<実は無限といってイイほどのバリエーションだったいつもの「わき役」 みそ汁はエライやつ>
ほとんど毎日外食の生活をずっと続けておりますが、時々ふっと「旨いみそ汁が食べたいなあ」という気持ちになることがあります。
みそ汁が「飲みたい」ではなくって「食べたい」
なんかね、ガッツリ系のみそ汁です。ごはんのお供として静かに横に並んでいるみそ汁じゃなくって、ドドーンっと主役を張っちゃうヤツ。
御御御付(おみおつけ)とか、お吸い物とか、そういうオジョーヒン系じゃない「ざ・みそ汁」
なんでそういう気持ちになるときがあるのか考えてみました。
昼と夜の外食で、同じ店に続けていくことはマレなんですね。昼にカレーを食べたら、夜は蕎麦にするとか、そういう感じの外食生活。
で、ちょっと振り返って考えてみますと、昔はほぼ同じ店に行って食べていました。夕飯は決まって「味好屋」っていう定食屋さんだったですね。とっくの昔になくなりましたけど。
そうなんですよ、改めて身の回りを確かめてみますと「定食屋」ってほぼなくなっています。
「味好屋」だけじゃなくって、ちょっと足を延ばして「藤屋」「池田家」朝4時からやっていた「銀亀」なんていう定食屋もありました。
「銀亀」なんて、どんなメシを食わせるのかって、客を不安にさせるネーミングセンスですが、じーちゃんばーちゃんがやっていた、魚がメインの定食屋さんでした。亀料理はやってません。
み~んなとっくになくなっていますね。
共通していたのは、どの店も個人商店だったことです。
個人でやっていた定食屋さんは、なんだか一気になくなってしまった感じがします。
客としては気付かない、外食商売のパラダイムシフトがあったんでしょうかね。
推測として思い浮かぶ要因は、牛丼の人気が爆発したことでしょうかね。
吉野屋が出てきて、最初の頃は街の定食屋といいバランスをとりながら外食産業のニューウェイブとなった牛丼は、やがて松屋が出てきて、吉松戦争なんて言われた時代がありました。
その単価競争で、ワリを喰ってしまったのが街の定食屋だったのかもしれません。1食390円、290円とかでやられたら、個人店では対抗しようもないでしょうからね。
いろんなメニューを提供する店と、牛丼に特化した店では仕入れからして工夫の仕様も違います。
牛丼同士の価格競争が、牛丼以外の外食産業に与えた影響って小さくないでしょう。
その牛丼業界事情も今では、すき屋がトップを走っているということで、ずっと熾烈競争なままなんですよね。
で、街の定食屋が一気になくなってしまった結果、みそ汁の姿も消えてしまった感じがします。
もちろん牛丼屋にもみそ汁はあります。あることはありますね。
松屋ではデフォルトで付いてきます。最近は行っていませんが、松屋のみそ汁は一応寸胴で作っていましたね。もやしと揚げのみそ汁でした。ごくたまに、玉ねぎだけのみそ汁っていうのもありました。
ま、充分満足ですけれど、いつも同じみそ汁です。当たり前ですけれどね。
チェーン店のお決まりのおまけの、みそ汁。味付けも具材もいっつも同じ。
吉野屋のみそ汁は有料です。注文する人もそんなに多くない感じです。
今は74円になっていますが、前は100円だったような記憶です。ワカメとふが入っているみそ汁。
吉野屋のみそ汁はけっこう残念な味の印象でしたが、今は変っているでしょうね。
牛丼並盛490円時代に経験したんですが、ファーストコンタクトは驚きでした。
吉野屋のみそ汁は給水機みたいな見た目の機械に、お椀をセットして、スイッチをポン。
そうするとジャーッって出てくる。みそ汁が、ジャーッ!
