ウキウキ呑もう! ニコニコ食べよう!

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龍宮の玉手箱 と 局地的によみがえった【サントリーウイスキー「謎」】その1

<文字落語 コロナ禍にリュウグウからの玉手箱 の一席>

「酒に別腸あり」 「金谷酒数1」 「金谷酒数2」で登場いたしましたマルちゃんと棒さんでございますが、今はウィズコロナにすっかり疲れてしまっています。
リモートワークなんぞとは縁遠い現場仕事をしている棒さんが、鼻でタメ息をつきながら帰ってまいりました。

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駅からの帰り道、夕方の月をようやく見つけるようにして見上げまして、今夜はジャパニーズ・ウイスキーの気分だなあ、なんてことを思い浮かべますね。家呑みが続いております。

 

酒ならなんでもござれの棒さんでありますが、この日の気分は日本産のウイスキーでいこうというわけでありまして、頭の中でイロイロ銘柄を思い浮かべながら家路をとぼとぼ。


いろいろ取り揃えてありますからね、棒さんの部屋には。
ウイスキー、焼酎、泡盛
蒸留酒が多いようでありますが、マルちゃん用のワインも、シコタマあります。ま、恵まれた方の酒呑み夫婦ではありますね。

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で、玄関から上がりきらないうちに、先に帰っていたマルちゃんがニコニコ笑いかけます。
「あのさ、大家さんがね……」
「あ? 家賃ならまだ日があるだろ」
「そうじゃないってば」
「ん?」


棒さんの頭の中はジャパニーズ・ウイスキーで埋まっておりますからね、何をやっつけてやろうか、選び出そうと酒部屋に入りかけますと、


「だからさ、久しぶりに直接大家さん家に、家賃払いがてら呑みに来ませんかって」
マルちゃんはなんだかはしゃいでいる感じです。
「んん?」
「片付けしてたらね、手を付けてないウイスキーが出てきたんだって。それであんたのこと思い出して、家賃だけ持って手ぶらで来なさいって、二人で。あたしも」
「家賃持ってりゃ手ぶらじゃねえだろ」
「そういうイジケはなしで、ね。どこか外で呑みたいって言ってたじゃん」
「今から?」

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てなわけで、マルちゃんはイソイソ、棒さんはあご突き出しながらシブシブ、成り行きで出かけることになりました。


元々呑み屋さんで知り合ったんでございますよ。マルちゃんたちと部屋の大家さん。
その場で意気投合しましてね、持ちアパートの部屋が空いてるから、ってんで引っ越してきたという経緯があります。


年の頃なら70代前半ってとこでしょうかね、部屋の大家さんは。電車でひと駅のマンションに住んでいますよ。独り暮らし。


酒好きの料理好き。悪い人ではないんですが、少しばかり強引なところがあります。


でもまあ、マルちゃん棒さんも嫌いではないんです。年齢に関係のない気の置けない仲とでもいうんでしょう。イイお付き合いです。
三人に共通しているのは、なんといったって酒ですね。お酒好きだということ。

 


前はよく行っていたんですね。家賃を手渡ししながら一杯ごちそうになる。
結構イイ酒を呑ませてくれたりするんでね、手土産代わりのアテとして、駅前で焼き鳥なんぞ買ってですね、月に一回電車で通っていたもんなんです。
今どき無い付き合いの大家と店子。


ま、この頃はすっかりご無沙汰で、家賃の方も振り込みにしていましたが、久しぶりのお誘いです。


棒さんは、さっき降りたばかりの駅へ向かってとぼとぼ歩きます。二人ともマスクです。不織布です。でもしゃべりますよ。


「で、何が見つかったって?」
「ナゾ、って言ってた」
「へ! なんだそれ。あ? あれ?」
「棒さんにはそういえば分かるだろって」
「おお、そりゃ年代もんだよ」


ってね、その昔、居酒屋さんで棒さんと大家さんの話が合ったってのも、こうした酒のノウハウが通じたからなんでありますよ。
どうやら通じたらしいナゾについて、そんなことにはこだわらないマルちゃんはマスクの中でケケケと笑っております。


