< まあ 対決するような種類のものでもないんでありますけどねえ >
昔むかし、紀元前の中国に斉(せい)っていう国がございましたとさ。
って、ホントに在ったんですけどね。
宣王(せんおう)っていうね、名君が、戦国時代の斉を治められていたそうです。
戦国の世とはいえ、毎日戦争をしていたわけでもありませんでね、緊張感は維持しながらも国の民にも安息が必要です。
宣王は、盛大な祭りを催すことにしました。
そのことを告げると民はみんな大喜びで祭りの準備に取り掛かって、国の中で一番立派な牛を曳いて来ました。
その牛の立派な姿を見て、民はますます喜びを大きくして歓声をあげます。
いよいよ、その立派な牛を捌こうという時になって、宣王と牛の目が合いました。
宣王は忍びなくなって、牛を捌くのを止め、代わりに羊を用意させたのです。
斉の民はがっかりしました。
調理人たちは言い合いました。
「なんと我が国王のケチなことよ。あんなに立派な牛を祭りから遠ざけてしまって、こんなに小さな羊にしてしまうとは、実に情けないことじゃないか」
「なぜこんなにケチなことをするんだろう。嫌な王様だよ、まったく」
民の不満の声は宣王の耳に入って、民に牛の肉を与えることを惜しんで、羊にしたのではないという思いの王はひどく悩みました。
すぐに宰相の孟子を呼んで相談します。
孟子は言います。
「王よ。牛を哀れむのであれば羊をも哀れむのが本当でございましょう」
宣王は孟子の指摘に肯いて、ますます深く悩みました。
「王よ。心配にはおよびません。祭りに捧げられる獣を哀れむ気持ちこそ仁の心です。王が牛を救ったのは殺されようとするところを見ていたからでしょう。殺すところを見てしまってはとても食べる気にならないのは当然のことなのです。君子は生き物の命を殺す調理場には近寄らないものなのです」
これが、「君子は庖厨を遠ざく」っていう格言として伝わって来て、いつの頃からか日本では「男子厨房に入るべからず」って言うようになったんですね。
このところ聞くのは「男子厨房に入らず」だったりするんですけれど、これだとちょっとニュアンスが違ってきますよね。
「入るべからず」と「入らず」
「遠ざける」っていう言葉からしますと「べからず」の方がピッタリくる感じでしょうか。
ま、どっちにしても、21世紀の日本では死語に近いでしょうね。
店舗経営をしているプロの料理人は別としても、料理好きな男子も少なくないですもんね。
現在の日本男児は、どんどん厨房に入っています。
台所は女の城! なんだから男は入って来ないで、っていう声もね、まま、あるようではありますけれども、台所は男子禁制っていう空気感、今はないですよね。
フェミニズムがどうのっていう話じゃござんせんよ。
牛丼屋さんでも町中華でも、はたまた居酒屋さんでも、女子が1人でっていうの、今は当たり前ですし、プロのトラック、タクシードライバーも女子がどんどん増えてきているみたいです。
女人禁制、なんていうのは江戸時代で終わっているでしょねえ。
でもですね、反対にです、今でも空気感的に男子禁制って場所がありますよね。
オフィスの中にある「給湯室」です。でしょ?
大きなオフィスビルなんかですと、ワンフロアに4カ所あったりまします。給湯室ね。
フロアを2本の廊下が突っ切っていて、2本の廊下の両端にある4つの給湯室。
いろんなオフィスビルを経験していますけれど、だいたい真ん中あたりにはないですよ。端っこにありますよね。向かい合わせにトイレの入り口。
そのフロアに営業職の人は誰もいなくって、接客とかするようなシチュエーションもないのに、給湯室は必ずあります。
お客さんにお茶やコーヒーを出すっていうこともないんですけどねえ。
シンクは生活感なくピカピカですし、自分でお茶を淹れて飲む人もいないでしょ。
フロアにはたいてい飲料の自動販売機もありますしね、今どき、給湯室ってなんの意味があんの?
