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【在りの遊び】 「ありのすさび」って読むんだそうで 現代語に訳しがたい哲学的な言葉でやんす

< 在る時は 在りの遊び(荒び)に語らわで 恋しきものと 別れてぞ知る >

え~。毎度のお運び、誠にありがとう存じます。


なにやらコムツカシそうなタイトルを掲げさせていただきましたが、いつもながらのバカバカしいお噺でございまして、え~、本日もひとつ、最後までのお付き合いをよろしくお願い申し上げておきますが。


なんでございましてね、噺の中に出てくる人っていうのはだいたい決まっておりましてですね。


主人公って申しましょうか、噺をひっかき回す役目を担っているのは、八五郎熊五郎与太郎ってな野郎たち。金さんなんてえのも出てまいりますね。


みなさんご存じ、だれもかれも能天気な性格で、トリックスター的な問題を起こしたり持ち込んできたりするわけです。


でもって、そうした問題を持ち込まれる方の役は、たいていの場合、長屋の大家さんか寺の坊さん、横丁のご隠居さんってことになっておりますね。


人情噺なんかですと、案外まともな人間なんです。相談を受ける大家さんとかご隠居さんね。まっとうなオトナ。


でもそうじゃない落とし噺の方ですと、なんだかハチャメチャなアドバイスになっちゃうってえのが、噺の醍醐味ってもんでして、はい、これまたみなさんご存じ。


これはもう江戸時代から続く、噺の不文律ってことになってる感じでございましょうね。
そうでなければ噺にならない。


相談を持ち掛けられて、そんなこと知りもしないくせに、なんだか適当なことをまくし立てるご隠居。


はい、今回もそういう噺でございます。


八五郎さんの方は、どの噺でも学校の勉強が好きじゃないタイプってことになっておりましてね、学問とか、そんなのは「あっしには関りのねえことで」って思って暮らしております。


で、まあ、それでもなんとか一丁前に暮らしておりますとね、そもそも悪い奴じゃございませんからね、そのうちに奥さんが出来ちゃったりするんです。


それでね、奥さんが出来ますってえと、やがて子どもが出来ますよ。


世の中、こうでなくっちゃいけません。子どものはしゃぐ声が世界を回すんですからね。


その子どもにとっちゃあ親が全てですからね、学校で言われて、なんだかわけの分からないことは家に帰って、早速自分の親に聞きます。


八号郎さんトコの子ども、小学2年生の女の子なんですけど、なかなか成績もイイんだそうでしてね、トンビが鷹を産むっていうお手柄。自慢の娘さんです。


娘さんの担任っていうのが日本文学を専攻してきた女のセンセで、小学2年生を相手に授業とは関係ないような日本文学の話をしてくれるんだそうでして、それが八五郎さんの娘はお気に入り。家に帰って来て親に話して聞かせるのが習慣みたいになってる。


いますよね、そういう子ども。
答えに窮しちゃう親っていうのも少なくないんだそうですね。

 

今どきの子どもの疑問って、難しいんです。親の方がアタマ、こんがらがっちゃう。お気の毒。

 

 

 


で、今回、その娘さんが学校から持ち帰って来たのが古い和歌、なんでして。


歌の意味をセンセがひと通り説明してくれたんだけれども、小学2年生にとっちゃあ、さっぱり分からない。


八五郎さんの娘はなかなかに賢い子どもで、分からないままに放っておくことが出来ない性質なんです。


でね、国語のノートに全部ひらがなで、その和歌を書き留めて来ましたね。


《 あるときは ありのすさびにかたらわで こいしきものと わかれてぞしる 》


まず母親に聞きますね。


「お母さん、これ、どういう意味?」


「ああ和歌だね。そういう古典のことはお父さんが詳しいんだよ。なにせ名前からし八五郎なんていう化石みたいな名前なんだからね。お父さんに聞けば分かりやすく教えてくれるよ」


