ウキウキ呑もう! ニコニコ食べよう!

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ーー 居酒屋トークの ネタブログ ーー

日本人の意識から消え去りつつあるのかもしれない【納涼】と【暑気払い】

< 浅草あたりだと浴衣姿がインバウンド人気みたいですけど 日本の夏そのものが変わって来てますよね >

え~。毎度のお運び、ありがとうございます。
おなじみのバカバカしいお噺でごいますんですが、最後までお付き合いのほど、よろしくお頼み申します。


え~、なんですね、このところ、毎年ね、夏の暑さが最高記録を更新しておりますようで、熱中症で死んじゃう人が急増しているなんてえニュースも聞こえてまいります。


暑さ、湿気で煮殺されちゃう。恐ろしいことですよ、こりゃ。


みなさまにおかれましても、充分なご注意をいただきところですね、ホントにね。


21世紀に生活しております我々、コロナパンデミックなんていう余計なものまで経験しちゃいましてね、実になんとも暮らしにくい世の中になってまいりまして、困ったもんでございます。


体温超えの気温っていうのが、温暖化っていうね、人類が歴史的にやって来たことが原因で起きていることなのか、地球が繰り返してきた温暖寒冷循環の通過点に過ぎないのか。


居酒屋トークではいろいろかまびすしくあーだこーだやっておりますけれども、んなこたあ分かりません。素人にはさっぱりですね。


夏は暑いのが当たり前です、なんてね、しゃっちょこばった大村益次郎さんみたいなことを言われちゃってもですね、昭和の頃と比べたら10度ぐらい違ってんじゃないですかね。夏の暑さ。耐えられませんよ。


暑いったって、汗が滝のようにとかいうレベルを超えちゃってますでしょ。
汗かいて、蒸発する気化熱で体温下げるなんてんじゃ追いつかないんですね。死んじゃってる人が多過ぎますでしょ。


なんとかならないもんなんでしょうか。
人類の危機ですよ。


ここまで環境が変わっちゃいますとね、いろんなところで、いろんな変化がね、よろしくない変化が起きているようなんでございましてね。

 

 

 


きょうもきょうとて、向こうからテキヤのシゲちゃんが、浮かない顔してとぼとぼ、ネコのご隠居のとこへやってまいりました。


は? いえ、間違いじゃございませんよ。ネコです、ネコ。
テキヤの三毛猫親分。コロナ前に隠居しましてね、今は江戸川区の隅っこの方で静かに暮らしておられます。


そういうお噺でございまして、はい。


ネコのご隠居、縁側へ蚊取り線香を焚いてね、大団扇を忙しなく使ってますよ。


エアコンなんてしゃらくせえもんは使わない。


日盛りの午後。茹だるような空気感。セミの声しか聞こえない、時間が止まったようなご隠居の縁側です。


ネコのご隠居に限らず、この辺のジジババはみんなこうなんです。区の方からはねエアコンあんだから使いなさいって、何回も指導が入ってるんですけど、分かったわかったって返事ばっかりで、大団扇でバタバタ、ばたばた。


ネコなんですからね、たっぷりの毛皮着てんです。人よりはずいぶん暑いだろうってこたあ間違いないんですけどね、エアコンは使わない。


危険なんですけどね。他人の言うことなんて聞きゃしないんです。昔っから。
でも元気なもんなんです。声も大きい。


「おいおい、そこを地獄へ向かってるような景気の悪いツラぶら下げて歩いてくのはシゲじゃねえか。え? どしたい? この炎天下、どこ行こうってんだ?」


呼び止められてシゲさん、ハッと気が付きますね。


「あ、いけね。通り過ぎっちまうとこだった。いや、ご隠居、よく気が付いてくれなすった」


「そりゃ気が付くよ。日がな一日こうして表を眺めて暮らしてんだから。うちへ来たんならさっさと上がんな」


さっきまでボンヤリ歩いていたシゲさんですが、いったん気が付いたとなりゃ、勝手知ったる他人の家。玄関から廊下を入って、すっとね、何事もなかったかのように、ご隠居のとなりへ座を占めます。


