< トマトにまつわるエトセトラ >
中世のChatGPTは鏡の姿をしておりました。
え? まあ、お聞きなさいましよ。
「鏡よカガミ、かがみさん。世界でイチバン美しいのは、だあれ?」
「はい、それは王妃サマ。あなたでございます」
「むふふのふ。そうよねえ、世界でイチバン美しいのは、わたくし以外には考えられませんわよねえ」
やがて、実の娘だとも、先代の王妃の子どもだとも言われている白雪姫が7歳の誕生日を迎えることになりますと、なんと恐ろしいことに、さすがの王妃サマも7年も年をとっておしまいになっておりましたとさ。
「鏡よカガミ、かがみさん。世界でイチバン美しいのは、だあれ?」
「はい、それは、白雪姫サマでございます」
「ぬあにおおお! 白雪姫だとおお!」
はい、そうですね。AIに忖度はございませんよ。
あるいは、この魔法の鏡の答えこそが、人類が最初に体験したシンギュラリティだったのかもしれません。
この時点でノーミソがバグってしまったのか、王妃は白雪姫を森の中に追放してしまいます。
「これ、鏡よ。もう一度聞く。世界でイチバン美しいのは、誰じゃ」
「はい、それは、白雪姫サマでございます」
鏡のそばから離しただけでは効果がないことを知った王妃は、善良なりんご売りに化けて森へ行って、白雪姫に「毒りんご」を食べさせます。
白雪姫も白雪姫でしょ。なんで毒りんごなんか食べちゃうの?
っていうツッコミもあるんだそうですけど。あのね、この時、白雪姫、7歳ですよ。
いたいけな女の子なんです。勧められれば食べちゃうでしょ。
毒りんごなんて知らないんですから。
って、話はそっちの方じゃなくってですね。
その「毒りんご」自体なんです。
白雪姫の毒りんごって、王妃が毒を用意したことになっているわけですけど、どこから用意したんでしょう。
何の毒なんでしょう。
それはですね、「トマチン」っていう、なんだかゆるキャラの名前みたいなアルカロイド配糖体なんです。
要するにですね、白雪姫の毒りんごは、実は「トマト」だったんじゃないかってことです。知らんけど。
ええ~!? ですよね。はい、話している私からして、ええ~!? なんですから当然でございます。
でもあれです。「トマチン」っていう毒の成分が、今から数世代前までのトマトにけっこう含まれていたっていうのはホントなんですね。
過剰摂取すると嘔吐だとか、めまいの症状が出るんだそうです。品種改良が重ねられる前のことでしょねえ。
トマトってナス科の植物で、ナス科の植物には毒の成分が含まれているっていうことは、けっこう知られていることですよね。
って言いますか。またまたなんですけど、毒、そのもののことじゃなくってですね「毒りんご」っていう名前の方の話なんであります。
遅くとも15世紀ごろには、メキシコのアステカ族が食用として栽培していたことが知られているトマトですが、16世紀にスペインのコルテスがヨーロッパに持ち帰って広まったそうなんです。
当然、当時はかなり貴重な食べものですから、ヨーロッパで最初に食べていたのは、お金持ち、貴族階級の人たちですね。
16世紀当時の貴族たちが使っていた食器は「ピューター」って呼ばれていて、鉛を多く含んだ、錫の合金製。
今とは違って、かなり酸味の強かった当時のトマトによって、鉛が溶けだして、鉛中毒になっちゃう貴族が続出したんだそうです。
結果、トマトを食べたら中毒になっちゃうってことで、当時、16世紀以降のヨーロッパでは「毒りんご」って呼ばれていたんだそうです。
グリム兄弟によって1810年に発表された「白雪姫」は、ドイツ地方の民話を基にしているんだそうですから、民話の中の「毒りんご」が、無実の「トマト」だった可能性はゼロじゃなさそうです。
つまり王妃は、りんごに毒を注射したり塗ったりしたんじゃなくって、みんなが毒りんごって呼んでいたトマトを食べさせた。
ま、可能性としての話ですけどね。
その後、時代が進んで科学も進歩。鉛中毒っていうのも解明されましたし、トマト自体もどんどん品種改良されていったみたいですね。
