< 相手を自分って言って会話することに違和感のない関西人と 違和感アリアリのその他の地域 >
冬の寒さの厳しい青森県では、あまり口を大きく開け続けない発音、そして多くは単音で日常会話を交わしているっていうのを聞いたことがあります。
令和の日本では共通語、標準語がどこの地域にも浸透していて、地域独特で伝統ある方言が失われつつあるっていうことも聞きますんで、今でも青森県の人たちがあまり口を開けずに単音で会話をしているのかっていうと、ある程度年齢のいっている人じゃないとそうしていない可能性の方が高そうですけどね。
青森弁の例としてよく聞くのが、
「な、どさ」
「わ、ゆ」
ってやつですね。
これで会話が成り立っているっていうことは、なかなかにデジタルな感じもするんですが、
「あなたは、どこへ行くんですか」
「わたしは、お湯(銭湯?)へ行くところです」
っていうコミュニケーション。
こりゃあ、なかなか青森県以外の人との会話では通じないでしょねえ、って思うんですが、実はね、これ、昔の日本語として正しい言葉だった可能性もあるんだそうです。
なんでかっていいますと、日本書紀の記述の中に出てくる、おそらく日本語としての最初の「二人称代名詞」は「な」って記されているんだそうです。
二人称代名詞の「な」
当時の都、奈良、京都を中心として、同心円的に都言葉が地方に伝わっていったっていう説がありますけど、それに従って考えれば、奈良、京都から遠い地域にはより古い時代の日本語が残っているっていうことは、なんとなく肯けることではありますね。
たぶん、書き文字文化が無かったか、あっても識字率なんて低かったでしょうから、音声で文化が伝わるしかなかった時代の二人称代名詞ってことだと思います。
「わ」の方は「我」っていう自分を言い表す言葉が今でもありますから、「な」よりは直感的に理解できます。
まあ、理解できるとはいってもですね、いきなり会話の中で「な」とか「わ」って言われても「?」ってなるだけかもですけどね。
今現在使われている日本語二人称代名詞は、そんなに近しくなければ「あなた」「おたく」「きみ」
友人関係であれば「おまえ」「あんた」ぐらいが普通でしょうか。
でも、実際には名前か役職で呼ぶことの方が多いでしょうかね。愛称とかね。
夫婦間で使う「あなた」「おまえ」っていうのは、もちろん二人称代名詞ではありまけれど、家族間でそうやって呼ぶ相手は特定された個人ですから一般的二人称代名詞っていうのとは、ちょっと違った意味を持っているようにも思います。
子どもが出来ると、途端に「おとうさん」「おかあさん」、「パパ」「ママ」ってお互いに呼び合っているカップルが普通にいることを考えても、日本語の二人称代名詞って教科書通りの解釈では納得できない部分が大きいような気がします。
言葉っていうのも、なかなか不思議で難しいもんなんですよねえ。
二人称代名詞に限って見てみましても「おまえ」っていう言い方を誰に対しても使えるってもんでもなくって、上下関係が明確だったりする場合に、上から下への呼び方って感じなんですけど、夫と妻っていう立場に関してこの言葉が生き残っている文化的背景っていうのもあって、どことなく上下関係を意識して使われているケースが多いって現状かもしれません。
なんですけど、元々は「御前」なわけですから、決して相手を下に見たり、蔑んだ呼びかたじゃなかった言葉なんですけどね。
自分の目の前にいらっしゃる、あなた、が「おまえ」だったはずなんですよ。
いつ頃から変わって来たんでしょうか。
今は、夫婦間とか特別な関係にある男女間で使われる以外だと、叱責するとか、ケンカ腰って感じになっちゃたりするイメージもあります。
完全に上からの物言いに使われている感じ。
そんなことを考え始めると、相手をどう呼ぶかって、けっこう難しくなりがちかもですねえ。
ところで、会話の際に相手のことを「自分」って言う人がいますよね。
関西弁に限られた言い方なんだと思いますが、一口に関西っていっても、どういう地域で相手のことを「自分」って言っているのかは特定できません。
そういうデータは見たことがないっていいますか、そもそも、そんなことを調べている人もいないのかもしれないですけどね。
友人関係、じゃない場合でも、だいたい同年配の場合に限って使われる二人称の「自分」ってかなり興味深いものがあります。
相手を自分って言う文化圏でも、書き文字ではそういう使い方はしないみたいなんですね。
会話の時に限られた使い方で、そうした場合に話者である自分自身のことは「自分」って言わない習慣らしいっていうのも、面白いところです。
