＜文字落語 私たちはどこの病院へ行けばいいんでしょうか の一席＞
オリンピック開催に向けて聖火リレーは粛々と進捗しているようでございますが、いかがでしょうか、みなさん、つつがなくお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。
三回目の緊急事態宣言なんでございましてね。
なかなか沈静化する気配を見せない新型コロナです。日本ばかりじゃございませんで、世界中のね、アスリートの方々、やきもきなさってますね。
ま、アタシはスポーツなんて、なあんにもやっていませんので確かな心情なんぞについて語れるもんじゃありませんが、なんとも落ち着かない気持ちでしょうね。
世界中のオリンピアンたちは、ホントに日本に行けるのか、行って大丈夫なのか、不安だと思いますし、日本側は日本側で、受け入れのボランティアの人たちなんかも、世界中から一気に大人数が入って来て、日本の感染対策ってホントに信頼できるのかって、やっぱり不安。
世界中の誰も安心できていませんですよ。日本の対策は信頼できません。
オリンピック競技はね、誰だって観たいと思いますし、応援したい気持ちなのはホントなんですけれどね、この感染状況の中で実際にやるとなると、どうしてもね、観客は無しだと言ってもですね、大丈夫かなあって、心配になりますですよ。
ワクチン接種もなかなか進んでいないようですしね、そもそもワクチンがね、打つべきワクチンが無いってんですから困ったもんです。
入ってくる目途が立ちました、なんて威張っておられますが、信頼できるんでしょうかね。え？ 目途ですよ。
ねえ、みなさん。日本って国は、こんなもんだったんでしょうかね？ あまりにも脆弱ですよね。なにもかもチグハグな感じですよ。情けないことですねえ。どうしちゃったんでしょう。
それにしても不思議なのはですね、周りに1人も居ないんですよ、感染した人。
ま、地元の呑み仲間はいつも同じ顔ぶれですけれどね、道ですれちがったり、コンビニでばったり出会ったりして、そんな話になります。
そですよ、呑み屋には集まれません。みんな宅呑みがメインです。
世の中は第4波ってことでしてね、またどんどん増えていますけれども、みんなね、周りに感染した人が居るって聞いたことが無いんです。
いや、聞いたことが無いったって、感染した人はワーワー大声で言って周るわけじゃないでしょうけれども、そういう話ってのは、あっというまに伝わるもんですからね。
いくら隠したってね。
と思うんですが、感染者はぐーんと増えているのは事実なのに、周りにそういう人が居ないってのは、なんとも不思議な感じがするんです。
感染拡大は勢いを維持し続けていましてね、日本全体で50万人に届いちゃいそうですし、東京も13万人に迫ってきていますね。
となると、東京都の人口を1,400万人ってところだとしますと、だいたい1,000人に1人って計算になりますよ。
どうなんでしょうねえ、地元の呑み仲間やら、仕事関係のなんやかや含めたら、動向を知ることのできる数が100人ぐらいだったとしても、その1人1人に100人の知り合いがいるってことですから、全部で1万人になりますよ。
そうするってえと関わりのありそうな人間のうち、感染者が10人は居る計算になるんですから、ああ、知り合いの友達が感染しちゃったっていうようなね、話が聞こえてきてよさそうに思うんですが、聞きません。
ぜんぜん聞きません。30人ぐらいは居る呑み仲間の誰も聞いていないんですよ。
ま、さっきも言いましたけれども、わざわざ他人に言うことでもありませんからね、それで聞こえてこないってことなのかもしれませんけれど、アタシたち一般人はね、ただただ、ビクビク暮らしているばかりです。
この街のクマさんね、知ってるでしょ？ え、知らない。そですか、ま、居るんでございますよ、クマって野郎がね。
はい、これはもう、どうしたって居るってことになっているんですよ、はい、落語ですからね。一応ね。
落語にクマって野郎はツキモノですから、しょうがないんです。昔からね。
