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【こちょこちょの樹】幹をくすぐると くすぐったがって笑う

< シャラシャラと笑うから 葉っぱが 紅い花が揺れる シャラシャラと音を立てて >

花の名前、樹木の種類っていうのをほとんど知らずに暮らして来ましたので、その樹の名前を知っているかと訊ねられて「知りません」って応えることに全く抵抗がないような仕儀になっております。


花の色を見て、見事な、まさに活き活きとした、輝かしい色だねえって思うことはありますし、巨木を見れば、はああ、長生きしてますねえ。どれだけの歴史を見てきたんでしょうか。っとか、そんな感慨をもたらしてくれる存在としての認識はあります。


ただ、その名前を知ろうとする意識、覚えようとする意欲が、薄いんですねえ。


植物との会話。っていうのか、植物を愛でる、テレパシー交換みたいな感覚って、圧倒的に女性の方が強いのかも、って思う時があります。

 

 

 


先日、東京は梅雨の真っただ中、低い曇天の昼下がり。


郊外にあるお気に入りの蕎麦屋さんで「大天もり」を食べて、満足腹で最寄りの駅へ向かって歩いていると、もう駅がすぐそこっていう辺りにある小さな公園の脇で、にゃあ、って短く呼びかけられました。


路地と公園を隔てる植込みの中に1匹のトラネコがうずくまって、こっちを見上げています。
マスクをずり下げて「なんじゃいな」って声をかけると、また短く、にゃあ。


人差し指の背中で額のあたりを撫でてやるとゴロゴロいいます。
毛並みがキレイですから飼い猫が散歩中なのか、逃げてきちゃったのか。


と、しゃがれたオバチャン声が、


とらのすけ、もう帰るよ。どこいったの?」


トラネコはビクッとして後ろを気にするように振り返りました。


オレンジ色のワンピース姿のオバチャンが声を張り上げながら近づいてくると、植え込みから公園の反対側へ飛び出していきました。


ふむ、とらのすけはまだ帰りたくないんだねえ、ってな感じで走り去った方を目で追っていますと、オレンジオバチャンは「あっ」って言いながらとらのすけを追いかけて行きざま、こっちをジロリと睨んでいきました。


ちゃいまっせ、ネコさらいとかじゃおまへんで。。。ヤな感じ。


トラネコだからとらのすけね。ふううん。


とらのすけは反対側の植え込みも抜けて、向こう側の路地を逃げていったようで、オレンジオバチャンもゲージを片手に公園を抜けて叫びながら見えなくなりました。


小さな公園の中には、梅雨の中休みを過ごしている人たちが数人いましたが、全員でオレンジオバチャンの背中を目で追っていましたですね。

 

 

 


満腹感もあって、なんだかダルク感じてきましたので、公園の中の隅にあるベンチで一休みすることにしました。


何の風情もない茶色いプラスティックのベンチに腰を下ろして、ふっと、ため息。
とらのすけは確保されちゃったでしょうかねえ。


公園の中には滑り台とブランコがあって、小さな砂場も見えます。
花壇と思しきエリアに花は咲いていませんでしたが、公園のぐるりを囲んでいる植え込みと、1本の桜。背の低い樹々が何本か、色の濃い緑を提供してくれています。

 

さすがに桜の樹は知っております。見分けがつきます。


気が付くと、少し離れて90度に配置されたベンチにおばあさんが1人、ちょこんと座っておられました。


サマースーツ、っていうんでしょうか、ベージュ色の2ピース。
花柄の杖を地面に突き立てて、支えた両手の甲にあごを乗せて、暑そうに見えます。
湿度の高い日でした。


と、おばあさんが突然立ち上がって、杖で、おばあさんの対面を指しながら、


「あんたさん、あの樹を知っちょうかね」


って言ってから、こっちを見ました。


おばあさんが杖で指している方には樹が1本しかありません。ちょっとウネッとした、2メートルぐらいの、樹。
見たことのあるような、ないような。


「あいは、こちょこちょの樹、言うんよ。うちたちゃ、こそぐりの樹、言うけどな。こそぐると、花と葉っぱでシャラシャラ笑うんよ。こそばいちゅうてな。もうじきキレイな花を咲かすでな。まだちょっと早い」


