< 町の本屋さんがどんどん消えているのは青木まりこさんのせいだったのかしらん >
って言うかですね、「青木まりこ現象」そのものも気になりますけど、それ以上に「?」って思うのが、青木まりこさん、ご本人のことだったりしますです。
日本全国津々浦々に「青木まりこさ~ん!」って呼びかけたら、何人の青木まりこさんが振りむいて返事をしてくれるか分かりませんけれども、「青木まりこ現象」の青木まりこさん、本名らしいんですね。
「青木まりこ現象」っていうことがメディアで取り沙汰されて、なんだか急に盛り上がったのは、1985年のことなんでありますよ。
まだネット社会じゃありませんし、ハンドルネームとか浸透していない時代ってこともあるんでしょうけれど、本名を使ってのカミングアウトだったんですねえ。
聞いたことあります? 「青木まりこ現象」
シンドロームじゃなくってフェノミナン。
「書店に入ると急に便意を感じる」
っていうのが「青木まりこ現象」なんであります。
「現象」の、そもそもの始まりは1985年2月に発行された「本の雑誌」の読者欄。
「数年前から本屋さんに行くたびに便意をもよおすようになった」
っていうような投稿の内容が、他のメディアでも取り上げられてイキナリ話題になったんですね。
投稿の主は東京都世田谷区在住、当時29歳の独身女性。名前は、そうです、青木まりこさん。
なので、書店で便意は「青木まりこ現象」
もしかすると「青木まりこ現象」っていう言葉を聞いたことはないけれど、本屋さんにいくと便意を感じるんですよねえ、っていう人、いるかもしれません。
いや、けっこういるみたいなんです。
ミー・トゥー、ってやつですね。だからこそ社会現象として取り上げられた。
20世紀末に行われた小規模な調査結果によりますと、人口全体で見ると国民の5%から10%の男女が「青木まりこ現象」を経験している、または経験したことがあるんだそうです。
男女比を見てみますと、男1に対して女4っていう偏りがあるんですね。
22歳から33歳の働く女性に「青木まりこ現象」があるかどうか聞いたところ、有効回答件数150のうち40が「イエス」だったっていうデータもあります。26.7%。
オフィス街の女性、4人に1人以上が「青木まりこ現象」体験者。
こりゃ少なくないですねえ。
本屋さん、書店に行くと便意を感ずる、っていうことで、そういう生理現象にある人を「書便派」って言うんだそうです。
なんか、そういう括られ方、嬉しくないような。。。ネーミングがね。「書便派」
本屋さんに入ると、なんで便意を感ずるようになってしまうのか。
その原因についてはいろいろあれこれ、面白半分っていうこともあるでしょうけれど、様々な考察が行われてきているんですよね。
主流な説は、本を構成している「紙とインクの匂い」に原因があるんじゃないか、っていうもの。
つまり、なにかしらの化学成分が呼吸によって鼻から身体に入って来て、それが便意につながるんじゃないか、っていうことですね。
ただ、この説は、インクの匂いが強いはずの新品の本が並んでいる本屋さん以外、図書館や古書店なんかでも「青木まりこ現象」に襲われる人がいたり、逆に、町の本屋さんでは「青木まりこ現象」にはならないんだけれど、図書館では必ずなってしまう、だとかの意見が相次いで、どうも「紙とインクの匂い」が「青木まりこ現象」の原因だっていう説は支持されていないみたいです。
「トイレで本を読む習慣」のある人が、条件反射的に本がたくさん並んでいる環境で「青木まりこ現象」になってしまうんじゃないか、っていう書便派パブロフ説もあります。
これもまた、書便派の全員がトイレで本を読む習慣があるわけじゃないってことで、支持されていない。
その他、背表紙だとかのたくさんの活字が目に飛び込んでくることによって緊張して、精神状態が通常ではなくなることで便意が促される、っていう、なんだかなあの説。
「過敏性腸症候群」によるんじゃないかっていう医学用語寄りの説もあります。
これは心身症の一種だそうで、これだと明らかな疾病の範疇ってことになっちゃいますね。
「青木まりこ現象」の人、全員が心身症だっていうことも考えにくいでしょうから、これもまた支持されていない。
大好きな本がずらりと並んでいることから、幸福感を感じて安心することが便意につながる、っていう「リラックス効果」説、なんていうに¥のもありますけど、リラックスと便意。
ん~。関係なさそうですよねえ。
ま、これ以外にも実に多くの説が取りざたされていて、一応真面目に検討されて、どの説もチャウでしょねえっていう歴史を経てきているらしいです。
でもまあ「青木まりこ現象」の原因っていうのは、結局、よく分からない、ってことですね。
本屋さんに入ると便意をもよおすっていう人は、青木まりこさん以外にも存在するっていうのは確かで、私の周りにも5人ほど、居ます。けっこう居るんですよね。
呑み仲間なんですけどね。全員40代。でもまあ若いです。
男1人に女4人。たしかに調査結果のパーセンテージと合致する割合です。
っていうか、最近の居酒屋さんは女性客の方が多い感じなんですけどねえ。
で、その彼らに「青木まりこ現象」のことを聞いてみたらですね、全員知ってましたですよ。
ですが、オンタイムで知っていたわけじゃなくって、自分の現象に気付いて、不思議だなあってことでググってみたら「青木まりこ現象」に出会った。っていうことだったんでした。
たしかにね、ネットの時代です。
