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酒と落語と日本人 柳の陰にひんやり冷えた江戸の酒 【青菜】の一席

<噺に出てくる旨い酒 柳陰 ちゃんと今でも在るようです>

青菜という噺。有名な古典落語ですね。

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夏目漱石がご執心だったという三代目柳家小さんが上方から移植した噺なんだそうです。


三代目は江戸末期、小石川生まれの人で、生家は一橋家の家臣だそうですから、庭に植木職人を入れるなんていうことは、ごく自然に見てきたことだったのかもしれません。


この青菜の話が語り続けられるのは、なんといっても植木職人の見栄っ張りさ加減が、正直で憎めないからですよね。


落語の登場人物がいつまでも色褪せず、我々の好い隣人であるのは、どんなにバカげたことをやっちゃうにしても、たくらみのない、正直さがあるからだろうと思います。
噺の面白さは、誰にでもありそうな欲張りな気持ち、煩悩、やっかみだとかにペーソスがあるんでしょうね。


見栄っ張りは落語のメインテーマ。

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この青菜という題は、植木職人が呼ばれた家で一仕事終えて、まあ一杯やんなさいってことになって、鯉の洗いをゴチになって、そのワサビがツーンときて、だったり、そうめんのカラシがクーンときてだの、とにかく口直しのアテが必要な状況になって「青菜は好きか?」という場面になるんですね。


その間、ずっと呑んでいるのが「柳陰」という酒です。ヤナギカゲ。
夏の庭仕事を終えたばかりの職人が呑むのに、なんともピッタリの酒の名前ですよね。
井戸で冷やしてあるということになっていますが、名前だけでも涼しそう。

 


この柳陰という酒にこそ、上方から持ってきた江戸落語だというのが分かる秘密があったのでした。


上方からもらってきた酒、というふうにする噺家もいますが、夏の暑いときに呑むのに適した酒という扱いは誰がやっても共通しているようです。


この柳陰、調べてみますと、
「上方で柳陰、江戸で本直しという。味醂と焼酎を半々に混ぜてつくった酒。夏に冷やして飲む」
だそうです。


噺の中で、
「旦那さん、この柳陰ってえお酒ですが、直しに似てますな」
と植木職人に言わせて
「そうそう、大阪辺りでは柳陰、こっちでは本直し、直しと言う」
だとかね、主人に応えさせたりもします。
関東圏では直しというんですね。


口直しの青菜と柳陰の直しも、かけているのかもしれません。


で、その直し、本直しというのは何かといいますと、
「呑みにくい酒を手直しする」
ということから直し、本直しという名前になったんだそうです。
呑みにくい酒ねえ。ンまくない酒ってことなんでしょうかねえ。
にしても、味醂だそうです。
ん~、という感じ。。。


確かにね、味醂は甘い焼酎といえなくもない、のかも、ではありますが。


それにしても、関東圏の直しという命名に比べると、大阪、関西圏の柳陰という名前は随分と洒落ていますよね。
落語としても「直しをごちそうしよう」と言うより「柳陰をどうかな」と言った方がサマになっていますもんね。


関西圏の言い方をそのまま持ってきたのも肯けます。イキな名前です。


で、ググってみたら、この柳陰、岐阜県の白扇酒造さんで今も扱っているようでした。本みりん、清酒の会社みたいですね。
焼酎・リキュールのカテゴリーに入っています。

 


で、青菜の噺。

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口直しに青菜を出そうという主人が、後ろを振り返りながら、


「奥や、例の青菜を、植木屋さんに。ごまをかけてな、持ってきておくれ」


柳陰をたっぷり呑んで気分の良くなっている植木屋は、猪口を傾けながらも主人が声をかけた先の、奥の襖へ目線を送りますね。


するとその襖の向こうからでもありましょうか、
「鞍馬から牛若丸が出でまして、名も九郎判官」


と、すぐに声が返って来るのへ、
「おお、そうか。そうであるならば義経にしておこう」


主人が応じると、植木屋はまだほろ酔い、足腰軽く立ち上がって、
「鞍馬から客人がおいでのようで、わっしはこれで失礼……」


「いやいや、鞍馬からなんぞ誰も来やしない。今のはな、実はな……」


ということで、青菜は食べてしまってない、というのを直接には言わずに、名を九郎で、菜を食らう、という謎かけのようなもんだと説明されて、いたく感じ入った植木屋が、自分の家に戻って、奥も何もない長屋の部屋で、訪ねてきた友人に向かって、柳陰を御馳走してくれた主人とその奥様とを自分たち夫婦で真似て演じる。

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という噺で、奥の間の代わりに押し入れに、無理矢理かみさんを突っ込むようにしておいて、


「ああ、奥や」
「何言ってんだ、おめえんとこに奥なんてありゃしねえじゃねえか」
「うるせえな、黙ってそこに座ってろってんだ。ああ、奥や、青菜をこの植木屋さんに」
「バカ言ってやがる、植木屋はおめえじゃねえか。おいらア大工だ」


そんなやり取りをしている男どもはまだいいけれど、暑いさなかに押し入れに閉じこもったかみさんは、青息吐息。


それでもなんとか、亭主の面目のためならと、
「鞍馬から牛若丸が出でまして、名も九郎判官ヨシツネ……」


「あ、あれ? ああ、べ、弁慶にしておきな」
で、チョーンとなります。

 


この噺の哀愁を含んだ可笑しみは、この植木屋のかみさんが、素晴らしく可愛い感じの役割を果たしていることにありますよね。
植木屋のバカさ加減を、バカなまま受け止めて、亭主として受け入れている。
イイですねえ、この夫婦。

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かみさんがセリフを言い過ぎて失敗するというオチですが、かみさんがこの失敗をしないと、この青菜という噺は救われませんです。


噺家の演じ方にもよりますが、押し入れの中で汗だくになっているかみさんを感じさせてくれると、可笑しみを感じながらも、グッとくるものがあったりします。


ぜひ、生の高座で鑑賞してみてください。


柳陰ですが、冷酒として味わうのがいいのか、料理酒として試してみるのがいいのか。暑い季節になったら取り寄せてみようかな、などと考えていたりします。


青菜は、ほうれん草のおひたしがイイですかねえ。

 

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