ウキウキ呑もう! ニコニコ食べよう!

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ーー 居酒屋トークの ネタブログ ーー

【おかか定食】定食とは 定まった料理を提供する形態のこと也! とはいうものの

< 高級ネコまんま だよね でもまあ おかか定食って珍しくない? >

ちょっと離れた地域なんですが、歩いて行ける距離に新しい食べもの屋さんができたよ、っていう話を聞いて、まあ、最初に思ったことは、ありきたりではありますが、こんな時期にねえっていうことでした。


コロナで閉業する店舗が増えているのは事実でしょうし、そうした空き店舗は別の観点からすればチャンス、狙い目だっていう判断もあるんでしょうね。
そういう現実。そういう人も居てもらわないと、ね。


新しく出来た食べもの屋さんは「定食屋」でした。


コロナ前の状況を思い返してみますと、そもそも「定食屋」ってホントに見かけなくなっていました。平成の頃に急激に減っていった印象です。
どうですか、ご近所にあります? 昔からの「定食屋」


令和現在で目立つところとしてはチェーン店の「大戸屋」「やよい軒」でしょうかね。
当然、地域によって他にもいろいろあるんだと思いますが、家で食べる料理と似たメニューのある定食屋さんっていうと、この二つぐらいしか思い浮かびません。


大戸屋は外食することの多い都市生活者にとって、とっても助かるチェーン店。
でもなんだか、このところ、人気に陰りが。


経営母体が変わったという話を聞きますし、それが影響しているのかもしれませんが、もう1つ、はは~んって感じちゃう要因があるように思います。

 


30代、40代ぐらいの複数のグループと、お昼だったり、呑み会だったりで話をする機会が何回かありました。
令和になる前後ぐらいですね。
酒屋さんの主宰する利き酒即売会。


参加者は独身者も多いので、普段何を食べて暮らしているのかっていう話に、自然になっていきました。
そこで大戸屋の話題になったとき、感じたのが、食事そのものに対する感覚の違い、のようなものでした。


スローフードを提唱している企業団体もありますが、これからの主流を形成していく世代の日本人にはファストフードという概念しかないのかもしれません。
食事、イコール、ファストフード。


大戸屋ってイイんですけど、出てくるの、遅いでしょ。あれがヤなんですよ」


ん~。注文が入ってから調理を始めれば、例えば焼き魚定食なんか、かなり時間がかかるのはしょうがないじゃん。っていうのはもちろん理解しているんですが、そこを何とかしてくれないと、ねえ。
ってことなんでしょうね。


こっちは忙しいんだから、っていう感覚がスタンダードになってしまっているんですね。
ものを食べるときぐらい、ゆったりいきましょうよ、っていう感覚はすでに過去のもの。
なのかもなあって感じましたね。


「うまい はやい 安い」で登場してきた吉野屋。


その戦略の第一にあげられていたのが「はやい」だったように思います。席について注文して、1分以内に着丼。
つまり、この時点では食べものが提供されるまでの時間が驚くほど速い、ってインパクトが大きかったんですよね。


秒単位でメインディッシュが出てくる。すんげえ速い! びっくりしたなあモウ、ってやつですね。


外食産業のパラダイムシフト。メニューを1つに絞るっていう、当時としてはかなり大胆な戦略です。だからこそ実現できた提供スピード。
牛丼には及ばないながら、カレー専門店もスピードです。
これもまた単品戦略。


時代に合っていたってことになるんだと思いますが、実は逆に、そういうスピードに慣らされてしまったっていう経緯があるのかもしれないですよ。
食べる側のリクエストではなく、作る側、売る側の都合が食生活をコントロールしている。
提供スピードの遅い食べ物屋さんは、あり得ない。キビシー!


