< わけの分からない量子コンピュータの仕組みっていうのも この「悪魔」が根底にあるんでしょうか >
科学がある日突然、なんだかトンデモナイことを実現しちゃうっていうことは、そんなにしょっちゅうじゃないにしても、時々ありますよね。
ニュースに接してビックリすることがあります。
2023年4月に日本の理化学研究所が発表した「力学極性ゲル」っていうのは、「外部から加えられた力の左右方向を見分け、一方向にのみ変形する」って説明されています。
今のところ具体的な商品、日用品とかになっているわけじゃないんで、こんな、言ってみれば学者然とした分かるような分からないような説明で終わっちゃってますけど、ま、これから具体的な利用方法が開発されれば、誰でも、へええ、ってなっちゃうこと請け合いですよ、ってことなんですよね。たぶんね。
そのゲルを敷いて上から物を落とすと、ランダムな方向に弾むんじゃなくって、設定した1方向にのみ弾む。
ゲルの上に複数の線虫を置くと、全ての個体が設定した1方向に移動していく。
しれ~っと地味に言ってますけど、とんでもなく凄いでしょ、これ。
1方向に行くってどういうことなのか、それのどこが凄いのかっていうと、それは「エントロピー増大の法則に反している」っていうところなんですね。
本来、エントロピー増大の法則に従ってバラバラになるはずの落とした物の弾む方向や、時間経過した線虫の動きが、一定方向に秩序付けられる。これはエントロピーが減少しているってことになるんですね。
地球物理の自然の法則、科学法則の定番に反する「物質」を作っちゃったっていうこと。理論的にじゃなくって「物質」だっていうところが、こりゃ大変だ! っていうことを含んでいるんですね。
エントロピーなんて聞いたことないよ、っていう人もいるかもしれませんけど、ひと頃、ブームっていうほどじゃなかったですけど、ムック本が出版されたりなんかしていましたんで、名前は聞いたことがあるっていう人も多いんじゃないでしょうか。エントロピー。
「あらゆる物は、ある程度の時間放っておくと、次第にバラバラに乱れていく方向、無秩序な方向に推移していって、自然に元に戻ることはない」
っていうのがエントロピー増大の法則ですね。覆水盆に返らずってやつです。
主には熱力学っていうジャンルで言われている法則なんですが、それ以外の自然現象にも使われています。
机の上が散らかしっぱなしになっているので、お母さんが子どもに片づけなさい、なんでいつもそんなに散らかしちゃうの、って注意すると、地球ではエントロピーが増大していってどんなものでもバラバラになっていくんだから、散らかっちゃうのが自然の法則なんだよ、とかね、反論してくる生意気盛りもいるでしょねえ。
理屈をこねるんじゃないの、っていうところですけど、そういう子どもの反論は、コンニャロですけど正解なんですね。
全てのものごとは、乱雑煩雑な方向、カオスの方向に移行していく。エントロピー増大の法則です。
「力学極性ゲル」はそれを覆す発明ってことになります。なんでもないゲルに、開発したナノシートを差し込む形で実現しているそうです。
例えばランナーの靴底に利用することが出来れば、動かす足の力を確実に前方に伝えることができる、っていうより前方向にしか伝わらないシューズを作れるわけですから、陸上競技、100メートルもマラソンも世界記録が目白押しに出てくるってことになるかもしれません。
足を着地した瞬間に分散するはずの地面に伝えられる力が、進行方向にまとめられるんですもんね。
増大するはずのエントロピーが縮小しちゃう。
将来的に、逆戻りしない流水管だとか、かなりいろいろな方面で利用できる製品の開発が期待されます。
そもそものエントロピーっていう概念を提唱したのはドイツの理論物理学者「ルドルフ・クラウジウス(1822~1888)」
熱力学の第1法則は「エネルギー保存の法則」として知られていますよね。あれを唱えたのがクラウジウスです。
「熱の作用によって仕事が生み出されるすべての場合に、その仕事に比例した量の熱が消費され、逆に、同量の仕事の消費においては同量の熱が生成される」
