< アスリートなんて縁もゆかりもないくせに 準備万端怠りなしっていう意味のなさそうな話 >
晴天、熱暑の日曜日に、酒呑みオヤジ3人で、山梨県の甲府市に行ってきました。
酒の席での約束事とはいえ、バカな道行きになりましたよ。
1人が山梨の人間で、甲州印伝の長財布の自慢をし始めたんですね。
甲州印伝っていうのは、山梨県の伝統工芸品で、シカの革に漆で模様を付けたもので、サイフや、山梨県ですからね信玄袋だとかとして売られています。
なかにはそうした製品に加工する前の平ったい皮自体を壁紙やテーブル面に使ったりすることもありますね。
キレイですし、独特の手触り感が気持ちイイです。
甲州印伝なんて聞いたことないよ、っていう人も1度はどこかで目にしている可能性が高いと思います。特に関東近辺の人はですね。
すでに戦国時代には甲州の特産品になっていたらしくって、鎧や武具なんかにも使われていて、武田信玄の軍隊では、鎧兜一式を入れて持ち運ぶための大きな信玄袋に、この甲州印伝を使っていたっていう話もあります。
軽くって丈夫ってことですね。
戦の勝利っていう験を担いで、漆で描かれる模様は「トンボ」の柄が好まれたそうです。
トンボは前進するのみで、後には引かないっていうことから「勝ち虫」とされて、武者には外せない理由もあったってことなんでしょう。
鹿革の滑らかな手触りと、風合いはなんとも日本的な良さを感じさせます。
で、山梨出身の酒呑みオヤジの自慢の一品は、もう20年ぐらい使っているっていう黒染めの甲州印伝長財布。
ピンクの小桜っていう小さな花柄が一面にあしらえられた年代物でした。
「まあ、金持ちにはなれなかったけど、一応さ、飢えなく暮らしてこれたからさ、感謝してんだよね。これね、すごくイイものなんだよ。知らないだろうけどさ、甲州印伝」
ってね、急にしみじみ言い始めたんでありますよ。
ま、酒呑み同士の他愛もない話としては下司でもなく、上等な方の話題だと思います。
郷土自慢でもありますしね。ふむふむって聞いていますね。普通はね。
でもですね、あのですね、こういうシチュエーションになったときにチャチャを入れるのが大好きなんです。
何を隠そう、実は私も甲州印伝の愛用者なんでありました。
知らないだろうけどさ、って言うんで、
「これ、印伝だよ」
って、小銭入れなんですけどね、出して見せました。
「うあああ、自分以外に印伝のサイフ持ってるヤツ、初めてだよ」
へっへっへ。
「でも、この小銭入れもずいぶん年代もんだねえ」
色染していない鹿革の色そのものに黒漆でトンボ柄を染め付けた小銭入れ。
たしかにですね、だいぶ使っていて、トンボが2、3匹いなくなってしまってます。
小銭入れ、しょっちゅうポケットから出し入れしますし、パンパンに膨らんじゃうこともあります。
「日曜日に新しいのを買いに行くんで、一緒に行きましょう」
ってな感じで突然甲府行きが決まったんでありました。
もう1人もその場の流れで同行することになったんですね。
ま、買い替え時期ではあるんですが、その山梨出身のオヤジの同級生がやっているお店があるらしいんですよ、甲府市に。甲州印伝専門のお店ですね。
それで、地元なもんですからね、道にも迷わないし、山梨は涼しいよ。っていうんで、まあ、たまには遠出してみるのも悪くないかってことで3人組で乾杯したんでした。
で、バカな道行きっていうのはですね、その最後に甲府行きに参加することになった1人が、その日は新宿のヨドバシカメラで買い物の予定があるっていうんで、新宿に集合です。
日曜日の新宿、ヨドバシカメラです。みんなマスクをしているとはいえ、ふぎゃああってぐらい人がいます。
元々人混みって苦手ですし、まだまだ密を避けた方がイイご時世でございますよ。なんでわざわざ新宿、しかもヨドバシカメラ新宿西口本店、ってことではあるんですが、そうなってしまいました。
朝9時半、開店直後から人混みでした。
個人的には、まったく用無し! 各国語が飛び交って、ああ、日本もまだまだ元気ですねえ、ってことなんでありました。ヨドバシカメラは不滅です! たぶん。
幸い、買い物はすぐ終わりました。っていうかその時間から甲府行きですからね、悠長に選んでいる時間はないです。何をかったんだったかは、覚えていません、知りません。
新宿駅から中央線中央特快で高尾駅へ向かいます。50分ぐらいですかね。
でもですね、中央線ですよ。普通に通勤列車です。
日曜日の午前中、都心から遠ざかっていく方向の電車なわけですが、座れないです。ギュウギュウじゃないんですけどね、混んでます。
ええ~、みんな、日曜日なんだから家に居ようよ、ってお前らもじゃ! ってことですね、はい。
中央線は日曜日でも混雑です。つまらんです。
ところが1人、なぜだかコンビニ袋をぶら下げて、山梨出身のオヤジだけが上機嫌なんですね。
で、吊革につかまりながら聞いてみました。
「なにそれ、おにぎりでも買ってきたの?」
「いや、これね、途中で食べようと思って、みんなの分、スポーツようかん」
「は? なに?」
「だから、スポーツようかん」
みんなの分っていったって3人しかいないんだし、そもそも「スポーツようかん」って、なんなん?