お母さんはうまく切り抜けちゃうんです。
だいたいこういうのは、女親の方がうまくやれるもんらしいんですけどね。


なもんで、化石みたいな名前だって言われちゃってるお父さん、八五郎さんにオハチが回って来ましてね、聞かれます。


「お父さん、これ、どういう意味?」


《 あるときは ありのすさびにかたらわで こいしきものと わかれてぞしる 》


なんだこりゃ? 八五郎さん、弱っちゃいましたね。


ああ、うん、これか。これな。これは難しいんだ。これを説明するには長い時間が必要になるから今度の日曜日にしよう。きょうのところは早くお風呂に入って寝ちゃいなさい。


なんて感じで、その場は何とか切り抜けましてね、横丁のご隠居さんのとこへ行って、教えてもらって娘にイイトコ見せようって算段です。


はい、そうですね、「ちはやふる」と同じような状況ってことですね。


その横丁のご隠居ってえのが、「ちはやふる」のご隠居の末裔なのかどうかまでは分かりませんが、八五郎さん、次の日の夕方に一升瓶片手に訪ねましたですね。


あ~、ご隠居、居ますか。ハチです。


「おお、八五郎じゃねえか、ささ、こっちへずずい~っとお入り。一升瓶の差し入れたあ感心じゃないか。お前もオトナになったもんだ」


ひとつ教えてもらいたいことがありましてね。


「おお、まかせときな。世の中にあたしが知らないなんてことはないんだから安心しな。何でも来いってもんだ」


娘にうまいこと説明してやりたいんですけどね、この和歌の意味、ご隠居、丁寧に教えてくださいよ。


《 あるときは ありのすさびにかたらわで こいしきものと わかれてぞしる 》


「ああ、これは、あれだ。すさびでかたらわってやつだな。うん」


ご隠居、それじゃまるで分かりません。ちゃんと分かるように教えてくださいよ。娘に説明してやろうってんですから。しっかりお願いしますよ。最近は一升瓶だってバカにならない値段なんですから。


「まあ、そんなに焦るもんじゃないよ。じっくり聞きなさい」


はいはい、じっくり聞くのはもとからそのつもりで来てるんですけど、とにかく早いトコ願いたい。

 

 

 


「おっしゃ、そんじゃ始めようじゃねえか。これはな、お前さんも知っていると思うが、例の「ちはやふる」な。あれの続きだ」


冗談言っちゃいけませんよ。「ちはやふる」ってのは落語ですよ。バカ噺ですよ。そういうんじゃなくってこっちは学校のセンセから聞いてきた和歌ですよ。真面目にやってもらわないと。娘に聞かれて困ってんだから。


「あたしはいつだって真面目だよ。ウソじゃねえんだよ。ちゃんとつながりがあるんだから、よく聞きな。ちはやふるの主人公はあれだよ、竜田川っていうお相撲さんだよ」


それはおいらだって知ってますよ。


《 千早ふる 神代もきかず竜田川 からくれないに 水くぐるとは 》


ってやつでしょ。花魁の千早さんにふられて、妹分の神代さんにもふられて、《千早ふる神代もきかず》ってんで廃業しちゃったお相撲さんの《竜田川》ね。


その情けない竜田川と、この和歌にどういう関係があんです?


竜田川はお相撲さん辞めて豆腐屋さんになったんだよ」


そうですよ。そこへ落ちぶれた千早がやってきて、何日も食べてないんで、せめてそのおからを分けてくれって頼んでるのに、《からくれない》ってイジワルしちゃうんでしょ。そんで千早は可哀想に入水しちゃって《水くぐる》、千早の本名は《とは》だったっていう。


「そうそう、そうなんだ。お前さんも案外詳しいじゃねえか。それでな、その竜田川の子孫が「とは」さんの菩提を弔って田舎へ引っ込んでローカル線の運転士になった」


はあ? なんですかそりゃ? ローカル線の運転士?


