<路上販売の優等生たちはどこへいってしまったのか>
一頃までは路上販売って、どこにでもけっこうありましたね。
アクセサリー、雑貨、野菜、そしてラーメン、タコ焼き、磯辺焼きだとかの軽食の屋台なんかも、けっこうたくさんありました、並んでました。
なかでも魅力的で人気のあった路上販売の代表みたいなのは「ポン菓子」「天津甘栗」の二つではないでしょうか。
どこにでもあったという意味で。
ポン菓子はかなり早めにいなくなってしまいましたね。
路上販売というより移動販売という形態が多かったように記憶しますが、今のように車ではなく、リヤカーでした。
街なかでリヤカー自体を見ることが、そもそも無くなって随分経ちますからね。
ポン菓子の改造されたリヤカーには、大砲の形をした焼き窯、みたいなものが据え付けられていて、奥の方が薪の火で熱せられていました。
大きな鉄の塊みたいな大砲でした。
お客さんが自宅から、米や硬くなった鏡餅だとかを持って行きます。
ポン菓子屋さんは、大砲のフタを開けて放り込みます。
で、フタをガッチャンと閉めて、大砲に取り付けられているハンドルをグルグル回すんですね。
どういう仕組みになっていたのか理解していないんですが、大砲内の圧力がどんどん高まっていって、ある決められた内圧になると、ドカーンと爆発音がして、フタが勢いよく開いて、ポン菓子の一丁上がり。
ポンなどと軽いイメージの名前でしたが、とんでもない、ドッカーン! でした。なので近所にリヤカーがやって来たことは、その号砲でだいぶ遠くから知ることが出来ます。
子供たちは無理矢理にでも米を出してもらって、駆け付けるわけです。
昭和で人気のふっかふかの米菓子でしたね。
砂糖やザラメを一緒に入れる場合もあって、なかなか人気のあるおやつだったのです。
駄菓子屋さんではカラフルなパラフィンに入って、今でも売っています。
もう一つの天津甘栗はつい最近、少なくとも平成の時代にはまだ見ることが出来ました。
天津甘栗の屋台というのは、リヤカーではなく、専用の立方体の枠組みの中に大きな鉄鍋を据えただけのものでしたね。
鉄鍋の中には丸みを帯びた小石がたくさん入っていて、どの石も大鍋でずっと煎られているからだと思うんですが、真っ茶色、というより黒光りしていました。
そこにまた焦げ茶色に光った大粒の栗が混じって、ごろごろと煎られているんですね。
機械じゃなくって手で、専用の杓子みたいなので石ごとガーラガラやるシステム。
どの屋台も赤いひらひらに天津甘栗の名前が黒く染め抜かれていました。黄色いひらひらもありました。
場所にもよるでしょうけれど、横浜中華街辺りでは、夏はチャイナドレスのお姉さんがニコニコしながらガーラガラやっていましたが、冬になると、分厚いダウンを羽織ったおじさんが、やっぱりガーラガラやりながら大鍋で暖をとっている姿がよく見られました。
年がら年中ンまい天津甘栗。
天津甘栗の人気は、なんといってもそのほのかな甘さにあったと思うんですが、もう一つ、大きな魅力がありました。
天津甘栗の屋台では、いつもたくさんの栗を大鍋の中でガーラガラかき回していましたね。近くに寄ると、なんとも香しい甘い匂いが、ほのかな煙とともに立ちのぼっていて、いったん見始めると、しばらくそこから離れがたくなったものでした。
ポン菓子と同じで、人を引き寄せる魅力があるんですよね。見た目と匂いと音と。
しかも、一度でも食べたことがあれば、硬い殻の中の栗の実が、殻のまま煎られているにもかかわらず、なんであんなに甘くなるのか。その秘密はどこにあるのか、不思議でしょうがないんですよね。
それを見極めようと、じっと見ている。
そんな感じでしたね。
たいていの屋台では、ただガーラガラやっているだけで、鼻が引き付けられるあの匂いは甘さというより香ばしさだったように思います。
ところが中には、なにか薄く甘い香りのする液体を、時々とろーりとろりとかけまわしている屋台もありました。
そういう屋台の周りは、かなり強烈な甘い煙が立ち込めていて、じっと見ていると、自分自身も甘く香ばしい匂いに包まれてしまったものでした。
それにしても、その謎の液体がどんなに甘いものであったとしても、それが硬い殻を通り越して栗の実まで届くとは思えません。
そして、液体をかけていない屋台と比べて、どっちの屋台の天津甘栗も、食べてみれば甘さに変わりはなかったのです。
液体をかけているところを見せないようにしているだけなんでしょうか。甘さは一緒。
納得できない不思議さでした。
で、あれからずいぶん時間が経過しましたが、調べてみました。
なんと、天津甘栗のあの甘さは、栗本来のもので、砂糖なんかでの味付けは一切していないんだそうです。
あれ? でも、なんか甘そうな液体をかけながら煎っているのを見たけどなあ、と思ってさらに色々探ってみました。
