ウキウキ呑もう! ニコニコ食べよう!

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【辛子】対【トウガラシ】対【マスタード】ナス炒め対決 その2

< ナス料理っていろんなのあるよねえ 夏バテ予防にサイコーなんだよねえ >

「あれ、マッチーさん、うなぎ、いってますねえ」


「辛子よ、カラシ」


「マスター、あたしも口直しのうなぎ。ポテサラたっぷりでね~ん。それといつもの赤」


「あいよ、お通しは納豆巾着ね」


ってことで、ナスうなぎの続きでございます。

 

 

 


エル字型のカウンターの角でマッチーとミコちゃんに挟まれる形になったんですが、ソーシャルディスタンスもなんのその、アクリル板を震わせるような勢いでミコちゃんはしゃべりまくります。
ふだんから早口でマシンガントークって言われているんですが、アルコールが入りますと、ますますパワフルトークになるのがパターン。


常にしゃべっていないと倒れてしまう、サメ年生まれらしいって噂です。
ましてこの日のお相手はマッチーですからね、サイキョー!


「ちょっとぱうすさん、ぱうすさんもちゃんと聞いてよね」


はあ、聞いておりますとも、ちゃんとね。って10メートル離れてたって聞こえるでしょうけどね。


「さっきまで町中華でビールだったのよねえ。それでさ、町中華っていったら、なんでもおつまみに出来るところがイイところなわけでしょう」


「そうねそうね、餃子シュウマイ焼きそば。定食のおかずだってニラレバとか酢豚とかね」


「でしょでしょ。あたしもそう思ってレストランとかじゃなくって部長がよく行くっていう町中華にしたんですけどねえ、何があったってわけじゃないうちの部の上司とのただの呑み会なんだしパパって済ませちゃうのがイイでしょう」


「そうねそうね。そういうのはパパって済ませちゃうのがイイわよ。餃子でビールでオツカレサマ~」


「ところがですねえ、そのお店の餃子がねあんまりおいしくないっていうんですよねえ」


「きゃはは、失敗したわね。そういうお店もあるから」


「でもほら、あたしとしてはお豆腐とナスがあれば全く問題ない人なもんだから、メニューにナス肉カラシ味噌炒めってあったから、それにしたんですよ。単品でね」


しかしまあ、ちゃんと聞いてよねっとか言いながら、こっちが聞いていようがいまいが、酒呑み女性2人で話し出すと、やめられないとまらないってやつで、BGMなんかちっとも聞こえやしませんね。


どうせこっちのことなんか気にしちゃいないだろうって態度でボーッとして相槌を打っていないとですね、


「ちゃんと聞いてる? マスター、ぱうすさんのホッピー、中、ないですよ~」


ってことになってですね、あんなにのべつ幕無し、必死でしゃべっているのかと思いきや、めっちゃ余裕で仕切り家のミコちゃんなんでありますよ。


「ナスのカラシ味噌炒めってどんなんだっけ。あたし、食べたことあるかな」


「ナスっていろんな料理になってますよね。具材としての変身ってたぶんナスが一番多いんじゃないですかね」


「はい、うなぎ、お待ちどうサマ」


「ほら、こんなね、うなぎにまで変身しちゃうって凄くないですか。ナス料理はあたしもいろんなお店でいろんなの食べてますけどね。炒め物だけでもいろいろあって、良く見るのが肉ナスっていうメニュー」


「あ、それだ。あたしが食べてるの、肉ナス。味噌炒めでしょ」


「味付けもいろいろあるんですよ、味噌だけじゃなくって、オイスターソースもあるし、肉ナス南蛮なんていうのもありますからね。マッチーさんが行くお店は味噌なんですね。味噌がいちばんおいしいですよね、ナスは」