「そんな驚いたって、なっちゃたんだからしょうがないよ。他人の仕事にどうこう言っちゃいけないよ」


他人様の仕事についてどうこう言うつもりはありませんがね、ローカル線の運転士と、この和歌がどうつながんですか? ってことですよ。


「《あるときは》ってあるだろ。それをお前さん《あるときわ》って読んでるだろ」


そりゃそうですよ、誰だってそう読みますよ。《あるときわ》でしょ。


「そこが素人の浅はかさってもんなんだなあ」


なに言ってんですか、ご隠居だって素人の毛が抜けたようなもんでしょうに。


「誰の毛が抜けてるって? ああん? あのな、そこは《あると》《きは》と読むんだ。《きは》はひふへほのハと読んで《きは》だ」


《あると》? 《きは》? なんなんですかそれ、どういう意味です。


「《きは》っていうのはディーゼルエンジンの付いた普通車のことだ。電車であればモーターだから《もは》っていってモーター付きの普通車ってことになるんだな。お前さんも見たことがあんだろ、電車の腹に書いてある「クハ」とか「サハ」とか」


はあ、見たことはありますけどね。ディーゼルエンジン? なんで急に列車が出てくるんです?


「だから最初に言っただろ。これはローカル線の運転士の和歌なんだって」


ははあん。《きは》っていうのがディーゼルエンジン付きの普通車だとして、《あると》ってのは?


竜田川の子孫の運転士がな、《きは》を走らせてると思いなさい」

 

はい、そりゃ、運転士なんですから走らせるでしょ。《きは》でも《もは》でも。


「なにせローカル線でな、予算があんまりない。線路の整備が追い付かなくって、走らせているといつもブツブツいう女の声が聞こえる」


女の声? なんですかそりゃ、物騒な話になってきちゃった。


「《あると》っていうのはな、昔はテノールよりも高い音域を表してた言葉なんだが、いつのまにか女の低い声域のことを言い表すようになったっていう、なかなか複雑怪奇な歴史を持った音楽業界の単語だ。こういうのはあたしぐらいにならないと分からないことなんだな。ああん。たいしたもんだろ」


はいはい、先を急いでください。でないと一升瓶、持って帰っちゃいますよ。


《きは》を走らせるとどこからか《あると》が聞こえるってことですかい? どうも物騒なローカル線ですね。


「そうなんだ、物騒なんだ。ずいぶん前からいろんなトコでローカル線が廃線になっちまうってニュースやってるだろ。いずこもみな同じってことなんだな。それでもなんとか継続させたいって思った運転士が、じっくり調べた。なんで《あると》が聞こえてくるのか」


そりゃあれでしょ、レールの老朽化、経年劣化ってやつじゃないんですか?


「ん~、お前さんもアタマのカタイ男だねまったく。経年劣化じゃ和歌になんかなるわけないだろ」


ま、そりゃそうかもですけど。


「じっくり調べたら蟻の仕業だってことが分かった」


蟻? 蟻って、あのアリンコのことですかい?


「そう、あのアリンコたち。《ありのすさびに》っていうのがそれだ。アリンコたちは酸を出すんだな。その蟻酸のせいで線路がガタガタに錆びついちゃってるっていうことなんだよ。蟻酸ってのは、酢だから酸っぱいよ。蟻の酢で錆びる。それが《ありのすさび》」


あのねご隠居。なんだか「ちはやふる」みたいになってきてませんか?


竜田川の末裔の和歌なんだから、そうなってくるよ。ローカル線は運転の時間間隔がけっこう長いからな、ここのローカル線は昼間は2時間に1本って塩梅で、1回《きは》が通ってしまえばかなりの時間蟻たちが蟻酸を線路に撒き散らすことが出来るんだな。そこで件の運転士は聞いてみた」


誰に? 何をです?


「蟻に決まってんじゃねえか。なんだって、よりによって線路に蟻酸を撒き散らすのか、蟻に直接聞くのが一番早いじゃないか。蟻と語り合って《かたらわで》ってことなんだよ」


一番早いたって蟻でしょ、相手は。いったい何を語り合うって言うんです?

 

 

 

「なにせ《かたらわで》ってことで語り合ってみれば蟻には蟻の言い分がある」


蟻の言い分ねえ。


「蟻の世界でも落語があってな、「ちはやふる」は人気があってよく知られた噺なんだ」


なんです? 蟻の世界にも落語があんですか?


