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【ウイスキーの錬水術師たち】その2 『麦汁発酵』 微生物を働かせる

<2016年ノーベル生理学・医学賞受賞 大隅良典博士が解明したオートファジーウイスキーの関係>

「その1 モルト」からの続きです。


二条大麦の“モルト”をこしらえた錬水術師たちは、ウイスキーに向けてどんどん作業を進めていきます。

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仮死状態のモルトを、粗く粉砕して、温水に浸します。


ここで目覚めさせられたモルトは、自分自身の酵素によって、自分自身のデンプン分解を本格的に始めます。


刈り取られて、眠らされて、無理矢理起こされて、また仮死状態にされて、育て育て、です。しかも育つのは疑似的に。粉砕されていては、自分自身は成長できませんよ。


二条大麦、大変です。


このモルト自身のデンプン分解作用を“糖化”といって、充分に糖化されて出来た液体を“麦汁”と呼ぶんだそうです。


麦汁って、なんだかどこかで聞いたような気がして、記憶を蘇らせようと頭をひねっていて、ふと思い出しました。
そういえばビール工場の見学に行ったときに、案内の人が“麦汁”って単語をしゃべっていたんですね。


ビールじゃん。


調べてみますと、確かに麦汁の段階まではビールもウイスキーも同じみたいです。
同じ、と言いますか、同じような、ってことでしょうけれども。


そういえば似た名前のビールもありましたよね。ありますあります。
サントリー・モルツ。今はプレミアム・モルツが人気。
これはこれで、ビールの傑作品です。


サントリー、エライッ!


ただ、ビールの場合は、麦汁の糖化をどんどん進めるんではなくって、ここでホップを入れます。


ホップ。これもよく聞く名前ですね。


ビールの麦汁にホップが入ると、っていうか“入れる”んですけれども。ホップの抗菌作用によって麦汁は、ほとんど無菌状態になるんだそうです。


ビール麦汁は無菌。


それに対してウイスキーの麦汁は、モルトが元々持っている酵素、微生物がしっかり生き残っている状態です。


糖化を進めているのがデンプンを分解する酵素なんですから、酵素や微生物がいないと目的が達成できないわけです。糖化が進まない。


ここで大きく分かれてくるんですね。ビールとウイスキーは。


ビール麦汁が、その後どう変化してビールになっていくのか。
工場見学でしっかり勉強したはずなのですが、ナーンモ覚えていません。我ながらユーシューな脳細胞です。


ウイスキーの麦汁には、酵素や微生物ばかりでなく、スモーキーな香りをはじめとした、いろいろ様々な成分が入っています。

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この時点ではアルコール成分はないんですが、ウイスキーならではの風味を醸し出すためのベースが出来あがっていくってことなんでしょうね。


モルトの粉砕具合だとか、加える温水の温度管理だとか、微妙で、難しい作業。


ウイスキーの錬水術師たちのウデの見せどころです。


この麦汁って、巷間に言う“魔女のスープ”みたいなもの、なのかもしれませんねえ。


この段階で、すでに決まってしまうウイスキーの風味というのもあるのかもしれません。
ウイスキーって、バリエーションの違いが凄くハッキリした嗜好品ですからね。


そもそも蒸留所の場所選びからして“コダワリ”の作業なんでしょうし。


そこで温度管理やら時間管理やら様々に、現在のデジタル技術も活かされている作業現場なんだろうとは思いますが、基本的には、植物と微生物たちとの、なんともアナログなお付き合い。


地球の生きもの同士のせめぎ合い。みたいな感じがします。


清潔な作業服を着た魔女たち。ウイスキーの錬水術師たちです。


しかしねえ、今の方法になるまでの、錬水術師たちの歴史、マニュアルに出来そうもない技の伝達だとかを考えますと、とんでもない時間とチャレンジ、労力のたまものなんでしょうねえ。
どうしようもないシロモノができちゃったこともあるんでしょうね。きっと。何回も。


で、糖化が進んだ麦汁は、濾過されます。


下に溜まった麦の殻だとかを通った自然濾過で、きれいに澄んだ麦汁として回収される。


この段階で透明なウイスキーに、ではなく、あくまでも麦汁です、麦汁。


こうして麦汁が出来上がりまして、いよいよ“発酵”という工程に入ります。


麦汁に酵母を入れて発酵させ、アルコールを作り出すわけです。ウイスキーが近づいてきます。


入れる酵母だとかは、メーカーによって、ウイスキーのブランドによって違うんでしょうね。企業秘密ってヤツでしょう。


でもまあ、だいたいはウイスキー酵母って言われている種類と、ビールに使うエール酵母の2種類だそうです。


エール酵母はその名の通り、エールビールの酵母です。

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何かと近しいんですね、ビールとウイスキーっていうのは。


このあたりもスコットランドアイルランドイングランドの親近性みたいなものを感じますね。


酵母だとか、微生物たちにも地域性っていうのがあるんでしょうからね。


酵母のほかに乳酸菌も入るらしいです。


この辺りが錬水術師たちのウイスキーに対する知恵の年輪みたいなことなんだろうと思います。
今はこうして製法だとかいうことでまとめられていますけれど、そもそも、なんで? とうのが分からない。


今現在、ウイスキー造りにつかわれるからウイスキー酵母って名前だけれど、その酵母って、ウイスキーを造るのが目的で存在しているわけじゃないですよね。


ウイスキー酵母って、なんだろう?


