<日本人で初めてラムネを飲んだのは林大学頭 かもね 知らんけど>
ラムネを知らない人はいないだろうと思います。
でもまあ、そういえば最近見ないな、とかその程度にしか意識しませんよね。
改めてラムネについて考えてみる、なんてことはしないですよね。たぶん。
なので、と言いますか、でも、と言いますか、考えてみます、突然に。はい。
で、唐突ですが、吉行淳之介。
みなさんご存じだと思いますが、第三の新人として文学的な活動を盛んに行っていますし、なかなかモテた人だったそうです。
女優の吉行和子さんの11歳上、詩人の吉行理恵さんの15歳上の兄さん。
宮城まり子さんの内縁の夫としても知られた作家さんですね。
内縁関係だったそうです。
その吉行淳之介さんのエッセイ集で、1978年に出た「贋食物誌(中公文庫)」というのがあってですね、その中に「ラムネ」という回があります。3回に渡って書いてあります。
その中で吉行淳之介さんはこう言っています。
「ラムネかサイダーか、ということになると、私はラムネの方が好きだった。ラムネはレモネードが訛ったものといわれているが、中身も日本風に訛っている」
“レモネードが訛ったもの”というのはホントらしいです。
1853年、嘉永6年の黒船来航。
太平の眠りを覚ます蒸気船、たった四杯で夜も眠れずって、あれです。
その時に幕府代表としてペリーさんと交渉したのが、林復斎。一般的には林大学頭と呼ばれている人です。
幕末の徳川方にはめちゃめちゃ優秀な人材が綺羅星のごとくいますね。
余り優秀ではなかった明治政府のエライ人たちが、その偉業を記録から抹殺しちゃったんでしょうね。
そんでもって、ペリーさんという人は、今でいうとトランプさんみたいな人だった、のではないでしょうかね。ドナルド・トランプ。
たぶん、おそらくですが。
太平洋を船でやって来たですよ。
エネルギーです。そりゃ天狗顔に描かれちゃいますって。
捕鯨船の水、食料、燃料の補給のためといわれていますが、日本の開国をかなり強引にせまったということです。
黒船から空砲を撃ち鳴らしたことがさっきの狂歌になっているわけです。
鎖国制度を守りたい江戸幕府の交渉代表にされた林大学頭さんは、丁寧礼節な対応でペリーさんの強圧的な要求を拒んだことで知られています。
めちゃめちゃ頭のいい人。やり手。
で、その開港交渉のときに、ペリーさんが日本側にふるまったのが“レモネード”
という話が伝わっているらしいんですが、レモネードを調べてみますと、アメリカのレモネードは炭酸系じゃないんですね。
それって当たり前じゃん。レモネードって炭酸入ってないよ。
ですよね。
レモネードからラムネって昔の都市伝説なんじゃないの? と、おっしゃるなかれ。
話はまだ続くんであります。
炭酸入りのレモネードって、ちゃんとあるんです。
レモネードが炭酸系なのはイギリス。
幕末の時代、19世紀半ばのアメリカのレモネードはイギリス式だったってことになります。
アメリカ建国から100年ほど。この頃はまだアメリカオリジナルってそんなに無さそうです。
いろんなものがヨーロッパ、主にイギリス式だったんでしょうね。
レモネードの変遷っていうのも、国ごとにイロイロだってこと。
で、日本ではレモネードっていう名前がラムネに変化して、炭酸系清涼飲料水として純粋培養されちゃっている、ってことなんでしょう。