作業着屋で働いてましてね、もうソコソコの年になっているんですが独身です。
で、妹さんが居ましてね、これがまた兄貴に似合わず気立ての好い娘で、早く嫁ぎまして幼稚園に入ったばかりの女の子が居ます。
クマさん自慢の妹でね、その子供がまた妹にそっくりなもんですから、その姪っ子をね、ネコッ可愛がりしてますよ、クマさんね。評判です。
親ばかとか、ジジばか、ババばかってことはあっても、あんなのは居ないね、クマの場合は伯父ばかってんだね。
仲間からそう言われていますけれども、その姪っ子がですね、ちょっと熱っぽいってことになったもんですから、もう大騒ぎです。
コロナ禍の今ですから、もう気が気じゃないんですね。
母親の妹の方は「この子は赤んぼのときからすぐ熱を出すんだから、大丈夫よ。すぐ下がるから」って言っているんですが、クマさんは納得できません。
変異株ってやつは、なんですか、子供の感染者も増えているんだそうですからね、心配でしょうがない。
まったく無責任な親だってんで、自分で病院に連れて行こうというんですが、さて、そうなってみて考えましたよ。どこの病院へ行けば良いんだろうってね。
クマさん自身は元より丈夫な男ですから、自分のかかりつけなんてないんです。病院ってものに縁がない。
幸せな男なんですが、病院ってのは、医者ってのは慎重に選ばなきゃいけない。姪っ子のために間違いが有っちゃいけない。こんな時は角のご隠居に聞くのが一番ってことで、やってまいりました。
この角のご隠居さんっていうのは、先だって医者を辞めたばかりの方なんですが、現役から退いた今でも色々と相談にのってくれている、まあ、街の名士。クマさんとは呑み仲間の、オピニオンリーダーってところのお方です。貴重な方です。
ご隠居、ちょっと相談があんですよ
おお、クマさん。久しぶりですね
ん？ なに？ なんで部屋の中にスダレなんかぶら下げてんです？ 独りでお公家様遊びかなんかやってんの？
いやいや、そうじゃないですよ。これはほら、お店でやってるパーテーションの代わりでね。うちはけっこう人が訪ねてくるもんですから、来る人もこの方が安心かと思いましてね。ところで、どうしました
病院ですよ、病院。うちの姪っ子が熱、出しましてね。ほらペーシーなんとかってやつをやってもらおうって思うんですが、ヘタなとこへ行っちゃ心配だから、どこへ行くのがイイか教えてもらおうって思いましてね
ほう、熱はどれくらいあるんですか？
一時期はね、37.5度以上の熱が続いたらコロナ感染を疑う必要がある、なんて言ってましたが、あれはどうなったんでしょうかね。
政治家のセンセンがたも、専門家のお医者さんがたも、説明、へたですね。
世界的に初めての体験なんですから、最初から知ってることがあるわけないのは理解できますし、試行錯誤しながら、これまでのナレッジを生かして、新たな対処方法を次々打ち出していただきたいんです。
そんでもって、方針が変わったら変わったで、ちゃんと広報しないといけませんですよ。ですが、そういうの、なんにも出てきませんね。説明もないですよ。ガマンしろ、ばっかりです。
そもそも平熱が人によって違うんですから、何度になったら熱っぽいっていう判断自体が違うんですよね。37.5度なんて決められてもそれを基準になんかできるもんじゃありません。
みんな同じなんてことがあるわけないです。医療は個人個人に合わせた処方が必要ですよね。
ましてやまだ小さい子供のことですからね、調子が悪くたって、自分から熱っぽいなんて申告しませんよ。
クマさんもそこんところが納得いかない。ご隠居さん相手に噛みつきましたね。
いや、だからですね、とにかくやってもらえば安心するってもんじゃないですか、そのペーシーを
PCR検査ですね。あれはどこでもやってるわけじゃないようですよ
なんだってそんなケチなことしてんです？
いや、別にケチっているわけじゃないでしょうけれどね
土地によって違うでしょうけれどね、まずかかりつけの病院へ「電話で」相談してですね、そこの医師の判断でPCR検査を受けた方がイイだろうってなれば、検査場を紹介してくれるって流れになっていましてね、この街は。
