<ウイスキー原酒 アルコール度数60という黄金比率>
「その3 蒸留」からの続きです。
話はやっとウイスキーっぽい液体になってきましたが、ウイスキーに含まれる化学成分は1000以上になるんだそうです。
ただ、解明されていない成分がまだまだ多い、という段階みたいなんですけど。
それはニューポットに含まれる成分だけではなく、熟成段階、つまりウイスキーの樽によってもたらされる不思議、という現象らしいんですね。
ウイスキーの不思議さを一番よく知っているのはもちろん、ウイスキーの錬水術師たちでしょうけれど、ぜんぜん化学的な裏付けなんか知らない、ただの酒呑みだって実感しています。
ウイスキーは不思議な液体。魅惑の琥珀色です。
♪独り酒場で呑む酒は~、ってときですね、ウイスキーのロックグラスを飽きずに眺めていられますね。
琥珀色の液体が氷の冷たさに自ら渦巻いて流れ動くのが見えます。
いや、流れ落ちていくように見えるのは、ウイスキーではなく溶けだした氷なんでしょうね。
水とウイスキーは、すぐに溶け合う、混ざり合うというわけはなさそうで、お互いに自己主張しながらグラスの下の方に流れていくのが、しっかり見て取れます。
その姿の魅力に引き付けられるからなんだと思いますね。
琥珀というのは天然樹脂の化石なんだそうで、あの単純ではない色合いは、様々な化学変化の結果で、重合体というらしいです。
ウイスキーを茶色などと表現してはいけませんよ。琥珀です、琥珀色。
魅惑のウイスキー色、あの琥珀色はどこからくるんでしょうか。
樽に入る前のニューポットは透明だったはずです。
10年、あるいはそれ以上の年月を経るとはいえ、あの琥珀色の不思議は樽の中での変化でしかないわけですね。
樽の中の暗闇での化学変化。ブラックボックスサイエンスです。
ポット・スチルが銅であることと同じように、樽が木製であることには意味がありそうです。
ことウイスキーに関しては少なくとも数百年変らず、樽は木製。
樽のほとんどは“オーク”という樹木から作られるんだそうです。
オーク材っていうのは北半球の温帯地域に生育するブナ科コナラ属の落葉樹、だそうで、日本では柏、樫、楢、水楢と呼ばれている樹。どれも硬い樹ですね。
ジャパニーズ・ウイスキーの樽には水楢の樹が使われることが多いようです。
ウイスキーの樽はまん中がふくらんだ形をしていますよね。横にして貯蔵されている絵を見たことがあると思います。
まん中がふくらんでいるのは、横にして転がしやすくするためだというのは分かりますが、そもそも移動させる必要があるってことになりますよね。
ごろごろ転がすための形。
あの樽の形は紀元前からだという説もあるようなんですが、古代から、例えば国をまたいで移動させていた液体って、なんでしょうか。
延々と道を転がして移動させるというのはあり得そうにないですよね。
樽に詰めた場所から港まで運んで、船での輸送だったんでしょうけれど、大量に必要とされたんであろうその液体とは、食用油、いやいや真水でしょうか。
ウイスキーではなかったでしょうけれど、ワインやビールの類でしょうか。分かりませんね。
特定は出来ていないみたいです。
樽の材料としてオークが選ばれたのは、いろいろな樹種で試してみて、漏れることなく長持ちすることが長い時間かかって分かったから。
近代に入ってからなら、スティールだとか、堅牢で長持ちする樽はいくらでも作れそうなものですが、そうしない。
いろいろ試してみた時代があったのかもしれませんが、オークに落ち着いている。
それはやっぱり、移動や輸送のためではなく、熟成、ウイスキーの熟成のためなんでしょうね。
木製の樽がウイスキーを熟成させる。のか?
錬水術師たちの工夫は、樽の製作段階から始まっています。
ウイスキーの銘柄ごとに蒸留所が専用にあるわけですが、伐採されたオークはどこで育ったものであれ、その蒸留所の敷地内で樽用に切り出され、そこで自然乾燥されるそうです。
人工乾燥ではなく自然乾燥。
強制的に時間短縮して乾燥させたりしない。
樽材は蒸留所の環境に馴染ながら、自然に枯れてゆく。
それが蒸留所特有の環境に馴染んだ樽を作る工夫なんだそうです。
蒸留所と樽を馴染ませる。なんだかとっても非科学的な感じがします。
でもまあ、さすが錬水術師、ってことなんでしょう。
そもそも蒸留所を作る際の土地探しが、その銘柄にとっての勝負、らしいですからね。
清澄な空気、気温、湿度、そして水。
デジタル全盛の世界の中で、際立ってアナログな職人仕事です。
土地の力を感じ取れるってことですもんね、錬水術師たち。
樽材の切り出し方も“柾目取り”という贅沢で独特な方法が受け継がれているということです。
そして数年かけて、自然に、完全に乾燥するまで待つ。土地に馴染むまで待つ。
この“待つ”という作業が、ウイスキー造りのキーワードなのかもしれません。
ニューポットを造った後の工程は、かなりの時間が“待ち”になりますね。
で、乾燥した樽材の中から、適したものを選別して、金具を一切使わずに組み立てる。
樽職人という専門の錬水術師たちが存在しているわけです。
少なくとも5大ウイスキーと言われる酒を造りだしている国の蒸留所には、木製樽専門の錬水術師が居る。
そして組み上げた樽に“チャー”という工程を加える。
樽の内部を炎で焼くんだそうです。
“チャー”という儀式。
なぜそうするのか。ウイスキーに対してどんな効果があるのか。
明確な答えは分かっていないそうです。
錬水術師たちの話って、こんなんばっかです。明確には分からない。
でも、ンまいウイスキーのためには欠かせない工程。受け継がれてきた技。伝統儀式。
秘密結社かっ?!
