<ローカルはローカルに徹することによって グローバル評価を獲得できる>
清流、とは何かといえば「清らかな水の流れ」
どこか心落ち着かせるようなニュアンスを感じる言葉です。悪いイメージはどこにもない。
思い浮かべるのは爽やかな川の流れですよね。
日本三大清流というのがあります。みんな大好き「三大〇〇」の1つ。
「信濃川」は長野県から新潟県を経て日本海に注いでいる一級河川で、長野県内の流れは「千曲川」と呼ばれていて、新潟県内の流れが「信濃川」
1本の川ですが、地域によって名前が違います。
この辺りが県を複数またいだ流れを何と呼ぶかの難しいところで、千曲川と信濃川の流れに、どこか区別があったりするわけではもちろんないのですが、総じて信濃川というネーミングで浸透しています。
以前、長野県人が嘆いていました。
「みんなねえ、信濃川は知ってるって言うんだけど、千曲川なんて知らないって言うんだよねえ。あのね、千曲川の方が信濃川より60㎞ぐらい長いんですね。なのに名前が信濃川っていうの、長野県民は納得していないんですけどねえ」
まあ後半部分には踏み込まない方が無難ってもんでしょうけれど、日本で一番長い川です。
長ければいろんな地域にまたがるわけで、その地域ごとに名前があって、1本の川の名前が地域で違っていても当然だとは思いますけれど。
「利根川」は群馬県、埼玉県、茨城県、千葉県を経て太平洋へ注いでいる一級河川で、日本第2位の長さ。
長さが日本第1位から第3位までの一級河川が「日本三大河川」というわけですから、誰でも納得の出来るセレクトなんだろうと思われます。
日本三大暴れ川というのもあって、これは「利根川」「筑後川」「吉野川」
細長い国土に背骨のように山脈が走る国土の、日本の河川はどれも急流です。
台風19号の豪雨で決壊した利根川のニュースは記憶に新しいところですが、21世紀の今でも暴れ川の地理的要因の大きな変化はないんでしょうね。
暴れ川の筆頭にあげられる利根川。
利根川に限らずですけれど、護岸工事など、河川管理の技術革新は常に望まれるところです。
江戸時代までのお殿様に、最も望まれたことが、治水。水をコントロールすることだったといわれます。
雨が降るたびに水害を引き起こして、まさに暴れん坊三兄弟として「坂東太郎」「筑紫次郎」「四国三郎」と恐れられた川が、今でもそのまま日本三大暴れ川の「利根川」「筑後川」「吉野川」だという現実。
利根川などはその流域面積が日本最大であることもあって、なかなか満足な護岸工事も思うに任せず、今もまだお殿様の治水施策に期待するところも大きいはずです。
これまでと同じでイイのか、ってことだと思います。すべからくね。
関東、九州、四国。日本三大暴れ川、いまだ恐るべしです。
さてここで、日本三大清流というのを考えてみます。
暴れ川に対して、正反対のイメージのある清流という名称。
コロナ禍でぐずぐずになってしまっている日本人の気持ちを、サッと健やかにしてくれるような期待を持ってしまいます。
高知県の「四万十川」、岐阜県の「長良川」、静岡県の「柿田川」が日本の三大清流として知られています。
繰り返しになりますが、清流とは清らかな流れ、のことです。
その「清らか」というのは何をもってして「清らか」というのか。実はこれ、明確じゃ無いんですね。
まず「清らか」の第一義的要因なのではないかと思われる「水質」の清廉さ。
国土交通省は毎年7月に、全国一級河川の水質調査結果を公表しています。
これはランキングといいながら各河川を順位付けするのではなく、一定の環境基準を満たした河川の上位を発表しているものです。
この国土交通省の水質調査結果で「四万十川」「長良川」「柿田川」は、なんと上位にランクインしていません。
3つともです。この結果って、ちょっとビックリですよね。
日本三大清流は、どの川も国の環境基準において高評価ではないってことです。
人の噂と、実際データの乖離。ま、ありがちっていえばありがちなのかもしれません。
そんな中で2020年7月に発表された「国土交通省・国土保全局河川環境課」の「全国一級河川の水質調査結果」によりますと、1つ、大きな希望を感じさせるデータがありました。
熊本県の川辺川は14年連続でトップ1に選ばれたというデータもとても興味深いものだったんですが、2020年度の発表で注目したいのは、
「今回初めて常願寺川(富山県)、四万十川(高知県)が選ばれました」
という部分です。
これまではトップクラスにランキングされたことのなかった、日本三大清流の1つ「四万十川」が初めて選ばれたという事実です。
実は四国では四万十川の北東を流れる「仁淀川」が水国土交通省の質調査結果でトップランクの常連だったんですね。
清流として名前の知られた四万十川ではなく、すぐ隣の、言ってみればネームバリューのない仁淀川が、実は清流と呼ばれるにふさわしい川だという事実。
み~んな、ね、メディアのイメージ戦略ってやつにやられちゃっているんですねえ。もちろん、私もねエ。
四万十川の清流イメージに関しては、1983年、昭和58年に放送された「NHK特集 土佐・四万十川~清流と魚と人と~」という番組で「日本最後の清流」として取り上げられたことが原因と、やり玉に挙がっている感じもありますが、特にNHKだけがそういうイメージ作りをしたわけじゃなくって、メディア全体がその「日本最後の清流」にノったんだと思います。
「日本最後の清流」っていいのは番組のキャッチコピーみたいなもので、はまり過ぎたってことなのかもしれないです。