いわゆる町中にあった定食屋さんとして、大戸屋は実はスピーディーな方のお店だったんですよ。
ちゃんと作るけれど、家庭とは違った厨房設備だし、手早いレシピの開発っていうのをやっていって、チェーン展開していったんです。なるべく、できるだけ速く出しますねえ。


でも、いつの間にか、世の中が食べもの、食事そのものに要求する中身が違っていってしまっていた。


速さに気遣いを持っていた大戸屋が苦戦するような状況では、町の定食屋さん。おっちゃんおばちゃんのやっている個人経営の定食屋さんは勝負にならないって時期が続いたんでしょうね。


材料の大量仕入れっていう方法による、単価競争にだって、おっちゃんおばちゃんは勝てなかった。


いわゆる「家庭の味」「おふくろの味」っていうのは、淘汰されていくしかなかった。
一杯ずつ、丁寧に作っていたみそ汁が、要りません、なんて言われるようになってねえ、っていう話を聞いたことがあります。日本人の食生活が変わってしまった。


世の中が変わっていくのは必然。とはいいながら、食文化として、なんとも寂しい方向への変化。


で、そんな定食屋状況であり、コロナ禍の外食自粛ムードの中でもあり、そんな中で2021年の夏に定食屋を新規オープン。
大丈夫なんか? 外野席の素人ながら心配します。


行ってみました。はい、根がスケベなもんで、すぐ行ってみます。


焼き魚がメインの定食屋さんでした。


でも、どれも1,000円オーバー。ちと高めですね。今どきスタートする定食屋さんですからね、そういう単価設定じゃないとダメなのかもですね。


開店祝い価格で「銀だら西京焼き定食」1,900円って、なかなかの値段ですよね。
普段だと2,350円。普通に食べるランチ価格じゃないっす!
なんだよ! 庶民の定食じゃないじゃん!


ネコの鼻面も入らないようなちっちゃい小鉢が2つ付いています。みそ汁は刻みネギがちょろっと浮いているだけ。ごはんに期待していところでしたが、ごく普通のタイ米交じりの、いわゆる外食米。


ん~。


こうなると、銀だらっていうのも、ホントはメロじゃないの? とか意地悪く想像しちゃったりします。

 


合板のカウンターは、アクリル板をしっかり立ててあって、隣りとのスペース確保で5人がけ。カウンター席の背中側に2人がけのテーブルが3つっていう規模のお店です。


開店してから1週間ほどでしょうか。厨房にマスク姿の若い男が1人と、手伝いの女性が1人。配膳にもう1人女性が居るんですが、なんだかバタバタしていて、3人ともまだ慣れていない感じがアリアリでした。
店内をマスクして動き回るのは、しんどそうですよね。そういう表情。


チェーン店では無さそうですが、全員が雇われてます、仕事ですって表情に見えました。マスク顔ですけれどね。
店の人が慣れてくれば変わるのかもしれませんが、雰囲気はヨロシクナイのでありました。


「銀だら」を注文してからも、それにしても高いなあっていう思いを抱きながらメニューをしげしげと眺めてみますと、端っこに「おかか定食」って書いてあります。600円。


しまった、これにしてみれば良かったかも。ハズレも無さそうだし、安いし。

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でも、あれか、おかかで600円って、安くもないか。いや、さすがにおかかだけってことはないかな。とか考えながら店内をきょろきょろ。


目の前の厨房側のカウンターに、銀色でテカテカ輝いているドーム状のものが置いてあります。
新型の圧力鍋、みたいなもんでしょうかね。大きさもそれぐらいです。ピカピカ。


焼き魚がメインの厨房に置いてある調理道具として、銀色テカテカのドームは違和感さえ感じますね。


それともあれかな、なんかコロナ対策の新兵器なのかな。とか、思いながらしばし観察。


午後1時をまわっていましたが、先客がテーブル席に2組。カウンターにオバサマが1人。
厨房はバタバタ。


と、厨房にいた女性がその銀色ドームに何か操作しました。


ギューン、ぎゅんぎゅん。なかなかに大きな音です。


はあっ? 何の音ですか? それは、なんなん? ちょっと不快な種類の音。


30秒ほど、ぎゅんぎゅんやってましたが、音が止むとその女性はすっと離れていきました。


客席側のカウンターと厨房側のカウンターの間には15センチほどの高さの衝立があって、段差もあるようで、一段低くなっている厨房側のカウンターはほとんど見えません。
なので、得体の知れない銀色ドームも客席側から見えているのは上半分ほどなんでしょう。


