< 例えば木の芽時とか言って 昔から季節の変わり目には変調を来たしやすくなるですけどね >
気象庁の発表がなくたって、セミが鳴いたら梅雨明けでしょねえ。
っていうような能天気で、しっかりジメジメしている夜の空気の中をポテポテ歩いて行って、いつもの居酒屋さんのドアを開けました。
大将と女将さんの2人で切り盛りしている小さなお店。
なんですけど、仕切りで別部屋を設けているんですね。そこに大きなテーブルを置いて、10人ぐらいは入ります。団体さん用ですね。
あとは逆L字のカウンターに4人。ムリすれば5人。2人がけのテーブルが1つ。
厨房はカウンターから直接見えない作りになっていて、大将が奥から顔を出して「らっしゃいませ」
女将さんとは調理学校の同級生らしいです。
なんかね、少女みたいな雰囲気の女将さんで、常連さんには「ママちゃん」とか呼ばれているんですが、なんと呼ばれようと「はいは~い」って柔らかい対応で、人あしらいの上手な女性。
アラフォーってとこなんでしょうけれど、話しかけやすい空気感の人なんで、初めてのお客さんでも気軽に居酒屋トークの華を咲かせていることが多いですね。
その日は大テーブルにも小テーブルにも客はなくって、逆L字のカウンターの真ん中辺に1人の女性がいるだけでした。
初めてみるその女性も女将さんと同じくらいの年齢に見えますね。
その人も今座ったばかりらしくって、
「お待たせしました。トウモロコシサワーです」
って、1杯目をサーブされている様子。
トウモロコシサワーは、この店の名物で、女性に人気の吞みものです。
トウモロコシ焼酎っていうのがあって、それの炭酸割りなんですけど、大将曰く、「そこにさらに企業秘密を入れてます」
話はつまんないんですけど、吞み口が甘めの爽やか系で、旨いんです。
危ないぐらいクイクイ呑めちゃう酒です。
逆L字の、もう一方の辺にはまだ片づけが済んでいなくって、飲食の後があったんですけど、ま、すぐに片づけてくれるでしょうから、その女性から離れたその席へ座ろうとしたら、
「あ、ぱうすさん、こちらどうぞ」
女性の隣りを促されました。
まあね、隣りって言っても、充分な距離はありますけどね。
女将さんが座る席を指定することって、珍しいんです。
洗い物が立て込んでいるのかな、っていうこともあるんですけど、初めてのお客さんだったり、苦手な常連さんだったりが座っている時にですね、見知った常連さんをそのお客さんの隣りに促すことがあるんですよね。
洗い物か初めてのお客さんか、はたまた苦手なタイプか。
と、その女性が、
「この前はありがとうございました。迷惑かけちゃってすみませんでした」
「いえいえ、なにも迷惑なことなんてありませんでしたよ」
そうね、初めて来て、いきなりトウモロコシサワー、いかないもんね。
ってことで初めてじゃないとすると、洗い物か、苦手か。
触らぬ神になんとやら。隣りで静かに芋焼酎のロックです。
「あたし、低気圧不調なんで、このところずっと調子悪いんですよねえ」
女将さんに話しかけてます。
そですか。このところピーカン続きでしたけどねえ。
「低気圧不調? ってなんですか?」
女将さんはとっても正しい話のノリ方ですねえ、さすが商売人ですねえ。
「頭が痛くなったり、関節がきしんだり。人によって症状はいろいろみたいなんだけどね、気圧の低い日にね、決まって調子悪くなるんですよ」
「気圧の関係で?」
「そうなのよね。ママは大丈夫なの? 日本人の2割ぐらいはいるらしいのよ、低気圧不調の人」
「2割って、多いですよね」
「もっといるかもしれないんだって。自分で気づいてない人もいっぱいいるらしいのよね」
「ぱうすさん、どうですか? 低気圧」
ウッ!?