っていうのがそれなんですけど、
「熱は常に温度差をなくする傾向を示し、したがって常に高温物体から低温物体へと移動する」
っていう、熱力学の基本原理としての補足を付け加えて、これが熱力学の第2法則につながります。すなわち、エントロピー増大の法則ですね。
熱は分散していくから冷えていく。
ところで、クラウジウスが発見したこの物理法則が定着した1867年ごろ、スコットランドの物理学者「ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831~1879)」が、ある思考実験を発表します。
まず、箱の中に温度的には均一だけれども動く速度の違う分子で構成されている空気を閉じ込める。
次に箱の真ん中に開閉窓のある仕切りを設ける。
左右2つに分けられた箱の中の空間は、温度は同じ状態に保たれている。
左右どちらの空間でも動く速度の違う分子が移動し続けている。
ここで、分子の動きを見ることのできる「存在」を仮定して、速度の速い分子が右から左へ移動する時に開閉窓を開けて通過させる。
同じように速度の遅い分子が左から右へ移動する時にも開閉窓を開けて通過させる。
これを繰り返していると、左の空間には速度の速い分子が、右側の空間には速度の遅い分子が集まることになる。
結果、左の空間は温度が高くなって、右の空間は低くなる。
つまり、2つの空間の秩序が確立される。時間経過した空気のエントロピーが低くなるっていうことです。
エントロピー増大の法則、破れたり~! っていう思考実験。
この分子の動きを見ることのできる「存在」こそが「マクスウェルの悪魔」って言われるやつなんですね。
悪魔とか、そんなヤツ、いね~よ。っていうことで平和に過ごしてきた(?)150年余り。
実は今回のゲル開発の前に、このマクスウェルの悪魔が召喚されているんですね。
2007年にイギリスのエジンバラ大学で、2010年にアメリカのテキサス大学、そして中央大学、東京大学で。
分子計測が可能になった現代で、測定情報を位置エネルギーに変換するっていう、実験の中身自体は複雑に学問的でよくわからないところもあるんですけど、
「エントロピーが減少すればエネルギーを取り出せる」
っていうことが証明されていたんですね。
「エントロピーが減少すればエネルギーを取り出せる」っていうことだけだと大きなニュースにはならないけれど、1方向にしか反発しないゲルが開発されて実質的な物質が示されればしっかりとニュースで取り上げられる。
今回の「力学極性ゲル」がそれですね。
目に見える物質があれば説得も納得もしやすいですし、どんな研究であれ単独で進捗しているわけじゃなくって、その周りの環境も変化しているってことで、今回のトピックになっているんでしょうね。
エントロピーが物理学だけじゃなくって情報工学の方にも進出してきた確証になるような発明品が、近々、ある日突然、発表されるのかもしれません。
ただね、「エントロピーが減少すればエネルギーを取り出せる」っていう現実がそのままエントロピー増大の法則を否定することにはならないんだそうです。専門家は、勘違いしないようにって釘を刺しておられます。
エネルギーは保存されていることが確認されているので、っていうよく分からない理由なんですけどね、この辺りのことはすっかり熱力学からは離れちゃっていて、情報工学の分野になっているみたいなんですよね。
なので、エントロピー増大の法則が否定されたわけじゃなくって、悪魔のおかげで科学が新たな段階に入った、っていうのが実際のところらしいです。
ま、要は、エネルギーっていう概念に、化石燃料、電気以外の新しいものが加わる世の中が来るのかもねえってことでしょうか。
だんだんね、ニュートン的っていいますか、直感的に理解できる化学現象じゃないような出来事や製品がどんどん出始めています。時代は一気に変わっていくんでしょねえ。
めっちゃ置いて行かれている気が。。。
UNIXね、デーモンが常駐しているですよね。今でもいるでしょ、あいつ。マクスウェルじゃないけど、関連しているとかいないとか。。。