< 巣ごもり生活を続けるなかで なんとなく「和風」ってものを懐かしむ >
頭の中の記憶や感情ってものは、どこでどうなっているんでしょうか。
なんでそうした気持ちになったのか、何をきっかけにしてそうなったのか、さっぱり分かりません、ってこと、ありますよね。
ついこの前なんですが、急に肌寒くなって、何か温かいものを食べようといつもの町中華に出かけました。
「すりばち味噌ラーメン」っていうメニューがあるんですね、その店には。
麹味噌を使っていることが特徴といえば特徴です。アツアツで野菜たっぷりの味噌ラーメンです。
これまでに何回も食べていますし、入れ物であるすりばちに何かを感じたことはなかったんですが、ふと、そういえばすりばちって最近見ないな、って思ったんですね。
妙な懐かしさを覚えました。
ま、1人暮らしの台所用品にすりばちを持っている人なんて、今の日本人には居ないでしょうね。
昭和の時代にはどこの家庭にもあったろうと思うんですね。いくつか大きさの違うすりばちと、すりこぎ。
七草粥の代わりにとろろを作ったりするときは、一番大きなすりばちでゴリゴリやったもんでした。
すりこぎの使い方が巧いだとかおだてられながら、ゴリゴリ。子供のお仕事。
あのすりこぎって、今、スーパーなんかに売っているのを見ますと、まっすぐな白木ですけど、昔は、微妙に曲がった、焦げ茶色のトゲトゲした樹皮の着いた、すりばちにこする部分だけが剥かれている物でした。
今でも売っているところはあるんでしょうけれど、近所のスーパーにはありません。売ってません。
単に人気が無いのか、あるいはまっすぐな白木より高いのかもしれません。
あの曲がった樹皮の着いたすりこぎ、「山椒の木」だって知ってました?
ゴリゴリやっても、簡単には擦り減らない硬さが特徴の山椒。
陶製のすりばちは備前焼が最初らしいです。平安時代には既に使われていた台所道具。
そのころからすりこぎには山椒が使われていたのかどうか分かりませんが、山椒っていうのは、もっと古くから日本人の生活に馴染んでいたみたいで、縄文遺跡から山椒の実が見つかっているそうです。
縄文人の食生活って意外に豊かだったというのが最近分かってきているらしいですが、日本のハーブ、山椒の英語名は「ジャパニーズ・ペッパー(Japanese pepper)」
縄文人も山椒の香りや辛味を楽しんでいたんでしょうね。
ウナギ、麻婆だとかに使う山椒の粉って、ずっと実を刻んだりすり潰したりしたものだと思っていたんですが、あれって、山椒の実の「皮」らしいですね。
前に、地方の町中華で店のオヤジが中華包丁で山椒を細かく刻んでいるのを観察したことがあるんですが、そうやって間近に見ているにもかかわらず、実だと思っていましたねえ。
山椒は春に緑色の実をつけて、その柔らかいうちに採ったのが「青山椒」ってやつですね。
茹でて「ちりめん山椒」なんかが旨いです。
秋になると山椒の実が黄色になって固くなる。それを採ってきて陰干しにする。
そうすると実が破れて中から黒い種が出てくるんだそう。種を取り除いた、皮が「山椒」
すり潰したり刻んだものが「粉山椒」お馴染みの山椒です。
山椒は花を漬物にした「花山椒」っていうのもありますよね。
木はすりこぎにして使いますし、改めて考えてみますとめっちゃ日本人の生活に溶け込んだハーブですよね。
花、実、木以外に葉も使われているのが山椒です。
山椒の若葉は特別に「木の芽」って呼ばれていますよね。
どんな木にだって若葉が出て、芽も出るわけですが、山椒だけに限って「木の芽」って呼ぶわけです。
日本の木を代表させている呼称のようにも思えます。
春になるとちょっと大きめのスーパーの棚で見かけることがあります。「きのめ」とか書いてあります。
とても鮮やかな緑色。
さわらを焼いて、その脇に添えたりして香りを楽しませてくれます。
山椒の若葉を手のひらにのせて、パンパンと叩いて香りを出すんですよね。
なんじゃ? その方法は、誰が考えたの? って思ったりしますが、和風ですねえ、イイですよねえ。
農林水産省「うちの郷土料理」に春の名物京料理「たけのこの木の芽和え」が紹介されています。
五月の薫風に山椒の香りが踊っている一品です。酒のアテとしてピッタリの和風。
って言いながらですね、たけのこは京都の「白子たけのこ」で食べたことはないんですねえ。
千葉だとか群馬のたけのこです。いやあ、なんのモンクもありませんよ。旨いです。
眼で旨い。鼻で旨い。舌で旨い。酒も旨くなります。
酒のアテってこういうのを言うんだよなあ、って独り言ちてニンマリしちゃいます。
味噌と和えて「木の芽味噌」にして冷奴の薬味にしたりするのもオツな感じ。
勝手ながら日本人で良かったなって思えるひと時です。
酒は日本酒じゃなくたって、もう、なんでも合いますよ。
ガリガリ君サワーとか、甘い酒以外ね。
和風な時間をしっぽりと過ごすっていうのも、自然に深呼吸が出来て、良質なストレス解消法なんじゃないでしょうか。
ちなみに、アゲハ蝶の幼虫って、山椒の葉が大好物なんだそうです。
キラキラと烈しくきらめいているあのアゲハ蝶の羽は、山椒なんですね。
生き物は、自分の食べたもので出来上がっているっていうことを考えますと、山椒が飛んでいるって言えるのかもですよ。
<日本のハーブ>