< せかせか ガツガツしているより おっとり のほほんとしている方が 好感度高い かしらん >
「おっとりしてますねえ」っていう言葉が、果たして誉め言葉なのかどうか、かなりアヤシイって感じの世の中になってしまっているんじゃないでしょうか。
職場なんかでは、直接、面と向かって口にされることって、ほぼ無い気がしますね。
「おっとり」っていう言葉が、ある人物の評価として口に出るときは、どこかあきらめ気味、しょうがないんだよ、当人に悪気はないんだよ、っていうふうなニュアンスを言外に含んでさえいるように思います。
「あいつはなあ、おっとりしてるからなあ」
「おっとり」っていうのは21世紀、令和の日本には似合わない物腰になっているんでしょうかね。
でもこれ、仕事を離れて一般生活っていうシチュエーションになりますと、ちょっとニュアンスが違ってきますね。
とくに女性に対して「おっとり」っていう評価がされるときは、どちらかといいますとイイ評価になっているんじゃないでしょうか。
男性に対して職場以外、たとえば居酒屋なんかでの呑み仲間評価に「おっとり」っていう言葉が使われるときは、害にはならないけど、どうもスッキリしない言動の人だよねえっていうニュアンスを感じたりします。
もっと上手くやれたろうにねえ、っていう言外の意味。どこか残念な人。
ところが女性に対して使われる場合は、
「あのコ、おっとりしてて、イイ感じに優しいんだよ」
おっとりした男と、おっとりした女。
まあ、個人的、勝手な思い込みですけど、「おっとり」は女性優位に使われる言葉かもしれません。
まあね、世の中、女性だって、おっとりした人ばっかりじゃないってことは身に染みて分かっておりますよ。
かなり前のことになりますけどね、とあるオフィスビルで、うっひゃあっていう出来事に出くわしたことがあるんです。
40数階あるオフィスビルでの出来事でした。
だだっ広い玄関ホールに、エレベーターは6基あります。
20階までの低層階エレベーターが3基、21階以上の高僧階エレベーターが3基。
エレベーターホールは、玄関ホールの中の一番奥にあるんですが、朝の通勤時にはビルの玄関の外にまで行列がつながっちゃますね。
そういう状況を経験されている方も少なくないと思うんですが、まあ、みんなね、マナー良く並んでいます。
いろんな会社が入っていて、特に顔見知りでもない数千人が一気にエレベーターでオフィスに入っていくわけですから、ある種の芸当みたいにスムースに流れていかないと、定時までにオフィスに入れませんからね。
日本人だなあって思う瞬間です。
こういうのに慣れっこになってしまうと、なんかね、どこか、精神的に欠けたモノがないと上手く過ごせないような感覚もしてきますよ。
自分らしく、とかじゃなくって、しっかり歯車になりなさい。
全員ね、老若男女、無言で動いています。誰もが沈んだ表情に感じていたもんでしたが、ま、そこはそれ、個人こじん、いろいろな捉え方があるとは思いますけどね。
で、その時は昼前、別のビルでの進捗会議から戻ってきた時なんですけど、1階のエントランスで別プロジェクトとの横断ミーティング日時について少しばかり打ち合わせがありましたんで、会議メンバーたちから遅れて、私が1人だけでエレベーターに乗ることになったんですね。
朝の通勤時間帯を過ぎればエレベーターに行列ができることは、ランチタイムを除けば、ありません。みんなオフィスの中でカチャカチャパソコンに向かっていますからね。
エレベーターホールに人気は無くって、朝の気配なんて微塵も感じられない無人の広い空間。
高層階エレベーターを呼ぶボタンを押して待っていますと、ラッキーなことに空きエレベーターが1階に待機していたみたいですぐにドアが開きました。
エレベーターの中に入って「閉」ボタンを連打する人もいますけど、自然に閉まるのを待つタイプでして、目的階の「38」ボタンを押してエレベーターボックスの奥に移動。
ちょっと間があって、ドアが閉じかけたタイミングで、ヒールの音をカツカツ響かせてバインダーを抱えたオネエサンが走って入って来ました。
急いでいるんでしょうねえ、ハアハア言ってます。
オネエサンはエレベーターの中に入って来るなり「35」を押して、「閉」ボタン連打です。
オネエサンの焦った気持とはウラハラ、ゆっくり目にエレベーターのドアが閉じかかります。
と、途中からまた開きだしました。
「あ、ごめんなさいねえ」
バケツとモップを持った清掃のおばちゃんが入って来ました。
閉じかけた時点でホール側から呼びボタンを押せばドアは開きますからね、そういうタイミングでの出来事です。