みなさんははご存じですかね。“謎”って名前のウイスキー


サントリーさんがね、なんと日本推理作家協会とコラボレーションしたシングルモルトなんです。ちょうど2000年からでしたかね、始まったのは。
ウイスキーがさっぱり呑まれなかった時期ですね。焼酎ブームでした。

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サントリーさんも苦心惨憺と申しましょうか、頭ひねって苦労した結果、なんとか売り出そうとしたウイスキーで、推理作家が独自の感覚でブレンドするって、まあ、無茶なコンセプトでね。


一年に一人だったですかね、推理作家がブレンダーになって一銘柄ってやつで、確か7つほどあったと思いますよ。


さてさて、恒例となりました駅前の焼き鳥をどっさり買い込みまして、二人は大家さんの家に着きました。


十二階建てのマンション。最上階です。
でも見晴らしがイイわけじゃないんですね。最上階でも。なにしろ周りはもっと高いビルばっかり。
十二階でも見晴らしが悪いってんですから、世の中もおかしなことになってますねえ。
高所平気症なんて障害もあるらしいですからね。人間、いろいろ危うい生き物であります。


ま、三人にとっては見晴らしなんて関係ないんです。
集まるのはいつも夜ですし、窓の外を眺めるなんて、風流なことはやりません。
月見酒っていって寄り合って、月なんか見上げたりしません。ただ酒呑みながらバカ話するだけですからね。

 


「大家さんお久しぶり~。ちゃんと連れてきたよ」
「はいはい、久しぶりひさしぶり。お変わりなくね。はいはい、もう準備整ってますからね、こっちこっち」
「やあ、大家さん、どうも。封のあいていない謎が見つかったって、どゆわけなんです?」
「いやあっはっは。それなんだよ、隠しておいた酒なんだけどね……」


もう、話は止まりませんね。
大家さんの棚の中から見つかったというのは、サントリーオリジナルシングルモルトウイスキーの“謎”。2006年バージョンで、作家、今野敏氏がブレンダーを努めた「忍」という一本。


これはですねえ、静かに1人で楽しむようなウイスキーだと思いますがねえ。
なんたってコンセプトが「忍」てんですから。


いやまあ、考えようによっちゃ、このタイミングで棚から出てきたなんてのも、案外イキなもんかもしれません。「忍」ですからねえ。


なんだか理不尽に耐えなきゃいけない世の中になってしまって、さっぱり晴れやかになれない日々が続いておりますからねえ。「忍」ですからねえ。


みなさんもマスクなんか地べたに叩きつけてやりたくなっていませんか。
なってない? そりゃヨイお心がけで。


大家さんは既に、テーブルの上に柿の種だとかの乾き物と宅配ピザ、宅配寿司だとか、いろいろ取り揃えて並べていますね。
そして、まん中に置いてありますねえ。一本、ドドーンときょうの主役。

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「いやね、これ見つけたときには懐かしくってね。これ買って隠しておいた頃はカミさんも元気だったしねえ」


そういうシロモノなんですねえ。
今はすっかり独り暮らしにも慣れたご様子ですが。それにしても、隠しておいたんですね、大家さん。奥さんの目から。
そりゃ一回忘れたら出てこないのも頷けまさあね。


「当時は高かったんだよ、これ」
「へええ、大家さんでも高いの安いのって気にすんの? 意外だわ」
「うるさいよお前は。ええ、知ってますよ。この忍じゃなかったと思いますけど、オレも買ったんですよ。推理作家がブレンドしますって宣伝につられて。なんかすごく高かった記憶ですね」
「ああ、高かった。ただねえ、あの頃のウイスキーはみんな高かったんだよ」
「そうだったかしら。でもどうせ大家さんには値段なんて関係ないでしょ」
「だから、うるさいよお前は」
「あたしだって気にしますよ、値段」
「へええ、あたし、高いの好き」


棒さんも大家さんもマルちゃんは無視して、代わるがわるボトルを手にして眺めたりしております。


ウイスキーが人気なかった頃でしたねえ」
「そうなんだよ。サントリーなんかもね、いろんな銘柄出して、すぐ消えちゃったりしてね。キリンなんかもそうだった」
「なんでだか焼酎が売れだしたんですよねえ」
「昔からあった焼酎が品薄になって、それで次出てきたと思ったら、いろんな種類になっちゃって、いっちょ前に値段も高くなった」
「そうですそうです。本格焼酎って言い始めたんですよ」
「アタシはその頃から焼酎とワインにはまっちゃったんだなあ」