ダイレクトに説明している記述には出会えませんでしたが、どうやらあの液体は、薄い砂糖水で、煎っている栗が爆発するのを防ぐ目的と、栗の照りを出すためにとろーりとろりかけているらしいんですね。
栗に甘さを浸透させるものではないということです。
天津甘栗の甘さは栗本来の甘さ、といわれても、すぐには納得できなかったんですが、石焼きイモと一緒だという記述を見つけて、はは~んと理解できたような気がします。
小石と一緒に煎ることで、石から遠赤外線が出て、硬い殻の中までしっかりと火が通るという仕組み。
なかなか考えられた方法ですね。
中国では13世紀ごろからこうした方法で作られていたそうです。昔の中国ってホント、感心させられることをいっぱいやってくれていますね。
で、天津甘栗って名前なんだから、天津産の栗なのかというと、さにあらず。
北京近辺の名産なんだそうです。
天津という名前になったのは、輸出する際の貿易港が天津港だったから、なのだそうで、中華街で天津甘栗の屋台をやっていた中国人たちは、どんな気持ちで天津の名前を掲げていたのかなあとか、余計なことを考えてしまいました。
最近では日本産の栗を使った“天津”甘栗もあるらしいんですが、そもそもニホングリとは違うシナグリというのを使っているんだそうです。
日本産のシナグリ。
ニホングリは、堅い殻の内側で実にへばりついている薄皮がタンニンという成分によって密着しているので、剥きにくい。
これは実感していますよね。
栗ご飯を作るとき、栗を炊いて薄皮を剥くのは、ものすごく手間で、指が渋でギトギトしました。
シナグリにはそれがなくって、煎った栗の実から薄皮が簡単に剥けるそうなんですね。
天津甘栗を食べたことがある人なら、みんなこれも実感してますよね。
ペリッと向ける薄皮。食べたい気持ちを邪魔しない、楽しいものでさえあります。
まあね、天津甘栗の屋台は見かけなくなりましたが、店舗の中ではやっているところもあります。少ないですけれどね。
そうそう、コンビニやスーパーに「甘栗むいちゃいました」売ってますよね。
便利、ではありますが、なんかね、硬い殻を剥く手間というのが懐かしい気がしないでもない感じです。
この甘栗むいちゃいましたなんですが、一つひとつ、中国で手で剥いているというのは有名な話。
ありがたい食べものなんですよね。
最近、食べてます?
<天津甘栗の身体に旨い満足度>
甘栗のカロリーはそこそこ高いです。
ん~、なんとなく予想していたことではありますよね。ンまいものはたいていカロリー高いです。
甘栗は100gあたりだいたい230kcalだそうです。
袋入りの天津甘栗は、500gとかありますよね。1人で一気に全部食べちゃったりすると、1,150kcalになります。
農林水産省が発表している成人一日当たりの必要摂取カロリーは、女子で1400kcalから2000kcal、男子で2000kcalから2400kcal。
女子の場合は、天津甘栗一袋でほとんどアッパーになってしまう計算です。
比較的日持ちのする天津甘栗。数個ずつ、少しずつ楽しむのがイイようですね。
でもあれです。身体にイイこともあります。
栗は食物繊維、カリウム、葉酸が豊富で、代謝をあげて、塩分排出、体内アミノ酸の結合だとか、色々身体にンまいものでもあるんですね。
一気食いとかしなければ、ダイエットやデトックス効果が望めるようです。
ンまくいただきましょう。
<天津甘栗の心に旨い満足度>
むいちゃいました、も悪くないんですけれどね、やっぱり、自分の手でチマチマ剥いて、指先をちょっとギタギタさせて、数個、食べるのが、懐かしさもあって、心の満足感が高くなるのでは、と思います。
ンまいと知っているものをニコニコ食べるのは、精神衛生上イイこと、なんじゃないでしょうか。
<天津甘栗の酒のアテ満足度>
これ、いけます。案外イイです。
蒸留酒が合うと思います。
スコッチ、バーボン、焼酎、泡盛、合います。
数個、ね。
ま、酒のアテでパカパカ食べる人も居ないでしょうけれど。
<天津甘栗の酒の〆満足度>
どっちかというと、お菓子よりの食べものですからね、〆にはちょっとね。
ま、止めはいたしませんが。はい。
<天津甘栗の屋台 どこにあります?>
天津甘栗の屋台は中華街でもすっかり見かけなくなったんですが、近くにやっているトコ、ありますか?
前は近所の中華屋さんが、店の前に屋台を置いて売っていたんですが、数年前に、その中華屋さんごと無くなってしまいました。
屋台で、大鍋から独特のシャベルみたいなやつで、これまた独自の紙袋に入れてくれる売り方の、あの天津甘栗。
近いトコじゃなくっても、ここでやってるよ、という情報、ありましたら、ぜひ教えてくださ~い。