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【酒屋へ三里 豆腐屋へ二里】という先人のあーだこーだに どーのこーのとクダをまく

<ほととぎす 自由自在に聞く里は 酒屋へ三里 豆腐屋へ二里>

この歌を詠んだ人は「頭光」と書いて「つむりのひかる」と読む、江戸時代の浮世絵師であり狂歌師、なんだそうです。
なんと43歳で亡くなったそうですが、つむり、光っていることを号にしているということは、どうやら若禿だったんでしょうかね。
ま、そんなことは大きなお世話。

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本名は岸誠之、日本橋亀井町の町役人だったそうです。町のお役人さんが狂歌を嗜んで、名前が頭光。(以下、ズコウ、とでも読んでください)


蜀山人の門弟で、天明狂歌四天王の一人に数えられています。


18世紀後半の天明狂歌の時代といわれたほどの狂歌一大ブームで、社会現象ともなったらしいですから、その中での評価。なかなかの御仁だったわけですね。


そんな頭光さん、大変な酒好きでもあったそうです。
そう聞くと、急に好さそうな人に思えてきちゃいます。よっ、頭光さん!
江戸のハンプティダンプティ!


で、この歌の評価なんですが、当時の風流趣味を茶化したものだというのが定説みたいなんですね。
ほととぎすの声が自然に聞こえるような田舎は、酒肴を揃える店も遠くにあって、暮らしていくのに不便だよ。そんな辺鄙なところはヤだねえ。という解釈。


そかなあ? と思うわけであります。

 


当時の風流趣味の狂歌詠みの中に頭光さんにとってのヤな奴がいて、そのヤな奴がホトトギスの歌かなんか詠んだもんで、なに言っていやがる、で、へこましてやろうと詠んだのかもしれません。
そういうことは江戸っ子同士の間にはよくあったことらしいですからね。


とにかく食ってかかる。
意趣返しってやつ。で、それだけはない。


風流趣味に異を唱えるにしても、唱え方がそんなに単純な御仁ではない、と思うですよ。
なぜかといいますと、酒呑みだから。


酒呑みで、狂歌の第一人者である頭光さんは、ただ単に田舎を腐したりしない。とこう思うですねえ。


普段は日本橋の賑やかなとこで暮らしてるわけですから、都市生活者です。都会人です。
そんな頭光さんだって、静かに呑みたいこともあります。


ほととぎすの声を聞きながら、銚子を傾ける。その情景に否はないはずの頭光さんです。断定しちゃいます。
頭光さんは静かにしっぽりと呑みたい人。


この歌に込めたのは、侘び寂びの全否定ではなく、こういうんじゃ困るよねえ、という思わずくすっときてしまう、笑いを誘う狙いこそが心髄なんだと思うです。


なに言ってんの?
と思い始めている方々に申し上げます。


もう一度歌を確認してみましょう。


「ほととぎす 自由自在に聞く里は 酒屋へ三里 豆腐屋へ二里」です。


この歌の中で注目すべきは「酒屋へ三里 豆腐屋へ二里」なんです。

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酒屋までは三里ある、ということですね。日本の一里は3.9kmですから、11.7kmってことになりますね。
いや失礼。別に正確に現在の度量衡に直さなくともいいですね。はい。


酒屋までは三里。
豆腐屋までは二里なんです。


一般的な解釈ではこの酒屋と豆腐屋は違う方向にありますよね、たぶん。


酒屋が東なら豆腐屋は西にある、という解釈ですよね、たぶん。


同じ方向なら豆腐屋から酒屋までは一里、ということになります。豆腐屋を通り過ぎて酒屋へ行って、まず酒を買って、帰り道に豆腐を買って帰る。

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歩く距離は酒屋までの三里ですみます。


同じ方向だったら、という解釈は特に面白くもない。酒呑みの頭光さんの歌として、笑うべきところが、ない、のでありますよ。


この狂歌が評価されるのは、みんなが酒呑みの頭光さんを知っているから、なのではないでしょうか。
酒呑みの頭光さんが言うから面白味がある。にやっと笑える。そういう評価だと思うわけです。


そのポイントは、
酒屋の方が遠い、という一点です。

 


頭光さんは言いますね。
豆腐に代表される食べもの、酒のアテだけではなく、生活していくための食材を買うのに二里も歩かなければいけないんだよ。
そんなだけど、ホトトギスの声が始終聞こえるイイ場所なんだよねえ。


ここはイイよ。粋な男ってやつは、こういう風情ってもんを分からなくっちゃいけないよ。


ただし、と、こう来ます。


だけどね、オイラが残念なのは、ここを選ばねえのはな、なんと酒屋までが三里あるってことだ、豆腐屋より遠いんだよなあ。
これはイケマセンね。酒屋の方が遠いなんてのはね、イジメですよ、拷問ですよ。
これはイケナイ。豆腐屋より酒屋の方が遠いのはイケマセン。


ふざけちゃいけない、オイラを誰だと思ってるんですか。え? 狂歌を詠ませりゃ四天王。酒を呑ませりゃ日本一っていうオイラだよ。
酒屋の方が遠いなんてトコなんて冗談じゃないってんですよ。


アッハッハ、さすが頭光さん。
酒屋の方が遠いんじゃ、いくらホトトギスが聞こえてもなあ、頭光さんには似合わない。
ということなんじゃないでしょうか。

 


食より酒が一番。酒こそ大事。なんたってアタシャ、つむりのひかるだかんね。
これがこの狂歌の人気のワケ、なんじゃないでしょうか。


酒ですよ酒。やっぱり酒でしょ。酒がなけりゃあ始まりませんよ。まず酒なんです。

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頭光さんのお墓は駒込の瑞泰寺というお寺にあるんだそうですよ。
駒込ホトトギスは居ません、たぶん。
おあとがよろしいようで。