< 効率コーリツ言いなさんな ま 缶コーヒーでも飲んでさ >
2021年10月、サントリーがかねて話題の「社長のおごり自販機」の展開を始めたそうです。
なんやねん、それ。って方もいらっしゃるかもしれませんが、ちょっと前に発表されて、けっこうな話題になっていた商品です。
「社長のおごり自販機」に社員証をかざすと、ごろごろガッタンって、タダで飲み物が出てきちゃうっていうシステムなんですねえ。
ただし、社員証は2人同時にかざさないとダメなんです。
つまり、社員が2人同時に連れだって自販機の前に並んで、一緒に社員証をかざすことが、社長のおごりを享受できる条件ってことです。
まあね、こういうシステムの自動販売機を設置するんですから、そこそこの規模の会社さんですよ。
つまり、日頃社長さんに会うようなシチュエーションのあり得なさそうな規模の会社。
「社長のおごり自販機」っていう名前なんですけど、当然、社長さんのポケットマネーでまかなうわけもなく、福利厚生ってやつでしょねえ。
ま、費用の出どころがどこであれ、なんだってこんなシステムの自動販売機を考え出して、どういう狙いがあって設置するんでございましょうか。
2人同時に、ってところがミソなんですよね。
机の上のノートパソコンでカチャカチャやるっていうのが仕事、っていう人は少なくないと思います。
で、ふあ~あ、ちょっと休憩しよっか、って、昔は喫煙所っていう行動パターンも多かったと思うんですけど、今はまあ、どこでもビル内喫煙禁止です。
なので、休憩スペースで缶コーヒーってのが普通でしょかねえ。
たいていは1人で休憩です。仕事のキリだとか、リズムだとか、人それぞれですからね、1人で息抜きですね。
休憩スペースに顔馴染でもいれば、おお、最近どうよ、ってな感じで「ムダバナシ」して、ホントの息抜き、ニュートラルタイムってなもんです。
「社長のおごり自販機」は、そういうコミュニケーションを自販機飲料をタダでゲットするっていうお得感を煽って実現させちゃおうって魂胆ですね。たぶんね。
会社経営者側からしますと、リアルコミュニケーションによる仲間意識、帰属意識の向上、なんてのも狙いの1つなんだそうです。
っていうのもですね、ほら、今、コロナで出社することって減ってるじゃないですか、全般的に。
そうでなくたって、社内のまとまりってのが希薄になってきている令和の会社事情ですからね。
せめて会社に出てきている時ぐらい、コミュニケーションを深めて、社員同士、交流してちょうだい、っていう気持ち。
分からないではないですよね。会社勤めしている人なら、なるほどねえってなところじゃないでしょうか。
でもね、帰属意識って言われちゃうと、ちょっとね、あん? って思う人だって少なくないですよ。
日本の中堅規模以上の会社であれば、非正規で働いている人の数も多いですからね。
一応、社員証は渡されますよ、セキュリティだとか、ありますからね。
この場合、どうなんでしょ。非正規で働いている人の社員証でも「社長のおごり自販機」は、ちゃんと反応してくれるんでしょうか。
つまり、非正規の人の社員証番号も、ちゃんと登録してくれているんでしょうか。
いやあ、ダメでしょ。だって会社の保健とかも別でしょ。福利厚生の対象じゃないでしょ。
っていう考え方もあるでしょうし、いやいや、セキュリティ登録してあれば使えますよっていう考え方もあるでしょうね。
担当部署の考え方ひとつ、ってところでしょうね。
どうなの? シャッチョさん?
ま、大人ですからね、表面上は和気あいあいとやっておりますよ、正規も非正規も。働く者同士ね。
でも、やっぱり意識は全然違いますね。だって待遇違うんですから。当たり前です。
ま、正規の社員さん同士で「社長のおごり」を享受するっていうのでオッケーだと思うんですが、帰属意識の向上っていうのは、どうでしょう。そこに主眼を置くっていうのは違うような気がしますね。
自宅でのテレワークと、出勤してのリアルワークっていうハイブリッドワークが当たり前になりつつある令和の日本社会。
そんな中で、リアルコミュニケーションを重要視するっていうのには100%賛同します。
んがっ、仕事の効率、会社への帰属意識ってことじゃなくって、ホントに重要なのは誰かと一緒に息抜きすること。
集中、緊張の間のニュートラルタイムとして、缶コーヒーや、ペットボトルのお茶を飲みながらのムダバナシ。
自宅でのテレワークでは体験できないリアルコミュニケーションの本質って、仕事の話とか、会議の延長にあるんじゃなくって、一見、なんの生産性もないようなムダバナシにあるんだと思いますね。
それこそ仕事の話ならズームでいいわけです。
テレワークになくって、リアル出社にあるものって、人間同士の本来的な対話。
仕事人間としての会話力とかじゃないし、酔っ払いのたわごとでもない。
たぶんおそらく、今の日本人が失くしてしまったかもしれない、ホントの人間同士の話し合いみたいなもんなんじゃないでしょうか。
相手を気遣うばかりじゃなくって、自分をさらけだせるさりげなさ。そういうのってムダバナシをできる相手との出会いから練習していかないといけないレベルまで、もう落ちてしまっているようにも感じる時があります。
元々アナログに会話、対話出来ていた人がSNSへ移行していった場合は、オンラインコミュニケーションになったからといって、そのコミュニケーション内容に変容をきたすことはなさそうですけれど、コロナ期の新入社員だとかはSNSがそもそもの社会的コミュニケーションのスタートで、リアルに辿り着けていない可能性があるようにも思えます。
まあね、そういうコミュニケーション障害って、大なり小なり、どの年代でもあるのかもですけどね。
コロナ禍であきらかなマイナスになったのは、我々、今、生きて在る人間同士のリアルコミュニケーションロスです。
なにか意味のある会話、っていうより、より積極的にムダバナシの出来る相手がいて、そういう場があって、軽く笑い合えるっていうコミュニケーションを取り戻すことって、かなり大事なことなんじゃないでしょうかね。
「社長のおごり自販機」って、そういうキッカケになるようにってことなんでしょうけれど、「社長のおごり自販機」のない場所でのリアルコミュニケーションを、早急に、積極的に取り戻していかないと、みんながみんな、引っ込み思案になっちゃうような、そんな危機感が、すぐそこにあるような気もします。
じゃあ、どうすんの。
スマホを封印して街に出ましょう。
同時代に生きていて、同じ空気を呼吸している「隣人」を感じながら歩きましょう。
呑み屋さんのカウンターに座りましょう。
仲間と積極的に出歩きましょう。
生活自粛が要請されていない時にね。
そのうちに、街角に「首相のおごり自販機」っとかね、登場するかもですよ。
2人同時にマイナンバーカードをかざしましょうってか!
遠くの親戚より近くの他人って言いますからね、コスパを考えたり、報酬を前提として人付き合いするわけじゃないですから、もっと自分を信じましょ。
ま、温かい缶コーヒーでも飲んでさ。