< ひょんなところで ひょんなものに初めて出会う ひょんってな~んだ? >
オコチャマの頃には理解できない世界っていうのがいろいろあって、例えば、オコチャマ用の寿司はさび抜きです。
あのミドリ色の辛いやつ。なんでわざわざ食べものじゃないものを口に入れるのか。おっかしいよねえ。要らないです、わさび。って思ってたでしょ、みんな、ね。
例えば、ずずっと啜って「あ~!」ってやってるお茶。
なにが「あ~!」やねん。なんで声出す必要があんの? そもそも甘くないし、旨くもなんともないよ。
心も身体も成長途中では危険察知能力も、必要成分も、だいぶ違うらしいですからね、オコチャマはそれで正しいんだそうです。
「辛いの」「苦いの」「渋いの」はオコチャマにとっては危険因子。要りませんっていうのは、正常な反応。
ところが、いつの間にか、望むと望まないにかかわらず、人は大人になっていくんですよねえ。
さびの効いた寿司を頬張って「く~ッ。これがイイのよ」とか、いつからそんなことを言い始めたんでしょうか。
「あ~!」なんて声を上げることは無くとも、お茶の旨さも判って来ますよね。不思議なもんです。
さすがにスタバで、紙コップでコーヒー飲んで「あ~!」ってやってる奴とかには「うっせえよ!」って思っちゃいますけれどね。居るんですよ、ときどきね。
でもまあ、コーヒーをブラックで飲めるようになれば、充分にオトナってことなのかもです。
お茶、ウーロン茶の話なんですが、お茶飲んで「あ~!」っていうシチュエーションは、間違いなく緑茶ですよね。
ま、印象としてはじーちゃん、ばーちゃんが急須で濃いめに淹れて、縦長の湯のみで、ずずっとやって「あ~!」ってやる。日本人の幸せ表現。
濃いめの日本茶は今だって一定数のファンが居ますね、何よりの証拠には、「おーいお茶 濃い茶」っていうのがあります。コンビニのペットボトルでも、スーパーで打っている粉末でも「濃い茶」あります。
渋茶っていう表現もありますね。
熱くって渋~いお茶で「あ~!」です。
今はどうなんでしょう。ウーロン茶でも「あ~!」やってるんですかね?
ウーロン茶っていつごろから日本でメジャーになったんでしょう。
ピンク・レディーが広めたっていう説があります。
1976年に颯爽とデビューしてきて、2年ぐらいビッグヒットを連発しましたよね。その頃、幼稚園、保育園以上だった年齢の人にとってはたまらなく懐かしいデュオでしょう。
1970年代の中盤から後半はキャンディーズとピンク・レディーの絶頂期。1978年にキャンディーズが「普通の女の子」に戻ってしまって、片方の翼がなくなってしまうと、ピンクレディーの方も、ピークアウトしてしまったような感じがありました。
デビュー曲「ペッパー警部」がドドーンとヒットして「S・O・S」「カルメン'77」「渚のシンドバッド」「ウォンテッド」「UFO」「サウスポー」「モンスター」「透明人間」と向かうところ敵なしという感じだったピンク・レディーは、なんといってもその振り付け、ダンスが人気でした。
女の子たちは寄ると触るとピンク・レディーのダンスを真似してましたね。
で、2人のスタイルの良さが話題になって、ピンク・レディーが美容のためにウーロン茶を飲んでいるって発表して、ウーロン茶が日本で一般的に認知されたっていうことらしいんですね。
1978年から1979年ごろだとされています。
最初は缶入りのウーロン茶葉として人気が出た感じでした。
で、サントリーがペットボトルでウーロン茶を出したのが1981年。これがまたビッグヒットになりました。
もう自分で淹れなくたってイイ!
