<チャオチャオおばちゃん派か、陳建民さん派か 麻婆豆腐の好みは色々>
日本で麻婆豆腐を広めたのは、四川省宜賓出身の陳建民さんだということは周知の事実。平成、令和の人たちにとっては陳健一さんのお父さん、といった方がお馴染でしょうかね。
日本における四川料理の父、なんて評価される陳健民さん。四川飯店を繁盛させて麻婆豆腐を広めていったのは1970年代のことですから、日本人が一般的に麻婆豆腐を知るようになってまだ50年ほどにしかなっていないんですね。
今ではみんな、何の違和感もなく普通に食べていますが、例えば、今70歳代の人たちの中には食べたことないよ、という人も居るんです。ま、機会がなかったってことなんでしょうけれど。
ついこの前、とある町中華で言い争っている場面に出くわしました。
「いや、オレはこんな辛そうなもん、食べない」
「そんなに辛くないよ」
「いや、要らない。こんな色になって、豆腐が可哀想だ」
親父さんと娘さんだろうとお見受けしましたが、70歳代ぐらいのその御仁は、口を真一文字に結んで、頑なに首を横にふっていました。
前段の話を聞いたわけではありませんが、おそらく、麻婆豆腐を食べたことない、んだろうなと思われました。
にしても、豆腐が可哀想とは、お豆腐屋さんでもやられているんでしょうかね。豆腐は白いまま食べるもんだという概念、こだわり、みたいなものも分からなくはない、気がします。
麻婆豆腐は中国由来ですが、豆腐自体は日本でもずいぶん昔から食卓にのぼっていたらしいです。
豆腐はどこが発祥なのか、これまたおそらく中国、ということで、日本に伝わってきたのは奈良時代。遣唐使の僧侶が持ち帰って広めたということになっているんだそうです。
でも“いろんな異論”があるそうです。
つまりはハッキリしていない。
まあだいたいの物事は、その初めについて記録が残っていないことの方が多いですよね。
こと食べものに関しては、最初がどういう物であったとしても、イイですよね。今がンまければオッケー。あんまり気にしない。
初めて物語は、ふううんって聞いておくけど、今食べてる味と別に結び付けたりはしない。ですよね。
一般の日本人たちが豆腐を普通に食べられるようになったのは江戸時代の中期ごろではないかとされているようなんですね。
江戸中期。天明の飢饉が始まりつつあった天明2年、1782年に、あの有名な「豆腐百珍」が出されています。
クイシンボなら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。当時の豆腐料理について書かれた本ですね。
などと言いながら、私自身も中身を知りません。どんな料理があげられているんでしょうかね。
何かのエピソードとして豆腐百珍が取り上げられている記事を何回か見た記憶があるんですが、ちっとも覚えていませんです。
もしかして麻婆豆腐も載っていた? わけはないんですね。
なぜかというと、本場中国で麻婆豆腐が初めて作られたのが1874年以降と伝わっているからなんです。豆腐百珍の方が百年近く前。
長い中国の歴史の中ではつい最近、と言えるかもしれませんね。150年くらいしか経っていない。
日本では50年ぐらい。中国でも150年ぐらい。歴史があるような、新しいような料理。麻婆豆腐。
三国志で有名な蜀の都、成都郊外にあった一軒の料理屋さん。
チャオチャオという女性が1人で切り盛りしていたといいますから、小さな店だったんでしょうね。
そのチャオチャオさんが作ったのが麻婆豆腐。
顔にあばたのあるお婆さんだったので、麻婆、というらしいんですが、お婆さんというか、あばたのあるおばちゃん、というニュアンスなんでしょうかね。
麻婆ちゃんが作った豆腐料理だから麻婆豆腐。というネーミングだというのは知られた話ですね。
成都ではあっというまに人気になって、遠くからも客が訪れるようになり、お店は大繁盛。
麻婆と呼ばれても、それを商品名にしてしまうほどの前向きなパワー。たぶんニコニコと接客もこなしていたんでしょうね。
おそらくすぐに店も大きなって、人も雇って、チャオチャオおばちゃんは、自分の姓を店名にして、その名も「陳麻婆豆腐店」
かなりの評判をとったらしく、一時期は国営企業となっていたそうです。
今でも繁盛店。
凄いな麻婆豆腐!
このチャオチャオおばちゃんの麻婆豆腐は、山椒がバリバリに効いた赤黒い色の、アレ、らしいです。
今、町中華でも時々ありますよね。「本格四川麻婆豆腐」とかいう名前で出されています。かなり辛いですが、でも日本の町中華の味ですからね、四川出身だという料理人に聞いてみたことがあるんですが「だいたい同じ」という答えでしたね。
チャオチャオおばちゃんのはもっと辛いのかもしれません。あるいは、山椒の種類が違うのかもですね。
中国の山椒。
花椒というらしいその調味料が日本の山椒と似て非なるもの、ということなのかもしれません。
四川料理の辛さって、トウガラシの辛さ、だけじゃなくって、バシッときて、痺れる感じですもんね。
好きな人にはクセになりますが、苦手な人にとっては、
「アホか! こんなの身体に毒じゃ!」
ということになるんでしょうね。
陳建民さんが日本で広めた麻婆豆腐は、日本人に好まれるように、苦心惨憺、アレンジしたようですね。テレビでやってました。
ドラマもありましたね。NHK。
で、陳建民さん。姓は陳ですね。チャオチャオおばちゃんも陳です。子孫?
