< 動かすための人形なんだけど ずっと昔からあるサクラっていう手法のネット版っていう意味でも >
元イギリス軍警察官の「ロバート・ガルブレイス」は犯罪小説を書き上げました。
さっそく出版社に持ち込んだものの、あっさり断られてしまったそうです。
ガルブレイスは諦めることなく、他の出版社にアタックして、2013年、めでたく出版の運びとなった小説のタイトルは「カッコウの呼び声(The Cuckoo's Calling)」
日本でも2014年に講談社から上下巻で出版されています。
イギリスの新聞書評で、犯罪小説家のジェフリー・ワンセルが有望な新人作家が現れたとして絶賛。
大いに期待されたんですが、「カッコウの呼び声」は、さほど注目されず、2013年中に2回再版されているけれども、発行部数は1500だったとされています。
1回の発行部数が500ってことだったのかもですねえ。
アマゾンのランキングで4709位。
世間の注目は集まらなかったものの、やがて「カッコウの呼び声」について、妙な噂が流れ始めます。
ガルブレイスっていう作家は、元軍警察の男性だって言うが、女性のファッションについて、妙に細かく的確過ぎる描写表現なんじゃないか。
元、警官。しかも軍の警官と、女性のファッションが、どこで結びつくのか。
どうも、この男性作家の職歴は怪しいぞ。
噂が立った2013年、充分なネット社会になっています。
そんな噂が流れると、いろんなところでいろんな「調査」が行われます。
「カッコウの呼び声」のエージェントと編集者は、2012年に発売された「カジュアル・ベイカンシー」のエージェントと編集者と同じだぞ、っていう噂も流れます。
「カジュアル・ベイカンシー」の作者は、「ジョアン・ローリング」
そうですね、あの「ハリー・ポッター」の「J・K・ローリング」です。
「J・K・ローリング」っていうペンネームは、出版するに際して急遽付けられたものなんだそうです。
出版社がハリー・ポッターっていう小説の読者ターゲットにしていたのはイギリスの男の子たち。
作者が女性だと思ってしまうと、男の子たちはこの本を読まないかもしれないっていう、なんだかなあっていう理由からだそうですよ。
さて、エージェントと編集者が同じだっていう以外に何か共通項はあるのか。
J・K・ローリングが書いた大人向けの小説「カジュアル・ベイカンシー」と、元イギリス軍警察官、ロバート・ガルブレイスが初めて書いた「カッコウの呼び声」を、サンデー・タイムズが中心になってコンピュータ解析します。
そこまでするか、っていう気もしますけど、その結果が、書かれている言葉の類似性は、同一人物と思われるっていう、驚きのものでした。
サンデー・タイムズは早速、J・K・ローリングに問い合わせます。
「ロバート・ガルブレイスは、あなたなのではありませんか?」
「……。そですけど、なにか?」
とは、答えなかったと思いますけど、新たなペンネームであることを認めたんですね。
「カッコウの呼び声」アマゾンランキングは4709位からベストセラーにジャンプアップ。
ま、そうなるでしょうねえってことではあるんですけど、J・K・ローリングは新たなペンネームで出版したことについて、こう言っています。
「ロバート・ガルブレイスであることは、とても解放的な経験でした。 誇大広告や期待をせずに出版することは素晴らしいことであり、別の名前でフィードバックを得ることは純粋な喜びです」
読者、批評家から、ハリーポッターを書いた人としての先入観をを持たれない、純粋な感想、書評を確かめたかったっていうことなんでしょうね。
圧倒的なビッグヒットを持つ作者として、自己評価と世間の評価のギャップ、みたいなものを感じていたのかもしれません。
スティーブン・キングも、「リチャード・バックマン」っていう作者名でいくつかの小説を書いていますね。
別の名前で発表したら、どれくらいの部数が売れるのか確認してみたかったのがその理由、っていう噂があります。
スティーブン・キングは別のペンネームであることがバレてからも、リチャード・バックマン名義で何冊か書いていますが、J・K・ローリングも2014年「カイコの紡ぐ夢」2015年「コーモラン・ストライク」とロバート・ガルブレイスの名前で発表しています。
でももう、みんなに知られている名前になってしまっているわけですから、当初の目的は消えてしまっている状態ですね。
人気作家の2つ目のペンネームでしかなくなっているわけですもんね。
こうした「真実の姿」を求める成功者の気持ちっていうものには、賛同と批判の両方の捉え方があるようですけれど、全く正反対の行動をネット社会の中でしている人っていうのも少なくない現状があります。
実力を確かめたい、っていうんじゃなくって、これが正しいですよ、人気がありますよっていうことを、ネットの中で、匿名性を利用して演出する。
自分の意見の正当性や、支持が多いことを演出する「ソックパペット」って言われる人たちです。
靴下人形って意味ですよね。
飾っておく人形や、子どもが抱いて遊ぶ人形を「ドール(doll)」って言うのに対して、操り人形全般に対して言われるのが「パペット(puppet)」
靴下を利用して作るのが「ソックパペット」です。
大きな口をパクパクさせて遊ぶのが特徴で、児童劇や腹話術に使われることが多いみたいですね。
さらには自閉症の治療にも利用されていて、人間に話すことが困難な場合、じゃあ、このソックパペットに話してごらんなさい、って感じでアドバイスすることもあるようです。
誰でも簡単に作れるソックパペットで腹話術を演じることが、独り芝居として、自分しかいないのに、自分とソックパペットっていう別人格を演じるところから、ネット上に多重アカウントでアクセスすることをソックパペットって表現するようになったみたいなんですね。
ネット上のソックパペット腹話術は、自分の意見に対する多数派工作や、絶対的支持者のなりすましに利用されていることが多いので、ネット管理者から、しばしば不正使用として指摘されることがあります。
ブログやTwitterに見られることが多いそうなんですね。
自作自演で自己評価のアップ。
そうすることで、ブログやTwitterのページヴューが増えて、自己利益、金銭的な収益につながるのかもしれません。
収益につながらないとしても、ネット世論の操作に成功するかもしれませんね。
ネットの中って何でもアリではあるんでしょうけれど、偽装した方がもてはやされるようになるっていうのは、なんでしょ。
全世界ネット民のリテラシーっていうか、レベルが低いんでしょうかね。
ソックパペットって本来的には、身近な芸術作品なはずなんですけどね。
セサミストリートの登場人物(?)たちは、マリオネットとパペットの組み合わせで「マペット」って言うんだそうですけど、彼らってソックパペットの発展系ってことなんでしょねえ。
ああいう、のほほんなキャラクターたちに育てられた人たちが、ソックパペットなんて呼ばれるようになってしまっているんだとしたら、ホント、なんだかなあです。
自分のブログに対して、ソックパペットを使って何かしらの意見をあげている人、ソックパペットって呼ばれるような人って、ホントにいるんでしょうかね。
ネチケット、とかいう概念もありますけど、そういう問題っていうか、レベルじゃないのかもですけどねえ。