< それだけでイイのです それだからイイのです 意味とか無くってイイんです >
効率の権化っていいますか、無駄なことはしないっていう強迫観念って、ビジネスシーンではそれなりに大事なことだとは思いますけどね、一日の仕事を終えて、吞む時間になったら、もうイイっしょ。
肩の力を抜いて、ほよよ~んってなって、バカばっかし言って無駄話で過ごす時間を持てるかどうかって、長い人生の中でとっても大事なことだと思いますよ。
看板降ろして、組織人からホントの自分になって、エンジョイニュートラルでっす。
大会社の看板はステータスでしょうしアイデンティティかもしれませんが、人間は会社じゃないですからね。
カウンターに3人しか座れない規模の焼き鳥屋さんでの話です。
ホントは7人が座れるL字カウンターなんですけど、皿とか、グラスなんかが並べられているんで、今は3人がけ。あとは4人がけテーブル席が3つっていう店内。
いつも先に埋まるのはカウンター席で、メンバーはバラバラですが、カウンター族はみんな独りで呑みに来る酒呑みの男女ですね。
その日はペケちゃんって呼ばれている、めっちゃアタマの回転の速い40代の独身女性と私の2人がほとんど同時に店に入りました。
店の中にはまだ誰も客はいません。
中肉中背で、いつもノーメイクの明るいペケちゃんがおしぼりで豪快に顔を拭きながら大将に聞きます。
「お通しはなんですかあ」
「ん、ああ、納豆巾着」
「じゃあねえ、しいたけとピーマン」
「あいよっ、野菜シリーズね。ピーマン、赤ピーマンあるよ」
「赤ピーマン? なにそれ」
「赤いピーマン」
どわっはっはっは! そりゃそでしょねえ。
「ぱうすさん、赤ピーマンって知ってる?」
「いや、知らんです。パプリカとは違うの?」
と、大将が串に刺す前の赤ピーマンをカウンター越しに見せてくれます。
「ホントにただ赤いピーマンなんだよね」
ペケちゃんが素早く反応します。
「ああ、ホントだ。パプリカじゃないね。あれかな、熟したピーマンなのかな」
「そだね、そんな感じ。だとするとさ、黄色いピーマンとかもあるのかな」
「熟すときに赤くなるか、黄色くなるかってことね。それはあるのかも。うん、あたし赤ピーマンにする。それとしいたけは茶色いやつでね」
「赤とか黄色いしいたけがあったら、そりゃ怖いね」
「毒きのこだよ、そりゃ」
どわっはっはっは!
はい、くだらないです。でもまあ、赤ピーマン1つですっかりラックスできます。これが無駄話のイイところでしょうかね。
トリ以外にもいろいろ、その時仕入れた野菜なんかも串に刺して焼いてくれる店なんですね。
ペケちゃんも私もその晩はホッピーでした。
厨房脇の焼き台といったり来たりの大将と、カウンター族2人のバカ話は続きます。
「そういえばさあ、昔、アタマがピーマンとか言ってませんでしたっけ」
「ああ、言ってたねえ。でもそれアタマだっけ」
「アタマじゃなかったらナニ?」
「話、がピーマンじゃなかったっけ」
「あ、そっか、そうっだったかも」
「アタマでも話でも、似たようなもんじゃん」
「ええ~、全然違うでしょ。アタマがピーマンっていうんじゃ、人格否定だもん」
「アタマって言ったのペケちゃんじゃん」
「そだっけ?」
ホッピー到着。ペケちゃんは黒、私は白。2人で少しずつ白と黒を入れてミックスホッピーです。
いつもそんな感じでカンパーイ、です。
「話がピーマンとか、そういうのよく考えるよね。すごいなあって思うわ」
「うん、世の中には無名なアタマのイイ人がいるわけですよ」
「そうですよねえ」
「ナスがママなら、キューリがパパ、っていうのもあったよね」
「ああ、それ、天才バカボンだっけ?」
と、焼き台から大声で大将が参加してきます。
「ほしいものリスト、やきいものショパン!」
「なに言ってんの? 聞いたことないわよ、それ」
「今考えたの?」
「いやいや、前にどこかで聞いたような気がするけど。知らない?」
「なんなのリストとショパンって、全然関係ないじゃん」
「ウォンテッドの欲しいものと、干した芋、の、ほしいものリストっていうのに、焼き芋っていうのをぶつけるからリストじゃなくってショパンってことでしょ」
「へええ、すごいじゃん」
「考えた人はね」
「あ、そっか、大将が考えたんじゃないもんね」
「オレがそんなのすぐに考えられるわけないじゃん」
「それもそうね。赤ピーマンだもんね」
どわっはっはっは!
