< 宮崎県発祥のチキン南蛮なんですけど なんで英語読みにしたんでしょ >
それはですねえ、発祥のお店が「ロンドン」だからあ~。
ん? あのね、昭和30年代のことらしいんですけど、宮崎県の延岡市で営業していた洋食屋さんの「ロンドン」っていうお店の名前のことなんです。イギリスのじゃなくってね。
この延岡市の「ロンドン」で賄いとして食べられていたっていうのが「チキン南蛮」の原型「鶏から揚げ甘酢漬け」
その後ロンドンで働いていた、つまり賄いとして「チキン南蛮」の原型を何回も食べて、気に入っていた2人の職人さんが各々独立します。
1人は延岡市で「直ちゃん」を開店。賄い料理だった「鶏から揚げ甘酢漬け」を「チキン南蛮」っていう名前にして正式メニューとして提供開始。
そりゃやっぱり、ロンドン発祥なんですから、トリ、じゃなくって、チキンってことになったんじゃないでしょうかね。洋食屋さんですからね、チキンって呼び慣れてた。
もう1人は、元々宮崎市のレストラン「おぐら」から「ロンドン」へ修行に来ていたっていう職人さんで、この人も宮崎市へ戻って独立。
「おぐら」の2号店を出すんですが、そのお店の名前が「洋食屋ロンドン」
ちょっと名前的にはややこしいんですけど、「おぐら2号店 洋食屋ロンドン」でも「チキン南蛮」としてメニューにあげていたみたいです。
で、いろいろとお店の個性を出そう、インパクトのある味を、ってんで工夫しているうちに、昭和40年ごろみたいなんですけど、タルタルソースをかけるスタイルをあみ出しました。
タルタルソースそのものにも当然「専用」の工夫もしてあって、「おぐら2号店 洋食屋ロンドン」は大盛況。
「チキン南蛮」の人気もあってファミリーレストラン「味のおぐら」は、宮崎市内に数店舗、延岡市、鹿児島市へと店舗を展開させているんですね。大人気です。
ですので、今現在、発祥の地、延岡市にはタルタルソースありなし、2種類の「チキン南蛮」があるってことなんですね。
まあね、「チキン南蛮」っていうメニューは、今や完全な全国区で、定食屋さんのメニューだけじゃなくって、居酒屋さんのメニューにもあります。
その店ごとの工夫がありますよね。
揚げ方や、タルタルソースの作り方なんかはけっこう違いを感じます。そこが面白いところですよね。
むね肉か、もも肉かっていう違いもあります。
お気に入りの居酒屋さんの「チキン南蛮」は、むねともものハーフ&ハーフを選べちゃったりします。
ただね、残念ながら肝心のタルタルソースは「インチューブ」です。不味くはないですけどね。
で、トリじゃなくってチキンっていうのは、洋食屋さんとしては普通にそう呼ぶでしょ、ってことだとして「南蛮」ってのはなんなんでしょ。
農林水産省の「うちの郷土料理 チキン南蛮 宮崎県」によりますと、
「チキン南蛮の「南蛮」とは、もともと戦国時代に来日したポルトガル人や、その文化を表す言葉である。彼らのもたらした食文化の中に「南蛮漬け」があり、これは唐辛子入りの甘酢に食材を漬けてつくられるもので、これに鶏肉を用いて料理されたため、「チキン南蛮」と呼ばれるようになったといわれている」
ってことなんでありますね。
あれですね「南蛮酢」ってやつ。
「チキン南蛮」のレシピを見てみますと、鶏肉に小麦粉をふって、卵液をからめて油で揚げて、甘酢に浸す、っていうのがほとんどですけど、お店での作り方は、浸すんじゃなくって、かける、ですね。
揚げた鶏肉に南蛮酢をかけて、そこにタルタルソースをのっける。
で、チキン南蛮の出来上がり。
チキン南蛮のレシピなんだからチキンって書いてあるかっていうと、そうじゃないです。
たいてい鶏肉って書いてありますです。
ま、そこはそれでイイんじゃないの。そですよねえ。
でもちょっと引っかかるのは「南蛮」です。
スペイン、ポルトガルっていう国、その文化を「南蛮」って言う。
ふむ、そんなイメージはあります。
小魚を油で揚げたものにトウガラシ入りの甘酢をからめて食べるオードブル「エスカベシュ」っていうのが伝えられたってことなんでしょうね。
南蛮のやつらが好んで食べてる、あれ、旨いじゃん。ってな感じで広まって「南蛮酢」
ん~。南蛮っていう言葉を真剣に考え始めますと、けっこう複雑になって来ますよ。
トウガラシ、イコール、南蛮。って言っている地域もあります。
でもですね、トウガラシって「唐辛子」って書くじゃないですか。
唐、って中国でしょ。中国経由で入ってきたから唐辛子、じゃないの?
