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【天国と地獄】その1 ホントのホントは【地獄のオルフェ】って言います

<文字落語 まいど バカバカしいお話を一席 お伺いしておきますが>

ってわけでございましてね、今回はオスのセミの話でご機嫌を伺っておりますです。


いえ、決してオリンピックの話ではございませんで、セミの話です。オスのね、セミ。オスゼミ。
名前をオルフェって言いましてね、ちょっと外国の名前っぽいんですが、普通に日本のセミです。


このオルフェは結婚しておりまして、はい、ちゃんとメスのセミと結ばれておるんです。


このメスゼミっていうのがですね、ウリディスって言いましてね、なかなか、みんなの憧れってやつでして、競争倍率高かったんですよ。厳正な予選大会から勝ち残ってまいりまして、選ばれませんと候補になれません。
しつこいようですがオリンピックの話じゃございません。


で、候補になって終わりってわけじゃございませんで、そこからまた戦っていくわけですからね、大変だったんです。一般のセミだとか、キリギリスなんてのはお呼びじゃございません。

 


ま、そうして目出度く結ばれたはずのオルフェとウリディスだったんでありますが、そこはそれ、時の流れというのは残酷なものでございまして、はい。やがてオルフェとウリディスにもアキ風が吹いてきたんでございますよ。


一度冷たい風が吹き始めますと、みなさんもご存じのとおり、顔を合わせるのも嫌って状態になってしまいまして、もうお互いに好き勝手やり始めてしまいました。本来のセミじゃなくなったんですね。


オルフェの方は、普通ならば艶っぽいムラサキアゲハなんかにフラフラといきそうなところなんですが、なにせウリディスを巡る戦いで疲れ切っておりますからね、渋く、和風に暮らしたいってことで、急に三味線なんかを習い始めましてですね、都々逸を唸ったりなんかしております。オスゼミですからね。


もともと「デキルコ」ですからねオルフェは。自分の唸り声に自分で酔っております。


「なんて好い声。なんて艶やかな節回し。素晴らしく、味わい深く、人を惹きつけずにはおかない」


別の部屋に居るとはいえ、一つ屋根の下のウリディスにもオルフェの唸り声が聞こえてきますね。
アツアツの頃であれば、うっとり聞いていた声かもしれませんが、そんな愛情なんて今はもう昔。眉根を寄せて聞こえよがしにこんなことを言います。


「なんて嫌な声。なんてしみったれた節回し。嘆かわしく、恐ろしく、人をうんざりさせずにはおかない」


歩み寄る隙は1ミリもありませんよ。


しまいにウリディスは言い寄ってきたミツバチと逢瀬を重ねるようになってしまいました。
甘い言葉と甘い蜜。これはもうウリディスならずともよろめきますね。しかたないです。はい。


実はこのミツバチ、冥界の王プリュトンの化身なんでございます。やっかいですねえ。話が少しばかり混み入ってまいりました。冥界のって言いますから、あの世の王様です。


地獄の底からこの世を見上げておりまして、ふっと目をとめたのがウリディスのうなじだって言うんですから、どんな目をしているんでしょうか。いやらしいヤツでございます。


ウリディスとプリュトンは、なにかっていいますと近くの花園でいちゃついております。花園です。代々木公園じゃございません。


でもまあ、すっかり気持ちの離れてしまったオルフェは、ウリディスがどこで誰といちゃついていようがお構いなしです。もう終わった関係ってことで割り切っておりまして、相変わらず都々逸を唸っております。


と、突然ですね「委員会」から横やりが入ったんでございますよ。鳴くセミも黙る恐怖の「委員会」です。


オルフェは委員会から怒られてしまいましたね。自分の妻を、あんなに野放しにしておいてはいけない。ちゃんと元通りに暮らしなさい。そうしないと、お前はここ、地球で暮らせなくなるぞ。


こりゃあ一大事ですよ。オルフェは大慌てだったんですが、直接ウリディスに意見をするなんてことは思いもよりません。


そこでですね、花園に毒蛇を放しましてね、え? なんでそんなことをって? そりゃなんてったってセミのすることですから、真相なんてものはわかりゃしません。


とにかくですね、花園に毒蛇を放して、そいでもってさり気なくですね「ああ、あそこの花園に毒蛇が出たって話だなあ」と聞こえよがしの大声。
それだけです。それを何回も唸って聞かせる。


何回も「独り言」を聞かされるもんですから、ウリディスも毒蛇のニュースは認識しておりますけれども、ねえ、恋する男女に、毒蛇何するものぞ、ですよね。


誘惑して冥界へ連れ帰りたいプリュトンにしてみれば願ったりかなったりってことでもありからね、相変わらず花園でイチャイチャいちゃいちゃしております。


で、ウリディスは、あっさり毒蛇に噛まれてバッタリと倒れて死んでしまいました。とってもアッサリ。


家に担ぎ込まれますと、オルフェは大喜び。ああ、やっと離れることができた。


で、また、ウリディスの方も大変な浮かれようで、死んでいながらこう言います。


「これで、あたしは家を出ます。だって死んじゃったから」

 


これで話は終わりかっていいますと、そうはいかないんでございまして、ここでまたしても委員会からクレームが入ったんであります。恐るべしは委員会。なに様なのか、委員会。


