< こぬ人を 待ちかね山の 呼子鳥 おなじ心に あはれとぞ聞く >
どこの国、地域であっても、神話っていうのはいちにちで出来たわけじゃなくって、遠い過去、文字を持たない頃から語り伝えられた歴史ってことになるんでしょうね。
その内容はっていうことになりますと、よくまあ、考えましたよねっていうエピソードがふんだんにあります。
ストーリーテリングとしてのツッコミどころ満載だとしても、どのエピソードでもそれをじっくり読めば、なかなか考えさせられて、納得させられる部分も多いですよねえ。
みんさんご存じ、日本の神話はイザナギ、イザナミの国造りから始まります。
イザナギ、イザナミの間に生まれた子どもはたくさんあげられていますが、その中で「三貴子」として尊ばれたのが、アマテラス、ツクヨミ、スサノヲでした。
三貴子の第一とされるアマテラスと、弟であるスサノヲとの諍いの解決策として生んだ子どもが8柱あげられています。
アマテラスがスサノヲの剣を噛み砕いて生んだ3柱の女神が、
オキツシマヒメ、サヨリヒメ、タキツヒメ。
スサノヲがアマテラスの玉を噛み砕いて生んだ5柱の男神が、
アメノオシホミミ、アメノホヒ、アマツヒコネ、イクツヒコネ、クマノクシヒ。
アマテラスを地神の初代。その長男のアメノオシホミミを第2代と数えます。
アメノオシホミミはタクハタチヂヒメとの間に地神第3代の、ニニギをもうけます。
日向の国、高千穂峰に天降ったとされているのが、アマテラスの孫にあたる、このニニギですね。
ニニギは地上の神の娘、コノハナサクヤヒメと結ばれるんですよね。
コノハナサクヤヒメは一夜にして身籠ったので、ニニギは自分の子どもじゃないんじゃないかって疑います。
コノハナサクヤヒメは誓いを立てます。
天神であるニニギの子であるならば、どんな状況であったとしても無事に生まれ出てくるはずだから、っていうことで、産屋に火を放って出産するんですね。
なかなか激しい性格のコノハナサクヤヒメです。
炎の中から無事に生まれてきたのが、ホデリ、ホスセリ、ホオリの3柱。漢字表記では3柱とも「火」で始まります。
このうちホスセリは古事記にしか記載がないんだそうで、どういう神だったのか分かっていないみたいです。
長男のホデリが海幸彦。三男のホオリが山幸彦として「うみさちやまさち」の神話になっていますよね。
兄の釣り針をなくしてしまったホオリは、なくした釣り針そのものを返せと要求されて困ってしまいます。
するとそこへ塩土老翁(シオツチノオジ)という神が現れて、竜宮へ案内してもらいます。
竜宮っていう場所が1つだけだとすれば、浦島太郎の前にホオリが行っていることになるんですね。
ホオリは乙姫さまじゃなくって、トヨタマヒメに出会います。
ホオリがなくしてしまった釣り針はすぐに見つかったんですが、ホオリを気に入った竜王はすぐには返さず、トヨタマヒメと結婚させるんですね。
やがて3年が過ぎて、ホームシック気味になったホオリが深いため息をつくのを聞いて、トヨタマヒメは竜王を説得。ホオリに釣り針を渡して、その他に玉と呪文を授けます。
そしてこう告げるんですね。
「わたしはすでに妊娠しています。地上に帰ったら私と生まれてくる子どものために産屋を建てて待っていてください」
故郷に帰ったホオリは、トヨタマヒメに授かった呪文と玉のチカラで兄の海幸彦、ホデリを征して、第4代の地神となります。
やがて約束通りやって来たトヨタマヒメは、中を見てはいけないっていう約束をホオリにさせて産屋に入ります。
見るなのタブーですね。
で、期待を裏切らないホオリは、見ちゃうんですよねえ。
トヨタマヒメは「八尋和邇(やひろわに)(大きなワニ)」の姿をしていたそうです。
出産を終えたトヨタマヒメは竜宮に帰ってしまうんですが、このとき生まれた子どもが、第5代の地神、ウガヤフキアエズ。
漢字表記では「鵜葺草葺不合」って書きます。
産屋の屋根を葺き合わせないうちに生まれたとされる、そのことを名前にしているんでしょうね。
宮崎県日南市の鵜戸神宮はウガヤフキアエズが生まれた産屋の跡なんだそうですよ。
竜宮に帰ったトヨタマヒメはウガヤフキアエズの養育のために、自分の妹、タマヨリヒメを地上に遣わします。
そして、ウガヤフキアエズが叔母にあたるタマヨリヒメとの間にもうけた第4子が、初代天皇となる神武天皇なんですよねえ。
日向の国から東征して大和に都を構える天皇です。
ワニだったんですねえ。クロコダイル。
いや、日本にワニなんていないでしょ。サメのことでしょ。因幡の白兎でもワニっていってますけど、フカ、サメのことだって聞きますよ。
ですよね。
ところがですね、実は1964年に、大阪で日本のワニが見つかっているんです。
ま、1964年、だいぶ昔のことですから、当時は話題になったのかもしれませんけれど、全く初耳だったんであります。
日本でワニの化石が見つかった。見つかっていたんですよねえ。
日本を代表する大学の1つ、大阪大学。
3つあるキャンパスの内の1つ「豊中キャンパス」の構内で、高校生によって発見されたんだそうです。
30万年から50万年前の地層に眠っていた、全長7メートル余り。巨大なワニのほぼ完全な化石。
その名も「トヨタマヒメイア・マチカネンシス」
豊中キャンパスがある場所は「大阪府豊中市待兼山町」ってことで、マチカネ。
あとは、日本でワニって言ったら、トヨタマヒメでしょ!
ってことで「トヨタマヒメイア・マチカネンシス」
名前を付けた人、エライ! グッドセンスなネーミングでしょねえ。
日本にワニ、いたんですねえ。神武天皇のおばあさんですねえ。
大阪大学以外でも、レプリカはいろんなところで見学できるみたいです。日本のワニ。
「豊中市立文化芸術センター」
「北海道大学総合博物館」
「東京大学総合研究博物館JPタワー学術文化総合ミュージアム」
「豊橋市自然史博物館」
「北九州市立いのちのたび博物館」
「御船町恐竜博物館」
大阪大学、理学部校舎前にはマチカネワニ発掘の碑が建っているそうですし、豊中市のマスコットキャラクターは「マチカネくん」豊中市のマンホールの蓋も「マチカネくん」
豊中市の市制が始まった10月15日が誕生日。
生まれた場所は、平安時代から歌にも詠まれていた待兼山。
関西方面は、なんだか艶っぽい名前の地名が多いですよねえ。
所属! は、豊中市都市活力部魅力文化創造課ってことで、もしかすると、市の職員さんの名刺にも登場しているのかもですねえ。
「マチカネくん」は公務員なんですね。
「トヨタマヒメイア・マチカネンシス」
トヨタマヒメとオトヒメサマって、どういう関係になっているんでしょうね。