本の雑誌の投稿は1985年ですから、2024年時点で40年も前のことになるんですけど、ネットには今でもいろいろ載っているみたいです。
「都市伝説なんですよね」
って、そのうちの1人が言ってましたけど、チャウでしょ。
だって、あなた自身が「青木まりこ現象」の体現者なんでしょ。リアルな例として自分の便意があるんですから、都市伝説じゃないでしょ。ホントでしょ。
「青木まりこ現象」は「トイレの花子さん」とかいうような根も葉もない都市伝説とはチャイまっせ。
ってことで、もっと若い世代にも知られているであろう「青木まりこ現象」なんですけど、その原因よりなにより不思議なのは、なんで「青木まりこ」から始まったのかっていうことですね。
なんでそう思うかって言いますと「書店に入ると急に便意を感じる」っていう現象は、町の本屋さんが登場してからずっと言われてきたことみたいだからなんです。
言ってみればこの現象は「青木まりこ以前」「青木まりこ以降」っていうふうに分類できるってことです。
1985年の「青木まりこ以前」
1957年、吉行淳之介の「雑踏の中で」
1972年、豊田穣「皇帝と少尉候補生」
1981年、やねじめ正一「コトバもまた比喩ではなく汗をかく」
っていう作品の中で「書店に入ると急に便意を感じる」っていう現象についての記述が見られます。
さらにはラジオなんですけど、日本放送の夜ラジオ「ヤングパラダイス(1983~1990)」
たくさんあったコーナーの中の1つに「我慢の極地! 水戸様の怒り」っていうのがありましてね、突発的な便意をもよおした時の状況を、まあ、ゲスに笑おうっていうコンセプトだったらしいんですけど、その中に「本屋で便意をもよおしてしまう」っていうネタが集まって来て、ヤングパラダイスでは「山田よし子症候群」っていう名前が付いていたんだそうですよ。
青木まりこの前に山田よし子がいる。
経緯だとか詳細は分かりませんでしたけれど、今現在「山田よし子症候群」でググりますと「青木まりこ現象」に行きつきますねえ。
不思議です。こうして「症候群」なんて名前で認識されていた「書店に入ると急に便意を感じる」っていう現象が、山田よし子では一般に浸透しなかったのに、青木まりこになって一気に浸透したのはなんでなんでしょう。
でもまあ、山田よし子っていう名前が誰なのか、実在する人間の名前なのか、ラジオのトークの中で適当に作り上げられた架空のキャラクターなのか、調べられませんでしたので、青木まりことの単純比較は出来ないんですけどね。
ですが、現実問題として、1985年に青木まりこが名乗りを上げると、あの、週刊文春に話題として取り上げられて、一気にメジャーになったみたいです。
「青木まりこ現象」が広く知られるようになったのはやっぱり、雑誌の雄、週刊文春の影響が大きいんでしょうかね。
本の雑誌社と文芸春秋の関係はどんなものなのか分かりませんけれど、本の雑誌社は千代田区神田神保町、文芸春秋は同じ千代田区ですけど紀尾井町。
皇居を挟んで反対側です。仕事上の繋がりとかは、なさそうに思えます。
規模も違いますしねえ。本の雑誌社は、ま、みなさんご存じかと思いますけれど、群ようこさんが勤めていた会社です。
群ようこさんは1984年7月に「午前零時の玄米パン」を書いて作家デビューしていますから、1985年2月の「青木まりこ現象」の時点で在社していたのかどうか、微妙な時期、ですねえ。
で、本格的に不思議なのは、1985年以降もこの「青木まりこ現象」は一時期の話題ってことじゃなくって、繰り返しいろんなメディアで取り上げられているってことなんですね。
1995年にはNHKの「生活ほっとモーニング」
1998年、TBS「ウンナンのホントのトコロ」
そしてなんと日本ばかりじゃなくって「スティーブン・ヤング」っていうアメリカ人の作家が「本の虫 その生態と病理―絶滅から守るために」っていう本を2002年に出しているんですね。
本の虫として「読み虫」「書き虫」だとかを定義づけしているユニークな本らしいんですが、この中に「マリコムシ」っていうのが出てくるらしいです。
「マリコムシ」は、書店に生息していて人々を書店依存症にする「ショシムシ」の一種で、書店で本を選ぶ者の便意を誘発させる能力を持つ、って定義されているらしいです。
あ・ほ・か。っていうこの本なんですけど、翻訳者は「薄井ゆうじ(1949~)」っていう作家で、ま、スティーブン・ヤングは薄井ゆうじ本人、ってことなんだろうと思います。
海外では青木まりこ、有名じゃないです。ちゃんちゃん。。。
マリコムシっていうのが原因であるわけもないとして「青木まりこ現象」っていうのは、医学会が認めていないとしても確実に存在する現象なんだろうと思います。
実際にそうなるって言っている人がいるんですからね。
便秘気味の人は、ネットで本を買うんじゃなくって、町の本屋さんへ出かけてみると、効果が。。。
でもあれですね、ホントに効果がすぐに出て「青木まりこ現象」が現れたとしたら、町の本屋さんはトイレを利用できる環境じゃない場合の方が多いでしょうから、試してみるときにはビルの中に入っている、わりと大型の書店にしておいて、整列している本の群れの中に入る前にトイレの場所を確認してからの方がヨサゲ、でしょねえ。
人間にとって排便って、とっても重要なイベントですからねえ。
充分に大人なんだけど、本屋さんに行くときは白いズボンは穿かないようにしているっていう人もいるらしいです。
みなさん、どうぞ、ご安全に!
(ご安全にって、……、なんのこっちゃ。町の本屋さん、ホントに激減してますねえ)