やっとマルちゃんも参加できました。


「ワインも人気出てきたからねえ」
「なんだかウルサイ輩もいっぱい居ましたね。蘊蓄ウンチク。なんだかインチキ臭いやつ」
「んははは」
「アタシはうるさくないわよ」
「お前の話じゃないんだよ」
「この忍っていうのはね、男も我慢、女も我慢。それが人生。でも、我慢が花咲くときもある。ほっと一息つくための優しい味わいを目指しました。ご賞味くださいってことらしいんだよ」
「なにそれ?」
「だからこのウイスキーのコンセプトってやつなんだよ」
ウイスキーのコンセプト? とかイイから、早く呑みましょうよ」
「そうだね。そうでしたそうでした」
「なんだってお前は、他人様の家に来てそんなヅケヅケと……」
「いいじゃないのよ、アタシたちと大家さんの間なんだから」
「まま、はい、開きました。15年ぶりの御開帳ですよ。どんな味わいになっているでしょうかねえ。なにせビン内熟成ですからねえ」
「大家さんは前にも呑んだことあるの?」
「いやあ、それがないんですよ。忍は」
「あんたは?」
「いや、オレもないね。だいたい高くて買えなかった気がする」
「はいはい、注ぎましたよ。最初はストレートでいってみましょう」


ロックグラスですが、氷を入れずにストレートで、マルちゃんも眉根を寄せながら、グラスの香りを嗅いだりなんかして、一応カッコはつけてみていますね。


「あー。アタシ、これハイボールにしようっと。炭酸買ってくるね。大家さん、炭酸ないでしょ」
「決めつけんなよ」
「はあ、そうでした。ハイボールという呑み方がありましたねえ。はい、ありませんよ炭酸」
「ついでに氷も買ってこようか。冷蔵庫の氷よりンまく呑めるかもでしょ」
「ああ、そうですねえ」


丸っこい身体で身も軽く、というんでしょうか。返事を待つ様子もなく、勝手知ったる他人のわが家。
サッとマスクをし直しまして、大家さんのサンダルつっかけてそそくさとマルちゃんは出て行きましたねえ。楽しそうではあります。

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「ところで、どうですか棒さんの方は。コロナの生活」
「はあ、もうね、慢性疲労っていうんですかね……」
「はっはっは、そうですか。あなたもそれだけ年を取ってきたってことなんだねえ」
「ん~。そんなところですかね。うん、これ、忍、イイですね」
「ん~。ちょっと変わった風味です」
「ビン内熟成。ンまいです」
「ん~。イイかもですね。あたしはね、誰かと呑むのはかなり久しぶりですからね、それだけでもンまい気がしますよ。はっはっは」
「あそこの焼酎バー、行ってないんですか?」
「どこにもですよ。この、マスクっていうのが、どうにも苦手でね。外に出ません」
「はあ……。それはそうと、この前メールで送ってもらった写真」
「ああ、はやぶさ2のカプセル」
「あれ、ここから撮ったんですか?」
「いいええ。あの写真は俳句仲間から送ってもらったのを転送したんです。ここからじゃまともに夜空なんか見えませんから」
「あれ? 大家さん、俳句とかやってましたっけ?」
「やってるって程でもないけどね、ずいぶんになりますよ。今、はやぶさ2の句をひねろうかと考えているトコです」
「ほおお。でも、快挙ですよねえ、はやぶさ2はねえ」
「なにせリュウグウから帰ってきたんですから、とんでもないことですよ。アッパレです」

 


さて、大家さんと棒さんはストレートでシングルモルトをクイックイッとやりながら、はやぶさ2の話題に花を咲かせておりますが、
マルちゃんが戻ってきてからのこの先のお話はまた次回ということで、今回はここまででございます。


お付き合い、ありがとう存じます。


では、また「その2」ということで、よろしくお頼み申し上げます。


おあとがよろしいようで。

 

<マルちゃん棒さんシリーズ>

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