ウリディスがダメになって喜んでいるとは何事か! 冥界をも支配している宇宙の王に話をつけてあるから、お前はあの世へ行ってウリディスを連れて帰って来なさい。


うっひゃ~! ってなりますよね、オルフェは。


でも委員会には逆らえません。なんでですかね? 委員会には逆らえないんですよ。


で、イヤイヤながら死んだ奥さんを迎えに地獄へ行きますね、可哀想なオルフェです。


そうなんです、これがあの有名な「地獄のオルフェ」って話です。いやホントです。
日本では「天国と地獄」ってタイトルの方が知られていますね。


で、話の続きですが、委員会ってのはたいしたもんでございましてね、宇宙の王、神々の王であるジュピテルに話を通しましたんで、ジュピテル王は、うまくいったと喜んでいたプリュトンにウリディスを地上に帰すように命令します。


王の王たるジュピテルの命令ですから、いかな冥界の王であるプリュトンも言うことをきかないわけにはいかないんですね。
でも、やっと手に入れたウリディスですから、素直には帰したくないわけでしてね。
やっぱりといいますか、ここにまたひと悶着が起こります。


プリュトンが地上から連れてきたウリディスの話は、あまねく神々の知るところとなりまして、やんやの喝さいが起きていたところへ、ジュピテル王からの返還命令が出ましたので、興味深々ってことになりましたですね。
「ええ~っ、帰しちゃうの~」ってガッカリ感です。やじうまって、そんなもんですよね。


プリュトンも返却なんかしたくない。
オルフェもイヤイヤ迎えに来ています。
ウリディスだって戻りたくないんですよ。
だ~れもそうしたくない。


でもね、なんだか得体のしれない委員会の「目」ってものがありますし、ジュピテルの命令もありますんで、だれも望んでいないウリディスの返還儀式が進められます。
そこへまた、みんなのウンザリに拍車をかけたのがジュピテルその人。


神々の噂となっているウリディスをちらっと見てみると、なんと自分好みのイイ女。プリュトンが隠している部屋の中へハエに化けて忍び込んで、神々の仲間入りをするように誘いかけます。
で、これもまた、すぐにみんなの知るところとなりまして、天国も地獄も不穏な空気です。


まったくもう、どいつもこいつも、な状況です。

 


ただただ、やじうま根性で見守っていた神々としましては、強圧的なジュピテルや委員会に対する反発心もあるところへ持ってきて、ジュピテルの抜け駆けです。


集まるな、お互いに距離をとれ、じっとしていろ、マスクして静かにしていろって言われていたもんですから、なんだか収まりがつかなくなってきまして、ここは一つ、ウリディスのさよならパーティを盛大にやってやろうってことになりました。ただ騒ぎたいんですね、神々は。


イヤイヤながら妻を迎えに冥界に来たオルフェも、もともとやる気なんて無いです。
でも委員会の目がありますので言います。


「もし、もしですよ、気が向いたらでイイんですけど、あの人を帰して欲しいんですがね」


プリュトンとしても帰したくはないので、オルフェに対して条件を出しちゃったりします。


「うるさいやつらの命令だから連れて帰れ。ただし、地上に戻るまで、決して後ろを振り向いてはならない」


イヤイヤ迎えに来ているオルフェは、ただもう委員会に対する顔向けだけで、条件を呑んで、ウリディスを従えて帰途に就きます。


元の妻をイヤイヤ迎えに来ているオルフェなんだからすぐに後ろを振り返って、約束を守れないだろうと考えていたプリュトンだったんですが、意外にもオルフェは後ろを振り返りません。


オルフェとしては委員会に対する義理もあるんですが、やっぱりですね、もう妻の顔を見たくないんですね、なのでわざわざ振り返ったりしません。


そこへまた、諦めきれないジュピテルの手も伸びてきます。


そこで、プリュトンは他の神々と協力して、怒りのイカヅチを炸裂!


ジュピテルは手を引っ込め、オルフェも後ろを振り返ってしまったので、返還はご破算。
ウリディスは冥界の巫女となることに決定!


ま、特にどんでん返しってわけでもないんですが、神々は大興奮。で大宴会となります。
この時、神々がスクラムを組んで踊るラインダンスが、そうです、あのフレンチカンカン。

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世界観としてはものすごくドタバタなんですね。


1858年にパリで初演されたジャック・オッフェンバック作曲による全2幕4場のオペレッタ「地獄のオルフェ」です。


いや、まあ、上の話は落語ですよ、文字落語。オペラとはちゃいまっせ。セミの話です。委員会とかはオペラに出てきませんです。オリンピックの話でもございません。


日本での初演は1914年の帝劇。タイトルは「天国と地獄」


このタイトル、秀逸ですよね。オルフェなんかより全然イイです。


「天国と地獄」って聞いて、あのラインダンス、フレンチカンカンと音楽は思い浮かべるけれど、どんなストーリーのオペラなのか知っている人は多くないかもですね。


役とかは違いますが、エライ人と、委員会みたいな人たちを置いてけぼりにして大宴会。足をパッカパカ蹴り上げて踊るフレンチカンカン。地獄のギャロップって呼び方もあるそうです。


ノーテンキに派手な音と踊り。


ま、この音楽って誰でも知ってますよね。その辺の話はまた、次の回に。おあとがよろしいようで。


なんかね、憂さを晴らすって、人間にとって、サイコーに大事! なはずですよね。


なんだかねえ、でもねえ、いろいろとさあ、無理矢理にでも元気っぽく、いきましょうねエ。

 

<天国と地獄 その2>

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