< 関東ローカルどころか東京ローカルとさえ言われてしまう「ちくわぶ」とは何者なのか >
ちくわぶは考えた。
真ん中は空洞だけど、考えた。
なぜ自分は世の中にあまねく知られるようになっていないのか。
聞く話によれば関西方面では、自分の存在さえ知られていないというではないか。
しかし、改めて考えてみれば、一体全体、自分という存在について、一番知らないのは自分なのではないか。自分自身が自分自身であるがために、かえってその正体について思考が及ばないのではないだろうか。
やっぱり真ん中が空洞なせいだろうか。
ちくわぶは考えれば考えるほど、自分という存在がいったい何なのか、不安が大きくなりだした。
なにも有名になりたいわけではない。
今までは、そんなことに気を取られてクヨクヨするのはバカらしいじゃないかと、自分に言い聞かせながら、東京の空の下で過ごしていた。
しかし去年の10月10日。
ちくわぶは、自分という存在について、より深く考えざるを得ないことになってしまった。
この日は、ちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんと宮城県塩釜市の阿部善商店が、2018年に共同制定した「ちくわぶの日」だというのに、誰も、なんの動きもなく、いつもの日常が過ぎて行こうとしていることに気が付いて、ちくわぶは身体の真ん中が何かで詰まってしまったような閉塞感を覚えた。
夕方になっても、夜になっても「ちくわぶの日」の何事かが起こるような気配は何も感じられなかった。
ちくわぶは、無力感に囚われながらも、いつものごとく大好きなおでん風呂に浸かった。
いつもならふうっとため息をついて、至福の時間になるはずのおでん風呂タイム。
でも、その日はいつまでもクヨクヨと考えることを止められなかった。
そして、ぐんにゃり柔らかくなってしまう直前に閃いた。
みんな、自分のことを、ちくわぶのことを知らないんだ。
10月10日が「ちくわぶの日」だっていうことを知らないんだ。
みんなが「ちくわぶの日」を知らないっていうのなら、知らせる役割が自分にはあるんじゃないだろうか。
Jタウンネットの「ちくわぶ、食べてた?」っていうアンケート調査でも、日本全国でちくわぶを全く知らないっていう人が3割以上もいるらしい。
自分はちゃんとここに、しっかり存在ているのに、実は知られていない。
これはなんとも由々しきことではないだろうか。なにか、具体的に行動すべきことがあるのではないだろうか。
そうだ、日本全国行脚の旅に出よう。自分のことを、ちくわぶのことを知ってもらおう。
しばらくの間、大好きなおでん風呂には入れないかもしれないが、それは我慢しよう。
行く先々で「すいとん」と間違えられてしまうかもしれないけれど、そういう時こそ自分を知ってもらうイイ機会になるのだろう。
ちくわぶのことを、あまねく知ってもらう旅に出るのだ。
翌日、東京の空はすがすがしい秋晴れ。
出だしは上々。ちくわぶは勇んで北海道に飛んだ。
北海道では「42.1%」の人たちが、ちくわぶを食べていた。半数に届いていないけれども、知ってくれてはいる。見たことはあるけれども食べたことはない、全く知らないっていう人たちを抑えて、食べてますよっていう人の方が多いんだから、まあ、ひと安心。
でも、もうちょっと食べている人たちの数が増えるとイイんだけど。
「10月10日は、ちくわぶの日」をうったえかけながら、津軽海峡を渡る。
青森県、岩手県、秋田県では、見たことはあるけど食べたことはないっていう人が多かった。
岩手県の人たちは見たことはあるけど食べたことはないっていう人が、なんと100%。
でもこの100%っていう数字にメゲル必要はないだろう、と、ちくわぶは考える。
なぜならば、見たことがあるっていうことは、お店でちゃんと売られているっていうことだからだ。
数は少ないのかもしれないけれど、ちくわぶを食べている人がいるからこそ置いてあるのだろう。
アンケート対象になった人たちがタマタマ食べたことがなかったにちがいない。それだけのことなのだ。
落ち込まずに旅を続けよう。
宮城県、山形県、福島県の南東北3県は、半数以上が食べていた派で、おおむねちくわぶに親しんでくれているようだ。
ちくわぶの日を制定した阿部善商店は宮城県だっていうことを考えると、50%止まりじゃなくって、もうちょっとパーセンテージが欲しかったような気もするけれど、そこにこだわっている場合じゃない。
圧倒的支持派がいるはずの関東に入ってみよう。
茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、そして長野県、山梨県もおおむねちくわぶに友好的なようだ。
