< 焼酎バーでの与太話だったんですけどね 銭湯がホントなくなって来ているんでありますよ >
夜の9時ごろだったんですけど、もうだいぶチョーシの良くなっていた顔見知りのミコちゃんが隣りでした。
ちょっと前まで一緒に吞んでいたヤスコさんが先に帰っちゃったんで、誰かと喋りたくってしょうがない。
そんなタイミングだったんでしょねえ。
「ね、ね。風が吹くとメガネ屋が儲かるっていうの、知ってる?」
桶屋が儲かるっていうのは聞いたことありますけど、メガネ屋? なんか新しいお笑いかなんかですか。
「へへ~、知らないでしょ。教えてあげるね。あのね、風が吹くと女の人のスカートがめくれあがるでしょ。そうすると、よ~く見ようと思って男の人たちがみんな眼鏡を新調するからね、風が吹くとメガネ屋が儲かるのよ。昔からそう言うんだって」
と、マスターが、
「違うよミコちゃん。儲かるのは桶屋でしょ」
「オケヤ。何? オケヤって」
「え? 桶屋って、そりゃ桶を作って売ってる店でしょ」
ジェスチャー入りです。
「オケって、あれ? 洗面器のこと?」
「そうとも言う。ね、ぱうすさん、そうですよね。風が吹くと儲かるのって桶屋ですよね」
ミコちゃんのメガネ屋説は、どこで吹き込まれてきたのか分かりませんが、ま、居酒屋トークの話題横滑りっていうのは、よくあることですからね。
何をきっかけに風が吹くと、っていう話になったのかは知りませんけれど、言葉遊びのタグイなわけで、メガネ屋でも別にイイんでないの、っていう気もします。
風が吹くと桶屋が儲かる、っていうのは、みなさんご存じ。
強い風が吹くと土ほこりが立って、人の目に入る。
土ほこりが目に入ると、目の不自由なヤツが多く出る。
目が不自由になると、三味線で生計を立てるようになる。
三味線で生計を立てるヤツが多くなれば、三味線がどんどん売れる。
三味線がどんどん売れると、三味線に張るネコの皮がたくさん必要になる。
ネコの皮がたくさん必要になると、ネコの数が減ってしまう。
ネコの数が減ってしまうと、ネズミの数が増える。
ネズミの数が増えると、ネズミが桶をかじる。
桶をかじられると、桶を新調するんで、桶屋が儲かる。
まあね、江戸時代ぐらいの言葉遊びみたいなんですけど、目の不自由な人が三味線で生計を立てる、っていうのは、どういう事情なのかちょっと分かりにくいんですけど、按摩だけじゃなくって芸で身をたてるっていうのも多くあったっていうことなんでしょうね。
でまた、ネズミのかじるのが桶に限られるってところも、そうなの? って思います。
ま、江戸時代に、チーズがそこらへんにあるわけはないでしょうから、木製の桶。。。んなバカな!