シゲさんも扇子を広げてネコのご隠居よりはだいぶんゆっくりとパタパタやり始めます。


「もうとっくにご隠居も聞いてんでしょうけど、目黒のね、サンマ祭り。2024年、今年、中止したじゃねえですか」


「ああ、そうらしいな。それでも、あれもずいぶん続いたんじゃねえかな」


「24年続いたつってました。サンマが獲れねえからってんじゃなくって、やってる人間たちが年寄っちまって、祭りを最初から最後までやり切る気力がなくなっちまった、っていうのが中止の理由だってんで、なんだかこっちもね、つまされちゃって、暑さは暑いしでぐったりきちまったんですよ」


「ぐったりきちまったって、シゲ、お前さんいくつになった?」


「へえ70を過ぎまして」


「なんだい、まだまだハナタレ小僧じゃねえか。だらしのねえこと言ってんじゃねえよ」


「いやあ、ご隠居にかかっちゃあ小僧扱いされるのもしょうがねえんですけど、なんだかホントに目黒の連中と一緒でね、なんかやる気が起き上がって来ねえんですよ。ウチの方の納涼花火もやらねえっていうんでね、おいらも止めちゃおうかなって思ってね。どうしたもんですかね」


「スーパーボールすくい、止めっちまうのかい? 金魚からスーパーボールに代えて、生き物扱わねえで済むから気分的にも楽でイイってんで、あれだけ張り切ってたじゃねえか。納涼ってのは回る水、あってこそだって」


「まあ、そういう元気もだいぶ昔の話で。なんだか締まらねえ話なんですが、コロナ明けて、納屋から道具、引っ張り出してみるってえとね、納涼っていう看板、どうもウソくせえなって、自分で思っちゃいまして」


シゲさんの声がだんだん低くなっていってね、ご隠居の向かいの家の庭で鳴き始めたセミの声がやたら大きく聞こえます。

 

 

 


ネコのご隠居が煙草盆を引き寄せまして、100円ライターで紙巻きたばこに火をつけますね。
しかめっ面して深く吸い込むと、フーッてね、細く遠くへ紫煙を飛ばします。


「納涼ってのがウソくせえって?」


「聞かれたことがあんですよ」


「何を?」


「高校生か大学生ぐらいだと思うんですけど、女の子たちね。浴衣をだらしなく巻きつけて4人でやってきて、スーパーボールすくい、やんのかなって思ったら」


「あん?」


「納涼って看板指さして、なんて読むんですか? ってんですよ」


「そりゃ成りのデカイ幼稚園のねえちゃんたちじゃねえのか」


「はっはっは。それならまだ救われるってなもんですけどね、今の世の中、納涼やら暑気払いやら、日本人の夏の過ごし方を知らねえんだと思うんですよ。字面も見たことがねえから読めねえし、何だか分からねえってことになってんじゃねえですかね。流れる水を見たり、風鈴の音を聞いたり、そんなんで吹き飛ばせる暑さじゃねえってこともあるのかもですがね」

 

 

暑すぎるからなのかセミもすぐに鳴き止んだピーカンの午後、もやっと暖かい風が時々吹いたりしてる、連日の真夏日です。


目黒のサンマ祭りっていうのが中止になったのは、運営していた人たちの高齢化が原因だっていうことが取り沙汰されているんですけれどもね、コロナでの中断がなくって、ずっと続けてやっていたんだったら、まだまだやれていたと思うっていうんですよね。