「まあ、あたしはそんなにしょっちゅう食べないからね、バリエーションとかあんまり知らないかも。家で作るときはあれよ、レトルトのマーボナスの素」


「ああ、マーボナスもイイですよね。でもですねえ、やっぱりあたしは外でも家でもナスの最高峰はカラシ炒めなんですよねえ」


「じゃあ、良かったじゃない。それだったんでしょう。味噌じゃない方が良かったの?」


「違うんですよ。ちょっとお、聞いてますかあ」


あ~い、先ほどから散々聞かされっぱなしでございますが。


「ナス肉カラシ味噌炒めって、ちゃんとカタカナ3文字でカラシって書いてあったのに、出てきたらトウガラシなんですよ。和辛子じゃなくってトウガラシ。ふざけんな! でしょう。ですよね。だってナスの辛子炒めなのにトウガラシはないでしょう。和辛子をトウガラシに代えたのは誰なんだ! これをナスのカラシ炒めなんて言ってイイのか! ってもうアタマに来ちゃったんで、すぐにサヨナラモードでしたよ」

 

 

「おいしくないんだ」


「味はまあ、ナスですからね、ハズレは無いんですけど、カラシですよ。なんでトウガラシにしちゃうんだってことですよ。マスター、赤、お代わりお願いしま~す」


ピッチ、早いですねえ。ちょっといつもより興奮気味ではありましたけれど、要は肉ナス辛子炒めって言ってるのにトウガラシを使ってることが許せない! っていうミコちゃんの主張なんでありました。


「あ、そういうことか。うなぎと一緒なんだね。和辛子であれば辛味は飛んで辛子の香りだけ残るのに、トウガラシじゃムダに辛いじゃないかってことね」

 

 

「です、です。でもまあ、トウガラシ炒めだって悪いことはないんですけど、それだったらちゃんとナスのトウガラシ炒めって書くべきでしょうって思うわけですよ。ふうう」


と、マシンがトークラソンの一区切りかなって思ったタイミングで、後ろのテーブル席から声がかかりました。


「あの~、失礼なんですけど」


ミコちゃんもマッキーも声が大きいですからね、うるさかったでしょうね。
こういう時は、まあ、一緒に謝った方がイイでしょうねえって思って振り向いてみますと、40代と思しき奥さん風の2人の女性が座っておられました。
2人のうちの薄紫のワンピースにショートカットの女性が、椅子を斜めに座り直してこっちを向いておられますよ。


「今の話、勉強になりました」


「……」
さすがのミコちゃん、マッチーもきょとんとしてますね。


「和辛子って炒め物にすると辛味が飛んで香りだけが残るんですね。和辛子でないとダメなんですねえ」


ちょっとね、そちらさんも酔っぱらっているのかもですね。ハスキーボイスなんですけど、話の内容がなんだかよく見えてきません。
カウンター組も椅子から腰を少しずらしてテーブル席の2人と向き合う格好になります。


薄紫ワンピースのお相手の方は花柄ジャケットにジーンズのセミロング。口元を押さえて笑いをこらえている感じでニコニコしてますねえ。険悪な内容ではなさそうです。


「あのですね、ウチの主人もですね、好きなんですよ、ナスが」


ミコちゃんが黙ったまま壊れたみたいに首を縦に振って頷いています。


「この前ですね、宅呑みしたときにナスカラ作ってくれって言われたんですよ。ナスの辛子炒め」


「奥さんはよく料理するの?」


と、これはマッチーの質問。


「そんなにやらないんです。外食も多いですしね。コロナになってからちょっと作るようになったっていう感じで全然ダメなんですけど、そういう料理の知識みたいなのがないんですよね。それでね」


ん~、この人もミコちゃん、マッチーに負けず劣らずのマシンガンだったんですねえ。


「ウチのも料理なんてする方じゃないんで調味料なんてそんなに揃ってないんですね。しかもナスの辛子炒めなんて言われても、なにそれ? みたいな感じだったんですけど、豚コマとナスとタマネギを、しょう油か味噌と辛子入れて炒めるだけだって言うんですね。まあ、それぐらいだったら材料もあるし作れるかなって思って」