人類はなんで微生物を利用することを思いついたのか。不思議です。
目に見えない微生物をどうやって発見したのか。摩訶不思議。


試行錯誤の結果、としか言いようがないのかもしれませんが、アイルランドで、スコットランドで、そんでもって日本でも、ウイスキーが造られ始めましたっていう、そのずっと前に、酵母、乳酸菌、そうした微生物との出会いがあって、活用方法の発見があったんでしょうね。


顕微鏡とか無い時代に、発見、です。

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やっぱり錬水術師たちって、かなり怪しい奴等です。


微生物がウイスキー、というか酒造り一般に利用できるって、誰が気付いたんでしょう。


凄いことだなあと思うばかりです。


最初は微生物という概念すら無くって、ただ身の回りの現象、微生物の働きによる、食品や物の変化を認識していただけなんでしょうけれどねえ。


オランダの“レーウェンフック”が顕微鏡で微生物を発見したのが1674年。


フランスの“パスツール”がアルコール発酵を発見したのは1861年ごろ。


この2つの事実だけでも充分昔の出来事なんですが、そのずっと前からあるんですもんね、発酵食品とか。


人類は微生物とうまいことやって来ている歴史もあるわけですね。
味噌、しょう油、漬物、鰹節、ヨーグルト、パン、紅茶、ウーロン茶、まだまだあります。


麻婆茄子の回で取り上げた“泡辣椒、パオラージャオ”だとかもそうです。


かなりヘンテコリンな作り方。


そういう変化は微生物の働きなんだということを知る前から、ちゃんと微生物を利用している。
人類もなかなか、したたかに生きてきているわけですね。


で、ウイスキー造りに2種類の酵母を使うのはなぜなのか。


ということなんですが、錬水術師たちの経験からそうした方が風味、味わいに深みが出るから、という理由だそうです。
そういう記述をいくつか読みましたが、これ、ちっとも説明になっていませんよね。


ま、結局、現代の錬水術師たちも知らないってことなんでしょう。
代々伝えられて続いている伝統技術です。


それでも、いろいろ研究が進んでいるようでして、酵母モルトの糖分を吸収してエタノールを作り出した後、死滅するわけですが、単一だと短い時間で死滅してしまうエール酵母が、ウイスキー酵母と一緒だと長生きするんだそうです。


なぜエール酵母を入れるのか、理由の後付けに成功。


作り出されるエタノールは、酵母によって香味成分も付加されているんですが、モルトの糖分がなくなってしまった後、酵母は成熟と呼ばれる状態になって少し生き永らえる。


香味成分もその分長く出されることになる。


食べものがなくなってからもある程度の期間、生き続ける成熟酵母
で、この成熟酵母が生き続けられる仕組みが“オートファジー”といわれるものです。


聞いたこと、あるような気がしません? “オートファジー


解明したのは理学博士の大隅良典さん。


2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、あの人。そう、あのセンセです。


単細胞生物である酵母が、アルコール発酵を終えてなお生き延びることが出来るのは、細胞内の器官を液胞と呼ばれる器官の中に取り込んで分解吸収しているから。


ちと難しい。


つまりですね、このオートファジーっていうのは、自分で自分を食べて生き延びるってことなんだそうです。


なんかね、感心するといいますか、驚きです。


微生物って凄いんですね。コロナもなかなか巧妙なヤツなんでしょう。ウイスキーと何の関係も無いですけれどね。


酵母が長生きすることで、エタノールに厚みが出て複雑さが増し、個性が出てくるという仕組みなんだそうです。


オートファジーにも限界があって、酵母が死滅する辺りから、今度は乳酸菌が増殖し始めて、エタノールはますます澄んでいって熟成されていく。


ふううん。

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麦汁はもうだいぶウイスキーっぽくなってきたってことですね。
こうして“発酵モロミ”が出来ていくわけです。


錬水術師たちはこうして微生物たちを巧みに管理しながら、効率よく働かせているわけですが、なにしろ相手は微生物。


その仕組みは解明されていない部分も多いらしいです。
無理もないでしょう。


イチたすイチはニ、という世界ではなくって、アンバイを見ながらという、連綿と受け継がれてきたウイスキー造りの技と勘。そういう仕事なんですね。


で、発酵モロミは出来ましたが、まだまだウイスキー造りは緒についたばかりなんですね。


発酵モロミ、まだ透明です。


次回は“蒸溜”へと話は進んでまいります。
よろしくお付き合いくださいませ。

 

ウイスキーの錬水術師たち>

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