＜文字落語 コロナ禍にリュウグウからの玉手箱 の一席＞
「酒に別腸あり」 「金谷酒数１」 「金谷酒数２」で登場いたしましたマルちゃんと棒さんの話。「その1」に続きましての2回目でございます。
棒さんと大家さんはマルちゃんの帰りを待ちながらも、サントリーオリジナルシングルモルトウイスキーの“謎”、忍バージョンってのをストレートで満足気にやっております。
話は、はやぶさ2の快挙について盛り上がってきたところです。
「飛んで行ったのは6年前でしたっけ？」
「そうでしたね、2014年の12月でした。別にカメを助けたわけでもないのに、リュウグウ目指して飛んで行ったんですねえ」
「ははは。それにしてもねえ、はるか遠いところに居るはやぶさ2を、ずいぶん長いこと、6年もコントロールしてるって、日本の技術もたいしたもんだと感心します」
「まあ、自分が何をお手伝いしたってわけじゃありませんが、日本人として誇らしい気がしますね。ホント」
二人で“謎”の忍バージョンを満足気に楽しみながら、はやぶさ2の快挙をアテに気持ち良く頷きあっておりますね。
と、ガサガサとコンビニ袋の音をさせながらマルちゃんが帰って来まして、
「♪ウイスキーが、お好きでしょ～」
気分良く鼻歌が出ています。
「どうもどうも、お使いだてして申し訳ないですね」
「エコバッグ持ってきてなかったから、久しぶりにコンビニ袋。はい、これ。炭酸もいろんな種類があったから、いろいろいっぱい買ってきちゃった」
「へええ、強炭酸ねえ」
「♪それで、いいの、今は～」
マルちゃん、相変わらず好い調子のまま、手慣れた動きでハイボールを次々に作っていきます。
って言いましても、グラスにコンビニのダイヤアイス入れて、大家さんの“謎”注いで、コンビニの炭酸水注ぐだけなんですけれどね。
でもあれです。静かな部屋の中「シュワー」という炭酸のはじける音が、そのンまさを、爽やかさを予感させまして、期待感マックス。
三人ともニコニコと改めて乾杯です。
「ああ、やっぱりイイわねえ。ハイボール、サイコー」
「コンビニの炭酸もナカナカなもんですねえ。ンまいです」
「ところで、なんでリュウグウって名前になったんですかね？ あれは、あの小惑星は」
「リュウグウって名前はですね、確か2015年だったですかねえ、決まったのは。それまでは1999 JU3って言ってたんですよ」
「なんの話なの？」
「はやぶさ2」
「ああ、大家さん詳しいもんねえ」
「つまりはやぶさ2が飛びたった時にはリュウグウではなかったんですよ」
「日本だけの名前なんですか？」
「いえいえ、JAXAが公募して決めた名前ではありますがね、ちゃんと国際天文学連合ってとこで認められているんですよ」
「おと姫さまの竜宮城からとったの？」
「そうでしょうね。それでこの前日本に到着したカプセルは玉手箱ってことになるんですね。浦島太郎さんはいませんがね」
「あらイイわね、玉手箱」
「この前のニュースでカプセルからガスを検出したっていってましたね」
「はい、そうでしたね。リュウグウはイトカワと違って水の成分があるかもしれないって言われていますからね、それに関連したガスの期待は出来ると思いますよ」
「ガス？ 宇宙の？」
「宇宙のガスというか、リュウグウのガスでしょうね。ガスそのものを捉えることが出来た可能性もありますが、収集したサンプルから発生したものかもしれません」
「玉手箱からガスなんて、やっぱり白くてモクモク出てきたのかしら」
「はっはっは、浦島太郎そのまんまかよ」
「JAXAの人たちがおじいさんになってしまうということになりますか。ははは」
「なにか凄いことが分かるようになるのかしらね」
「それはもう、大いに期待するところですね」
「玉手箱のガスとかね、なにか、この地球上に無いものってことなんですよね」
「その可能性は大いにあります。この地球とは何の関係もなく存在していた小惑星ですからね。3億キロの彼方からの玉手箱です」
三人とも何となく上目遣いになりまして、頭の中のウチュウをぐるぐるしております。
「その玉手箱の、っていうか、宇宙のガスがね、この新型コロナウィルスをね、やっつけてくれたりしませんかね。人類にとっての正義の味方。そんな宇宙ウィルス」