今では何でもない食品製造、配膳の機械化ですが、食べものが機械から出てくるの? って違和感を感じてしまいました。そんでもって残念な味。
その残念さは機械だからだろう、ぐらいに思っていましたけれどね。
たぶん、具入りの味噌を仕込んでおいて、お湯で溶かしながら、ジャーっていう仕組みなんだと思います。
でも、松屋ではご飯をよそうのが機械になっていますもんね。どんぶりにボタッって感じでご飯。なんだかなあ、です。
ごはんのグラム数をキッチリ計るってことなんでしょうけれど、客に見えないところでやればイイのに。
ま、外食チェーン店のみそ汁は、総じて評判のイイのは聞きません。
その昔、てん屋のみそ汁には客からのクレームが多数寄せられたっていう話も聞いたことがあります。
ま、味は個人の好みですからいろいろあるでしょう。とは言いながら、たしかにね、てん屋のみそ汁は、天ぷらに全然合っていないシロモノでしたね。今は変わっているでしょうか。みそ汁とは呼びたくないレベルでした。
個人の定食屋さんのみそ汁は、たいてい旨かったです。毎日、だし、味噌、具を変えていますしね。
それなので、同じ店に連日通っても飽きなかったんだと思います。きょうのみそ汁は何かん、っていう愉しみ。
この辺りはチェーン店が真似できないクオリティなんですけれどね、今の時代、そんなところに価値感を置いている客なんて居やしない、ってことなんでしょうねえ。
だからさあ、いろいろうるさいこと言うんだったら自分で作ればイイじゃん。ってことになるわけで、作りますよ。自分でみそ汁作るんです。ほんとに時々ですけれどね。
作るとなると大量に作ります。みそ汁というよりほとんど鍋みたいな感じ。
おかずになる具だくさんのみそ汁です。というか、みそ汁以外におかずは無しです。
パックのごはんと、パックのお新香。そしてラーメンどんぶりにいっぱいの具沢山みそ汁。
たまにですね、こういう一食を摂るのは満足満点です。日本人だなあって思います。ほっとするごはんってシンプルに幸せです。身体が旨いと感じるみそ汁。
主役のみそ汁が旨ければ、パックごはんも、パックのお新香も、旨いです。
出汁から作りますので、材料が必ず余ります。なので、一回作ると、具材を変えて数日どんぶりみそ汁の日々です。毎回旨いみそ汁が出来るわけでもありませんが、満足なレベルはキ―プ出来ています。
出汁が巧くとれれば、たいていの具材を旨く食べられます。
大事ですよね出汁って。
ちなみに町中華の「野菜炒め」には肉が入っています。あれは、言ってみれば出汁なんだそうですね。豚肉の出汁。なるほどねえって思います。
ヨーロッパ料理の出汁って、まあ、スープですよね。それを煮詰めたソースだったり。旨いですよね。旨いですけれど作るのに時間がかかります。家の台所で素人が作るにはちょっと無理があるほどの時間を必要とします。
ですが、日本のみそ汁の出汁は、あっさり作れます。というかあっさり作らないと旨い出汁がとれませんよね。
味噌は、普通の味噌を使うこともありますが、だし入りを使うこともあります。
だし入り味噌を使う場合でも、別に出汁をとって、出汁で溶きます。
出汁はホント大事です。入れると入れないとでは大違いです。
でもまあ、今売っているだし入り味噌は、しっかりしていますからね、わざわざ別に出汁を用意する必要もないといえばないかもしれません。好みです。
みそ汁に出汁は要らないっていう人も居ますけれど、そりゃあ、あれですよ。具によりますよ。具自体が出汁になっているみそ汁もたくさんあります。
豚汁を作るときには特に出汁に気を遣うこともないでしょう。さっきの野菜炒めの中の豚肉みたいなもんですね。
だし入りの味噌じゃなくたって旨い豚汁が出来上がります。
初めてだし入りの味噌が発売されたのは1982年。マルコメの「だし入り料亭の味」が最初だそうです。
まもなく40年の歴史ってことになりますが、日本人にとってのみそ汁ってことを考えますと、案外短い。つい最近のアイディア商品なんですね。意外な感じもします。
マルコメの分析では、80年代、この頃から共働き世帯が増えて、毎朝のみそ汁に出汁をとるという手間をかける時間が惜しくなったのでは、ということらしいです。なるほどですね。大いに頷けます。
出汁は手間です。っていうか料理は手間こそがイノチ、なんでしょうけれどね。
男女に寄らず、みそ汁に出汁という存在を知らないって人もけっこう居るらしいですからね。
自分で作ってみたら、なんだかしょっぱいだけなんけど、っていうことになるわけなんですが、具によりますよね。巧くいくときもあるでしょうけれど、豆腐のみそ汁に出汁の入っていない味噌だと、そりゃ、しょっぱいだけ、になってしまうでしょう。
具材に合わせて、味噌に合わせて、好みの出汁を作る。時間のある時にね、やってみると、日本的なしあわせ感を堪能できると思います。
日本の出汁にはめちゃめちゃ種類があります。味噌の種類も山ほど。それに具材のバリエーションを考えますと、ほとんど無限にありますね、みそ汁って。
出汁っていうと、「かつお節」「昆布」「しいたけ」が人気ですかね。
でも、もっといっぱいあります。
個人的に好きなのは「煮干し」
イワシの煮干しがスタンダードでしょうね。たいていのネコも好きですね。顔をひん曲げながらガツガツいきます。イワシの出汁は「とろろ」を延ばすのにも相性バッチリですよ。
イワシ以外にもトビウオの「アゴ煮干し」も有名ですし、サバとかサンマを使ったのもあります。
カツオ節もカツオだけに限られたものじゃなくって「マグロ節」「サバ節」「アジ節」「イワシ節」だとかもあります。
ソウダガツオを使った「ソウダ節」というのも普通のカツオ節と区別されていますね。濃厚な出汁がとれます。
味噌と具材に合わせた好みの出汁を見つけ出せると、ホッとできる食事を1つ、手に入れることになります。
忙しさに合わせて生きるのが当たり前になっている現代の我々ですが、ふっと離れて、自分の中の日本人を感じることが出来ると、なんか安心できますよ。
ちゃんとしたものを、ちゃんと食べるって大事です。みそ汁は心にも旨い日本食です。
最後に出汁の不思議な話。
冷たい海に育つ昆布ですが、暑い空の沖縄料理に欠かせない出汁になっていますよね。
流通ルートがどうのって話じゃなくてですね、旨いもんは、あっというまに全国に広がるってことでしょねエ。