「蟻ってのは社会性の高い生き物だからな、娯楽も必要なんだろな。落語もあれば芝居もある。羽アリ亭志ん生っていう蟻の落語家がニンキモノらしい」


へええ、蟻の世界にもいますか、志ん生がねえ。


「特に女王蟻が「ちはやふる」の千早太夫がお気に入りで、おからを分けてくれなかった竜田川をひどく憎んでいて、お触れが出ているんだな」


はあ、女王蟻のお触れ。


「《きは》の運転士は竜田川の末裔」


あ。それ、そんなとこでかかわってくるんですか。


「ああ、そんなトコなんだな。そのうえタイミングが悪いことに、その女王蟻が亭主と大げんかの最中で、男が憎い。とくに《からくれない》ような男は最低だってんで、《きは》の運転士の妨害をしなさい、ってお触れを出した。レールだけじゃなくって2両編成の車両の鉄の部分は全部ターゲットだ」


ろくでもない女王様ですね。運転士が迷惑をこうむる前に、脱線しちゃったら乗ってる客が危険な目に遭っちゃいますよ。


「そこだ。お前さんイイトコに気がついた。客なんだよ乗客。その時乗り合わせていたのが、なんと《神代》の末裔でインテリアコーディネーターの別嬪さんだ」


いやいや、それはないでしょ。なんでそこに都合よく乗り合わせて来るんです? インテリアコーディネーターってのはなんなんですか?


「このローカル線が走ってるのは北の街だからな、冬は寒い。ストーブ列車なんてことを昔からやってみてるんだが、どうも暖かく感じない。それは見た目が寒々しいからだってことで、《神代》の末裔さんは車両の床にじゅうたんを敷くことを提案したんだな」


列車の床にじゅうたん?


「そうだ、なにせインテリアコーディネーターだからな。ちょうどその日、1両目の床に鯉の柄を染め抜いたじゅうたんを敷いて、ローカル線の社長に説明していた」

 

 

 


え!? なんだか話が急に進んじゃいましたね。女王蟻のお触れから、一気にじゅうたんのプレゼンですかい?


「そうだ、話しは早い方がイイんだよ、覚えときな。社長がじゅうたんを踏みしめながらこう言った。感触はイイんだが、鯉の柄じゃ見た目的に暖かい感じがしない。そこで別嬪さんは、実はその鯉の柄に秘密がある。離れたところから眺めてみれば分かりやすいだろうってことで、社長とインテリアコーディネーターが2両目に移ったところで、《ありのすさび》が効いて来て、なんと連結部分がポキリ」


へ!? 連結器が折れちゃった?


竜田川の末裔が運転している1両目の《きは》は何も気付かずに、2両目の社長と《神代》の末裔を取り残したまま遠ざかっていく。2両目は「サハ」っていう普通客車だからな、自分じゃ動けない。どんどん離れていく」


ありゃりゃ、まずいじゃないですか。


「そうよ、ここがこの和歌の重大な場面だ。鯉の柄の敷物がどんどん離れていっちゃう。《神代》の末裔は思わず大声をあげちゃったってことなんだよ」


インテリアコーディネーターさんね。


「鯉の敷物がすっかり遠ざかって行ってしまった。《こいしきものと わかれて》だな」


こいしきものって、え? 鯉の柄のじゅうたんのことなんですかい? じゃあ《ぞしる》ってのは?


「思わず知らず叫んじゃったんだな、《神代》の末裔さんは、遠ざかる1両目の車両に向かってバカヤロー、ってぞしった」


ぞしった?


「車両と一緒に竜田川の末裔に向けても怒鳴ったのかもしれねえよな。そしったわけだ。《ぞしる》っていうのは「そしる」の最上級だ。な、これで和歌の完成だ。分かったか?」


ふうむ。


《 あるときは ありのすさびにかたらわで こいしきものと わかれてぞしる 》っていうのは、なんだか難しくって怖い歌なんですねえ。


「怖いはずだよ。いいか、こう並べるのがホントなんだ」


《あ あるときは》
《あ ありのすさびにかたらわで》
《こ こいしきものと》
《わ わかれてぞしる》


「ほらな、ひと文字目を縦に並べてみりゃ、な、「ああこわ」ってことになってんだよ」


ん~。


長のお付き合い、ありがとうございました。
おあとがよろしいようで。

 

 

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