「あ～イイわね、それ。竜宮のおと姫さまが玉手箱をプレゼントしてくれて、それでコロナをやっつけてくれるの。期待しちゃう」
「なるほどなるほど。そんなうまい具合になってくれると、みんな助かるんですけれどねえ。ウルトラマンは来てくれませんかねえ」
まあ、三人とも“謎”が回ってまいりまして頭の中もナゾになってきているのかもしれません。
なかなか実感できない宇宙の不思議に、思考が飛んで行ってしまっています。
棒さんがいち早く現実に戻ってまいりました。
「玉手箱じゃないですが、前にタバコがコロナに効果があるって話が出回りましたね」
「ええ～？ そんな話あったあ？」
「はいはい、ありましたね。2020年の春ごろフランスだったですかねえ、ネットで発表されて話題になりました」
「タバコがコロナに効くの～？」
「いいえ、すぐに否定されました。根拠が何もないってことでね」
「そうですよねえ、やっぱりねえ」
「タバコは知らなかったけど、お茶のカテキンは効果があるって聞いたわよ」
「お茶？ って緑茶のこと？」
「ああ、カテキンの殺菌効果はインフルエンザに対しては確かめられているらしいですね。そのウィルスを不活性化させる仕組みがコロナにも効果があるんじゃないかというのは、期待されていることらしいですね」
「ほう、そうなんですか」
「今思ったんだけどさあ、タバコの煙って玉手箱の煙みたいにコロナをやっつけられないのかなあ」
「おいおい酔っぱらったのか。玉手箱のガスがコロナをやっつけるってのが既成事実になっちゃってるじゃんか」
酔っ払いが酔っ払いをたしなめようとしておりますです。
「あれ～？ 効果ないんだったっけ？ さっき効き目あるって言ってたじゃん」
酔っ払い同士のたわいもない話っていうのは、こんなもんなんですね。
「ホントにねえ、何か画期的にコロナの影響を解決してくれるものが出てきてくれるとイイんですがねえ」
「でもね大家さん」
「はいはい」
「大家さんとこでは玉手箱からたいそうなプレゼント出たじゃないですか」
「なに言ってんだお前」
「どういうことですか、マルちゃん」
「これよ、これ」
ハイボールのグラスを高く差し上げて、ダイヤアイスをカラーンと鳴らすマルちゃんであります。
「これは、あれでしょ」
「ああ、サントリーオリジナルシングルモルトウイスキー」
「謎、忍バージョン、ですね」
「お前にしちゃ上出来。確かにこれは宝物レベルかもなあ」
「ビン内熟成ですしね」
「違うわよ、そうじゃなくって」
「あんっ？」
「ウイスキーもそうだけど、これよ、ハイボール」
「ハイボールが？」
「二人ともストレートかロックでしょ、いつも」
「ええ、そうですね」
「でもハイボールがンまいでしょ、これ」
「うん、確かにね」
「だからね、アタシがエライのよ、凄いの」
「だから何言ってんだよ」
「もう、あんたはホントに鈍いんだから。大家さんはもう分かったわよね」
「は、はあ……」
「あのね、あたしがおと姫さまってこと。玉手箱から出てきた宝物を、おいしくしてさしあげましたってことよ」
「あはは、な～るほど。さすがマルちゃんです」
「おほほのほ」
「ば～か」
「さ、もう一回乾杯しましょ」
「カンパ～イ！」
はあ、なんともお気楽極楽な酔っぱらいたちでありました。平和でイイですけれどね。
マルちゃんみたいな人が居ますとね、こじんまりの家呑みでも、気分は晴れて、ストレス解消になりますようで。はい。
ここで座りなおして正座させていただきます。
世界的に、新型コロナとの戦いに勝利のめどが早くたちますように。
ニコチンだろうがカテキンだろうが、あるいは紫外線だろうがオゾンだろうが、なんでもイイですから感染の脅威がなくなるように普及させていただきたく、ワクチンでも治療薬でもどちらでも、いち早く安全で有効な薬が開発されることを望みますね。
そして、ジャパニーズウイスキーの供給が早く通常に戻りますことを御祈念させていただきまして、お終いとさせていただきます。
ありがとうございました。
おあとがよろしいようで。
＜追記＞
2021年3月。サントリーウイスキー“白州”の販売が再開されるそうです。まず第一歩、でしょうかね。
＜マルちゃん棒さんシリーズ＞
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