ん~。NHKって「ヤラセ」とか言われちゃって、叩かれる演出が問題になったこともありましたけれどね。
演出の無いテレビ番組なんてあり得ませんよ。
四万十の番組じゃないところで、明らかにやり過ぎの演出っていうのは確かにね、ありました。
テレビに限らず、1方向からの情報だけで知った気になるのは、昔も今も、危険です。
そもそも四万十川は1994年まで、その正式名称が「渡川(わたりがわ)」だったという事実も、あまり知られていないことじゃないでしょうかね。
1994年に正式名称として四万十川に変更されたわけですが、一級河川の名称変更の最初だそうです。
さらに言えば、清流っていうのは水質だけで断定するのではなく、流域環境も含めて総合的判断に基づくものだという “後付け” っぽい理屈もあります。
でもメディア的に、観光戦略的に、清流は仁淀川ではなく四万十川だったわけです。
四万十川の水質が特に低かったわけでは、もちろんないと思います。
でもあれです。そのギャップを地元の人たちが一番、気にしていたんだろうことは想像に難くないですね。
個人的にも車で1度訪れたことがありますが、単なる観光客がその水質に思いが及ぶはずもなくですね、けっこうくねくね流れるせせらぎを感じて、とっても満足しましたよ。清流です。
もう20年近く前のことだったんですが、その時、散歩の途中だという男子中学生が、
「東京のナンバープレート、初めて見た」
と言って話しかけてくれました。
「四万十川って有名だから、いっぱい観光客とか来るんじゃないの? 東京からも来るでしょ」
と聞きますと、こんなとこで車停めてる人はおらんね。ということだったのですが、続けて、
「でもこの川は水質が良くないんじゃよね」
と、平然とした表情ではありましたが、しっかりと地元のデータについて認識していたことが印象的でした。
あの中学生も今では立派な大人になっていますね。
でもって、2020年、四万十川は仁淀川と並んで水質ランクトップとなったわけです。一番喜んでいるのは四万十の人たちでしょう。
いろいろ、研究、努力したんだろうと思います。
地元の中学生が清流という言葉に、どこか後ろめたさを感じてしまうことはないんです。
四万十に住む者として、四万十川の水質というのはアイデンティティの一部でもあるしょうから、ホントに良かったですね。
四万十について改めて調べてみますと、流域に四万十という名前が2つあります。
1つは高知県高岡郡四万十町。広さは642.1 km²。もう1つは東西方向に隣り合った高知県四万十市。広さは632.4 km²。ほほう、町の方が面積、デッカイです。
で、2021年4月。そのデッカイ方の四万十町がメインとなって「しまんとリバーストア」がオープンしています。
「コロナ禍により観光需要が減る中でも、四万十町の自然や食、人の温もりを全国の皆さまへお届けしたいという地元企業の皆さまの熱い想いと力により、四万十の日(4月10日)に「しまんとリバーストア」がオープンしました」
とのこと。
四万十の日っていうのがあるんですね。オンラインでもいろいろな物が購入できるそうです。
四万十川に架かる43もの「沈下橋」も有名で、コロナが治まれば是非実地に体験したい四万十流域ですが、「しまんとリバーストア」は是非応援したい気持ちが起こって来ます。
四万十の日、ということで2020年4月10日に始まったばかりですが、出品されている顔ぶれが、とっても「四万十」だと思います。
四万十川の水質が日本のトップにランクインしたということにも絡んでいるのかも、という想像ですが、
「四万十うなぎ」「大将のおまかせ刺身」「四万十川の天然鮎の塩焼き」
というのがありますし、他にも四万十の野菜、豚肉、はちみつ。
特別に気取った品ぞろえでは無いように思えます。
これがイイと思います。これでなければいけないと思います。
四万十は四万十に正直でプライドを保って欲しいです。
水質もトップになったことだし、観光客を大いに呼び込みたいタイミングなんだろうと思いますが、そこでヘンにオシャレや流行りを意識した品ぞろえを考えるのではなく、普通の地元の品を、自信をもって全国展開する。
もちろん、そこには「四万十」というネームバリューがあることは否定できません。
でもその無形のネームバリューを、観光客を大っぴらに呼べない現状で、地元の利益として有形にしようという試みですからね。張り切って欲しいです。頑張って続けて欲しいです。
大都市生活の中で行動変容を迫られている日本中の多くの人たちに、購買意欲を掻き立て、日本本来の物品を、飾らずに提供するという行動は、アフターコロナの日本社会の中に、しっかり根付いていくローカル戦略なんじゃないでしょうか。
ネームバリューの使い方として、これからの成功例として先鞭をつけていただきたいです。
オンラインで買えますよ、とはいうものの、やっぱり実際に行って楽しみたいものではありますけれどね。
観光地観光地していない場所を見つけて、地元の人しか行かない居酒屋さんとか、サイコーですからね。
「しまんとリバーストア」には結構な数の物品がオンラインメニューとして掲載されています。
でもあれです。「しまんとリバー」ってネーミング。もうちょっとナンカなかったですかねえ。いろいろ制限があったんでしょうかねえ。
いやいや、名前じゃないですよね。
良く知っているような品でも、チェーンスーパーに並んでいる品とは明らかに違います。
なんせ「四万十」ですからね。
イメージとしての「清流 四万十」が水質的にも実質を伴った「しまんとリバーストア」です。
またゆっくり行ってみたいです。