まあね、そもそもウイスキー造りの何もかもが科学的に解明されています。とか言われるより、分かりませんの方が、なんと言いますか、ありがたみを感じるです。
不思議さに共感できる、という気はいたしますですがね。
もしかするとチャーした時点でオーク樽固有のイイ香味がしてくるのかもしれませんです。
実際、この焼くという工程によって、ウイスキーのウイスキーらしさが醸し出される事は間違いないんだそうです。
ブラックボックスの中は分からないけれど、結果は重々分かっているってこと。
なんかね、なにかしらの根拠に基づいて計算されたことじゃないっていうのが、ウイスキー造りにはたくさんあるらしいんですけれどね。
後からだんだん科学的に解ってくると、錬水術師たちの伝統が、とても理にかなっていて効率がよろしい、ってことがたくさんある。
でも、それって偶然なんじゃないの? ということも、まあそれなりに、ということらしいです。
21世紀の科学をもってしても、よく分からない。とっても不思議なウイスキー造り。
いっぱいある不思議のうちの1つ。
透明なニューポットが、樽の中で熟成していく過程でだんだん琥珀色になっていくこと。
それは樽が呼吸をしているから、ということは分かっているそうなんです。
完全乾燥の樽が呼吸する。
ふううん、です。
樽から出て行く空気にはエタノール成分や臭気成分が含まれていて、嫌な臭いが消えていく。
でも同時に、ニューポットの量も減っていく。
そして入ってくる酸素によってニューポットは酸化する。
酸化することによって徐々に琥珀色になっていくんだそうです。
ウイスキーの琥珀色の正体は“酸化”
つまり液体が錆びた色ってことなんですね。
色は酸化で説明できるとして、今度は香りです。
熟成したウイスキーに含まれる香気成分は、この呼吸だけでは説明できないものだそうで、おそらく、ということで想定されているのが“樽が溶けだしている”という説。
つまりニューポットが樽を溶かしている。の?
自然乾燥されたオーク材の成分。
そしてそればかりではなくって、チャーしたことによって溶けだしやすくなっているであろう香りの成分がある。
んじゃないか? ってことらしいです。
まあ、錬水術師たちが連綿と受け繋いできた技には、全て理由があるってことです。
樽はオーク材でなければならない。
オーク材は樽専用に切り出して自然乾燥させなければならない。
ニューポットに金属などが触れることのないように樽はオーク材のみで組付けられなければならない。
樽の内側はチャーという方法で焼かれなければならない。
全てに意味があって、そうする、そうしなければならない理由がある。
ってことで、錬水術師たちはなかなかカッコイイんであります。
ニューポットは樽が呼吸することによって、琥珀色に熟成していって“神の取り分”として容量を減らす。
その代わり、でもないんでしょうけれど、溶かすことによって、樽ごとの独自香気を得る。
そんでもって、現代の科学的分析によって後付けで解った不思議というのもあるそうです。
それは、樽を溶かす効率の問題なんですが、液体のエタノール割合が60%のとき、もっとも強くオーク材を溶かすように働きかける、というデータが得られた。
で、なんと、ニューポットのエタノール割合が60%。
ウイスキーがウイスキーたる風味を得るための黄金比率、エタノールのパーセンテージ60%。
それを知っていて2回の蒸留でニューポットを60%のエタノール割合にしたんでしょうか。そうではなく、60%は偶然の結果だろうというのが、無難な解釈ではあるんでしょうけれど、どうでしょうか。
偶然の結果が最効率。
ブラックボックスの機能が最上最強。
古代文明が現代の科学者を驚かすようなナレッジを持っていたという発見は枚挙にいとまのないことですからね、案外、意外にということもあるのかもしれません。
古代の科学が現代を上回るレベル。
ピラミッドとか、開けゴマとか。
ないか? ないですね。はい。
微細な成分が次々に解明されている分野ではあるらしいんですが、まだまだわからない不思議が残されているウイスキー造り。っていうままの方が面白い気もします。
不思議な液体、ウイスキー、でイイです。
二条大麦を守るため。そして蒸留所、貯蔵庫の清潔さを保つために、ネズミだとかの害獣を駆除する役割のウイスキーキャットも、ウイスキーの不思議な琥珀色に貢献していないとは言えない、かもです。
“神の取り分”として減っているのって、実はネコが呑んでるじゃないの? って意見もあることはあるらしいです。
酒呑みのネコ。知らんなあ。。。
同じニューポットを熟成させても、入れる樽によって、さらにその樽を貯蔵庫のどの場所に置くかによっても、ウイスキーの熟成度は違ってくるんだそうです。
樽ごとの熟成度を見極めて、ブレンデッド工程に渡す。
錬水術師たちの絶え間ない観察は延々と続くわけです。8年、10年、12年。
時には30年以上も。見守りながら“待つ”
この樽のニューポットは熟成した。そういう判断をする、決定を下す。これもまた実にアナログ的人間技。凄いですねえ。
こうして熟成されるウイスキーですからね、やっぱり、静かに、二条大麦からの時間を感じられるように、じっくり、静かに楽しむのが似合う酒。それがウイスキーなんでしょうね。
次回はついに我々が呑める段階のウイスキーの話になります。
ンまいウイスキーが呑めるのは、とても贅沢なしあわせなんですね。
時間を味わう酒。ウイスキー。
次回もよろしくお付き合いくださいませ。
<ウイスキーの錬水術師たち>
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< 無濾過焼酎 >
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