< イタリアン新潟に続いて 北陸の なにそれグルメ発見です >
え~、毎度まいどのお運び、ありがとう存じます。
今回はなにそれグルメのお噺でございまして、よろしくお付き合いのほど、お願い申し上げておきますが。
どうやら世の中はコロナが明けますってえと、本格的に電気自動車が増えてくるんだそうでしてね、自動運転の方もどんどん進化しまして、やがて運転免許なんてもんが要らなくなっちゃう。
そうしますと、なんですよ。例のほら、無免許運転ってそんなに悪いことなんでしょうか、な~んて言ってたような、あの方ね。ああいうお人なんかも助かるってことになるんでしょうか。
SDGsなんてえのもね、どんどん具体的になってきまして、ちょっと前まではどうも面倒だねえ、なんて言ってた方もね、いろいろゴミの分類ってのを1つとってみましても、やっているんだそうでありますよ。
まあ、世の中ってえのは、どんどん変わっていくもんでございますけれどもね、変わらないでいて欲しいのがお付き合ってもんでございまして、はい、人と人のお付き合い。
こればっかりはね、リモートだズームだってんじゃダメですよ。
きちんとね、面と向かって話をしてですね、くだらないことだろうがなんだろうが、ぐだぐだやっていくってのが精神的安定ってやつに繋がるんだそうでございますからね。
人と人とのふれあいです。
なにしろ大事にしないといけません。
さて、きょうもご隠居さんのところへやってまいりましたのは、町内のお調子者、八五郎って野郎でございます。
はい、噺の定番でございまして。
「ご隠居、いなさるかね」
「おお、八五郎さん。久しぶりじゃないですか。ま、お入んなさい。時になんだね、お前さん、あれだってね、車を買ったんだってね。新しいの。電気自動車だっていうじゃないか。モダンなことをしたね」
「ダメだねご隠居は。ええ~、電気自動車ってやがら。あのね、おいらが買ったのはね、イーブイ車ってんですよ。エレクトリック・ビークルス」
「なんだい、イヤに突っかかるじゃないか。英語で言ったって日本語で言ったって車に変わりはないじゃないか。なにもそんなに気取らなくたってイイよ。だいいちお前さんと英語ってのはね、似合っちゃいないよ」
「へっ、おいらだってカタカナぐらいは覚えられますってんですよ。似合うも似合わねえも大きなお世話だ。それよりねご隠居。きょうはひとつ聞きてえことがあって伺ったんですよ」
「まあそうだろうね。そうじゃないと噺がはじまらないよ。なんだい、その聞きたいことっていうのは」
「ちょいとね、コロナ明けの祝いに旅行しようって思いましてね、金沢へ」
「ほほう、金沢。コロナ明けっていうのはちっとばかし気の早い話なようだけれども、あれだよ、金沢っていうのは東京からちょっと遠いよ。途中途中にまだ充電設備が整ってないんじゃないのかい」
「いやなあに、充電なんてのはいつだって、こう、頭の方からやってんですよ」
「頭の方から? 一回でどれくらい走るんだい? 走行距離は」
「おいらが金沢へ行くって言ったら、走行距離は東京から金沢までに決まってんじゃねえですか」
「相変わらず妙なことを言う人だねえ。決まってるって言ったってお前さん。まだ運転も慣れてないだろう」
「御心配にゃあ及びませんや。おいらが運転するんじゃありませんから」
「おや、奥さんの運転で行くのかい」
「いやいや、何言ってんですか。ちゃんと運転士がいます」
「運転士? なんだ八五郎さん、その買ったばっかりのエレクトリック・ビークルスで行くんじゃないのかい」
「いや、新幹線ですよ、北陸新幹線」
「なんだそうかい。あたしはてっきり……」
「それよりご隠居は金沢、詳しいでしょ」
「ん~、詳しいって程じゃないですよ。ただ3年ばかし暮らしてたことがあるってだけでね」
