<名前はダメダメだけど画期的 自立しちゃった付箋の話>
2021年2月にキングジムから“フタマタフセン”が新規発売されました。
無地タイプがスタンダードみたいですが、イラストレーター寺山武士さんの動物イラストタイプも同時発売ですね。
これ、なかなか画期的です。
“フタマタフセン”っていう、なんの工夫もないネーミングの“付箋”ですが、自立しちゃうんですね。
優れたグッズというものは、具体的に目の前に現れると、
「なあんだ、こんな感じねエ」
とかいってスンナリ受け止めになりがりですが、じつはそこが大事なところです。
なんでもないこと、と感じるっていうのは、違和感なく、まるでずっと使っていたかのような感覚で、当たり前に受け止めているということですよね。
初めて出会うグッズなのに当たり前に感じるということは、生活感覚にフィットしたグッズだということ。
改めて考えてみると、むしろ今までなかったことが不思議に感じられているわけです。
“フタマタフセン”
付箋って、今、単語としてちゃんと通じていますかね。どうでしょう。
付箋の歴史には、過去に一度、大きな革命がありました。
1980年、アメリカ、ミネソタ州の3Mが発売した“ポストイット”
翌年には日本でも発売が始まって、あっというまにスタンダードグッズになりました。
これなんですよね。ポストイットは商品名なはずですけれど、付箋の代名詞として認識されるようになって、やがて付箋という名前自体を凌駕してしまった。
ヒサシを貸してナントヤラ、です。
こういうのって日本だけなんですかね。
どうでしょう、オフィスの中を見回してみれば結構な数のポストイットが目につくんじゃないでしょうか。
そんなに数は多くないと思いたいですが“付箋”という言葉を知らない人もいて、会話が止まってしまうことがります。
経験していませんか?
でも、そういう人だって“ポストイット”は知っています。
実態をもって理解できています。
そういう浸透力を持っているグッズなんですね、ポストイットは。
なんでこんなに使われるようになったのかを考えてみますと、名前のおかげというわけではなく、単純に“お手軽”になったからだと言えるでしょう。
ピール・アップ糊の開発があったからですね。
3Mってそういう会社ですからね。
セレンディピティの産物と言われるピール・アップ糊によって、ペタッと貼って、ペリッと剥がせる。そして跡が残らない。
簡単に消せるマーカーのようなものです。
ポストイットが登場する前の付箋は、しおりのような使われ方をしていて、書面の中のどこを注目すべきなのかポイントを特定するのが難しいものでした。
書籍やドキュメントに“付箋する”場合などは、セロハンテープで完全固定するなど、手間がかかるうえに回復性のないものでした。
お気楽に出来るものではなかったんですね。
ポストイットであれば、書籍の任意の箇所にメモ付きで貼り付けられますし、用が済めば簡単に剥がせて、書籍は元通りです。
そういうお手軽さを提供してくれた。付箋革命だったわけです。
名前ではなく糊の革命。
あっと言う間にオフィス、キャンパスを席けん。
分厚い書籍に、色とりどりのポストイットをこれでもかと貼りまくっている人も見かけられるようになりました。
色とりどり、大きさいろいろ、豊富なバリエーションに成長していますね。
ですが、見方を変えれば、ポストイットは付箋本来の役割を超えるものではなかったといえるでしょう。
つまり、ポストイットの役割はポストイットを貼った本人の記憶幇助、注意喚起です。
忘れないために、あとから整理しようとする文書のどこをポイントとすべきか。
そのためのポストイット。
これは本来的な付箋の役割ですから、何も非難されるべきところはありません。
良し悪しではなく、ポストイットという付箋はパーソナル・ユースなわけです。
これはこれで、これからも使われ続けていくと思われます。
そうは言いながら、発売から40年を経てパーソナル・ユーズではない使われ方も見られますね。
書籍やドキュメント以外に使われ出したのは、パソコンモニターの脇にペラっという貼り方。
あたなの周りにも居ませんか? ペラペラ貼っている人。
パスワード!
そうです。そういう使われ方。記憶幇助。
すぐに「パスワード貼り付け禁止令」が出される事態を招きました。
当たり前ですけれど、気持ちは分かります。覚えなきゃいけないパスワード、多すぎです。
なんですけれど、ガバナンス、コンプライアンス。
会社的に、社会的に、ダメです。
でもまあ、未だに、っていう人も居ますけれどね。とくにエライ人に多いのが困りものではあります。
でも、これはまだパーソナル・ユースですね。パスワードって個人のものですからね。
一時期は、代表電話にかかってきた要件を受けた人からの伝言メモが、モニター脇に貼り付けられたりすることも見かけられました。
これはメッセージ・ツールとして使われ始めた最初かも知れません。
いまはもう、会社でも個人用携帯電話を支給したりすることが珍しくなくなりましたから、代表電話自体、機能性が薄くなりましたので、見かけなくなりました。メッセージ・ポストイット。
世の中はどんどん変化し続けていますよ。疲れるほど、どんどんね。
この“キングジムのフタマタフセン”はペタッと貼りつける二次元的なメモではなく、ピョコンと立ち上がっている、自立した三次元のメッセージ・ツールだと言えるでしょう。
自分自身のための注意喚起ではなく、誰かにメッセージを伝えるための“付箋”なのです。
この革命は静かではあっても急速に浸透していくのではないでしょうか。
メッセージを伝える相手には自分も含まれるでしょうけれどね。
もちろん、同じこと、同じ目的でポスト・イットも使えます。
ただ、ポストイットはペタッです。二次元。
“フタマタフセン”は立ち上がっています。ピョコンッです。
ストレス社会のオフィスの中にピョコタン・メッセージ。
その立ち姿の可愛さもあって、メッセージ内容に対応するときも、肩の力を抜いて、というプラス効果が期待できそうです。
夫婦喧嘩の仲直りメッセージなんかには“フタマタフセン イラストタイプ”が大活躍してくれるんじゃないでしょうか。
動物のイラストは顔のある方が正面ですね。当たり前ですが。
で、反対側は同じ絵ではなく、その動物の背中です。これがイイです。
つまり正面を向くというベクトルを持っているピョコタンなわけです。どっちを向いているかというだけで、すでにある種のメッセージになりますよね。
バックシャーンという個性もありますしね。背中側に書くメッセージっていうのは、伝える側の気持ちを表してくれそうですよね。
主張の強すぎないピョコタンです。
イイと思います。擬人化の機能を発揮させるのは、使う側のアイディア次第。
2021年、“フタマタフセン”によって、パーソナル・ユースからメッセージ・ツールへ。
付箋のパラダイム・シフトが起こりそうです。
期待します。
そして将来“フタマタフセン”の次にやって来るパラダイム・シフトともなれば、付箋はもう歩き出してしまうかもです。んはは。
にしても“フタマタフセン”ってネーミング。どうかと思いますよキングジムさん。
凄くイイグッズなのに。
もちっと呼びやすい名前にしてほしかったです。