で、レモネードはレモネードとして別個に、後から入ってきたってことになりますね。
レモネードからラムネっていう言葉の変遷についてはですね、たぶんおそらく、林大学頭さんが江戸城に帰って来て、かき揚げ好きの徳川慶喜さんだとかに報告する際に、最初から“らむね”って言ったんじゃないでしょうか。と思います。
外国語の発音がそのまま日本語として定着するときには、耳から入ってくる音声を無理矢理カタカナに変換する歴史があります。
長崎の出島でポルトガル語を語源とした日本語もいくつか知られていますよね。
明治初期の洋犬を全部“カメ犬”って呼んでいたそうです。
横浜に居留していた英語圏の人たちが、自分の飼い犬を呼ぶときに“come here”と叫んでいる。
また別の場所で別の外国人が別の洋犬を“come here”
また別のところで、っていうのを聞きつけた日本人が、
「なんだア? 外人さんの犬はみんなカメって名前なんだな。カメや、カメやって呼んでやがるぜ」
で、洋犬は全部“カメ犬”
というのと同じ理屈で、レモネードの発音がラムネになったというのは頷ける話です。
メリケン波止場、とか、メリケンサックのメリケンはアメリカンを聞き違えたものっていいますしね。
まあ、そんなこんなで、日本で最初にレモネード、というかラムネを飲んだのは、おそらく林復斎大学頭その人、というのは間違いないんじゃないでしょうか。
その後しばらくして、長崎を皮切りに日本国中にラムネは浸透していったみたいです。
で、レモネードが訛ってラムネになったのはホントみたいなんですが、その中身も日本風に訛っているというのが面白い表現です。吉行淳之介さんね。
でもですね、その訛っているところが気に入っていたようで、
「ラムネは戦後長いあいだ、影をひそめていた。二十年ほど経って、復活ムードが出てきたとき、ラムネも復活してきた。ただし、しかるべきメーカーの製品なので、中身はサイダーに近い。あれは、零細企業が酒石酸をたくさん使ってつくり、侘しいような味といくぶんの不潔感のあるところがよいわけで、瓶のかたちだけ昔のラムネでは面白味がない」
なんだそうです。
今現在の我々は戦前のラムネについてどのようなものだったか知る由もないですが、“侘しいような味”とはどんなものなんでしょう。
戦前のラムネの味を決めていたのは“酒石酸”といっているわけですが、それは、
「酸味のある果実、特にぶどう、ワインに多く含まれる有機化合物」
とのことなので“侘しい”という味がどんなレベルの酸味なのか、ちと想像できませんです。
さらに“サイダーに近い”と、その味を表現しているところは注目です。
ラムネとサイダー。
両方とも透明な炭酸飲料。味も似ていますね。ラムネの方がいくらか甘い印象なんですが、両方とも製造メーカーは複数ありますからね、メーカーによる違いの方が大きいのかもしれません。
戦前のラムネとサイダーには明確な違いがあったのかもしれませんしね。
この辺りのことを調べてみますと、明治時代のこととして、サイダーはりんご風味、ラムネはレモン風味という区別があったようなんですね。
ちなみにラムネの語源がレモネードなら、サイダーの語源はフランス語のシードルだ、という説もあります。フランスのりんご酒ですよね。
シードルからサイダー。どうなんでしょ。
この説を信じると、サイダーはりんご風味、ラムネはレモン風味ってことなわけで、ふむふむ、となります。ならない?