かどうかは調べたんですが判りませんでした。
まあね、中国は日本と比べて姓の数が少ないですからね、同族かもしれませんが、関係ない、んでしょうね、きっと。
麻婆豆腐のンまさは、ただ辛いということにあるのではないですよね。
四川には行ったこともありませんが、チャオチャオおばちゃんの料理人としての味の勘は、陳健民さんによって、しっかり日本流にアレンジされて伝わっていること、間違いないです。
なんてね。そもそも中国行ったことないです。
オイスターソース、しょう油、味噌、青ネギ、しょうがを使うのが日本流だそうです。
ホントかどうか怪しい情報としては昆布茶も入れるというのもあります。
で、ンまい麻婆豆腐の条件。
それがタイトルにあげた、マー、ラー、タン、スー、ネン、シェン、シャンなんだそうです。
“マー”とは、花椒の痺れるような辛さ。
日本では山椒というのが普通でしょうけれど、赤坂四川飯店の陳麻婆豆腐は充分に痺れます。
陳健一さんのお店です。四川飯店。赤坂が本店です。案外リーズナブルに食べられます。陳麻婆豆腐。辛いです、ンまいです。
“ラー”とは、唐辛子の辛さ。
トウガラシの種類とか言われても判りませんが、四川料理は普通に料理の中に奴は居ますね。普通に居ます。トウガラシ。
“タン”とは、強い火による加熱。
中華料理の基本なんでしょうね。コンロの火が弱い町中華って、ねえ。
“スー”とは、しっかり炒めること。
麻婆豆腐に関していえば、ひき肉の生臭みが消えるまでしっかり、カリカリ香ばしくなるように炒めるということですね。
“ネン”とは、豆腐の柔らかな食感。
そですね、大事ですよねコレ。麻婆豆腐の主役はなんといっても豆腐ですからね。
陳麻婆豆腐は木綿豆腐だそうですが、下茹でしてあるからなのか、木綿豆腐の味の染み方で、食べ応えは絹ごし、という見事さです。
“シェン”とは、出汁。
これはもう企業秘密ってやつでしょうね。自分で作る場合は工夫してみましょう。
さっき言った昆布茶はここに入るんでしょう。
“シャン”とは、皿から立ち上る香り。
これもまた、そうです、そうなんですよね。ンまい店はこれが違うんですよね。
目の前に置かれた皿からぼわっとあがる湯気とともに、鼻にズキューンとくる、辛いぞ、ンまいぞ、熱いぞというあの香り。
麻婆豆腐の7つのンまいポイント。これを気にかけて食べるか、漫然と食べるか。断然違って来ますよね。
蓮華をひっつかんで、挑みかかるわけです。
鼻の穴おっぴろげて、大口開けて。
町中華でも家中華でも、いつもの麻婆豆腐、マー、ラー、タン、スー、ネン、シェン、シャン。チェックしてみましょう。
四川飯店の陳麻婆豆腐。これ、間違いないですよ。ぜひ一回はチャレンジしてみてください。やっぱり赤坂本店がンまいです。
<麻婆豆腐の身体に旨い満足度>
麻婆豆腐。実は見た目ほどカロリーは高くないらしいです。
麻婆豆腐ばっかりをバカ食いする人もいないでしょうから、通常の量であれば気にする必要なし。
さらに言えば、カロリーの大部分は糖質によるものではないので、糖質制限とか気にしている人にとっては気に病む必要のないガッツリメニューということになりますね。
成分としてはエネルギーの代謝を助けるビタミンB1、脂肪を燃焼させるイソフラボン、血行を良くするカプサイシンなどが入っています。
ダイエットの味方といえるでしょうね。
でも、あくまで食べ過ぎないこと。特に高くないとはいっても、充分ありますからね、カロリー。
<麻婆豆腐の心に旨い満足度>
ハフハフ食べれば、結構汗だくです。気持ちイイです。夏でも、冬でも。季節に関係なくンまいですよね、麻婆豆腐。
辛い、熱い、でも、ンまい。
こういう食べ方って、健康でないとできませんよね。そうです、夏だろうが冬だろうが、麻婆豆腐をバッチリ食べられる自分は、なかなか調子イイ、って自覚。これで心も健康になれます。
夏の暑い時期にはハンカチとかじゃなくって、フェースタオル、用意していきましょう。
熱くて、辛くて、ンまくて、という麻婆豆腐。ガツッといっちゃいましょう。
おしっ! いくぞ! って麻婆豆腐に向き合えれば、心も体も健康です。
<麻婆豆腐の酒のアテ満足度>
ビールとか、サイコーでしょ。
炭酸系の酒が合うと思いますね。バクっと麻婆豆腐いって、グイっと呑む。これでしょ。
冷めてもンまい、とかじゃなくって、やっぱりアツアツのうちに勝負したい一品ですね。
<麻婆豆腐の酒の〆満足度>
これまたイイですよね。
個人的には麻婆ラーメンで〆ることが多いです。口の周り真っ赤にして、へっへっへ、です。ンまいです。またビール欲しくなります。
<麻婆丼にするか、麻婆定食にするか?>
店によって、その辛さ、味によって個人的に区分けしていたりするんですが、どっち派ですか?
四川飯店だけじゃなくって、麻婆豆腐をウリにしている店、結構ありますよね。
でもあれです。四川飯店にしても、陳健一麻婆豆腐店にしても、その店によって、というか料理人によって違いますもんね、味、風味。
同じ材料、調味料なんだけど、ハッキリ違う。
この店のこの曜日のこの時間、とか含めて、イチオシの店ってどこですか?
おそらくハズレの少ない料理だと思うんですね、麻婆豆腐。
だからこそ、たくさんのバリエーションを経験しておくのって、シアワセ、なのではないかと、強く思うであります。