ところがコロナで、強制的にやれない3年って期間を経験しちゃった。3年間も休まされちゃった。


さあ、やっていいよ! 復活だよ! って腰を上げようと思ったら、どうもいけない。
やる気が起きてこない。しんどい。身体も精神的にも。


気が付いてみれば運営している仲間たちもみんな年をとった。
まだまだ若いもんには負けられねえ、っていう気持ちもあるんだけど、その最初のやる気がどっか冷めちゃった。


コロナで休まざるを得なかったのはシゲさんも同じですし、年齢も目黒の方がシゲさんより年かさらしいですが、まあだいたい同年配。


それでふっと自分の身の回りを見渡してみると、テキヤ仲間が3年の間に1人欠け、2人欠けして、かなりさみしい顔ぶれになっているのに気が付いて、ガクッと来ちゃったんですね、シゲさん。
納涼も通じませんしね。


それでネコのご隠居のところへ顔出してみるかって、炎天下歩いて来たってところなんでございます。


ご隠居はタバコをひねり消しながら、遠くを見やって、静かに言います。


「納涼、暑気払いってのは、気合いだな。日本的な気合いだ」


シゲさん、黙って肯いてます。


「それが成立しねえってのは、体温以上の気温と、祭りを実行するヤツらの高齢化のせいってことか。若い世代を育ててこなかったんだなあ、おいらもお前さんも。……、日本の納涼を消しちまったのか」


ネコのご隠居、2本目のタバコに火を付けますね。
シゲさんもつられて1本。


2人して黙ったまま暑苦しい空気の中へ、元気のない紫煙をもやあっと吐き出して、鼻からため息です。
ネコのご隠居が中空に目を止めたまま言います。


「昔な、隠居するちょっと前な、二丁目の宮司がやってきて、言いにくそうにな……」


「なにかっていうと、すぐおまわりを呼んでくる、あのひょうたん宮司


「ああ、これからは神社の祭りの出店を町内会でやるって聞いたときは驚いたもんだった。揉めたしな。ただな、時代なんだなって思ったもんよ、暴れたってしょうがねえってな」


「へえ」


「ところがだ、何年かして宮司がおいらんとこ来て言うことニャアな、焼きそばが不味くってダメだって、苦情が来てっから、またおいらたちに入ってもらいてえってことだったんだよ」


「え? そんな話があったんで」


「ああ、あったんだ。チョコバナナとか、射的とかな、またやれねえかって」


「でも今でもやってませんやね」


「断ったんだよ、あっさりな。あの野郎が言うにはな、町内会の顔も立てねえとなんねえから、そこんとこよろしく頼むってわけだよ。な、俺たちが縄張りして商売の場所を決めるのは力関係あってのもんだ。そこに町内会が入って来てうまく収まるわけがねえ」


「はあ、そうですねえ」


「なんで町内会が祭りを仕切るようにあったのかは分からねえが、な、シゲ」


「へえ」


「おいらたちの時代は終わっちまったんだろうさ。納涼花火大会、納涼盆踊り大会。昔通りやっていくのはてえへんだろうぜ。何百年続いて来たって言ったって、終わるときにゃあっさり終わるもんなんだろうさ。さんまも、花火も、スーパーボールもなあ」


「この国はどうなっていくんですかねえ」


「おれらが考え及ぶようなもんじゃねえんだろうさ。あっちこっちのお祭りが立ちいかなくなってきたって話も聞こえてきてる。なにかが狂ったっていうことかもしれねえし、とにかく変わって来たんだな、今の日本は。お前さんにどうしろなんてえことは言えねえよ。自分で考えな。ま、もう腹は決まってんだろうけどな」


2人で黙ったまま、空の雲の輪郭が夕焼け色に染まっていくのを、じっと見上げていますね。


風ね、相変わらず吹きゃしません。

 

 

 


かなり寂しい噺になってしまいましたが、時代なんだそうでございます。


地元の祭りを守っていこうっていう動きだって、もちろんあるんだそうですけどね。


今回はどうも、バカバカしくはない噺となりました次第で、恐縮でございます。


おあとがよろしいようで、
熱中症にはくれぐれも用意万端怠りのないように。

 

 

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