と、フロア側の女性が営業用の明るい声で言いました。
「はい、オマチドウさまです。おかか定食です」


お。と思いましたが、どうやらおかか定食が運ばれたらしい、そのテーブル席を振り返って見るのも、なんとなく憚られたのでしたが、ちゃんとメニューを見て注文しているんだねえ、エライねえ、とか感心しておりました。


と、また、ギューン、ぎゅんぎゅん!
で、「おかか定食、お待たせしましたア」


どうやら向かい合って座っているテーブル席の2人は、2人とも「おかか定食」
ここで、勘のイイ方は気付いたかと思います。
得体の知れないテカテカ銀色ドームの正体。


そうなんです、まず間違いなく、かつお節削りの機械です。機械なんですよ、銀色のドームの。おかか


どういう状態で「削られ節」が出てきて、どういう形態で「おかか定食」として提供されているのか、確かめることはできませんでしたが、令和の厨房事情、ここまで来たかって感じですね。


一度にひとり分しか削れないから、ギューン、ぎゅんぎゅん! を人数分繰り返すんですね。


設備投資として自慢の機械なのかもですが、けっこうな大音量。うるさいですよ。


おかか定食」600円の実態。推して知るべしでしょう。


かつお節、おかかはですね、ただ削ればイイってもんじゃないって言うじゃないですか。
ものの本によりますと、って、またぞろ例の北大路魯山人センセですが、友人の家に遊びに来るなり、
「おい、君。かつお節削りを見せたまえ」
って言ったって話もあります。


カンナの刃の状態、カンナの調整によって、削り出すおかかの厚みをコントロールして、出汁として使うのか、そのまま、しょう油、わさびで食べるのかに合わせるんでございますよ。


おかかは、コスト的にリーズナブルなものかもしれませんが、日本人にはアイデンティティにもつながるような一品です。と思います。


ネコだって、グルメなやつはうるさいですよ。ちゃんとしたおかかじゃないと見向きもしませんよ。日本のネコはね。

 


うるさ型のグルメで知られる阿川弘之センセの家に、ま、麻雀だと思いますが、やって来た吉行淳之介センセ。
何か食いたいもの、あるか。と聞かれて、
「また、あのかつぶし飯食わせてくれえ。あとは何ンにも要らん」
と言ったそうです。


阿川家のかつぶし、おかかは旨かったんでしょうね。ネコも満足。


その阿川センセでさえ、「おい、君。かつお節削りを見せたまえ」っていう魯山人センセに対しては、
「さしあたり我が家なぞ、来られたらすぐ落第。それでも台所の隅に古びた箱型の鰹節削りが一つ置いてある分、「今の時世にまあよし」とみとめてくれたかどうか」
とおっしゃっておられますね。


阿川センセも魯山人センセも、もうお隠れになっていますが、今の日本人は「にんべんのフレッシュパック」とかでありますね。
カンナの刃を気にかけながらかつお節を削っている人は、少なくなりましたよ。
ま、にんべんで充分ではありますよ。はい。満足しております。ネコには確かめていませんけれど。


阿川センセ、魯山人センセ、令和の日本はですね、なんともはや、ギューン、ぎゅんぎゅん! という世の中になりましたでございます。おかか


店でです。プロがです。ギューン、ぎゅんぎゅん! です。銀色のドームです。テカテカです。


食べていませんし、見てもいない「おかか定食」には何の罪もありませんが、もう行かねっす!


コーキューおかか定食に、食指動かず。。。