こうして浸透したウーロン茶ですが、日本での一般的人気の歴史はまだ40年ほどなんですね。
今はもう、めっちゃ種類が出ています。いろ~んなウーロン茶。
ほぼ全部のソフトドリンクメーカーから、いろんな名前の付いたペットボトルウーロン茶がいろんなサイズで売り出されています。
今やウーロン茶販売メーカーとして老舗っていえるのかもしれないサントリーは、2006年に「黒烏龍茶」っていうのを売り出しました。これなんかは「特定保健用食品」ですからね、健康志向にも応えているわけです。
ウーロン茶のポリフェノールっていうのは、脂肪の吸収を抑えて、脂肪の分解を促進してくれるんだそうで、ダイエット飲料としての人気もあるみたいです。
ピンク・レディに対する憧れから、科学的効果に変わって来ているんですね。
「特定保健用食品」じゃなくって、普通のウーロン茶も、油を分解するという効果は知られていますね。
キレイに洗車してもフロントガラスに油が浮いて、ギラギラギトギトしているってこと、経験してませんか?
長距離を走る人には分かると思います。
夕日があたったりすると、乱反射して視界が危うくなったりします。で、ちゃんと洗車して、フロントガラスもキッチリ洗ったあと、仕上げにウーロン茶を含ませたダスターで拭き上げるんです。ガラスだけね。
どんな洗剤を使うより、油がガラスに残ることはなくって、とってもイイですよ。
残念ながら、そんなに長持ちはしませんけれどね。実にクリアになります。やっている人もけっこう居ます。
でもまあ、ウーロン茶はお茶ですからね、飲むのが一番です。
ウーロン茶に限らず、お茶の種類なんて、コンビニに並ばない限りほとんど知りませんし、特に健康志向での興味を持っているわけではないんですが、ついこの前、個人的には全く新しいウーロン茶に出会いました。
いや、昔からあるウーロン茶です。知らなかった、というだけなんですけれどね。
それが「東方美人」です。
部屋を出て西の方に向かって歩くランチ散歩のコースに、1軒の町中華があります。いつも低くジャズを流していて、3人並べるカウンターと、4人がけのテーブルが3つだけの小さな店。
40代だと思われる無口な夫婦がやっています。
奥さんが厨房で、旦那がフロア担当。逆の方がイイんでないの? って大きなお世話を感じちゃうぐらい、主に声をだしているのは厨房の奥さんで、旦那はニコニコはしているんですけれど、全然しゃべりません。
メニューとして麺をやっていないせいなのか、昼時でもいつも空いている店なんですね。
ラーメンをやっていない町中華。ずっとスロージャズをBGMに流しています。
味は、まあ、普通です。
時々話している二人の会話を聞くと中国語のようです。あまり日本語が流暢ではないのかもしれません。
でも、もう5、6年になりますけれどね。かなり日本語にも慣れているはずだと思うんですが。時々食べている店です。
その日、遅くなって店の暖簾をくぐった時は、午後1時半をまわっていました。
昼の営業は2時までって、玄関ドアに書いてあります。
「まだ大丈夫?」
と聞くと、旦那がニコニコと何度も黙ったまま肯きます。
他に客はいませんでした。人が居ないせいなのか、エアコンが効きすぎているような冷え具合。
ま、暑がりですので、おお~、涼しいってな感じでニンマリです。1時間ぐらい歩いていますしね。
で、その時注文したのは「ピリ辛肉野菜定食」900円です。
「手作りラー油」ってメニューに書いてありますよ。ラー油作ってんの? と、店の人に聞いたことはもちろんありません。んなの説明するの、しんどそうですもんね。
と、なんだか厨房で揉めているようなヒソヒソ声。ひそひそなのによく届く声。
夏はいつもジャスミン茶を出してくれているんですが、その日はまだ何も出してくれてはいませんでした。
店の中は充分ヒンヤリしてはいますが、やっぱりね、冷たい水も欲しいところです。ジャスミン茶じゃなくってもね。
旦那の身振りを見て判断させてもらうと、どうやらジャスミン茶が切れちゃった感じ。
で、なんか大きな小声で相談している?
