシャーマン「ドン・ファン・マトゥス」と出会って、呪術の見習いを体験した内容で、こちらも「メスカリン」を利用した幻覚体験が詳細に書かれているんですが、今は創作だっていう判断がされています。
日本ではサボテンじゃなくってキノコの幻覚成分についての研究が行われています。
菌類学者の「川村清一(1881~1946)」「今井三子(いまい さんし)(1900~1976)」
そして民俗学者の「石川元助(1913~1981)」っていう人たちの名前があがっていますけど、どうもね、不勉強にして聞いたことのない学者さんたちです。
石川元助さんは、世界的に知られた人みたいなんですけどね。
200種類以上あると言われている「マジックマッシュルーム」
日本名として「笑茸(ワライタケ)」「大笑茸(オオワライタケ)」「踊茸(オドリタケ)」「舞茸(マイタケ)」「シビレタケ」についての中毒、幻覚作用報告が、川村清一、今井三子、石川元助たちによって書き遺されているってことですね。
ただキノコの幻覚作用については20世紀の報告ばかりじゃなくって、平安時代の末期に書かれたとされている「今昔物語集」の中に「女たちが山に入ってキノコを食べて舞う話」っていうのがあるんですよ。
北山っていう山に入った樵たちが、山の中で騒ぐ声を聞いて怪しんでいると、4、5人の女たちが舞い踊っている。
あれは人ではなく、天狗か鬼人なのではないかと恐ろしくなった。
その女たちが踊りながら寄って来たので、どこから来たのか聞いてみると、応えて言う。
踊っているところを見れば不思議に思うでしょうけれども、私たちは怪しい者ではない。
仏さまに奉る花を摘みにこの山に入ったが、道に迷って出口が分からなくなっているとキノコを見つけた。
食べたら毒にあたるかもしれないとも思ったけれど、飢えて死ぬよりはましだろうと焼いて食べた。
食べてみると美味しく思ったが、ただ、どうしようもなく踊りたくなって、踊らずにはいられなくなった。
樵たちはいぶかしく聞いていたが、女たちの食べ残したそのキノコを恐る恐る食べてみた。
するとなんとも踊りたくなって、女たちと樵たちが踊りながら笑い合った。
覚めてみれば道も覚えており、各々で帰った。
このことがあってから、このキノコを「舞茸」と呼ぶようになった。
これは大変怪しいことだけれども、今、舞茸というものを食べても踊る人はいない。
極めていぶかしい語り伝えだ。
っていうことで、平安時代の「今」の時点の舞茸は、踊りたくなる毒キノコではなかったっていうことですね。
21世紀の今、我々が普通に食べている舞茸と、平安時代末期の舞茸は同じものかも知れませんが、それより前の時代からの語り伝えに残っている舞茸と呼ぶようになったキノコって、なんなんでしょう。
大昔から舞茸って呼ばれていたキノコの成分が変化して幻覚成分の「シロシビン」が消えたっていうことなのか、全く別のキノコだったのかは、誰にも分からないんでしょうね。
蕎麦屋さんで、舞茸天せいろが好きでよく食べますけれども、「舞いたくなるキノコ」じゃないですね。
「思わず踊り出してしまうほど味がいい」とかう説明もありますけど、幻覚作用的な踊りだしたくなる気持ち、舞いたくなるような欲求とか、当たり前ですけど、感じたことないですねえ。
昔読んだ「カムイ伝」の中に、夜、山を越えなければいけない事情になった女性たちが、「笑茸(ワライタケ)」を適量かじって、互いに笑い合いながら真っ暗な道を行くっていうエピソードがあったように記憶していますが、白戸三平さんが資料にしたのが何だったのかは分かりませんね。
何だか分からないけれど、笑いたくなるキノコ、踊りだしたくなるキノコ。
その幻覚成分「シロシビン」が、うつ病の治療に役立つっていう判断を「強行」したように思えるオーストラリアは、どれぐらいの数のうつ病患者を抱えているんでしょうか。
コロナ禍の制限生活がオーストラリアの判断に影響を与えたのかどうかも分かりませんね。
厚生労働省「みんなのメンタルヘルス うつ病」によりますと、
「日本では、100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しているという調査結果があります」
っていうことなんですね。
うつ病と診断される人たちの中には有効な治療薬がないっていう人もいるらしいですから、オーストラリアの今回の決断がイイ方向に向かってくれれば助かる人もけっこういるんだろうなって思います。
「シロシビン」はナチュラルな幻覚剤とかいう言い方もあるらしいんですけど、幻覚の程度をコントロールできるんであれば、役立つ人たちもいるってことですもんね。
サボテンの「メスカリン」、キノコの「シロシビン」の研究はまだまだこれからなんだと思います。
それにしても植物って、まだまだ未解明な生態があるんですねえ。
マトモな研究結果がだされることを期待しますです。