「初めてのチャレンジ?」


と、これはミコちゃんの質問。


「そうなんですよ、正解のないレシピ。だいたいウチのだって食べたことはあっても自分で作ったことなんてあるわけないんですから。で、材料は一応全部あって、作ったんですけど、辛子がね」


「なかった?」


「瓶詰のマスタード

 

 

「ほほう、それは微妙かもですね」


「そうそう、そうだったんです。味見してみたら辛子炒めなのにあんまり辛くないなって思ったんで、トウガラシ、ちぎって入れて、炒めて完成」


「ちぎっちゃうとこがダイナミックでイイじゃない。それにそれでオッケーなんじゃないの」


「ね、こんなもんかなって思って出したんですよ。その時は2人で焼酎呑んでたんですけどね。ウチのがね、なんかこれ微妙な味だなって」


「それって、マスタードが?」


「そうそう、たぶんそうなんですよ。マスタードって辛子でしょって思ってたんですけど、酸っぱいけど辛くないし、炒めても香りなんて全然だったんです。2人して微妙だねえって言いながら食べて、後から中華屋さん行って食べてみたら、あら、これ、おいしいわねって」


お連れさんが声を出して笑ってます。


「なにが違うのって今までずっと疑問だったんです。和辛子っていうアイディアがなかったんですよ。今のお話がね、聞こえて来たんで、あらナスの辛子炒めの話してるわって。失礼ながら耳をダンボにしちゃって、勉強になりました。ありがとうございます」


耳をダンボっていう表現も、かなり久しぶりに聞きましたですねえ。
ま、居酒屋トークとしては一件落着だったわけであります。

 

 

 


こうして吞み仲間の輪が広がっていくんであれば、それは大変結構なことですよねえ。


あとで調べてみますと、和辛子は「オリエンタル種」っていうからし菜のタネを粉末にして「粉辛子」を水で練った「練り辛子」のことを言うのが一般的だそうです。
粉辛子を練るときに40度ぐらいのお湯を使うと、辛さと風味が一層引き立つっていう技もあるみたいです。


対してマスタードは「オリエンタル種」も使うけれど、多いのは「イエロー種」「ブラウン種」っていうからし菜のタネを使うんだそうで同じからし菜ではあるけれども、種類が違う。


それと粉にする部分もあるけれど、粒のまま酢、砂糖水なんかにつけて、小麦粉を混ぜたりしたもの、っていうことで、そういえば瓶詰のマスタードってそんな感じですもんね。
あれを練りねりしても、辛さが強くなったりしないのは、タネの種類も違うし、作り方も全然違うからなんですね。


ナスの辛子炒めには微妙っていう結果だったマスタードですけど、安いウィンナーの脇にマスタードを添えると、なんだか急に高級品! みたいな効果は和辛子には真似のできないことですね。


辛子って、まあ、薬味ですからね、それだけを好んで食べるってこともないと思いますけど、意外な健康効果を持ったヤツなんですよ。


辛み成分の「アリルイソチオシアネート」っていうのが強い抗酸化作用、傷付いた細胞の修復、免疫力をアップしてくれる凄いヤツみたいなんですよ。


さらに辛子には豊富な「ビタミンB群」があって、代謝促進効果が期待できる。
ビタミンBっていうのは、1種類だけ摂るっていうんじゃなくってB群として摂るのが効果的なんだそうです。


辛子にはその他に「カリウム」「カルシウム」「鉄」も入っていて、なんだか凄いヤツらしいんですよね。
食中毒予防、ダイエット効果、美肌効果もあるんだそうです。


高血圧予防、ストレス軽減、貧血予防って、なんだかイイことばっかりですね。


こういう効果は和辛子でもマスタードでも、そんなに差は無いのかもですけど、ナスの辛子炒めにマスタードは「微妙」らしいです。

 

 

 


ちなみに納豆巾着なんですが、詰められている納豆は、はい、しっかり辛子納豆でした。