自然にそういう使い方をしているんでしょうから、気にしていないんでしょうけど、しっかりしたルールはあるっていうことですね。
生活習慣としての言葉の使い方なんて、「自分」だけじゃなくって、地域によっていろいろあるのかもです。
例えば関東では会話の相手のことを「自分」とは絶対言わないかっていいますと、そんなことはないんですね。
シチュエーションとして特殊とは言わないまでも、かなり限られたシチュエーションですけど、使う場合はあります。
例えばこんな時です。
とあるカップルが外食に出かけるとします。
どこで何を食べようか相談して、男性の方が中華が食べたいっていうんで、中華屋さんに出かけます。
2人でテーブルに着いてメニューを見始めると、男性がこう言います。
「なんかあれだなあ、食べたいもん、ないなあ。中華も飽きて来てんだよなあ」
こういう時に相手の女性が使いますね。
「なに言ってんの。自分が中華って言ったくせに」
この場合、女性の言っている「自分」っていう言葉は、女性自身のことを言っているんじゃなくって、訳の分からない理屈をこねている男性、つまり相手のことを「自分」っていう言葉で言っているんですよね。
こういう感じで何か、起きてしまったトラブルの原因が相手自身にあるように判断できるシチュエーションに限られているように思えるのが関東近辺、っていうか関西以外での習慣じゃないでしょうか。
「せやせや、あした呑み会やん。行きたないなあ、自分、どないすねん」
っていうような会話は東京近辺でも何回か耳にしていますけど、はい、その発言の主はもれなく関西人ですね。
ま、あれですよ。こういうことを言ったからっって、「自分」っていう二人称の使い方を非難しようとか思っているわけじゃないんです。
なんでかっていうことを明確にするのは難しいんですけど、その二人称の使い方はユニークで面白いですし、そういう使われ方をしているのが関西に限定されていそうだっていうところも面白いなあって思うんですね。
実はこういう関西の二人称の使い方に興味を持ったのは、かなり前からなんでんす。
1976年に発表されてヒットした、ミス花子の「河内のオッサンの唄」
河内って呼ばれている大阪東部地域で使われている「河内弁」は、関西、大阪の中でも強いニュアンスの方言として知られているらしいんですよね。
面白い歌なんですよ。ん~、歌っていうより河内弁の語りって感じなんですけどね。
この歌を基に映画も作られましたね。かなりヒットしたんです。
♪おう よう来たの ワレ
♪ビールでも呑んでいかんかい ワレ
「ワレー!」とか「ワリャー!」っていうのは、任侠映画なんかにも出てきますけど、相手を威嚇する時の言葉っていうイメージがあります。
なんですが、この「河内のオッサンの唄」で歌われているシチュエーションは、久しぶりに訪ねて来た友達を歓待しようっていうことですよね。
仲のイイ間柄なんでしょうけど、「おまえ」でも「てめえ」でもなく、「自分」でもなく「ワレ」って呼びかけるんです。
親しみを込めた、ごく普通の二人称なんでしょうね。「ワレ」
「ワレ」は「我」ですもんね。「自分」っていうのと同じ使い方なんだと思います。
♪おい かかあ もっとビール持ってこんかい
♪ナニさらしてけつかんじゃい
♪裏の牛かて もうちょっとよう働くど
まあね、友達の前で身内を腐す言い方をするオヤジって、いることはいます。どこにでもね。
にしても牛にたとえられては、奥さんの方も黙っちゃいられませんよ。
♪あんた 今 冷やしてまんねん
♪あんまりうるそう言わんといてんか
♪うちかて忙しんやで ワッレ~!
実際に女の人もワレ~とか言うんでしょかね。
ま、自分のことをオレっていう言い方を、ワザとじゃなくって自然に言っている地方もありますからね。普通にワレ~って言っているのかもしれませんね。
ま、河内のオッサンの家のビールも切れたのか、友人が帰りますね。
♪また元気で仕事しようやんけ ワレ
♪働いて働いて銭ためて 蔵建てたろうやんけ
♪やんけやんけやんけやんけ せやんけ ワレ
♪ワレワレワレ せやんけ
♪河内の オッサンの唄~
なんかね、たぶんですけど、まず相手のポジションに立ってモノを言うっていうような文化が、関西、特に大阪にはあるような気もするんですよね。
それで、相手が、自分で、ワレってことになっている風習なんじゃないでしょうか。
関西の文化って「やわらぎ」がベースにあるような感じがします。
♪ワレワレワレ せやんけ
♪河内の オッサンの唄~
でも東京近辺でワレ~、は聞かないです。
聞いたことありますか? 関西以外に住んでいる自分?