水でイイっすよ、水道水で。氷入れてね。
って言おうかなと思ったところへ、奥さんが中国茶の陶器のポットと、ちっちゃい茶碗を持ってやってきました。
「暑いですね。でも熱いお茶、いいでしょ?」
そこへ旦那もニコニコやって来て、
「氷、壊れて、買ってきたのもなくなっただからね」
ん~。製氷機が壊れていて、どこか他から買ってきた氷もなくなっちゃった、ってこと、かなん?
わざわざお茶を淹れてくれなくたって、水道から水をコップに、と言いかけていると、奥さんは返事を待つまでもなく、もう茶碗に注いで、ポットを置いて、さっさと厨房へ戻っていきます。
そりゃそうです。料理するのは奥さんですからね。やることやって、さっさと戻ります。行動力の人。
座ったテーブルはカウンターからすぐで、料理している奥さんは正面に見えます。
旦那はカウンター脇に立って相変わらずニコニコしています。BGMが変わってニューヨークのタメ息、ヘレン・メリルの声が聞こえてきました。
ま、熱いお茶でも否やはありません。でも少し冷ましてから、と思った時、そのお茶の独特な香りに気付きました。薫って来ました。
なんと言うんでしょうか、むき身の桃にハチミツをかけたような、果実系だけじゃない甘い香り。
ひと口飲んでみました。
おお~! 爽やか! なんだこれ? 香りの甘さに比例しないスッキリ感。イイじゃんッ!
その様子を料理しながら、たぶん観察していた奥さん。
「おいしいよね。高いお茶よ、それ。台湾ね」
と、旦那が食パン一斤ぐらいの大きさの缶をもってニコニコ近づいて来ました。
「これ、ズンファミーレン」
ん~、全然聞き取れません。で、缶に書かれた漢字を見ますと「東方美人」
うひょ~、凄い名前。
「台湾のお茶?」と聞きますと、厨房から奥さんが、
「ウーロン茶よ」
で、旦那が缶を置いてポットを持つと、注ぎ足してくれます。
「いっぱい出る。いっぱいおいしい」
と、奥さんが、
「10杯ぐらい出るよ。お湯、あるから言ってね」
ふううん。まあね、茶碗ちっちゃいからね。でも、一杯目じゃなくって、数杯目が旨いってことなんでしょうかね?
「ピリ辛肉野菜定食」が出てくるまで3杯飲みました。たしかに、味わいがだんだんしっかりして来る感じがありました。香りはずっとイイです。気持ちが落ち着きます。
料理の味わいにもプラス効果ですね。
で、食べ終わったらポットにお湯を注いでくれて、また3杯飲みましたが、油料理を食べた後では、食べる前ほどの清々しさは感じられませんでした。
でも、旨いお茶でしたね。
帰ってから調べてみますと、東方美人は青茶の種類の台湾茶ということでした。
あれを青いっていうのかなあ、という印象。淹れたお茶の色のことじゃないんでしょうか。分かっていません。
特徴っていうのを知ると、ちとビックリします。
東方美人の香り、旨さを作り出しているのは「虫」なのでした。
「小緑葉蝉」とか「グリーンフライ」とか「チャノビドリヒメヨコバイ」っていろいろに呼ばれている「ウンカ」の仲間。
その虫が芽や茶葉に取り付いて、お茶の樹液を吸っちゃう。
そうなると葉は色が変わって成長が止まるんですね。
なので、昔は捨てていたらしいんですが、もったいないんで製茶してみたら旨かった、ってことらしいです。
19世紀の中頃のこと。
で、イギリスだとかで20世紀に入った頃から流行り始めて「オリエンタル・ビューティー」って呼ばれるようになったので「東方美人」なんだそうです。
へええ、ウンカねえ、って思ったら、同じような製法で作られているのが紅茶、ダージリンだそうです。
ダージリン派の人、知ってました?
なんかねえ、お茶って旨くて、フカイっすよ。オコチャマには分からん味わいですね。
でも東方美人飲んで「あ~!」はやらないんじゃないでしょうか。そういうお茶。
ひょんなお茶。どうやら日本でも買えるみたいですよ。安くは無さそう。。。