でも、埼玉県が83.9%、千葉県が70%、神奈川県が65.3%っていう高めの数字を示しているのに、本家本元と考えられていた東京都が60.1%っていうのはどうなんだろう。
いわゆる東京の下町地域では、普通に食べられているはずだし、ちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんも下町育ちだそうだ。
吉祥寺のハモニカ横丁にもおでんダネ専門の「塚田水産」もあるんだし、東京人にはもっとちくわぶを食べていただきたい、っていう気もする。
東京ローカルって言われている自分、ちくわぶなのに、東京の60.1%はこれから変えていかなければならないだろう。
やるべきことが何かあるはずだ。
関東圏との交流が盛んな新潟県は、見たことはあるけれども食べたことはないっていう人が一番多くって56%だ。ここでも、またまた、ちょっと悲しい。
新潟県と隣り合っている富山県は、なんと、全く知らないっていう人が一番多いんだそうだ。
ますます悲しい。
石川県、福井県、岐阜県、滋賀県は、見たことはあるっていう人が多い。
でも食べないっていうのはなぜだろう。
そして、さらに落ち込んでしまう旅が続いたのは、静岡県、愛知県、三重県、奈良県、和歌山県、大阪府、京都府、兵庫県、鳥取県、島根県、広島県で、どの府県も全く知らないっていう人が多かった。
関西圏は全滅だ。
西日本では、だいたい60%前後の人がちくわぶを知らないんだそうで、日本のロジスティック、大丈夫なんだろうかって余計なお世話の心配をしてしまう。
こういう状況の中で、途中の広島県は、見たことはある人が多いっていうのに救われるような気持ちになる。
でも食べてはいないんだなあ。
四国は香川県、愛媛県がまったく知らない。徳島県、高知県が見たことはある。
九州に渡る前の山口県が、食べてますよっていうことで、久しぶりにニッコリできた。
宮崎県は見たことがない。でも鹿児島県は食べてますよっていうことで、日本の食文化圏もなかなか複雑なんだなあって思う。
沖縄県は見たことはある。
っていうことで日本全国を回ってみて、全体としては、
食べてるよが、45.1%。
見たことはあるよが、23.4%。
全く知らないよが、31.5%。
ん~。日本人の半数以上がちくわぶを食べたことがないっていう現実を理解したうえで、ちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんのさらなる頑張りに期待しながら、ゆっくりおでん風呂に浸かることにしよう。
丸山晶代さんの言うように、ちくわぶの食べ方、ちくわぶ料理のバリエーションが知られていないことが、これまでの認知度の低さにつながっているものだ、っていうことが言えるのかもしれない。
日本全国のみなさん、ちくわぶは、舌だけで味わう食べものじゃなくって、噛み応え、口の中全体で楽しむべきリーズナブルな万能食材であることを知ってくれたら嬉しい限りなのであります。
ま、関東ローカル、東京ローカルであっても不満はないんですけど、ちくわぶは、おでんだけじゃないってことです。
しかもですね、ちくわぶは切ってそのままおでん風呂にいれるんじゃなくって、しっかり下茹でしてから鍋の中へっていうのが鉄則なんです。
表面だけグズグズで、中が粉っぽいのは下茹でしていないからなんですよ。
そしてですね、下茹でしたちくわぶは、めっちゃいろんな料理に向いているんです。
酒のアテにもサイコーです。
簡単に作れて、カリッと、モチッと旨いのが「ちくわぶのから揚げ」
これは、ちくわぶ好きには知られたレシピです。
まずテキトーにちくわぶを切ります。いろんな形に切るのが面白いです。
切ったちくわぶを下茹でします。レンチンでもオッケー。
しょう油、酒、好みの調味料に漬け込みます。
汁気を取って片栗粉をまぶします。まぶす片栗粉に味付けしておくのもイイ感じです。
揚げれば完成です。
揚げ時間を調整しながらちくわも同じようにから揚げにして、いっしょに盛り付けるとけっこう満足なアテが出来上がります。
「ちくわぶの明太クリーム」もイケますよ。
一緒にキノコだとか、ブロッコリー、カリフラワーとかを入れると完璧な一品料理です。
クリームの味付けはお好みで。
「豚バラちくわぶ炒め」は、けっこうボリュームのあるアテになります。
何人かで突っつくアテ。
もちろん独り呑みにだって、バッチリです。
魚肉ソーセージだとか、キムチと一緒にっていうのもイケます。
間違いないです。おでん以外の方がアテとしてはイケてるんです、ちくわぶ。
下茹でです。
下茹でさえしておけば、どんな料理のときでも、優秀なちくわぶは味滲みになります。
ギザギザで表面積の多いちくわぶです。
クタクタに煮込んでもまた、ふにゃっと、もちっとで、旨いんです。
こんなにそばにいるのに、なんでみんな知らないの!?