お掃除おばちゃんは「21」を押して、ニコニコと我々2人に頭を下げます。
ま、そんなに珍しくもなく、けっこうあるシチュエーションですよ。
オフィスビルにはどこでも一定数の清掃関係人たちも働いていますからね。
ところがヒールのオネエサン、何が気に障ったのか、一瞬、チラッと私の方に視線を、向けてから大声で、
「なによあんた。なんでここに乗って来るのよ。搬入用エレベーターがあるでしょ」
いきなり怒鳴り声なんですね。
お掃除おばちゃんも急にまなじりを上げます。
「ああ、今ね、点検中なんだよ。あんた、なにそんなに焦ってんの、バカみたい」
「なんですってえ、あんた何言ってるの、ふざけないでよ」
どっひゃあ、急に何が始まっちゃったの? 私はどうするのが正解だったんでしょうか。
なんも出来ませんよ。
まあね、高層ビルのエレベーターは驚くほどのスピードで動いていますからね、まもなく21階到~着。
60がらみだと思うんですけど、お掃除おばちゃんはプリプリ降りていきました。
と、怒りの治まらない様子の30代と思しきヒールのオネエサンは「まったく、なんなの!」って言いながら、バインダーを抱えたまま「閉」ボタン連打してました。
ヤな雰囲気のヒールのオネエサンと2人だけの数秒があって、35回到着、はい、さようならあ、っていう一幕だったんでありました。
疲れました。
「おっとり」の反対語は「短気」「せっかち」なんだそうですけど、たしかにね、あのオネエサンの態度は「短気」「せっかち」ではありました。
にしても、自分の母親ぐらいの年恰好の人に対して、あんなにあからさまに罵倒するっていうのは単に「短気」じゃあ済まされない気もします。
1人の人間が、その日その時、そのシチュエーションに登場して来る時、どんな心理状態なのかっていうのは知りようもないんですけど、まあ、相当に急いでいた、焦っていた。事務系のオネエサンのように見えましたけど、会社からかなり急がされていたってことだったんでしょうね。
搬入用エレベーターっていうのは玄関ホールとは別の入り口で、1基しかなくって、荷物を入れたり出したりするわけですから、ビルの中を上下するのにけっこう時間を要します。
待ってるけど、全然やって来ない。
こんなんじゃあ使えないってことで、宅配便のドライバー、郵便配達の人、そしてメンテナンス業者の人が、オフィス用のエレベーターを使うこともありますんで、ご容赦くださいって案内メールがビルの管理室から定期的に送信されてきているはずなんですけどね。
っていうか、そんな案内メールが来ようが来まいが、お掃除おばちゃんがオフィス用エレベーターに乗って来たってイイじゃんか、って思うんですけどね。
あの、大事そうに抱えていたバインダーは、ひょっとすると裏帳簿?
んなわけはないでしょねえ。
ずっとあんな調子で仕事してたら、数日でバテるでしょ。「おっとり」いきましょうよ、っていうのは大きなお世話なんですけどね。
あのオネエサンも、たまたま仕事の流れの中で追い込まれた気持ちになっていただけで、普段はあんなにピーキーに騒ぎ立てる女性じゃないって思いたいところです。
ところで「おっとり」つながりなんですが「おっとり刀で駆けつける」って言いますよね。
聞いたことがある言葉だと思います。
この言葉、おっとりしたようなヤツが駆けつけて来たって戦力にならなさそうだよねえ、役に立たないヤツの例えとしていう言葉なのかって思っていたんですけど、全然違っていたんでした。
日本語のややこしいところなんですけど、この「おっとり」は「押っ取り」って書くんだそうで、元々の言葉は「押し取る」
「押っ取り刀で駆けつける」っていうのは、刀を押し取るように、ひっつかんで駆けつけるっていう意味だったんでありました。
知ってました? 知ってて使ってました?
全然知りませんでした。トホホです。
でもまあ、そう思っていただけで、口に出して言うっていうこともしていませんし、一般的にそんなに使う言葉じゃないかもですけどね。。
刀を腰にきちんと手挟んで、とかそういう余裕もないような慌てふためいた様子で、とにかく刀をひっつかんで、ちょんまげ振り乱して駆け付ける。お家の一大事、っていうシチュエーションで使う言葉だったんですねえ。
ひらがなの「おっとり」と、漢字の「押っ取り」
全然ちゃうやんけ!
ってことなんでありました。
ってことはですね、「おっとり」は女性名詞で、「押っ取り」は男性名詞。
うんにゃ、日本語にそういう区別はありません。はい、了解です。
日本の皆さん、女も男も「おっとり」いきませう!