ってな感じで、風が吹くと、の話が一段落すると、マスターがしみじみ言いました。
「そういえば、昔。毎日銭湯に行ってたんだけど、風呂桶って、なんでケロリンだったんだろう」
ああ、黄色い桶に赤文字でケロリン。ありましたねえ。懐かしいですねえ。
「なにそれ? ケロリンってなに?」
なるほど、銭湯を日常的に使っていた世代って、もう壮年になってますかねえ。
家に風呂があるのが当たり前になって、銭湯に行くっていうのは、大きな湯舟に入るのが目的っていうようなイベントになっている。あるいは1回も行ったことがない世代、っていう方が多いのかもです。
たまにでもイベント的に銭湯に行く人は、たぶんおそらくケロリンを目にしてはいるでしょうけれど、郷愁を誘われるっていうようなグッズにはならないかもですねえ。
「ええ~、なになに? ケロリンってカエル?」
「カエル? カエルの絵は描いてなかったけど、カエルなんですかね?」
って、マスターも知らんのですね。
たしかですね、「頭痛、生理痛、歯痛」って書いてありましたからね、痛み止めなんでしょ。
でも、たとえば今、ドラッグストアでケロリンって見た記憶がありませんね。
風呂桶で名前は見ているけど、実態を知らない、って感じです。
「生理痛と虫歯とかって、そんなになんにでも効くってこと? そんなのある?」
万能の痛み止めってことでしょねえ。バファリンなんかもそでしょ。頭痛、発熱って言ってますよね。万能鎮痛薬。
「ケロリンって今でもあるんですかね?」
ん~、今でもって言いますか、銭湯に行ってケロリン桶に毎日会っていたころでも、クスリのケロリン本体に出会ったことはないですね。記憶にないです。
バファリンは使ってましたけどねえ。
ケロリン桶は全国の銭湯に浸透していたけれど、クスリのケロリン自体は販売地域が限定されているんでしょうか。
以前は片頭痛持ちでしたんで、頭痛薬が手離せない時期があったんですけど、ドラッグストアで目にしたのはバファリン、アスピリン、イヴ、ナロンエースとか、ありましたし、後発でロキソニンとかが出てきましたけれど、何軒かのドラッグストアでケロリンって見た記憶がないです。
どうですか? ケロリン、使ったことあります?
っていうか見たことあります?
ケロリン桶に書いてあったのは、たしか、内外薬品だったですけど、ケロリンを製造販売している会社って何回か名前を変えているみたいで、今はどうやら「富山めぐみ製薬」って会社みたいです。
調べてみますと、なんとケロリンは1925年に製造販売開始されていたんですねえ。
めっちゃ昔からある鎮痛剤。
銭湯のケロリン桶は1963年から全国展開。
「テルマエ・ロマエ」の銭湯シーンの中で、これが日本の銭湯だ! っていう象徴的なアイテムとして登場していたケロリン桶。
銭湯経験世代は、大いに納得ですよねえ。
最近は、って言いますかだいぶ前からになりますけど、銭湯、行ってません。
1965年ごろには日本全国で2万2000軒ぐらいの銭湯があったそうですけど、2018年には4000軒を割り込んで、ずっと減り続けているらしいですね。
まあね、今はワンルームマンションでも部屋ごとにお風呂、ありますもんね。銭湯って、わざわざ行くっていう場所になってしまっているんでしょうね。
生き残っている銭湯。今でも、あの、黄色いケロリン桶、あるんでしょうかね。
身の回りに、自宅に風呂があっても、今でも銭湯派っていう人がいませんので、確認できないんですけど、どうなんでしょね?
ケロリン桶、現役なんでしょか?
そしたらですね、ネットで販売されているみたいです、ケロリン桶。
自宅の風呂で使っているっていう、ケロリンファンっていうのも少なくないのかもです。
ケロリン桶って関東サイズと関西サイズがあって、関西サイズの方がちょっとばかし小さいんだそうです。
お湯の使い方って、関東と関西で違うってことなんでしょうかね。
なんか、細かい気遣いですねえ。ケロリン。
「だからあ~、ケロリンってカエルじゃなかったら、なんでケロリンって名前なの?」
え? 頭痛薬、万能の痛み止めなんですから、服用すれば痛みがケロッと治る。それでケロリンってことなんじゃないでしょうかね。
「きゃははは。ケロッと治っちゃうからケロリン。ウケるう」
「なるほどですね。それにしてもあれですね、ケロリンってクスリ、見たことないですね。関東じゃ売ってないんですかね?」
「あのねえ、男の人たちはねえ、薬屋さん行っても、ちゃんと見てないでしょ。なんかどれでもイイやって感じでしょ。バカでしょ。こんどあたしが見つけてきますよ、ケロリン。だいたい、男たちはねえ……」
居酒屋トークの横スライド。
もうミコちゃんは放っておきましたけれど。
にしてもですね、ケロリン、使ったことあります?
常備薬にしてる人とか、いらっしゃいますか?
銭湯のケロリン桶のほうは、どうなんでしょ?
銭湯派の方々、どですか?