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【ヨーコさんの秘密】散文の書き方を考える その7

< 港のヨーコ、阿木燿子群ようこ岸本葉子、忘れちゃいけない山口洋子平松洋子(敬称略) >

ブログ記事、小説、シナリオ、エッセイ。
散文を書く、書き続けるっていうことについて、いろいろ考えてみる7回目です。


町中華のカウンター。背中からテレビコマーシャルが聞こえてきます。


「あんた、ニデックって、なんなのさ!」


あ~ん? どういうコマーシャルなん? って思っていますと、
「覚えた?」


ん~。振り返って見てはいませんので、どういうシチュエーションでのセリフなのか分かりませんけれど、名前を憶えて欲しいっていうコーマーシャル、なんでしょね。


あとから調べてみますと、京都の「日本電産株式会社」っていうところが、2023年4月1日から社名を「ニデック株式会社」に変更したんだそうで、そのコーマーシャルだったんですね。
テレビをお持ちのみなさま、もう見てますでしょうか。


あのコマーシャルの曲、1975年のヒット曲、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」ですよね。


斬新でカッコイイ曲でした。歌、っていうより宇崎竜童さんの「語り」が渋かった。


ご存知、阿木燿子さんの作詞。


阿木燿子さんご本人が歌の中の「港のヨーコ」なのかどうかは謎ですが、歌の中のヨーコは「髪の長い女」なのでした。


でも、テレビで見た阿木燿子さん本人に髪の長い印象はありません。ま、髪は切れば短くなりますから、決定的な断定の材料にはなりませんですけれどね。

 

 

 


♪髪の長い女だって


♪ここにゃあ、たくさんいるからね


っていうあの歌です。


♪あんた、あの娘の、なんなのさ


っていう決めセリフを
「あんた、ニデックって、なんなのさ!」
ってことにしたニデックのコマーシャル。


宣伝担当者はダウン・タウン・ブギウギ・バンドのファンなのかもですよね。


作詞家、阿木燿子さんには「わたし歳時記」「まぁーるく生きて」などのエッセイがあります。エッセイストでもあるわけですね。


ってことで、今回はエッセイ、エッセイストについて考えてみます。


1954年から続いている日本エッセイスト・クラブ賞の受賞者には圧倒的に男性が多いんですが、実際に読まれている、確実に読者を掴まえているエッセイストっていうと、個人的印象としては女性エッセイストの方が腑に落ちる感じです。


少なくない冊数のエッセイを読んできましたが、好きなエッセイストは明らかに女性の方が多いです。


しかも、好きなエッセイストが女性だってことだけじゃなくって、名前がみんな「ヨーコ」であることに気が付きました。ちとビックリ。


そこで、サブタイトルは「港のヨーコ、阿木燿子群ようこ岸本葉子、忘れちゃいけない山口洋子平松洋子(敬称略)」ってことにしたわけです。


今の時代、ブログも含めてエッセイを書きたい、書いてみたいという人がかなり多いんだそうです。
いつ頃からのことなんでしょう。


これもまた偏見なんですけど、男性に比べると女性の方にエッセイを書きたい欲求があるように、ネットでの投稿を目にしている分には感じます。
エッセイライクな記事は、発信者が女性である記事が圧倒的に多いからです。


読んだエッセイに対する反応も、やっぱり女性からの書き込みが目立つような気がします。


20世紀末ごろから、小説、シナリオ、エッセイ分野での女性の活躍が目立ってきたのは事実ですしね。


書く方も読む方も、女性の時代が続いているってことなのかもしれません。


女性に人気のエッセイとは何なのか。
どういうエッセイが成功しているといえるのか。


それらを探るにあたって、まずは、エッセイストを、ここでは無理矢理「ヨーコ」に絞って探ってみようと思います。エッセイそのものじゃなくって、それを書く人ですね。

 

 

 


群ヨーコさん。本名ではないみたいです。


本の雑誌社に勤めていた時に作家デビューした群さんですが、会社にいた男性の初恋の人の名前からヨーコにしたそうです。
どんな初恋エピソードを聞かされたのか、どんな女性を想像してヨーコを名乗ることにしたのか、興味のあるところです。


文庫本に付いているカバーの著者近影を見る限り、髪の長いヨーコではない群さんですが、ずっとショートカットなのかどうかは知る由もありません。
きのこ、マッシュルームとか呼ばれたりすることもあるそうですけれど。長い髪はイヤ、というタイプなのかしらん。


女性からの人気が高いっていう評価、エッセイばかりじゃなくって「無印」シリーズや「れんげ荘」シリーズの小説も、やっぱり同性からの支持を受けているんでしょうね。


デビュー当時は世の中に対して、特に男性に対してコンニャロ、バーロー的な内容のエッセイが多かった印象ですが、最近の「れんげ荘」の主人公を見ると、なんと、オットナア、な感じになった気がします。