トウガラシが日本にもたらされたのは中国経由ってことは充分に考えられるんだそうですけど、その場合の「唐」っていうのは、中国ってことじゃなくって海外全般って考えられる、っていう説がありますねえ。
ふううん。要は「舶来品」だったから「唐辛子」
でも「南蛮」とも言うんですよ。
トウガラシの原産国は中米、南米らしいですけど、唐だし、南蛮だし。
そういえば「南蛮渡来」っていう言葉もありますね。最近は聞きませんけど。
「舶来品」と「南蛮渡来」
ま、日本産じゃないよっていう意味ではどっちも同じですけど、南蛮っていう言葉の方は地域によってトウガラシっていう意味に集約されていった。って、なかなか不思議ですね。
ここで「南蛮」って言葉の複雑さに拍車をかけるのが、そです「かも南蛮」「カレー南蛮」の南蛮です。
蕎麦の「南蛮」っていうのは「ネギ」のことですって、ハッキリ言い切っている説明がほとんどですから、蕎麦の世界の南蛮はネギってことでイイんでしょう。
はてさて「南蛮」とは、トウガラシなのか、ネギなのか。
ここでまたまた、あのさあ、そもそもさあ、ってことが出てきます。
中国の中華思想です。
世界の中心である中国の四方にいる異民族を「四夷(しい)」って呼んでいたんですね。
東夷(とうい)
北狄(ほくてき)
西戎(せいじゅう)
南蛮(なんばん)
の4つです。
「魏志倭人伝」っていうのは、三国志の中の「魏書」第30巻「烏丸鮮卑東夷伝倭人条」のことだそうですから、日本は「東夷」ってことになります。
ま、古代中国の都から東の方角に住んでいる野蛮人、っていうのが「東夷」です。
うっせえわ! って感じですけど、これが中華思想ですね。
で、「南蛮」っていうのは、中国の都からの方角で言えば「東南アジア」辺りってことになりますよね。
スペイン、ポルトガルの船は東南アジア経由で日本に来ていたんで、スペイン、ポルトガルが「南蛮」
その「南蛮」の人たちが持ち込んだのが「トウガラシ」そして「ネギ」もそうだったのかもしれませんね。
なにせ大航海時代の最大の目的はヨーロッパに「香辛料」を持ち込むことだったらしいですからね。
当時のスペイン、ポルトガルの健康ブームの中に「トウガラシ」そして「ネギ」も含まれていたのかもです。
っていうことでですね、「チキン南蛮」と「かも南蛮」は、同じ南蛮っていう名前が付いているんですけど、全然違う。
って言っても、そんなにかけ離れた存在ってわけでもなくって、トウガラシかネギかっていう違いだけ。
でもあれです。居酒屋さんで出てくる「チキン南蛮」にかけてある「南蛮酢」って、トウガラシの風味、ほぼしなかったような気がします。
ある種の「チキン南蛮」には南蛮要素、無くなっているのかもですねえ。
ま、タルタルソースとの酸味の相性がよくって、旨けりゃオッケーですけどね。
町中華の「ナス南蛮」には、しっかりトウガラシ入ってましたです。
そう言えば「かも南蛮」
冷たい方は「かもせいろ」って言って、南蛮、どっか行っちゃってますねえ。
結論めいたものが、あったような、なかったような、南蛮談義でした。
でも、結局は最初の賄いメシの段階のアイディアが発展させる余地を与えてくれているってことなんでしょうね。
商売とか、客の好みとかじゃなくって、旨く、安く、手早く作れる。
そういう賄いメシが客にドカーンって受ける。旨いに決まってますからね。
延岡市に行って「直ちゃん」の、ノータルタルチキン南蛮。そして「味のおぐら」の、特製タルタルソースチキン南蛮、食べ比べてみたいです。
世の中は「から揚げ大ブーム」ですけど、似て非なるグルメ、「チキン南蛮」を、いただきたいです。
でも、行列? ん~、そなのかあ。でも、いただきたいです。
チキン南蛮は、決してから揚げからのスピンアウトではないのです。大好きなのです。