「あたしは気圧なんて気にしたことないですけどね」
わたしも気にしたこと、ないですう。
「低気圧不調って女性に多いらしいのよ」
「あら、性別が関係あるんですか」
「男はさあ、なんだかんだニブイでしょ」
ヤなやつ。
女将さんにとっても苦手なヤツ、決定! でしょねえ。
対処するのが面倒な気がしているんで、隣りに座らせたんでしょうけれど、わたしも苦手なタイプです。
それを、すぐに察したんでしょうね。
振ってみたけど、なんだか芳しくないリアクションでしたからね。
人間に相性っていうのがあるのは、ま、しょうがないです。
女将さんがニコニコと対応しています。
「雨の日は大丈夫なんですか?」
「低気圧が迫って来ると低気圧不調になって、それで雨が降りだしたら症状が良くなる人もいるらしいんだけど、あたしの場合はね、雨になると別の場所に不調が出てくるのよね。低気圧がいる間はずっと不調なのよ」
「あたしは雨の日が好きなんですよね。激しく降って来ると、なんだかワクワクしちゃって。テレビで台風情報とか見てて、実際に上陸とかしちゃうと大変なのは分かってるんだけど、心の中では、ザアザアゴウゴウ、見てみたいなっていう気がするんですよ」
あ、それ、分かる。って思ったら、マスターが奥から顔を出して、
「子どもかっ!」
っとだけ言って引っ込んでいきました。
「あははは。ホントよね。子どものころからずっとそう思ってたんですよねえ」
「低気圧っていうのはね……」
「あ、いらっしゃいませえ。あ、今、片づけますね。はい、こちらどうぞ」
逆L字の別の辺へ、これまた見かけない顔の中年男性をご案内。
と、また、今度はカップルが入って来ましたねえ。
「いらっしゃいませえ。お2人さま。はい、こちらのテーブル、どうぞお」
ってことで、女将さんもわたしも低気圧から脱することが出来たんでした。
でも低気圧不調っていうのはホントにあるみたいで、体の不調具合っていうのがコロナの後遺症と似ているんだそうですよ。
体調不良って、季節っていう要因もありますけど、季節に関係なく、気圧っていうのもけっこうシビアみたいです。
低気圧不調の原因は、内耳が気圧に反応して、自律神経が乱れるから、とか、低気圧で血管が広がって神経を圧迫することによって、いろんなところへ痛みが出ます、だとかいろいろな説があるみたいですねえ。
まだハッキリ解ってはいないらしいんですが、こういうのって、いろんな原因説のどれもが正しいのかもですよね。
原因も特定できていないし、治療法っていうのも確立されていない。
調べてみますとね、普段から朝ごはんをちゃんと食べて、ぐっすり寝て、運動して、酒を呑み過ぎないようにしましょうっていう、当たり前のアドバイスがたくさん出てきます。
なんやねん! それが出来たら、なんにも苦労ないっちゅうねん!
どうやらですね、漢方薬が、気は心の役割りを果たしてくれるみたいです。
低気圧不調の人は試してみる価値、ありそうですよ。ドラッグストアにも置いてますもんね、漢方薬。
どの情報ページにも必ず出てきていた漢方薬が「五苓散(ごれいさん)」
頭痛、めまい、吐き気、むくみ、暑気あたり、二日酔いに処方される漢方薬だそうです。
調べてみて初めて知ったんですが、二日酔いに効く漢方薬なんていうのがあるんですね。
低気圧不調の場合は、ドラッグストアで買うより、病院で診てもらって、ドクターから処方してもらうのがベストだろうと思います。
一旦処方してもらったら、その漢方薬をドラッグストアで買う。ってことでイイんじゃないでしょうか。
「頭痛・だるさ・めまい・むくみなどの、低気圧などによる複数の不調を改善する漢方薬です」
って言ってる小林製薬の「テイラック」なんていうのもあるですね。
低気圧不調を楽にするっていうんで、「テイラック」なんでしょねえ。なんだかねえ。
こういう名前の方が、薬として人気があるんでしょうかね。このタイプの名前って、薬とか洗剤とか、けっこうありますけど、どうなんでしょう。「テイラック」
気圧の変化で耳がキーンってなったら、とにかく耳を揉む、マッサージするっていうのがイイっていうことは知られていますけれど、低気圧不調にも効果があるみたいです。
って、あれですね。耳がキーンってなるのも低気圧不調の1つなんでしょうか。
低気圧不調で酒を呑み過ぎないように、っていうアドバイスは、なんか適切なのかどうか怪しい気もしますよ。
酒のせいで気圧への反応が敏感になっちゃう?
そもそも調子悪かったら呑まないでしょうしねえ。
みんなそれぐらいにはオトナだと思いますけど。。。