ウキウキ呑もう! ニコニコ食べよう!

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酒呑みの食いしん坊、メタボはイヤだけどガマンは嫌い。

【箸洗い】 旨い酒呑んで 呑みすぎて 繰り返す二日酔い バカなのか

そうなんです、バカなんです。


酒呑みだったらほぼ全員経験していると思うんですが、二日酔い。
ううっ、もう酒止めた、とかグラグラした意識の中で誓ったりするのですが、どうもね、ダメですね。


何回も繰り返して年を重ねているでありますよ。ホントにね、アホか、と自分で思います。


二日酔いでも会社へ行かなければならないってこと、普通にありますよね。みなさん認識してますよね。
10時過ぎても目が充血していて真っ赤ッカな人、居ますよね。はい。私です。


通勤電車は地獄です。新型コロナ前は人いきれでヘロヘロになりましたし、マスクをしていると息苦しくて回復が遅くなるような、いたたまれない気持ちになります。頭痛いし、気持ち悪いし、自己嫌悪。
まあ、周りの人たちにとっては朝から酒臭い迷惑なヤツ、なわけでして、面目ないです。

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それにしても、なかなか回復しませんね。


頭痛、吐き気が続きます。午前中どころか午後も使いものにならないってこともあるですね。
ダメだという自覚はあるんですけれどね。


もう酒なんか呑むもんかと反省すること頻りです。グッタリです。
んがっ、困ったことに夕方になって暗くなるころ、なあんと急激に回復しますね。あれはなんでしょう。
ホントにふっと、一気に回復します。禁酒の誓いとか、なんのこと? というアンポンタンなヤツに戻るわけです。


二日酔い。アセトアルデヒドがどうとか、原因を調べてみても、何の役にもたちませんですね。
これまでに何回繰り返したことでしょうか。


苦しく辛く、恥ずかしい記憶ばかりの二日酔いですが、一回だけ、特筆すべき二日酔い軽減に成功した経験があります。


「箸洗い」の話です。

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聞いたことあります? 箸洗い。
台所仕事の洗い物のことではなくって、吸い物です。日本の食の一品。


一気にスカッとするわけではありませんが、二日酔い常習者の人、常習とまではいかないけれども、たまあにね、という人に、ちょろっと参考になるかなあと思います。


けっこう前の話になりますが、赤坂の一ツ木通りに住んでいた友人がおりまして、その実家は小料理屋さんでした。


赤坂サカスとかもできちゃって、ビルばっかりになった今と違って、当時の一ツ木通りには、個人店の花屋さんがあったり、豆腐屋さん、チェーン店ではない牛丼屋さんとかが軒を並べていました。
赤坂という街は江戸以来、大物の屋敷が建ち並び、料亭も多くあった上流花柳界としての顔があったんですね。今でも一本路地を入ると面影をしのばせる家屋も残っています。


さて、昭和の終わり近くの頃、初冬のことです。


友人の御母堂がお一人で切りまわしておられたその小料理屋さんは、なかなかの人気店だったようなのですが、友人が嫌がるので、営業中にお邪魔したことはありませんでした。
店の奥と二階が住居になっていて、裏の勝手口から二階にある友人の部屋に直行するのが常でした。


都内で呑んでへべれけになって、帰るのが億劫なとき、赤坂にある友人の部屋は格好の仮寝床なのでした。
友人の部屋に客用の布団があるわけもなく、寝袋にくるまって意識をなくす、というのがいつものことでした。
贅沢は望みません。はい。横になれるだけでありがたいことでございます。


翌日は私だけが昼から都外でちょっと大きな仕事があり、友人は休みでした。


朝はわりと早く目覚めたのですが、頭が割れるように痛み、自分がどっちを向いているのかハッキリしないような状態で、寝袋から出ることがなかなかできませんでした。
友人も同様の状態とみえて、布団の中でモゾモゾしているのが気配で分かりました。


部屋が明るくなってきて、そろそろ起きて出かけないといけない時間だろうと意識しながらも、なかなか動き出せずにいると、襖が開いて、御母堂が顔を出しました。


「大事な仕事があるんだろ、顔洗って、店、まわって来なさい。少しでも腹ァ入れてから行かないと先さんに失礼だよ」


前の晩、寝る前に友人がこっちの事情を話しておいてくれたんでしょうか。意外な気づかいに恐縮頻りでした。


痛む頭のぼさぼさ髪を片手の指櫛でなでつけながら、よろよろと階段を下りていって、店のカウンターに初めて座りました。
店は八人がけのカウンターのみで、こじんまりとしていました。
朝の店内は前夜の飲食の匂いなのか、赤坂の街の匂いなのか、独特の空気感でした。