はあ、そですか。こちょこちょの、こそぐりの樹。


と、


「もおお、おかあさん、駅の改札で待っててって言ったでしょ。なんでそんなに勝手にいろいろ歩きまわるのよ」


みるとTシャツにジーンズ姿の中年の女の人が小走りに向かって来ています。
お母さんなのか、お義母さんなのか。探していたんでしょうね。


「あいは笑わん。怒ってばかしじゃ。可愛気んない」


はあ、そなんですか。


とらのすけは走って逃げていきましたが、おばあさんは杖にすがりながら、2人並んで公園からゆっくりと去って行きました。


おばあさんの地方言葉は、なんだかホッとするような響きを感じました。どこの地方の人なんでしょう。


こちょこちょの樹。


歩いて行って、こちょこちょしてみましたけど、シャラシャラ笑いませんでしたねえ。


夏になって花が咲かないと笑わないんでしょうか。
樹の名前を知らない奴なんかには反応しないだけ?
コミュニケーション拒否?


これまで何回か行っている蕎麦屋さんのある街の、小さな公園。不思議なネコとおばあさんとの邂逅。


いかに樹々の種類を知らない、覚えないっていってもですね、こちょこちょの樹っていう名前だったら、一回聞いたら忘れませんよ。


で、調べてみたらですね、こちょこちょの樹、こそぐりの樹っていうのはサルスベリのことなんでした。


サルスベリっていう名前は聞いたことがあります。
樹肌がすべすべしているんで、猿もすべっちゃって登れないからサルスベリ

 

 

でも実際には猿はスルスル登っちゃうらしい、っていう話も聞いたことがありました。


ただ、どういう樹なのか、分かっていませんでしたです。


そっか、あれがサルスベリ。こちょこちょの樹。


サルスベリって、こちょこちょの樹、こそぐりの樹、以外にもいろんな呼ばれ方をされているんですね。


百日紅
この漢字表記でサルスベリって読ませるようなんですけど、かなり無理がありますよね。正しくはヒャクジツコウっていうみたいです。言ってみればサルスベリの別名ですよね。


花の時期が百日ほどって、長いんですね。


「笑の樹」
これは、こちょこちょの樹と同じ種類の呼びかたなんでしょうね。


そういう呼び名もあるっていうことは、ホントに笑っているように感じる何かがあるんでしょうねえ。


「なまけの樹」
春に芽吹くのが他の樹に比べて遅いのに、秋に葉っぱを落とすのは一番早いから、だそうです。
大きなお世話なネーミング。


いろんな名前で呼ばれている樹なんですが、正式名はなんなんでしょう。


♪この~樹 なんの樹 気になる樹~


江戸時代、1709年に刊行されたっていう「貝原益軒(1630~1714)」の「大和本草(やまとほんぞう)」に記述があります。


「この木、皮なし、故に和名サルスベリと云」


っていうことですんで、正式な日本名は「猿滑り」っていうことになるんでしょうね。
そして、


「樹の本を久しくかけば、枝皆うごく、故に本草の異名を怕痒樹(はくようじゅ)と云」


って書かれてもいるそうですから、こちょこちょの樹っていう名前の由来も、江戸時代に既に確認されているっていうことなんじゃないでしょうか。

 

 

 


中国から伝わって来たっていうサルスベリなんですが、中国では「紫薇(しび)」って言うんだそうです。
中国では女の子の名前に使われることも少なくないっていう紫薇です。


そして、この紫薇の別名が「痒痒樹」


貝原益軒が、なんで「痒痒樹」を「怕痒樹」にしたのか、疑問ですが、中国の痒がる樹が、日本では痒さを怖がる樹になっているんですね。


「痒痒樹」について中国で言われているのは、幹を爪でこちょこちょしてやると、樹全体がちょこっと揺れる。
それはまるで、くすぐられて痒い痒いって震えているように見える。だから「痒痒樹」。


ってことはですね、猿滑り、百日紅っていうより、こちょこちょの樹っていう方が、本来的な名前ってことになるんじゃないでしょうかね。ならない?


今回はシャラシャラ笑うことを確認できなかったんですが、近くにあります? こちょこちょの樹。
あったら、ぜひ、こちょこちょを試してみてください。


やめてやめて、くすぐったいの苦手だからあ、って、シャラシャラ笑わせることができたならば、ぜひご一報くださいませえ。


正式名称、こちょこちょの樹、に1票!


樹の名前を1つ、覚えたのでありました。