とても文章の上手い人ですよね。


人との適切な距離の取り方の出来る人。なにより笑わせてくれるユーモアセンスが抜群のヨーコさんです。


岸本ヨーコさん。東大卒の経歴を持ち、美人エッセイストとして知られています。


この人も本名じゃなくって、自身のデビュー作「クリスタルはきらいよ」の主人公の名前なんだそうです。


女子大生の就職活動顛末の話でしたが、世の趨勢に馴染めなくても自分自身を貫いていこうという主人公に、自分自身の運命を委ねるような感覚があったのかもしれませんね。


幾つかの団体の委員長やら理事やら、大学の客員教授やら、世の中でのポジション、きっちりカッチリな感じがします。


ご自身の病気のこともあって、しっかり生きていこうとする意志の確立されている人っていう印象です。この人も髪の長いヨーコ、ではありませんね。


山口ヨーコさん。エッセイストとしてより作詞家として有名かもしれません。


♪よこはま たそがれ ホテルの小部屋


♪くちづけ 残り香 煙草のけむり


っていう大ヒット曲の作詞家のヨーコさんです。


世の中へのデビューは東映ニューフェース。
やがて銀座のママとして有名になりましたし、直木賞作家でもあった。


時代もあるでしょうけれども、なんとも波乱万丈、多才な人ですよね。2014年に亡くなっています。


文章の上手さっていうより、実人生で見聞きしてきたこと、学んだこと、生き残っていくために「女」がしてきたことを、リアルに話してくれている印象があります。


もちろん虚構部分もあるんでしょうけれど、ペーソスが違う。なかなかマネは難しいでしょうね。


晩年のニコニコした笑顔が印象深い人ですが「オンナアタマ」の良い人なんだと思います。


合法的に力強く生きる女のチカラ。
なぜわざわざ合法的などと言うか。


それは、おそらく生きていく方法の、ぎりぎりの辺りまで踏み込んでいて、キワキワの世界を知っているだろうと思わされる記述が散見されるからです。


女優、銀座ママ、作詞家、小説家。そりゃあもうイロイロやらないと、こなせませんでしょ。


この人もまた髪は長くないですね。ニューフェイスの頃の写真を見ても長くないです。


平松ヨーコさん。これまでのヨーコさんの中では、ちと知名度は低いのかもしれません。


「野蛮な読書」以来のファンなのですが、食についてのエッセイが醍醐味でしょう。


世の中、クイシンボはたくさんいますけれど、なんだか店のテーブル、その食卓にいるような臨場感を、この人のエッセイは感じさせてくれます。


文章の上手さというものを感じさせないくらいのワザがあるんだと思います。


ま、天性、と言われればそれまでですけれど、名文というか、とても心地良いヴォイスの人です。
ヴォイスっていうのは声、言葉そのものじゃなくって、文体、のようなニュアンスです。


2018年暮れに出版された「そばですよ」は立ち食いソバの店を巡るエッセイですが、このヨーコさんならではの文章で、楽しく、お腹が空きます。


選ぶ題材の巧さもあるのかもしれませんね。なにせリーズナブルな食べる楽しみを紹介してくれています。
本の雑誌で連載中のコーナーはまだまだ続いていると思います。


「立ちそば」って言うらしいですね。


このエッセイに書かれた店のうち何軒かは行っています。食べてます、ンマイです。
読んでから行くと、店の様子や店主の行動に、お、ホントだ、という感じでニンマリしてしまいます。


書かれた文章もンマイわけです。


書かれていることを信用すれば、酒席での話はグダグダになることなく、女性らしく爽やかです。
グデングデンを望む酒呑みなんかとは一線を画している姿勢は、老若男女に支持される要因でしょうかね。


気取りを感じさせず、凛とした感覚を失わない文章。


食事についてのエッセイは、どのヨーコさんも書いていますが、平松のヨーコさんに一票。


著者近影。またまたこの人も髪の長いヨーコさんではないです。


それぞれのヨーコさんのエッセイ作品は、当たり前ながら別々の個性を放っています。


エッセイストとしての共通点はというと、ショートカットであること。というかロングヘアではないこと。
それって重要?


ん~。何の関係もないような気も、もちろんするんですが、女の人の髪って、色々、ポイントでしょ。


世間に対する自分自身の姿を、どう選ぶのかという点については、無視できない要素、である可能性もなきにしもあらず、じゃないでしょうか。


男がヨコハマ、ヨコスカに追いかけるヨーコの髪は長いけれども、そうでない、ショートカットのヨーコは自立している、とか、そういう意味ではないんですけれどね。


ふと気が付くと、一時期より、髪の長い女の人って、少なくなっている気がします。


働く女性が多くなったから?
髪の長い働く女性も居ますけれどね。髪の長さで世相を云々することに意味はなさそうです。


エッセイを書くのに邪魔になるっていうものでもないでしょうしね。


今あげてきたヨーコさんたちの中で「エッセイの書き方」っていう、そのものずばりのタイトルの本を書いているのが岸本葉子さんです。


2010年に出された本です。この著者らしくロジカルに書かれた良い本。おそらく、スンゴク真面目な人なんだと思います。


このエッセイの書き方本を書くにあたっての裏話。


恩のある人からの依頼で、大学で90分×4コマの講義を受け持つ仕儀となり、プレッシャーで胃潰瘍になってしまった。
それでもどうにも断れないことになって、仕方なく1コマ90分用の授業ノートを作る。