3人ともテキトーに力が抜けて、穏やかな酒の場面になります。
「ぱうすさん、なんかないの? こういうの得意でしょ」
「ん~、うらめしや~、で裏がめし屋なら、表がパン屋」
「ブッブ~。それは却下です。面白くないもん」
「いや、面白いとかつまんないっていうんじゃなくって、無理矢理思い出してんだからさあ。うらめしや~」
「きゃはは、ぱうすさんの幽霊だっから全然怖くないかも」
「なんでだあ~」
どわっはっはっは!
ってなことでございましてね、こんなんで2時間ぐらい呑んでるんです。
バカバカしい、取り留めのない内容が、とっても酒に合うって言いますか、これでだいぶ力が抜けて切り替えができるってなもんでございまして、もう10年以上になるでしょうかね。
こんな感じの話をずっと続けているもんですから、やがてやって来るテーブル席のご夫婦なんかもですね、
「あっはっは。ごめんなさいね、聞こえてくると、つい笑っちゃうもんで」
なんてな感じで、加わって来ます。
「でもね、かたつむりってホントはアジサイってそんなに好きじゃないらしいよ」
「え、でも、そういうイメージでしょ。梅雨の時期になるとアジサイの葉っぱにはデンデンムシ」
「だけど、本人は好きじゃないんだって。このまえ言ってたもん、かたつむり本人が」
「どんなかたつむりよ、それ」
「並んで焼き鳥食べながらね、あじさいなんて好きじゃないんだけどねって、おととい、言ってた」
「でたな。ぱうすさんは、いろんな生き物と、話、し過ぎなのよ」
誰かがバカになって、ちゃんとノッテくれる人っていうのがいるもんでして、そういう人たちとの出会いがあれば、その店が行きつけになるって感じですよね。
バカセンスの合う人と合わない人がいるっていうのはしょうがないことですんで、バカを言って浮いちゃうような場合には、素直に河岸を変えましょう。
2022年秋、いよいよ第8波とかが本格的にやって来そうな気配になって来ましたけど、日本政府は特に行動制限を設けるつもりはないんだそうです。今のところね。
ま、政府の担当者が誰になろうと、そうしたこととは一切関係なく、コロナウィルスはまだまだ居座るつもりのご様子ですからね、個々人での自衛が肝心です。
感染しない方法なんて、いままでやってきたことを変更なくやり続けるしかないんでしょうけど、むしろ、精神的なストレスにやられないようにしようっていう思いが強くなってきましたですよ。
長く続いていますもんね。
どこに居たって、感染の危険性はあるんでしょうし、日本経済的にはインバウンド回復っていう方向に力を入れていくんでしょうからね、マスク生活には慣れたって言いながら、感染する可能性のストレスって知らないうちに気持ちの緊張を強いられている部分もあるんだと思います。
とは言いながら、秋花粉やインフルエンザ対策としてもマスクって一定の防御効果がありますもんね。
防御対策に新たな方法が見つけられない21世紀の世界ですから、このまま4年目のパンデミック突入っていうのも現実味を帯びてきてしまいました。
アメリカではマスクをしていると、外せって言われて嫌がらせを受けるなんてこともあるそうです。
個人の尊重ってことを大事にしているはずのアメリカ人も、実はパンデミックによって気持ちの部分がやられしまっているのかもです。
他人を尊重しない、他人の行動を批判する。このところアメリカの自由も揺らいでいる感じです。
海外のことはともかく、アルコール消毒、マスクぐらいしかコロナ感染対策がない日本の現実の中で、気持ちまでやられてしまわないように、バカ話を、無駄話をしに呑み屋さんに顔を出そうと思っているわけです。
バカセンスの合う人がいる店を、何軒か知っていますからね。
これが今の時点で、やれそうな防御対策です。気持ちの防御ね。
無理にバカ話をする必要なんて、もちろんありませんけれど、ピーマン話が最良の酒のアテです。
え? 話がピーマン?
むっふっふ。それはね、キミイ。修行が足りんのだよ、酒呑みの修業が。
キミの生活、誰かさんの「為すがまま」になってやしませんか。
どわっはっはっは!