< 2023年3月15日付け 福井新聞の報道記事を読んでちょっとね 思うことがあるであります >
記事の趣旨は、福井市自然史博物館で2023年3月18日から5月28日まで催される第88回特別展に、3月18日から4月30日の期間、ニホンオオカミの頭骨をガラスケースに入れて展示しますよ、っていうものなんです。
福井県鯖江市吉江町の民家に先祖代々伝わって来たっていうニホンオオカミの頭骨。
魔除けとしてその家の病人の枕元に置いたり、他家で病人が出れば貸し出したりして、実際に使っていたものなんだそうです。
記事からはいつ頃まで実際に使っていたのか、そういう記述はないんですけど、少なくとも福井県の内陸部、鯖江市では「オオカミ信仰」があったっていうことですよね。
江戸時代までは本州、四国の各地にあったそうですからね「オオカミ信仰」っていうのは。
ニホンオオカミの頭骨が、吉江町の民家から自然史博物館に寄贈されたのは2021年。
その民家っていうのはおそらく、地元の旧家で、そうしたものを保存しておく蔵がキチンとしたものだったんでしょうね。
その辺に転がしていたってもんじゃなくって、大事にしてた。んだと思われます。
第88回特別展のサブタイトルは「あつまれ! 福井の動物たち~リスからタヌキ、クマ、イルカまで~」
福井県内に生息する哺乳類の多様性とその魅力を紹介、そして人と野生動物との共存について考えていきたい、っていう主旨なんですね。
地元の生き物たちの歴史、人間との共生を考えましょうっていう普通の記事じゃん。
何の違和感もないどっ!
ってことになるかもですけど、気になったのは記事のタイトルだったんであります。
「先祖代々伝わるニホンオオカミの頭骨は本物だった 福井市自然史博物館が調査し1600年前後のものと推定、5月に展示」
福井新聞に限らず、ウェブに公開されている新聞記事は一定期間が経過するとサーバーから削除される傾向がありますんでリンクはしませんけれど、このままのタイトルです。
ま、いろいろ行き違いっていうのはあるものなんでしょうけど、ちょっとガッカリなのは展示期間が5月じゃないらしいことですね。
展示期間については、ちょっとね、ワンクッションあるんです。
福井市自然史博物館のホームページによりますと、
【訂正】二ホンオオカミ頭骨(国立科学博物館所蔵)の展示期間について配付したチラシの記載内容に誤りがありました。お詫び申し上げます。
誤:3月28日~4月30日
正:3月18日~4月30日
っていう事情が福井新聞の記事内容とは関係ないところであったんですね。
福井市自然史博物館が配布したチラシそのものが、プレスリリースにあたるのかどうかは分かりません。
特別展の開催は5月28日までっていうのはその通りなんですが、ニホンオオカミの頭骨展示は5月には行われていないようですよね。
展示期間が訂正されたのは開始日で、終了日は変わっていなくって、4月までです。5月じゃない。
いや、ここじゃないんです。気になったのはここじゃなかったんですけど、ちょっと調べてみたら、ん? っていう開催展示期間の不正確さがメッカッタ、ってことなんであります。
ホントに気になったのは「ニホンオオカミの頭骨は本物だった」ってところです。
本物だったって書いているっていうことは、ニホンオオカミの頭骨なんてイミテーションでしょ、って判断していたっていうニュアンスを感じますよね。
ニホンオオカミが最後に確認されているのは1905年のことだそうですから、もう100年以上前に絶滅したってされているわけで、普段の話題にのぼることもないですからね、知らなくたって何の問題もなく暮らしている現代の日本人ではあります。
今回展示される頭骨は関ヶ原の戦い、1600年ころのものだって先祖代々伝わってきたものだそうなんですけど、江戸時代、明治、大正、昭和、平成の時代を越えて令和に伝わっているんですから、凄いなあって思いますけど、記事を書いた人からしてみれば、んなのあるわけないじゃん。ニホンオオカミってなに?