1コマ分に12時間以上かけて、合計4コマ分の4日間の苦闘。


ノートが完成した時に心境に変化が起きて「転んでも何かをつかんで立ち上る」っていう意識で、この本が出来たのだそうで、出版された本を読む側としては有難いことなのでありました。


ご本人としては胃を痛めながらの作業で、必死の思いだったし、しんどかったということを述べておられるんですけれども、反面、この「エッセイの書き方」っていう本は4日間で書き上げたものだっていう事実も明かしてくれているわけです。


ちゃんとしたボリュームの本です。初稿の完成度が、そもそも高いということなんでしょうね。
さすがプロだなあって思うところです。


なかなかそんなスピードで書けるものではないですよね、実際のところ。


そんな岸本葉子さんの言う、エッセイの基本要件は、


・自分の書きたいことを、


・他者が読みたくなるように、書く。


っていうことに尽きるんだと思います。


ズバリ、ピシャリとエッセイを書くことの肝が書かれています。


裏話にあったように、講義原稿が基ですから噛んで含めるような文章ですし、4日分で4章構成。上質な書き方本になっています。


ただし、読者としての我々は大いに考えてみる必要がありそうです。


「自分の書きたいこと」
こう言われると、何か明確な物があるような気持ちになりますが、どうでしょうか。何か明確に自分の書きたものを言い表せますか。


その「自分の書きたいこと」は「一般読者の望むもの」である必要もあるんですね。


常日頃からの「エッセイ目線」みたいな感覚が求められるっていうことなんでしょう。


エッセイとは何を書くのか。


答えは「自分の書きたいこと」ではあるのですが、この言葉を、どのように受け止めて、どのように実現していくか。


簡単ではなさそうですね。この本では1章を割いて書いてあります。


「他者が読みたくなるように書く」っていう部分に残りの3章をあてているのですが、実にテクニカルなノウハウが書いてあります。


あとがきに岸本葉子さんは赤裸々に述べています。


「伝わる文章、読まれる文章を書く上でのヒントに、この本がなれば幸いです。儀礼的に言えばそうですが、ホンネはあんまり身に着けてほしくない。誰もが不特定多数に向けて発信できる今の状況は、エッセイを業とする者にはひとつの危機です」

 

 

真剣に自分の頭の中の出来事を反芻しながら書き表した「エッセイの書き方」っていう著作。


両刃の剣。になることは、書く段階で充分に理解できていたことでありながら、いざ書き上げてみると、自分に降りかかる脅威が現実味を帯びて迫って来る。っていう意味なんでしょう。


こうした内情についてさえも正直に書き表す作者なんですね。凄い一冊だといえます。
凄いヨーコさんなわけです。


エッセイだけじゃなくって、文章を書くっていう行為に携わる人は一読の価値ありだと思いますよ。


これからエッセイを書いていこうって考えている人は、岸本洋子さんのこの覚悟を、実績を上回ろうとする意識がどこかに無いと太刀打ちできませんね。


ノウハウ本でありながら、やれるものならやってみなさい、っていう挑戦状としての性格をも読み取るべきでしょう。

 

 

 


こうして見てきた5人のヨーコさんたちはそれぞれ、井戸端会議のヒロイン。


ヨーコさんが話し出せば、誰もが耳をそばだてる。
頷きながら聞いて、くすりと笑う。う~んと唸る。何だかお腹が空いてきたと唇に力を入れる。


自分にだって書けるはず。丹田に力を入れてキリリと考える。さあ、書いてみましょう。


本名がヨーコの人もいましたが、ペンネームとしてヨーコを選んだ人もいる。


読むことからでも、書くことからでも、まずは行動ですね。


エッセイを書くにあたって、エッセイを世間に発表するにあたって、ペンネームを「ヨーコ」にすると、何かいいことが、……。かも。


でもやっぱり、ペンネームより、髪の長さより、エッセイの中身、でしょねえ。


さて、男性陣はどうしましょうかね。髪、伸ばしてみる?
いえいえ。そう、「あんた、あの娘の何なのさ」に応えることです。
「???……?」

 

< いろいろ考えるです >
【考えてから書くか、書きながら考えるか】散文の書き方を考える その1
【神サマの集まり過ぎ?】散文の書き方を考える その2
【オノマトペの実力】散文の書き方を考える その3
【熟字訓と、その周辺】散文の書き方を考える その4
【書くために不可欠な読むチカラ】散文の書き方を考える その5
【マクガフィンって?】散文の書き方を考える その6

【ビート・ザ・スナフキン!】散文の書き方を考える その8

【フィクションを読む】散文の書き方を考える その9

【タイトル、この悩ましくも決定的なもの】散文の書き方を考える その10

【リライトとブラッシュアップ】散文の書き方を考える その11

【読む楽しみ、書く楽しみ】散文の書き方を考える その12

【プロット】散文の書き方を考える その13

【面白い小説って、どんなの?】散文の書き方を考える その14

【物語の主人公とはナニモノなのか】散文の書き方を考える その15

【ライターズ・スピリット】散文の書き方を考える その16