「3年も暮らしてりゃあれでしょ、金沢じゅうのネコと知り合いになっちゃって大変なもんでしょ」
「なんだい急に話がヘンな具合になってきたね。金沢の何が知りたいんだい」
「クマの野郎がね、金沢でしか食えねえっていうなんとかライスってのがあるから、それを食ってきて、土産話で聞かせろってウルサイんですよ」
「金沢でしか食べられないなんとかライス?」
「ご隠居なら知ってるでしょ、スケベだから」
「何言ってるんだね、お前さんは。人にモノを訪ねる態度じゃないよ、まったく。でもあれだね、それはハントンライスのことだろうね」
「ハントンライス」
「ああ、今は金沢だけってこともないだろうと思いますがね」
「ハントンってのはあれですか、やっぱり、豚肉をケチって半分だけにしてハントンってやつで」
「そんなものが名物になるわけないだろ。ハントンライスっていうのはね、れっきとした金沢の郷土料理って言ってイイもんでね、近頃流行りのB級グルメっていうのとはちょっと違うシロモノなんだよ」
「ほう、そうですかい。なんなんです、そのハントンってのは」
「これは聞いた話なんだけどね、ハンガリーのハンっていうのと、マグロっていう意味のハンガリー語のトンっていうことでハントン」
「ご隠居、からかっちゃいけません。なんでいきなりハンガリーなんですか」
「なんでと言ったってね、そういう話なんだからしかたがないよ。まあ、ハンガリーにはねラントット・トンハルっていう名前のごはんの上にマグロのフライを乗っけてタルタルソースで食べる料理があるんだそうだけどね。金沢市のこのハントンライスっていうのはね、1960年ごろ、ジャーマンベーカリーっていうパン屋さんの社長が、金沢市の片町って所にグリルニュージャマンっていうレストランを開業したそうなんだね。そこのレストランで賄いとして作られたのが始まりで、余っていたマグロをフライにしてごはんに乗っけてね、だんだん工夫をしていくうちに、ごはんをケチャップライスにして、薄焼き卵を乗っけて、魚のフライも乗っけて、ケチャップとタルタルソースをかけて出来上がり。これが思いのほか上出来の味だったんで、客に出してみたら、アッという間に評判になって、いっきに金沢市民のソールフードになったっていうことなんだよ」
「で、ご隠居も食べたことあるんですかい」
「ああ、何度かありますよ」
「旨いんですか、そのハントンってのは」
「まず間違いないですね。グリルニュージャーマンから独立した料理人たちが、金沢市内のいろんな店で、それぞれの工夫を凝らしたハントンライスを提供していますからね、食べ歩いてみるのも一興でしょうね。ボリュームもありますよ。しかも安いんです」
「店ごとに味が違ってんですか」
「まあそうですね、味も違いますけどね、乗っかってるフライの違いが大きいんですね。グリルニュージャーマンから独立した店の中で一番有名なのがグリルオーツカって店でね、人気が高い。キッチンすぎの実っていう店のカツハントンも有名でしたね」
「カツハントンですか」
「ま、言ってみればトンカツ乗せオムライスってとこでしょうかね。思い出してきましたね、旨いんですよ。店ごとにねエビフライだとか、白身フライだとかね。きゅうりがごはんに刺さっている店もありますよ。あたしが知らない店も増えているんだと思いますよ」
「きゅうりねえ、ホントいろいろやってくれちゃってますねえ。何軒ぐらいあんですか」
「さあ、どんどん増えて言ってる話は聞きましたけどねえ、今何軒ぐらいになってますかねえ」
「ハントンライスねえ」
「そうです。金沢に行ったら外せませんよ」
ってことでございましてね、今回はご隠居と八五郎さんのある日の話でございました。
だいたいホントのとこでございますよ、ハントンライス。
コロナ明けに金沢へ行く目的でございます。しょうゆソフトもイイです。
おあとがよろしいようで。