< 百円でポテトチップスは買えますが ポテトチップスで百円は買えません あしからず >
いつものごとく焼酎バーのカウンターです。
セーコちゃんが1人だけ、先客ですねえ。
カウンターの上には、お通しのレバーパテ乗せクラッカーの小皿と、広げたティッシュの上にポテチ。
形からして「堅あげポテト」でしょねえ。店のメニューじゃないでしょねえ。
酒呑みのアテとして、ビールなんかにはすっかり定番になっているカルビーのポテトチップス。
女将さんが熱いおしぼりを持って来てくれて、目の前にティッシュを広げます。
「沖縄のお土産だって」
セーコちゃんが袋からティッシュの上にばらばらとポテチをこぼしながら、
「これしかないからね、ちょっとだけね」
ありがとうございます、ではありますけれどね、沖縄土産でポテトチップスなの?
「でーじまーさんアーサそば味」
は? なにょお言うとんねん!? 出島さんの朝そば?
「でーじまーさん、っていうのは、とってもおいしいっていう意味なんだって。なんとなくそう聞こえるじゃない。でーじまーさん、とってもおいしい。ね」
ん~。そかな? ん~。賛同できまっしぇん!
で、アーサそばっていうのは?
「アーサっていうのが、なにかあんでしょ。沖縄に」
そりゃそうでしょうけど、聞いたことないですよ。
と、女将さんがスマホで調べましたね。
「ヒトエグサっていう、アオサの仲間みたいよ。冬にとれるんだって」
ふううん、アオサですか。味としては何の文句もありません。アテとしてとてもイイ感じ。
で、その夜はポテトチップスの話になりました。居酒屋トークね。
大将が言います。
「初めて食べたポテトチップスってさ、湖池屋だったんだよね。それしかなかったような気がするんだけど、カルビーが出てきて、なんか湖池屋って影が薄くなったよね」
「コンビニにあるよ、湖池屋も」
たしかに今、コンビニの棚に湖池屋も並んでますけど、一時期姿を見かけなくなっていたような気もしますね。
「プリングスっていうのもあるよね。あれはなんで形がきっちりいっしょなんだろ?」
「ああ、プリングスねえ。丸い箱っていうか缶っていうか。あれは湖池屋?」
「どうだったかしら。外国のポテトチップスじゃなかったかしら」
でしたっけ? ま、ポテトチップスのメーカーって湖池屋とカルビー以外、実は気にして見ていないかもです。
にしても「カルビー 堅あげポテト でーじまーさんアーサそば味」酒に合います。バッチリです。
と、女将さんが、
「百円で、ポテトチップスは買えますが、ってあったわよね。ヒャクに妙なアクセントがあったの。あれはどこのポテトチップス?」
大将が勝ち誇ったように応えますね。
「カルビーだよ、カルビー。あのコマーシャルからカルビーの天下になったんじゃないかな」
セーコちゃんが割り込みます。
「なにそれ? 百円で、って知らないんだけど」
「藤谷美和子って知らない?」
「聞いたことないよお」
「若い人は知らないわよ」
「そんな若くも……。いや、まあ、その時14歳とか言ってた気がするなあ」
「あのね、だんだん思い出して来たけど、百円でポテトチップスは買えますが ポテトチップスで百円は買えません あしからず、って言うのよ」
んはは。そでしたねえ。けっこう流行りましたですねえ。
あとから調べてみますとね、藤谷美和子のコマーシャルは1977年なんでした。
ほぼ半世紀前です。
「百円で……」あの、妙なアクセントがウケた要因だったのかもですね。
♪カルビーの~。ポテトチップス!
っていう歌も記憶に蘇って来ます。
藤谷美和子さんは、NHKの朝ドラにも出ていましたし、イモネエチャンなんて呼ばれて人気でしたけど、2006年に引退しているらしいです。
ポテトチップス。今やカワキモノの定番ですし、おやつとしても人気ですけど、発祥としては、1853年にアメリカ、ニューヨークで発明されたっていうのが定説みたいです。発明です。
ニューヨーク、サラトガ・スプリングのレストラン、ムーンレイクロッジのシェフ、ジョージ・クラムっていう人が発明したってことになっているんですが、そのエピソードがあまりにも、ってことでジョークでしょっていう評価もあるようです。
ムーンレイクロッジは人気のレストランで、お金持ちの客がたくさん訪れていたそうなんですね。
ジョージ・クラムは腕のイイ、評価の高いシェフだったってことなんでしょう。
ところがある日、1人のお金持ちがフライドポテトが厚過ぎるっていうクレームをつけてきて、何回も作り直しをさせられちゃったそうです。
フライドポテトですね、フレンチフライ。
厚過ぎるっていうクレーム。そういう対象になるようなもんでしょうかね。よく分かりませんが。
で、コンニャロなそのお金持ちがまたやってきて、フライドポテトを注文。
ジョージ・クラムはすっかりコンニャロモードですからね、フォークで刺せないぐらいに薄く切って、カリカリに揚げて提供。
どーだ、バーロー。フォークで刺せるもんなら刺してみろ!
ところが、そのコンニャロなお金持ちは、バリバリ音をさせて薄揚げフライドポテトを貪って、とっても満足。大好評。
あれ? ってなって、その意地悪したはずの薄揚げフライドポテトは、あっという間に大評判。
っていうのがポテトチップス誕生のオハナシなんだそうです。
1853年って、日本は江戸時代、嘉永6年ですよ。ポテトチップスって、めっちゃ昔からあったんですね。
日本では1945年に「アメリカン・ポテトチップス社」がハワイ移民の濱田音四郎っていう人によって設立されて、売り出されたのが最初みたいです。
戦後すぐですからね、GHQにしか認識されていなかったらしいですけどね。日本のポテトチップス。
そして1962年、「湖池屋ポテトチップス のり塩」が発売されたんでありますよ。
これによって日本人にも広まり始めて、1967年に量産化開始。
日本人にとってのポテトチップス黎明期は、やっぱり湖池屋が築いていたんですね。
で、カルビーがポテトチップスに参入したのは1975年。
「百円でポテトチップスは買えますが ポテトチップスで百円は買えません あしからず」
が、1977年ですから、カルビーが湖池屋の牙城を崩すのには、そんなに時間を要していないんですね。
さてさて、堅あげポテトの日、なんていうのがありましてね、11月8日だそうです。
発売が1993年11月8日だからあ~。
堅あげポテトって30年選手なんですね。
フライドポテトの厚さに対するクレームから誕生したポテトチップス。
ポテトチップスの柔らかさにクレームがついて、堅あげポテトが誕生したんでしょうか。
なんかね、あの堅さが、油を摂る罪悪感を薄めてくれている感じがして、イっすよねえ。堅あげポテト。
家に常備しているっていう酒呑みも少なくないんじゃないでしょうか。知らんけど。
あ、ちなみにプリングスは、正式名称「プリングルズ」らしいです。濁る。
今はケロッグの商品ですが、元々はアメリカ、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)が1968年から発売している商品ですね。
じゃがいも粉、とうもろこし粉、小麦粉だとかを混ぜ合わせて成型するんで、あの均一な形になるんですね。
じゃがいも以外のパーセンテージが半分以上なんだから、プリングルズはポテトチップスじゃない、っていう説もあって、イギリスでは2008年ごろにその税率を巡って裁判にもなっているそうです。
プリングルズねえ、ま、時々食べますけど、たしかにポテチって感じは薄いかもですねえ。
でもこのところは、堅あげポテト、一択です。でーじまーさん、でっす。