実際にPCR検査をやってる病院はナイショなんです、ナイショ。
ま、これは検査を受けた人の数が増えてくれば自然に分かってしまうもんだと思いますが、一応ね、秘密です。
なんだってそんなにメンドクサイことやってんです？ サクッとやってくれりゃイイじゃないですかサクッと。もったいぶらないでさ
検査器具の数の問題もあるんでしょうし、あんまり人が集まり過ぎますと、そこでクラスターが発生してしまう可能性が高くなっちゃいますからね。いろいろあるんでしょう
まあね、病院のセンセ方も忙しいってのはよく聞きますがね
ん～、そこはどうもね、メディアの報道も医療現場全体を伝えてくれてはいないかもしれませんね
もちろんね、感染症対応が出来る設備だとか、専門の医師が居るか居ないかでだいぶ違うらしいんですね。
元々感染対策の環境があった病院や、急遽コロナ対策環境をこしらえたという病院は、そりゃもう猫の手も借りたいっていう忙しさ。医師や看護師さんにしてみれば「ブラック」な労働環境になっているようですから、ホントに頑張っていただいていると思いますが、そうじゃない病院は、むしろいつもより暇になっているらしいんですね。
そういう病院の方が多い。って話もあります。
ごく一部の病院がとんでもなく忙しい一方で、多くの病院が閑古鳥。
メディアで報道される病院は、医師も看護師さんも寝る間もなく八面六臂の大活躍で、病床不足、医師不足の状態なんですが、日本の病院すべてがコロナ対応できるってことでもないわけです。
不要不急の外出は自粛。家で過ごしなさいってことですしね。東京ではやかましく「ステイホーム」なんて言われましてね、イヌじゃないよ、ってなもんなんですが、みんな出かけなくなりましたよ、どこにもね。
そうしますと、病院としては患者、「お客」が来なくなります。
まず、病院へ行くと感染するかもしれないっていう心配から、緊急以外の手術を延期する人が多くなった。
絆創膏を貼れば済むような傷で夜間救急に飛び込んでくる「コンビニ救急」は、病院にとって困りものだったらしいんですが、これはほぼ居なくなったそうです。日本人もいろいろ居ますね。
「コンビニ救急」よりは一般的に知られているのが「病院サロネーゼ」という集団。
病院の待合室にたむろしていたおばーさん、おじーさんたち。
「このところサッチャン見ないけどさ、どうしたのかしら」
「そうだねえ、病院に来ないとこをみると、病気かも知れないね」
なんて取り沙汰されていた、病院をサロンとして利用していた大勢の人々。これも来なくなっちゃった。
居れば居たで肝心の医療が滞ったりして問題になっていましたが、病院経営としては収入が激減しちゃった。
そうなると、フリーランスの医師は仕事を失うことになりますね。
1年以上も続いているコロナ禍で、医療現場の現状は修羅場の忙しさが続いている病院と、人員削減を進めざるを得ない病院に分かれているわけです。経営的にね。
専門性があるので致し方ない部分もあるでしょうけれど、コロナ治療でオーバーワークの医師が居る一方で、医療界全体としては医師が余っている事態になってしまっている。
なんなんでしょうかねえ。
日本の保健行政システムって「オワコン」なのかもしれませんよ。
悪く言えば、今、病院に残っているのは、医者じゃなくって経営者ってことになっちゃいます。
こんな状況だと、クマさんじゃなくたって、どこの病院に行けば良いのか迷っちゃいますよね。
とにかく診てもらいたいんですよ。え？ 人の命を守るのが医者ってもんでしょ。いったいどこの病院行けばいいんです？
かかりつけが無いんじゃ弱りましたね。でもまあ、とりあえず、あの坂の上に出来た新しい病院へ聞いてみるのが良いんじゃないですか。設備も新しいでしょうから
いやいやご隠居、あすこはいけませんや。あすこはタケノコ医者だって評判ですから
タケノコ？ なんですかそれは？
まだヤブにもなっちゃいない
……
あおとがよろしいようで。
みなさまも、お体大事にお過ごしくださいますように。