友人の御母堂はキリっとした表情の小柄な女性でした。洋装の普段着でしたが、人間の醸し出す空気感が、まさに小料理屋の女将さん。客あしらいにスキのない人だったんだろうと思いますね、今、思い返してみますとですね。


厨房からカウンターに朱塗りの椀をスッと出してくれました。
息子の友達ってのもロクなヤツがいないね、という視線を感じました。
とにかくキリっとした人だったんです。


「まだまだ若いんだからシャキッといかなきゃいけないよ。これ、箸洗い。グッといきなさい」


体つきには不似合いな感じもするハスキーな声でした。
箸洗いというものを、言葉自体、初めて知りました。それが目の前にあります。


ほんの少し白濁した湯から湯気があがっていて、底に沈んでいる梅肉が見えます。初冬の朝です。碗から立ち上る湯気がくっきりと白かったです。


箸で梅を突いてから、一口啜ってみると、かすかに梅の酸味が感じられるだけで、なるほど箸を洗うように椀の中で踊らせるという一碗なのでした。すうっと身体の中に入ってきます。
二日酔いで正体のなかった気持ちに、芯が出来ていく感覚がありました。

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小皿に盛られたきざみ海苔を散らして、箸を泳がせて、さらに一口。
白湯なのではなく何か薄く出汁がはってあったのかもしれませんが、聞いてみるような空気ではありませんでした。二日酔い、ダメですね。


「まだ少しは時間あるんだろ」


四つ割にした柿をスイスイと手早く剥いて出してくれました。ガラスの皿に盛られた柿。


「ちゃんとした呑み方を覚えないといけないよ。柿はね、酔いを消してくれるんだよ」


ぺこぺこと頷きながら、指でつまみます。
冷やしてあったのかもしれませんが、柿の冷たさが指、口、そして腹に伝わっていくのが感じられます。
お。
柿、ってそうなのか。大げさではなく驚きでした。頭痛がふっと静まったのです。不思議でした。


「少しはまともになったかい」
「はあ……」
やっと声が出ました。そうです、この瞬間まで声も出なかったのでした。


「人はね、どんな時だって、ちゃんとした朝を努めなくっちゃいけないよ。あんたも、うんと後になれば分かるようになるだろ。これからの世間は、若い人たちが背負っていくんだよ。シャンとしないとね。うちのバカもなんとか真っすぐに生きていけるように、よろしく頼むよ」


静かなトーンでスラスラと話しながら、シジミの赤出汁と軽くよそったご飯を出してくれました。


この流れ。頑張って仕事してる、という気配をまったく感じさせない。準備は万端。プロなんだなあと。
得体のしれない息子の友達。その様子を見ながら、何をどう出せばいいかを観察して、その結果のサービス。用意はしてあっても押し付けはしない。気遣いの職人。


赤出汁、これがまたンまいんです。ちょうどイイ味なんです。シジミも出汁の一部、な感じ。クッと飲める。頭骨の中が澄んでくる感じ。
アツアツの赤出汁とホカホカの白ごはん。
凄かったですね、一級品だと思いました。


なんと、さっきまで動くのも億劫だった二日酔いの身体で、普段食べもしない朝ごはんが食べられたのです。
どんどん意識がはっきりして行くのが感じられます。ありがたいことでした。


あの、昭和の朝から長い時間が過ぎました。


箸洗い、柿、忘れられませんね。


でもまあ、考えてみると、あの朝からあと、シャンとした朝を何回かでも迎えることが出来たのかどうか、あの女将さんとの約束は、ぼんやりした記憶となってしまいました。忸怩たる思いがあります。


朝ごはんが食べられた驚きで、
「旨かったです。さすがですね」
と生意気を言うと、女将さんはちらっと笑ってから、


「何言ってんだい。酔っ払いに褒められたって嬉しかないよ。ホントの素面の時にまたおいで。素面の時でなけりゃ味なんかわかりゃしないんだから。自分で稼いだオアシで来るんだよ」
ぺこり。


約束を果たせないまま、21世紀も20年を過ぎて、赤坂の街並みもすっかり変わりました。


個人的には人間としての成長もなく、しょっちゅうではないにしても、相変わらず二日酔いに自嘲する暮らしですが、頭痛に顔をしかめながら、あの朝の箸洗い、柿を思い出します。


箸洗い。日本の習慣にも、なかなかイキなものがあるんですね。このネーミングセンス。これが日本なんですね。


令和の今、箸洗いは生き残っているんでしょうかね。


まあ、あれです。昔を思い返してしみじみしても仕方ないですね。
呑みすぎには注意しましょう、みなさん、お互いに。
ん? 私だけ?

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