レモネードとシードル。
一気に複数の国の言葉が入ってきたわけですから、江戸末期から明治初期の言語学者さんって、ホントご苦労さんです。
カメ犬だってメリケン波止場だって、全然オッケーです。
で、時代は進んで戦前のころまで変わらずにその風味の違いがあったとして、戦後のラムネはレモン風味よりりんご風味に近くなった、ということを吉行淳之介さんは言っているんでしょうか。
戦後二十年ほど経って、ということは昭和も40年代に入っていますから、物資不足ということでもなさそうです。
風味、というものが何によって醸し出されているのかを考えると、食品に対する規制が整いつつあるタイミングでしょうから“いくぶんの不潔感”がなくなったということが“サイダーに近い”という味わいに感じられたのかもしれません。
“不潔感”って? 微妙です。
吉行淳之介さんは、このレモネードの訛り説以外にも面白い説を書いています。
同じエッセイの中なんですが、坂口安吾のエッセイ「ラムネ氏のこと」についてです。
「小林秀雄と島木健作が小田原へ鮎釣りに来て、三好達治の家で鮎を肴に食事のうち」
って、なんだか凄い面々です。
そのお歴々が小田原で鮎、です。なんだか分かりませんが、とにかく凄い感じです。
続きます。
「話たまたまラムネに及んで」
どんな話からラムネに流れていったんでしょうか。中略。
「すると三好が居ずまいを正して(中略)ラムネは一般にレモネードの訛だと言われているが、そうじゃない。ラムネはラムネー氏なる人物が発明に及んだからラムネと言う」
と書いています。
レモネード。ラムネー氏。ふむむむ。です。
味の変遷には保健所がらみのややこしいこともあったりするんでしょうけれど、ラムネの特徴はなんたって、あの瓶の形状にありますよね。ビー玉。
アタマがプラスティックになっても、ビー玉は健在。
でもあれです。脱プラスティックです。今は。
ラムネ瓶のアタマ、危機かもですね。
昔の瓶に戻る可能性も無きにしも非ず、でしょうかね。どうでしょう。
そうなった方がうれしい感じですけれどね。
夏の夕方。ひとっ風呂浴びて、まだ陽の高い公園の木陰のベンチ。
ラムのボトルのラッパ呑み。ラムネの脱字じゃないですよ、ウイスキーのラム。茶色の方。
でもって、チェイサーにラムネ。
っていうのが人生サイコーのしあわせだ、と言っている知り合いがいます。
「ラムネのいい加減な甘さが、ラムの味を引き立てるし、口の中を夏っぽく爽やかにしてくれるんだよ」
とのことなんでありますが、転んでしまえ! と思わないでもないです。
それにしても、いい加減な甘さとは、ちとラムネに失礼な感じもします。ラムネー氏に怒られまっせ。
ラムネー氏の実在については確認できていないらしいですが、ラムネが夏を感じる飲み物であることは、どこからも異論のないところでしょう。
三好達治さんも反論しないと思います。
ビー玉をポンッと押して、中身がプシュッ、ジュワーっと溢れだすところが夏です。
ラムネの醍醐味です。
日本人がラムネを好きなのは、夏の元気を感じられる飲み物だからかもしれません。
ラムネは家の中で遠慮がちにプシュってやるより、外で、炎天下で、ブアッシャーってやるのが、やっぱりイイですよね。豪快に。
子供はみんなラムネ好き。
もちろん、昔は子供だった、その辺の大人だってラムネ大好き。日本人みんな、大好きです。
夏には、ラムネ。外でみんなで、ブアッシャーっていってみたいですねえ。
コロナをぶっ飛ばしたいですねえ。
そうそう、大分県の竹田(たけた)市に「ラムネ温泉」ってあります。
今回、ラムネについて調べているうちに知りました。
行ったことはないんですが、いつか行こうというぼんやりとした予定の中に入れておきたいと思います。
世界屈指の炭酸泉「長湯温泉」です。
どこへでも気兼ねなく出かけられるように、早くなって欲しいものです。
最後に酒の話題です。
タカラ「焼酎ハイボール」<ラムネ割り>っていうのと、サンガリア チューハイタイム ラムネっていうのがありますね。
これ、どうなんでしょう。コンビニとかで見かけたことない気がするんですが、地域限定商品なんでしょうか。
でもあれか。チェイサーにするのは百歩譲ってアリかもしれませんが、そもそも甘い焼酎ってどうかなあ、と思いますが、ま、甘いのが好きな人も結構居ますもんね。
呑んだことあります? ラムネ味の酒。
ラムネ温泉入って、ザバーッと出て、ラムネ瓶ブシューって開けて飲んで、またラムネ温泉入って、ズバーって出て、涼んだらラムネ酎ハイ。
温泉とか、行けていませんですねえ。
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