みたいなことなのかなあって、いうところが気になったんでした。
ニホンオオカミって、今は完全に忘れられた存在、ってことなんでしょうか。
ニホンオオカミは絶滅なんてしていませんよ、っていう見解もあるみたいなんですけど、オオカミ信仰っていうのは今でも残っていますね。
少なくとも関東、荒川上流の秩父山地には「オイヌサマ」「大口真神(オオグチマカミ)」としてニホンオオカミを祀っている神社がいくつも残っているんですよね。
ですので、この埼玉県西部の人たちにはオオカミ信仰が知られているでしょうし、その地域の人たちからしてみれば「ニホンオオカミの頭骨」に対して、ええ~! ホンモノだったの!? とかいう感覚のほうが信じられないってことになるのかもしれませんよね。
こうして神様として祀られていたニホンオオカミが絶滅してしまったことについては、大きな疑問がぬぐえません。
狂犬病の発生が主な絶滅原因っていう説もありますけど、人間による駆除が主因だっていう説もあります。
生きていたニホンオオカミが「大口真神」の信仰地域、秩父に最後まで残っていたっていう記録もありませんし、最後の個体だってされているニホンオオカミが発見されているのって奈良県ですもんね。
秩父山地、鯖江市の他にも「オオカミ信仰」のある地域はたくさんあったらしいんですけど、神様として祀っていたニホンオオカミを駆除するなんていうことが、ホントにあったんでしょうか。
でも、そういう駆除っていうのがホントにあったかもしれませんねえ、って思うのは、日本の天才博物学者「南方熊楠(1867~1941)」が、民俗学者「柳田國男(1875~1962)」宛ての手紙に書いた内容をみると、もしかして明治政府が強制令的に、って考えちゃいます。
南方熊楠は、明治政府の「神社合祀」っていう政策に対して、逮捕されたりしながら反対運動をしているんですよね。
全国の神社に対する補助金を減らす目的で、いくつもの神社を一緒にする「合祀」によって、多くの神社が廃社になって、鎮守の森がどんどん伐採されていくことに、大反対したっていうことですね。
こうした反対運動を行っていくうえで、その当時は政府の高官を務めていた柳田國男に、なんとかならないのかっていう気持ちの手紙だったんでしょうね。
その手紙の中で南方熊楠はこんなことを言っています。
とくにこれまで神仏を拝み暮らしてきたわけではなく、科学の学問に邁進して私だが、「神社合祀」が始まってからは、神社、その環境保護のことに精を出しているのに、神社の関係者、氏子総代だとかいう当の関係者が、政府の言うままに、神を恐れることは迷信だなどと言い出して、世の中はさかさまになっている。
戦争の時代に向かう富国強兵っていう政策を推し進めていた時期なんでしょうけど、南方熊楠としては、神仏がどうこうっていうより、太古からの樹々をどんどん切り倒してしまうことに、本来あるべき自然が壊される危機感を持ったからなんでしょうね。
明治政府は、西洋文化に対して追いつき追い越せっていうことで、森を切り倒して金銭に替えることを急いだのかもしれませんが、この「神社合祀」っていう政策の中に、ヨーロッパに古くからあったであろう「オオカミ悪者説」が取り込まれていて、神様として祀っていたニホンオオカミ、「オイヌサマ」「大口真神」を駆除しなさいってことになった可能性もありそうに思います。
神を恐れることは迷信だ、とか、ホントに言っていたんだとすればですね。
昔から日本のお役人さんって、求心力がなくって、自己評価ばかりがムダに高い人が多いんでしょうね。
例えば秩父の神社の関係者が、いや、オオカミは「大口真神」なので、って反対しようとすると、
「何を言うか、赤ずきんの話を知らないのか! オオカミはワルモノだ!」
とかいうことで押し切ったのかもですねえ。知らんけど。
ってことでですね、日本にもオオカミはいたんです。
ニホンオオカミっていうぐらいなんですからね。いたんです。
でもまあ、過ぎたことは還らないとしても、日本の教育、もうちょっとしっかりして欲しいですねえ。
少なくとも、報道する仕事についている人が、ニホンオオカミの頭骨、ホンモノなんだってさ、とかいうんじゃ情けなくないですか。
ニホンオオカミだけじゃなくって、正式な名前を「ニッポニアニッポン」っていう朱鷺(とき)ね。
そんな名前の日本の鳥を絶滅させてしまったことなんかも、ちゃんと伝えていって欲しいなあと、思うのでありますよ。
明治政府の「ヤラカシ」って他にもいっぱいあるように思っているんですけど、ま、今の政府の状態を見てもですね、ずっとなんだかなあってことばっかり、なのかもです。
ホント、なんだかなあ。。。