でも、トマト自体に毒があるんじゃないかっていう迷信はなかなか消えなかったみたいで、日本にも江戸時代の初期には、長崎の出島に入って来ていたんだけれども、トマトは観賞用だったそうですよ。
いや、トマトは食べられるんですよってことで、ヨーロッパから新しい品種が入ってきたのは明治時代になってから。
それでも、なんだか青臭いっていうことで、トマト、人気ナシ。
それでもまあ、日本国内でも品種改良が進んで、けっこう食べられるようになったのは戦後になってからだそうです。
洋食文化ってやつに乗ってなんでしょうかね。
毒りんごって呼んで食べなかったヨーロッパでも、いつのまにか、
「ポモドーロ(金色のりんご)」
「ポムダムール(愛のりんご)」
って呼ばれるようになっていったんだそうです。
毒、からは完全に脱却。
しかしまあ、なんでいつまでも「りんご」にこだわった呼びかたなんでしょうね。
金色に関しては意味不明です。
ヨーロッパに負けず、その後も日本国内での品種改良はどんどん進められて、トマトは一気に人気野菜として認知されていきます。
日本で消費される野菜の第1位はダイコン。
続いて、ジャガイモ、キャベツ、タマネギ、そしてトマトです。第5位。
今ではトマトの種類もたくさんありますもんね。
21世紀になってからは大玉トマトの流通量をミニトマトが上回っているんだそうです。
そういえばサラダの中に、必ずって言ってイイほど見かけるようになってますね。
しかも、前は酸っぱいのが特徴だったミニトマトですけど、今のって、けっこう甘さがあるんですよね。
人気だっていうのも肯けます。
抗酸化物質の「リコピン」っていうのが豊富なトマトですが、このリコピンっていうのは油と一緒に摂ると吸収率が高くなるんだそうです。
さらにはですね、加熱することでも吸収率がアップする。
ってことはですよ、「トマト炒め」っていうのがベストなんじゃないでしょうか。
呑み屋さんのアテで「冷やしトマト」って、人気ですよね。
トマトだけを切って皿に並べているメニューもありますし、トマトとチーズを交互に並べてあるのもあります。
オリーブオイルをかけて出されますね。
でも、やっぱり、温めたトマト。これだそうですよ。
改めて考えてみますと、けっこう食べているのかもです。
よく行く焼き鳥屋さんのメニューにあるのが「トマトチーズ焼き」
小さいグラタン皿に、半分に切った輪切りのトマトを並べ立てて、そこへブロッコリーを散らします。上からチーズをかぶせて、トースターで焼く。
チーン! お供はタバスコ。
温トマト、他にもそこそこ食べていますねえ。
中国人経営の町中華では「トマトたまご炒め」
これはけっこう好物ですね。ホッピーのアテとして2回に1回はいただいていますね。
その時のトマトによって当たり外れがあるってところが、またイイんであります。
こぶりで熟しているトマトが当たり! ちょっと青くて硬いトマトがハズレ~。
日本人経営の無国籍料理屋さんでは「トマト炒め」
鍋にサラダ油をちょろっと入れたら、ざく切りトマトとざく切りタマネギを突っ込んで、塩コショウだけで炒めるやつ。
生産量第1位の熊本県産「ももたろう」が手に入った時だけやってくれます。
これ、シンプルで旨いです。
でも、たまにしかあり付けません。
そういえばって感じで思い出したのが、このところ食べていない「トマトラーメン」
六本木の紅虎。
初期の頃のトマトラーメンは、湯剥きしたトマトが、ラーメンの真ん中にドーン!
ザッツイット! だったんですけど、なんかどんどん進化していってましたね。
もう何年も六本木なんて行ってませんです。
もちろん六本木以外にも紅虎はありますけどね。
って思ってトマトラーメンを探ってみたらですね、熊本県に「red」っていうトマトラーメン専門店があるみたいですね。
熊本市に何店舗かあるみたい。
トマトは熊本県、っていうのが無国籍料理屋さんで刷り込まれていますからね、これは、ぜひ、行ってみたいと切に思うであります。
温トマト生活。心がけたい、などと思うきょうこのごろ。
愛のりんごは、温かくして食すのがよろしいようで。
だからあ、なんで、りんごやねん!