「スポーツ」と「ようかん」って、全然馴染まないじゃん! っていうか、その「ようかん」って「羊羹」? なの?
って思ったんですが、知ってました? 「スポーツようかん」
ホントにあるんですよ。
ハンディタイプ。
「片手でようかんを押し出すだけで、手軽においしくエネルギーチャージができます」
って、そですか、そんなですか、って感じなんですけど、なんでそれをニコニコ用意して来る?
しかもコンビニ袋小さくないし、大量そう。
駅から15分ぐらいは歩くって言ってましたけど、エネルギーチャージって必要なんですか?
「はっはっは、楽々座って行けるかと思ったんだけどね、全然混んでるね」
いや、座って移動するんだったら、ますますエネルギーチャージとか要らないでしょ!
「高尾からは空いてると思うんだけどね」
はい、高尾駅で中央本線っていうのに乗り換えました。空いていましたです。
ビックリしたのは、座席が4人がけの対面シートです。
高尾駅からは、高尾山に登れるわけで、駅の周りもけっこう山あいな感じですね。
でも暑いです。全然涼しくないです。
電車にまだエアコン動いてないです。
で、食べましたよ、エネルギーチャージ。
要らないでしょ、酒呑みオヤジ3人、ただ電車で移動しているだけなのに。でも食べます。
水ようかんっぽい食感でした。
要らん、いらんってブーブー言いながら2本も食べました。
スポーツようかん、あずきとカカオ。井村屋です。たいへんおいしゅうございました。
って、ムダにエネルギー摂取しながら山梨県甲府市の酒折(さかおり)って駅まで100分ぐらいでした。
けっこう遠いもんなんですね、東京から山梨って。2時間半。
駅からすぐのところに山梨学院大学があります。駅伝とか、スポーツで有名な大学ですよね。
へええ、ここにあるんですねえ。この日一番の感動はこの山梨学院大学を見たことでした。
で、結局、山梨、暑いじゃん!
ってことで、歩いて10分ぐらいでその印伝屋さんに着いて、いろいろ見せてもらって、それだけで満足して、新しい印伝は買って来ませんでした。
あ、もちろん、言い出しっぺの酒呑みオヤジは長財布を買ってましたけどね。2万円ぐらいの。今と同じ柄と色合い。
シックでイイですよね、印伝って。
駅まで歩いて戻る途中の喫茶店で遅いお昼を食べて帰って来たんですが、せっかく初めての甲府だったのに、道先案内人が役立たずで、ちっとも店を知らないんですね。
結局、喫茶店の生姜焼き定食で、ボリュームがあって満足ではありましたが、甲府じゃなくたってねえ、って感じだったのあります。
甲府名物とか、ないの?
で、モンダイは、そうです、スポーツようかんです。
「いやあ、長距離移動にはエネルギーチャージが大事だからさあ」
あのな、おま~、酒で脳みそ溶けてるんちゃうか?
「いや、自転車のロングライドとか、マラソンとかじゃ欠かせないんだよ。ハンガーノックっていうさ、シャリバテになっちゃうから」
ツッコミどころ満載やんけ!
俺たちは電車移動じゃんか、中央線!
それにハンガーノックとかシャリバテってなんなん? それも今回の甲府行きには何の関係も無さそうだけど。
アスリートが試合前の2週間ぐらいに、身体に糖質をため込むように食事の工夫をする「カーボローディング」っていうのは聞いたことあるけど。
「そうそう、それそれ。そのカーボローディングをやっても、途中でエネルギーが切れちゃうことがあるわけよ、ハードな運動だとね。そのガス欠状態をハンガーノックっていうんだよね」
だからさ、電車移動ってそんな心配するほどのハードワークじゃないっちゅうの。
そしたらもう1人が、
「シャリバテってさ、ごはんがキレてバテちゃうってことなのかな」
ああ、なるほど、シャリがね、って、知らんがな!
でもですね、あとから調べてみますと、ようかんっていうのは糖度があって、少ない量で高いカロリーを補給できて、エネルギーに変換されやすいってことで、スポーツのエネルギーチャージとしてけっこう利用されているんだそうですね。
知らんかったです。まあね、アスリートじゃないです。スポーツは縁遠いです。
でもまあ、ようかんは運動しながら片手で、っていうより、やっぱりですね、落ち着いた場所で、お茶と一緒にっていうのがイイでしょねえ。
電車移動には必要ないと思いますけど、アスリート的な運動を趣味としているような人は、用意しておくべきアイテムなんだろうと思いますよ。日持ちもしますしね。
エアバイクとか、エアマラソンしている酒呑みオヤジも「スポーツようかん」を常備しませう。