いやいや、そんなことを言っちゃいけないんでありますよ。
ホント、マジにダメなんです。
どんなジャンルの会社だとしても、そこそこの人数のいる会社であれば、給湯室の設置は必須条件なんです。
使わないにしても、しっかり給湯設備が必要なことは言うまでもありません。
そして、最低でも2人。欲を言えば4、5人が入れるぐらいのスペースがあった方がよろしいようです。
給湯室の役割は「給湯室トーク」を成立させることだからですよねえ。
「男子厨房に入るべからず」は、とっくに死語になっていますけれども、「給湯室トーク」は、江戸時代から続いている「井戸端会議」っていう、たぶんおそらく、日本では国会の会議より重要な、実効的な内容が話し合われて、様々な決定がなされて、世の中を救ってきている(?)からなんですよねえ。
ウィメンズヘルスのキモを担っているのが「給湯室トーク」なのである。なんていう声もあります。
いや、実態は知りませんよ。なんたって男子禁制ですから。
「給湯室トーク」は、なぜだかヒソヒソ声で行われるんですよね。
そこへ、カップラーメンのお湯を、なんてね、オヤジが入り込もうものなら、「給湯室トーク」はピタッと止まって、そこにいる女子たちの刺すような視線で、簡単に排除されてしまいます。
まあね、給湯室に何人かの女子がいることを知っていながら、のこのこ入っていくような男子は、オヤジだけでしょねえ。
「よっ、キレイどころが集まっちゃって、なにしてんの?」
とかね、ノーテンキ。
「給湯室トーク」のメンバーからはノーリアクションです。
役付きになって出世していくような男子は、近づかないのが「給湯室」なんです。知らんけど。
「給湯室トーク」は、多くの場合、その時の参加メンバーのプライベートなことが多いらしいですね。
時には、社内、部内のパワハラやセクハラへの対抗策として、#MeToo運動の拠点になることもあるらしいんですけど、たいていは、プライベートな問題について本音を語り合う、赤裸々トークなんだそうですねえ。
え? はい。なんでそんなことが言えるのか、ってことなんですけどね。
これねえ、「給湯室トーク」って、いつまでも長々と出来ないじゃないですか。
それで、2回戦なのか3回戦なのか分かりませんけれど、盛り上がっちゃうと「居酒屋トーク」の現場に持ち込まれることになるんでございますよ。
居酒屋でしょっちゅう見かけるようになった「女子会」
あれはですね、同じ会社の人ばかりに限っていないところが面白いんだそうですけれど、「給湯室トーク」の続き。
っていうか、居酒屋で繰り広げられる給湯室トーク。
しかもいろんな会社の給湯室トークが多国籍軍を組んじゃったりなんかして、女子の本音、赤裸々トーク。
アルコールも入って、中盤からは問題解決よりはストレス発散の要素の方が強くなるんだそうです。
まさにウィメンズヘルスなのかもですね。
仕事中の「給湯室」で、まさかアルコールってわけにもいかないでしょうから、「給湯室トーク」は問題認識の共有。詳細については「居酒屋トーク」で。っていいますか「女子会」なんでしょうけどね。
ただね、人によるんでしょうけれど、けっこう巻き込まれますよ。居酒屋トークの女子会。
いや、女子だけで解決してよね、ってなことは言える雰囲気じゃないですよ。詰問です。
「ちょっとォ、どう思うんですか、この問題!」
え~っと、ですね、って、知らんがな! ワイは関係あれへんがな!
っていうのがほとんどですけどね。
女子会の居酒屋トークは、オヤジたちの居酒屋トークとはジャンルが違う感じなんですよねえ。
最初からオヤジギャグを言いながら居酒屋トークに参加していることも多いんですけど、女子会の流れからの居酒屋トーク参加だと、ちょっとね、パワーバランスっていうのか、感情のコントロールが乱れている女子になっているですよ。
なぜかって言うと、給湯室の湯気をそのまま持ち込んでいるからあ~。
ん???
って、あれですかね。「給湯室トーク」の「給湯室」には、湯気、あがってないってことでしたけどね。
リモートワークっていう女子も多いと思うんですけど、あれですよ、給湯室チャット、とか、そういうツールもあるみたいです。
リモートでも男子禁制です。知らんけど。
おあとがよろしいようで。。。